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第15主:ごく普通の短剣で

 灰色に近い髪の少年は暗闇を駆けている。どこに向かっているかわからない。息が上がる。アテもなく走っている。すると、ある公園で美しい長い黒髪の少女が素っ裸で地面に横たわっていた。彼は慌てて彼女に近づく。彼女の近くにはお気に入りの白いワンピースがある。でも、そのワンピースには黒い靴跡が残されている。


 そして、黒髪の少女の体は汚れていて、白濁とした液体が付いている。彼女の白い肌は土で汚れていた。


「みか!!」


 少年は声をかけながら彼女の体を抱き起す。彼女の瞳に光が灯っていない。ただの空虚だ。彼女に少年は自分が着ていた服を被せる。


『みかね! しょうらいね! おにいちゃんのおよめさんになる!!』


 脳裏に今朝も彼女が言っていた言葉が響く。いつものことなので、少年は適当に流していた。でも、今は後悔しかない。こんなことになるなんて想像もしていなかった。


「クソッ! おれがもっと早くかけつけておけばっ!」


 少年は泣きながらも自分を責める。まだ小六の少年にしたらこれほどトラウマになることはない。でも、妹の方が辛いのは知っている。自分が泣くのは間違っているのも知っている。大人になってもトラウマになるようなことが、まだ小三の少女に降りかかったのだから。


「おれのせいだ! おれがもっとしっかりしておけば!」


「そうだよ。おにいちゃんのせいだよ。すべておにいちゃんが悪いの」

「おにいちゃんがもっと早くかけつけておけばみかは助かったの」

「おにいちゃんがみかをこんな目に合わせたの」

「おにいちゃんがみかを一人で出かけさせたからこんな目に合ったの」


 自分を責める言葉が少年に降りかかる。妹の美佳が何度も現れて、おにいちゃんが悪いと(ささや)く。


「挙句の果てに自殺に巻き込んで殺すなんてね」


 少年は青年になり、少女は……女子児童は女子生徒になる。いくら経っても彼は彼女の自分を責める言葉に精神をすり減らしていく。精神だけ幼児化している彼女は彼には甘えてくる。でも、内心は兄である自分を責めていると彼は思っている。それが事実だと納得している。


 いつまで経っても彼は彼女の様子を伺うことしかできない。


 せめて兄として強くいようと思った。でも、結局は妹をこの手にかけて自らも自殺を選んだ。それが逃げ道だと彼はわかっている。でも、結局は逃げられない。いつまで経っても彼は彼のまま。妹に本物の愛を与え続ける道具。


 ーーでも、今は美佳がいない。俺に存在する今はあるのか? 一層このまま消え失せればいい。そして、美佳に幸せを味わって貰えばいい。……そうだ。それがいい! 俺みたいなちっぽけで罪深い命を引き換えに美佳が幸せになればいいんだ。……どうして今まで気づかなかったんだろう。こんな簡単こと。


           ♦︎


「お…………さ…………! しゅ…………起き…………ください!! シュウ様!! 起きてください!!」


「はっ!!」


 彼はガバッと起き上がる。すぐに頬が濡れていることに気づき、拭う。


「うっ! くっ!」


 でも、止まらない。涙が流れ続ける。


「どうしたのですか? かなりうなされていましたけど」


「気にするな」


「体調が悪いのでしたら、決闘を棄権しますか?」


「バカ言うな。お前たちを自由にすると約束しただろ」


「ですが……」


「もういい!! 俺なんて放っておけ!!」


「…………」


 シュウの言葉にヒカミーヤは黙り込んでしまう。今の彼は謝ろうとも思わない。自分に非があることくらいはわかっている。だからこそ、謝るという行為はしない。それは許しを()うのと同義だから。自分には許してもらう価値なんてないと彼は思い込んでいる。


「そ、そういえばサルファさんは?」


「おトイレです」


「あっ……そ、そそそうですか……」


 二人の間に静寂が訪れる。


「い、今はいつですか?」


「六時間目がそろそろ終わります」


「えっ? それなら早く決闘場に行かないとですね」


「妾たちがいたら迷惑になるかもしれませんから、影で見守っておきますね。どうかご武運を」


「あ、ありがとうございます。ま、まさかそそ……そんな風に言ってもらえるとは思いもしていませんでした」


「当たり前じゃないですか。妾たちはあなたの使用人ですよ。妾はいつもあなたの味方ですから」


「そ、そう言っていただけると心強いです」


「ヒカミーヤだけではなく、オレもお前の味方だからな」


 サルファはトイレから出てきた瞬間に言ってきた。防音のはずなのに聞こえたか不思議でならないが、些細なことなので気にしないでおくことにした。


「そ、それでは……その……いってきます」


「「いってらっしゃい」です」


 久々に出かける時に返事が返ってきたので、彼は少し感慨深く思った。


 少し歩くとビルルが自分の部屋から出てきた。彼女の部屋はどうやら彼の部屋から三つ隣のようだ。


 予想外に近いことに驚いたが、完全防音なのでそれも当たり前かと納得してしまう。


「あれ? シュウくん。もう準備できたの?」


「はい。準備と言っても、休憩しただけですけど」


「あれ? 制服でやるの?」


「はい。これとパーカーしかないですから。今はそのパーカーは洗濯中ですし」


「でも、制服かぁー」


「何か問題でも?」


「基本、戦う時は戦装束を着るの。あっ、でも体操服と同じ扱いよ」


「体操服は持ってないですし」


「まぁ、その制服も動きやすいように作られているから問題ないかな。でも、気をつけて。コウスターは戦装束を見にまとっているから。それもオーダーメイドのものを」


「それは厄介ですね」


「わたしのを貸してあげるのは問題ないのだけど、女物だしなぁ」


「気にしないでください。お、俺はこの格好でいきますから」


「わかったよ」


 彼女はそう言うと手首を返す。それだけなのに何も持っていなかった手には一本の鍵がある。少し進むと彼女は何もない虚空にそれを差し込んだ。


 次の瞬間に扉が現れて、開かれた。その中に入って行った彼女のあとについて行く。


 扉を潜ると、ある一室が姿を現した。そこはロッカーが沢山あって、床に絨毯が敷かれているので更衣室にしか見えない。


「どこ?」


 彼は呟くが、そんなことを気にせずに彼女はある一点を指差す。


「シュウくん。あの字読める?」


「読めません」


「そう。なら、一つ質問だけど武器はどれを使いたい?」


「というと?」


「武器の種類よ」


「恐らく片手剣は重さ的に無理なので、短剣でお願いします」


「わかったよ。どんな特性が付いているのがいい?」


「特性? 武器自体にですか?」


「そう。耐火。耐水。速度追加などなど様々な特性があるよ。どんな特性が付与されている武器がいい?」


「でしたら、ごく普通の短剣で」


「えっ? ごめん。聞き間違いかもしれないから、もう一度言って。どんな特性が付与されている武器がいい?」


「ごく普通のなんの特性も付与されていない短剣でお願いします」


「正気? 相手はコウスターよ。そんな甘い相手ではないよ」


「でも、例え特性が付与されていたとしても、扱いこなせる気がしないので」


「そ、そう。確かにそうね、わかったよ。なら、これね」


 彼女はロッカーを辿り『XIII』と書いてあるロッカーの鍵を開けた。そのロッカーには短剣が一本だけ入っていた。ビルルはそれを手に持ち、シュウに「はい」と言ってその短剣を渡した。


「気をつけてね。わたしは観客席で応援しているから」


「わかりました」


「ブザーが鳴ったら、入場の合図だからね。精神を統一しておいてね」


 シュウがコクリと頷くのを見ると、笑顔を浮かべながら彼女はまた何もない虚空に鍵を差して、扉が出現して開いたのでその中を入り、その場を差した。


 更衣室には彼一人が取り残された。

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