002
「……んで、呼ばれたわけね。」
居間でふて腐れている貝木椛に御茶と和菓子を持って来て卓袱台に座る。
「……すみません。たった一ヶ月も待たないうちに呼び出すことなってしまいました。」
「いいって、いいって。もともと月ちゃんが危ういのは知ってることだし」それよりさ、と貝木椛は卓袱台に身を乗り出して、「妊娠だって聞いたよ。相手はアンタなの?」と聞く。
「……」
「あらあら。うふふ。やっぱりアンタなんだー」
「呑気なことを言わないでください。今回は周波数調整員として依頼しているのですから」
「箱の中身は『人か化物か』って?」
「えぇ。そうです」
「なら、そんなの病院で診てもらいなよ。エコーですぐにわかる。……ってか、本当はわかってるんでしょ?」
『二週間で妊娠五ヶ月程に成長する赤ちゃんなんていないでしょうよ。』
貝木椛は和菓子の包装を開けて中にある最中を取り出すと最中を綺麗に分解して、ふたを開けるような動作で中に詰められた餡子を見せ付けて言う。
「私に何を依頼するかが問題よ」
貝木椛は露出した餡子を器用に摘み、取り上げると再び俺に見せる。
「出産の手助けか、はたまた中絶か」
「お、俺は……」
きっと今ここで端月の両親を呼び出してどちらにするか決めることは出来ない。
男としてそれは出来ない。ここで俺の気持ちを聞き出すつもりなのだろう。
「俺は、端月の子供を育てたい」椛を見つめ返して、俺は断言する。
「ふーん」
そう言ってつまんでいた餡子を最中に戻し、上に蓋をして、もとあった最中の姿に直すと一口かじる。俺を値踏みするような冷ややかな視線が、ここに来て少し和らいだ。
「よろひい」
……貝木椛。それがどんな存在であることはもう十分に理解した。
恐ろしい女だ。
貝木椛は最中の残りを頬張り飲み込むと手を打ち鳴らし、
「……よし! 屋敷牢に行きますかぁ」と、立ち上がった。