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斉家荘潜入作戦 三

 離れの甍には小鳥が宿っているが、時折パッと飛び去って姿を見せないかと思うと、また暫くして仰ぎ見ればそこに宿って睨下を窺っている。二度三度、そのようにして姿を消しては現れてを繰り返しているのは、離れの主が変わったからである。小鳥たちからすれば、今度の主は騒々しいと見える。郭興は部屋から出て庭先へ立つと、小鳥たちと同じ方向を見遣った。

 この騒々しい客人をどうすべきか。端的に言って、さっさと王真卿に引き渡して楽になりたいというのが郭興の考え。しかし、その王真卿が丁度隣県に遠征に出ているために数日は留め置かなければならなかった。その数日とはいえ、速やかに引き渡すためには腰を据えさせてはいけない。アニエラに住み心地の良さを与えてはならないわけだが

「アニエラちゃん、何か不便なことがあったらすぐに言うんだよ!」

 などと家の主が率先して非協力的な協力を行うがために上手くいきそうにない。郭興、陸前に

「陸前、いくらなんでもアニエラを甘やかせすぎじゃないのか?」

 と言えば

「うるせぇ!」

 などと粗雑な言葉で言い返される始末。人を変えてしまうとはこのこと。

「アニエラちゃんを悪く言う奴はこの俺が許さん、ガルル、ガルル!」

「せめて人であってほしい」

「ガル?」

 陸前が獣化し始めたため、羽交い絞めにして茶舗まで引きずっていき、番頭台に押し込む。そうしておけば程なくして人に戻る。

 郭興、半ば諦めた態で庭に出て、一つ溜め息をつく。まったく、厄介なものを拾ってしまったな、というのは胸の内。すると、

「郭興さん、こんにちは」

 という声を聞き、そちらを向く。裏通りの低い土塀越しに地主の娘さんである賈金蓮が郭興に声をかけたものである。郭興、声の主が賈金蓮であると分かると、思わず緊張の相を見せる。控え目で飾り気があるわけではないけれど見目美しい娘さんである。十六歳というが、郭興からすると歳の差を全く感じない。

 どこでどう聞き知ったのか、賈金蓮は既にアニエラが居候になることを知っていた。

「陸前さんがお父様のところへ来て、異人の娘さんが居候になる、と言うものですから、それは一目見てみたいと思い、こうして来てみたのですが……」

 とのこと。部屋の方を軽く目で窺って見るも、つい先刻まで騒々しくしていたアニエラがいる様子はない。

「今はまだ部屋作りの方が忙しいようで、どこへ行ったものやら」

 都合悪くアニエラが見付からないためにバツが悪い。

「いや、しかし、騒々しくて堪りませんよ」

「お嫌なんですか?」

「それは、その……」

 思わず言葉を濁してしまったが、それはその通りで。賈金蓮もそれは読み取っているらしく、郭興に問う。

「郭興さん、弟か妹はいらっしゃいますか?」

「えー……」

 少し考えた後

「いえ、おりませんが」

 と答える。それを聞いた賈金蓮

「それなら、妹ができたと思えばいいんですよ。きっと楽しいですよ」

「そうでしょうか……」

 承服しかねるところがあるものの、あえて否定はせず。

 賈金蓮の父親である賈国英は寛容な人物で、偏見などを持たない性格である。娘である賈金蓮もその血を引いているらしく、諸外国の文化にも理解があり、むしろ理解がありすぎると言ってもよい。グロオバルなことを評価する向きがある。今回も、

「異人の娘さんということは、あれですね、国際交流? というのでしょうか。私、凄くいいと思います!」

 などと目を少し輝かせながら言うものだから郭興も

「そ、そうですね、僕もそう思います!」

 と心にもないことを言ってしまう始末。

 いくらか談笑すると、

「また今度」

 と言って帰っていった。

 賈金蓮を貰い受ける男がいるとすれば、相当諸外国の勉強をしておかなければならないだろう。機があれば諸外国の勉強をしておくか、と郭興は思った。

「恋だね」

「むむ?」

 ふと足下の繁みを見ると、アニエラが郭興を見上げている。このようなところに隠れていたとは……。

「恋だね!」

「二度言わなくてよろしい」

「否定はしないのかい?」

「うるさい。だいいちいるならすぐに出てこればよかったものを」

「どうもお邪魔をしちゃいけないと思ってね」

 アニエラ、すくっと立ち上がり、裾についた土埃を払うと、郭興の方を見つめる。そして、ニンマリと笑い

「恋だね!」

 と言うものだから、軽くゲンコツを落としておいた。

「いたーい! 何するんだよ!?」

 と怒るアニエラ。郭興、それについては何も言わない。

 そういえば賈金蓮は、妹ができたと思えばいいんですよ、と言っていたが、アニエラを見て思う。妹というより……

「どちらかというと、弟だな」

「うん?」

 アニエラは何のことか分からないようで、頭の上に疑問符を浮かべている。郭興は口に出してみて、改めて自分の考えが正しいものだと思った。


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