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猫と王女と  作者: 大熊猫大輔
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第2話 「実技指導と実路と」①

「――ってなわけで僕はそこの集会長に任命されて人間と猫の橋渡しとして、お互いの領域への不可侵条約を取り付けたってわけ。以降は人間との小競り合いも減ったのは良いのだけれど、その集会のメンバーがみんな僕についてくるって言い出してね。彼らの半数はその僕の北域への旅に同行して来るんだけど、これがさ! ん? ……トリア、そろそろ風が冷たくなって来たね。体が冷えると良くない。今日のお話しは終わりにして、食事を取ってお風呂に入って睡眠しよう。ね?」


 日はもう半分以上落ちており、世界を赤橙色に染めあげている。

 アードロフのお話しを聞くトリアリスは、体を窓枠に預けて居座りお話しのテンポに合わせて足をプラプラと揺らす。そうして見晴らしの良いその場所から視線だけは城下やその奥の森地を超えたずっと先、まだ見たことのない、恐らく見ることのないお話しの舞台となった町を夢想するのだ。


 風が頬を撫で、髪を揺らす。


 その風も或いは、そんな物語りの舞台となった町を吹き抜けてきたのではないか。

 風に弄ばれた薄青色の髪を整え直し、遠い目を今ここに戻す。


「うん。そうする。今日もありがとうアードロフ」


 素直にそう言うと、縦に長く大きな窓際から少し飛んで着地する。窓を閉め、外気の出入りを遮断すると室内に僅かな温かみが生まれだす。笑顔からも哀愁めいたものが消え、すっかりいつものトリアリスである。


「でもこの前の約束は覚えている? 今日は”実技指導”のお約束でしょう?」


「あー、そうだったね。そういえばそうだった。うん。もちろん忘れてなんかいないよ。他ならぬトリアとの約束だ。僕がそれを忘れているわけがないさ」


 座学を極端に嫌うトリアリスではあるが、どうやら実技に関してはそうではないらしく、既にお腹を空かせているはずの彼女にしては妙にやる気に満ちた発言であり、アードロフの返答に対してヨシッ! と両手を腰の位置で固めて手ごたえを感じている様子。


 対するアードロフの浮かない表情の原因は以前彼が口から出まかせでその場を凌いだ”実技指導”を本当にやらなくてはいけない事態に陥っているからに他ならない。そして言うまでも無く、そんなことは忘れていた。


 実はお話の区切りをこの時間帯にもってきたのも、そうしなければ次の展開に入りかけてしまったり、すると今度は次のお話の区切りを見誤ってしまい、トリアリスの『もうちょっとだけ!』が始まってしまうため、結構な難易度の文量コントロールをアードロフは日々求められているのだ。

 それこそトリアリスの昼食の時間や量から大体聞き分けの良さそうな時間とタイミングを見計らって、その日その日でうまくお話しを区切る算段をつけている。


 しかし、遂に前回それらの小細工を突破されてしまったアードロフは、次回は実技指導を設けるから今日はその準備がある。というその場しのぎを慣行して乗り切っていた。そのツケが来たのだ。


「私ね! アードロフが顔を洗うのを見ていてすっごくかわいいから、出来る様になれたらなってずっと思っていたのよ」


「いいよ。男に二言はないよ。その代わりスパルタで行くよ!」


 王国時期女王であるトリアリスには、今現在でも多くの使用人がその生活に付き従い、朝、服の脱ぎ着から洗面、髪型、食事とおよそ生活に関わる全ての作業に対して使用人からの手厚いサポートが入る。

 故にトリアリスは単独では生活に最低限必要であろう簡単な所作であっても、それは教わらなければ出来ないことであった。


 顔の洗い方に関してもそれは同じことが言えるのだが、一つトリアリスに誤算があるとすればそれは、猫と人間では顔の洗い方は異なるという根本的な問題を認識出来ていない点にある。


 とはいえ、この件に関してトリアリスを責めることは誰にも出来ないであろう。

 洗面時、顔は蒸したタオルで丁寧に拭いてくれる使用人がおり未経験。

 身近でよく顔を洗う人物が如何にも人間らしく振る舞い、喋るその人物が、事もあろうにそういった変な要所要所でどうしようもなく、猫まっしぐらな仕草をしているのだから。


 トリアリスがそれも人間の仕草の模倣であると誤認してしまうのは避けられないことだった。



中途半端となってしまい区切ることになっちゃいました。ごめんなさい。

感想等頂けたら血反吐吐いて喜びます。

読んでいただきありがとうございました。

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