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プロローグ1

 青年は親からの愛を一切貰っていない。でも、仕方のないことだ。


 無償の愛というものは存在しない。絶対に何か見返りがないと愛は生まれないのだ。

 人間は自分が幸福に満たされるから愛を与える。何も感じなくなったら愛なんて生まれない。

 サービス業や農家などの職業に就いている人はお金が貰えるから愛を込める。

 動物は自分が甘えたりすると、ご飯を貰える可能性があるから愛が生まれる。


 だから、誰も幸せにしない青年は誰からも愛を貰っていない。その証拠に父は家に帰ってこなくて、母はたまに帰ってきては青年に暴力を振るう。昔にレイプされて精神が病んで情緒不安定の妹は言わずもがな。


 青年に愛を与える人物はいない。だけど、愛をもらえないからと言って与えないということはない。父と母はどうでもいいが、妹は家族として愛している。自分にそう言い聞かせている。でも、それは兄だからという義務感と、妹を救えなかったという罪悪感から来ているもの。青年は心のどこかでそれを察している。


 だからこそ、妹の世話をしているのだ。お金は親がくれないのでアルバイトで、二人が普通に暮らせるくらい働いている。つまり、複数のアルバイトを掛け持ちしているのだ。


 一応高校には行っているが、アルバイトで休みがちだし、行ったとしても遊ぼうと言われても、必ず断るから友達は一切いない。


 働き過ぎの青年が全てのバイトを辞めた。理由は単純だ。生きるのに疲れたからだ。今、二年前に無理して買ったスマホで自殺の仕方を調べている。そんな時に青年の部屋に続く(ふすま)が開けられた。母は帰っていないので、そんなことする存在は一人しかいない。


「おにいちゃん!」


 精神が病んでいる妹だ。青年とは二つしか離れていないので、高校一年の一六歳。しかし、精神年齢は幼稚園児くらいまで下がる。そのため、まるで語尾に音符でも付くかのようなテンションで抱きついてきた。


「どうした?」


 青年は普通にそれを受け入れている。妹は青年が見ていたスマホを突然取り上げた。


「あっ! おい!」


 自殺の仕方を調べている画面を見られてしまった。きっと不安になる。

 誤解ではないが、誤解だと伝えようと口を開けた瞬間に、ソッと両の手首を掴まれた。そのまま引かれたので、青年は妹を押し倒すような形になってしまう。


 そして、掴まれた手は妹の首を押さえつけてしまっている。


「ご、ごめん! ……っ!?」


 すぐさま謝り離れようとしたが、離れられない。妹にこんな力があるなんて青年は知らなかった。だが、妹はレイプされるよりもずっと前に、青年のマネをするかのように武道を初め、青年よりも、のめり込んだからあってもおかしくはない。


「おにいちゃん……。みかをころして……。おにいちゃんがいなければ……、みか……いきていけないから……。それとゴメンね。めいわくをかけて」


「どうして……。どうして笑った顔で泣いてんだよ……! 死にたく……ないんだろ! ならっ!」


「ううん。しにたいよ。だから、はやく……」


 先ほどまで絶対に言わなかった妹の言葉を聞いて、首を絞める手に体重をかける。


「待っていてくれよ。兄ちゃんもすぐに逝くから」


 それから一分近く涙を流しながら、首を絞めていた。途中で妹が力尽きたが、それでも絞め続けた。自分の罪を体に染み込ますように。


 青年は妹を担ぎ、自分の部屋ではなくて玄関近くのリビングに転がす。そして、青年は裸足でその家から出ていき、近くの大きな丘に向かった。その青年の手には大きめのスコップが握られていて、ポケットには通帳が入っていた。


 青年が向かった丘はまるで丘の周囲を神が見守っているかのような神々しさがある。そのためか聖なる場所として基本的に誰も立ち入らない。


 だからこそ青年は大きめのスコップで地面を深く掘っている。掘り起こした土は板の上に置く。板には糸が付けられている。糸はコンビニで購入した。


 通帳は糸を買ったコンビニのゴミ箱に捨てた。


 青年は一日中、土を掘っていた。そのおかげで翌日の夜には人が三、四人は入れるほどの大きな穴ができた。そんな穴に青年は入り、寝転がった。


 右手を伸ばしながら空を見上げると星空が広がっていた。青年が住んでいる町は田舎でも都会でもないという中途半端な場所なので星空も中途半端だ。いつもと代わりもしない。


 だからか、フッと微かに笑う。そんな青年の右手には束ねられた糸が握られている。それを先ほどよりも強く握る。


 そして、そのまま引いた。すると、板も土が穴に落ちて来る。その土は全て、一日かけて青年が掘り起こした土だ。その土が青年を埋める勢いで落ちてくる。


 青年はネットで見た簡単な仕掛けを作ったのだ。本来は害獣とかに使う物だろうが、青年は自分が死ぬために作った。だから、人が来ることは一年に一度ほどしかない丘を選んだのだ。ちなみにその年に一度は一昨日にあった。つまり、猶予は一年もある。それほどほ期間があれば、白骨化しているだろう。


 それらを全て考慮して青年はこの罠を選んだのだ。口の中に土が入ってきて、青年のの体内に侵入して行く。本能的に吐き出すが、すぐにまた入り込んでくる。逃げることは不可能だ。そして、実妹を殺した罪を償うために苦しんで死ぬ方法を選んだ。


(待っていてくれよ。今から俺もそっちに行く。もし、生まれ変わりなどがあるのなら、お前は幸せに生きてくれ。お前はただ被害者だったのだから。俺は地獄で苦しみ続けるからさ。どうか来世では幸せに)


 時間が経つにつれて薄れゆく意識の中で妹の来世での幸せを願う。


 それがただの自己満足だとしても。

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