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ただ堕ちてゆく  作者: ユキノ リオ
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さゆり、23歳。


「大学生っていう身分だけは続けていたいよね。」


久しぶりの大学のキャンパス。単位も取り終えて、今残っているのはゼミナールの授業のみ。これも、殆ど出席していない。


大学生のノリとか、人がうじゃうじゃ群れているのとか、本当に苦手。

キャンパス内をあちこち見回すと、集団で話して行動してワイワイやってる学生達が殆ど。

たまに一人で暗〜い感じで歩いてたり、ご飯食べていたりする学生も見つける。少数派。私も側から見たらあんな暗い感じなんだろうな。いや、でもあそこまでダサくはないよね?


こんなこと考えているうちに、大学に来るといつも立ち寄る棟に着いた。

「ここの、5階のトイレ。」

大学内で、一番落ち着く場所。あまり利用する人がいないのに、無駄に綺麗。


このトイレで考え事したり、化粧直ししたり、誰にも見られていない、そんな空間が嬉しかった。

この鏡で見ると、普段の自分より3割増しで可愛く見えるし。キメ顔で鏡を見つめて恥ずかしくなる。こんなとこ、誰かに見られたら相当やばい。笑える。

勿論誰も来ないわけでなく、たまに学生が入って来ることもあるので、人の気配を感じると個室に逃げ込んだ。


「何やってるんだろうな。」


こんな感じで、大学では一人でいることが殆どだ。

本当は、仲間とわいわい行動することに、憧れがあるのかもしれない。

でもどうしても、群れて行動をしたり一日誰かとずっと一緒にいたりというのが辛くなってしまう。

化粧とかしなくても可愛い子だったらなあ。完璧な容姿なら自信もあるし、いつだって人と一緒にいたかったのかも。

化粧をしっかりすれば、綺麗だとか美人だとか言われることも多いし、顔が好きだと言ってくれる人もいた。でも私って所謂雰囲気美人?パーツパーツをよーく見ると大したことない気がする。雰囲気とかパーツの配置で誤魔化してる顔なのかもしれない。

色白、肌が綺麗と言われることもあるが、時間が経てばテカるしよく見れば毛穴も少し開いてる。顔の赤みやほくろもよく見ればわかる。


自分の顔を見れば見るほど嫌になる。

でも私だって綺麗、美人とずっと思われていたい。

こうやって念入りに化粧直しをするのもその為だ。


男って、女を顔で選ぶくせに、女の顔の細かいパーツパーツを見ていない人が殆どで、全体のバランスや雰囲気で可愛い、美人と認識するというのを以前聞いたことがあった。


だからこそ、パーツパーツはそこそこな私でも、美人と持て囃されることがあるわけだ。


そんなこんな考えてたら、粗探しされるのを避けて、誰かと一緒にいること自体少なくなった。

「卒業式も、出ないつもり。」

母親にもそう言っている。友達少ないし。大学内で大した思い出もない。そもそも同年代とあまり仲良く話せない。


内定先の同期とも、アルバイト先での年の近い社員達ともどうも距離をとってしまう。

30後半から50代のおじさん達と話しているのが一番気楽だった。


自分でも、寂しい人間だと思う。折角の若い時期に、若い人と仲良くなれないなんて。


毎日毎日つまらない。目標もない。

唯一仲が良くてなんでも話せる地元の友達の景子とも、この一か月会っていない。

彼氏とも別れて、好きな人も出来そうにない。


そんな私にとって、例え本気の好きでなくても、精神的にも肉体的にも金銭的にも満たしてくれる俊の存在は小さくなかった。

既婚者中年オヤジに馬鹿みたい、気持ち悪い…

こんな自分自身に対する軽蔑と、彼の家族に対する罪悪感。

でも、それだけじゃなく、非日常を感じられる時間を得られて、幸福さえ感じられることもあった。

俊だけでなく、愛人としてたまに会う男性は他にもう一人いるが、その男達の前では普段は見せられない自分を見せることができた。おとなしい私じゃない、甘える私。

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