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「ジャッジメントQ」 -?人の優しい陪審員ー

作者: 倉橋里実

今はもう皆さん、他人事ですか?


「裁判員制度」



元ネタは、三谷幸喜さんの

「12人の優しい日本人」ですが、


まったくキャストも、そしてラストも!!


完全創作しています。


運営さま的にこれが「二次創作」にあたるなら

潔く、いつでも消してもらっていいと思っています^^;


※キャスト 註※

●:男性 ○:女性 としています。

◎は・・・w

【ジャッジメントQ】


          作・演出  倉橋 里実

《キャスト》


○被告      薄幸。     22歳


●裁判長     厳格。     40歳     


○弁護人     理路整然。   31歳


●検事      理知的。    37歳


○目撃者     散漫な主婦   42歳


●陪審員1番   教師。     一生懸命。   35歳 (陪審員長)


○ 〃 2    ショップ店主。 自己主張強。  20歳


○ 〃 3    OL。     生真面目。   25歳


○ 〃 4    詩人。     人見知り。   22歳


● 〃 5    建築業社長。  利己的。    45歳


○ 〃 6    派遣社員。   傲慢。     30歳


○ 〃 7    専業主婦。   楽観的。    32歳


● 〃 8    八百屋店主。  注意力散漫。  50歳


○ 〃 9    IT企業経営者 データ至上主義 26歳


○ 〃 10   整形外科医師  議論嗜好派   31歳


◎ 〃 11   ニューハーフ。 天然。     25歳


○ 〃 12   スナック勤務。 無関心。    26歳


● 〃 13   ???     マンガ好き   21歳


------------------------------------------------------------------------------



   M1(キンソン)

 

   盛り上がり・・・クロスで客電FO

   全暗


M1・CO

SE・木槌(カンカン!!)


裁判長(声)「静粛に!!」


   溶明

   緞帳は閉まったまま

   ドン前センターに裁判長(PIN)


裁判長  「それでは最終弁論に移ります。検察側」


   客席上手側より検事登場(PIN)


検事   「皆さん、よくお考え下さい。今一度言います。理由はどうあれ、

人を傷つければ罪だ! 傷つけるどころか被告はその尊い命を奪

っているのです! 罪は・・・償われなくてはいけない。償いを

もって、被害者も被告も救われるというものです。以上」

裁判長  「続いて弁護側」


   検事PINアウト

   客席下手側より弁護人登場(PIN)


弁護人  「今回の被告人の状況、事件に至る経緯を考えれば、結果は明らか

です。過失です。そう、そこに殺意はなかった! これを罪とい

うなら、どこに正義がありますか?! 後は皆さんの良心に掛か

ってます。良心のある人間として・・・心ある判断を願います。

以上です」


   弁護人PINアウト


裁判長  「最後に被告人・・・なにか言いたいことはありますか?」


   被告登場(ドン前PIN)


被告   「・・・殺そうだなんて思ってませんでした。本当です。ただ、私

      は・・・つい・・・(泣)」


   被告PINアウト 


裁判長  「それではこれより皆さんに協議に入ってもらいます。社会正義を、

      真実を貫くために集められたあなた方・・・12人の陪審員の皆

さんに!!」

      

   M2(壮大に!!)

   緞帳UP

   裁判長たちハケ

   舞台上には長テーブルと12の椅子。 傍らにソファ

   わらわらと集まってくる陪審員たち(シルエット?)

   

   ほどよくM2・FO

   舞台、クロスで溶明


2    「えっと、座り順どうします?」

5    「適当でいいじゃないの」

12   「アタシここでいい」

11   「あ、隣りいいかしら」

6    「暑いわねここ」

7    「エアコン入ってないんじゃ」

8    「窓開けましょうか。いいのかな、開けて」

4    「あの・・・これ私の新しい詩集なんですが(配り始める)」


   などと口々に好き勝手話している


1    「すみません、とりあえず番号順に座りましょう。私は1番でここ」

2    「じゃこっちから順番にこう周りで、ね」


   各々番号を確認しながら席に着く


8    「(12に)あの、私ここ」

12   「はぁ?」

8    「いやあの」

9    「番号順に座ってるんです。聞いてました?」

12   「聞いてないし(笑)」

11   「聞いてないって」

9    「あなたね」

10   「(9に)まあまあ。(12に)ここは皆に倣いましょう。ルールは

大事ですよ」

6    「そうそう。これからそういう話するんだから」

11   「するよねー」

5    「ちゃっちゃとやろうよ。みんな忙しいんだから」

2    「はい、じゃあなたそっちの席ね。ではまず」

1    「すみません、陪審員長は私」

2    「あ、すみません」

1    「では、これより審議に入りたいと思います」


   やってくる裁判長

   陪審員たち、立ち上がって礼をする者。怪訝そうな顔をする者。

   各々の反応

   その間にも詩集を配る4


裁判長  「皆様お忙しいなかご苦労様です。審議中、私も立会いますが(1

に目を促す)」

1    「はい。裁判長もいらっしゃいますが、あくまで審議は私ども12

人のみで進められます」

2    「そうそう。参考意見や質問を求められたときだけ裁判長は」

1    「(咳払い)

2    「・・・失礼」

裁判長  「ここでの審議結果は12人全員が同じ意見で纏まったものである

とします。故にお一人でも反対意見があると審議終了となりませ

んので」

10   「わかってますよ、そんなことは」

4    「あの・・・これ(詩集)」

1    「すみません、そういったものはここでは」

4    「あ・・・・・はい」

1    「では皆さん、お手持ちの『陪審員心得』の冊子を開いてください。

2ページ目。まず我々陪審員は」

5    「いいんじゃないの、これとばして」

6    「そうそう」

9    「合理的かつ無駄なくいきましょう」

1    「しかし(裁判官を見る)」

裁判長  「(ため息交じりで頷く)」

10   「皆忙しいんです。早く本題に入った方がいいでしょう」

7    「あら、ワタクシ時間たーっぷりありましてよ」

8    「ああ、私も今日は店が休みですので取り立てて急ぐことは」

12   「アタシはあんたらみたいに暇人じゃないの」

11   「ないんだって」

5    「同意見だ。私だって大事な取引があるんだ。(裁判長に)ねえ、

      携帯返してもらえないかなぁ」

裁判長  「外部との連絡は禁止されてますので」

6    「そうそう」

5    「うるさいよ!」

7    「まあまあ」

2    「仲良くいきましょ、皆さん。ね。では」

1    「あの」

2    「あ、すみません。どうも仕切っちゃうんですよねー」

11   「言うよねー」

9    「なんなのよアンタ」

10   「(13に)そっちのあなた。参加してください」

13   「はぁ」

3    「まず・・・どうされますか?」

6    「どうすんの? 陪審員長!?」

5    「ちゃっちゃと決採ろう」

12   「早くしてよ」

1    「えー、では、決を採るという意見が出ましたので・・・えと」

13   「挙手でいいんじゃないですか」

2    「そうですね! では・・・(1の目線を感じ)どぞ」

1    「では挙手でお願いします。被告を無罪だと思う方」


   各々、手を上げる。(3のみ迷いながら一番最後に)


7    「あら!」

8    「みんな一緒だ」

9    「全員一致、ですね」

10   「なんだ。あっけないなぁ」

11   「えー、もう終わりぃ?」

6    「よかったよかった! 即決だ!」

12   「あー、助かる。お店間に合うわ」

1    「えーっと」


   裁判長の顔をうかがう1

   しぶしぶ頷く裁判長


1    「えー、では満場一致で」

10   「満場一致って(笑)」

7    「なんかお目出度いですねぇ」

1    「無罪となりました。皆さんお疲れさまでした」


   各々「よかったよかった」などと口々にしながら出て行こうとする


7    「ま、ホントは殺してるんでしょうけどねー」

11   「やるよねー」


   更にわいわいと


   そこに3が勢いよく立ち上がる


3    「待って下さい!!」


   動きを止める一同


裁判長  「どうされました?」

3    「皆さん、本当に彼女・・・被告は無罪だと思いますか?」

6    「何言ってんの?」

2    「そう決まったでしょう、今」

12   「アンタも手挙げたじゃん」

9    「・・・なにか?」

3    「いえその・・・さっきの検事の言葉が思い出されて」

8    「罪は償えってやつ」

7    「なんかカッコつけて、ねぇ(笑)」

3    「本当に人を殺めたんだったら、やはり償うべきでは」

5    「何言ってんだよあんた」

6    「そうよ。可哀想な人じゃないあのひと。無罪でいいでしょ」

3    「・・・分かりました。陪審員長、私、有罪に撤回します」

一同   「はぁ???」

1    「えっと、有罪が1票でました。皆さん、すみませんがもう一度席

におつきください」


   一同、各々文句を言いながらしぶしぶ戻る


5    「なに考えてんだあんた!」

12   「バカじゃないの?」

11   「バカよねー」

9    「あなたもね」

11   「言うよねー」

3    「皆さん、もう一度話し合いませんか」

7    「そんなこと言われても、ねぇ」

8    「私、難しいことはどうも苦手で」

6    「(3に)あなた聞いてた? さっきの裁判」

2    「よーく思い出してみましょう。ね。(1の視線に気付き)はは・・・

      ね?」


   メイン舞台 照明ハーフ

   舞台奥 下手段上に弁護人 PIN


弁護人  「被告人は18歳の頃、被害者とお互い惹かれ合い、子供まで授か

りながら・・・」


7    「きゃー、ロマンチック!」

10   「ちょっと黙って」


弁護人  「相手に妻子が居、自分が不倫関係にあると知って身を引き、女手

ひとつで子供を育てる決意をした」


12   「偉い!!」


弁護人  「そこにやり直したいと現れた相手、つまり被害者の男」


6    「サイテーよね」


弁護人  「妻子とは別れたという。しかしそれは」


9    「嘘だった。男ってこれだから」

5    「おいおい。そうじゃない男もいるよ」


弁護人  「被害者の男は元々、被告人と付き合っている頃から酒癖が悪く、

暴力を振るうこともしばしばでした」


   舞台奥 上手段上に被告 PIN

   弁護人 PINアウト


被告   「ヨリを戻したいという彼に呼び出された私は恐怖すら覚えました。

案の定、待ち合わせに現れた彼はかなり泥酔していました。引き

止める彼の手を振り払い、私は走って逃げました。必死の形相で

彼は追いかけてきました」


7    「きゃー! 怖―い! それで?」

11   「それで??」

10   「あなた方聞いてましたか、裁判」

8    「えーっとあれだ。2人は幹線道路まできて再び揉み合いになり」


被告   「つい勢いで彼を突き飛ばしたところに・・・」


12   「トラックがバーン!」


   SE:急ブレーキ・どん!という音

   被告 PINアウト


   しばし間


2    「正当防衛ですよ」

10   「ですね」

3    「しかし、しかしですよ」


   舞台奥 下手段上に現れる検事 PIN


検事   「問題はそのときの被告に殺意があったかどうかです。故意か。過

失か」


裁判長  「裁判の論点もそこでした」

3    「ええ。もし被告に少しでも殺意があったのなら、これは罪に問わ

れるべきです。そこで」


検事   「ここに目撃者がいます」


   舞台奥 上手段上に目撃者 PIN


検事   「さあ奥さん。見たままを話してください」

目撃者  「買い物帰りにね、なんだかね、道路のところで暗い中言い争って

る男女がいたんですよ。まあ、やだわとか思って。私も若い頃は

浮いた話もいろいろあったんだけど、最近じゃぁね・・・旦那が

アレじゃ(笑)」

検事   「それで?」

目撃者  「とばっちりはご免だと思って早く通り過ぎようと思ったんですよ。

ほら、買ったもの早く冷蔵庫に入れないとアレだし。なんとかっ

てドラマの最終回も観なきゃって、ね?」

9    「ちなみにその日はチャン・ドンゴン主演『恋する木星』の最終回

でした」

4    「あああああ!!!!」

5    「なんだよ!」

4    「み、観逃しました」

1    「・・・・・そうですか」

7    「(4にこっそり)私DVD録ってますよ」


11   「きゃー。アタシも欲しい!」

3    「(咳払い)で」


検事   「で、なにがあったんですか?」

目撃者  「ああ。で、揉み合ってるうちに女の方が『死んじゃえー!』って

言って男を道路に突き飛ばしたんですよぉ。まあ、怖い怖い」


   検事・目撃者 PINアウト

   メイン舞台 照明戻る


3    「このような目撃証言があるんです。被告に殺意がなかったと言え

ますか?」

10   「しかし最終的に検察側は殺意があったかどうか立証できなかった」

3    「そうですが」

10   「つまり、彼女はうまくやったってことです」

8    「その言い方はやだなぁ」

6    「私から言わせたらね。あんな男、死んで当然ですよ」

12   「あ、アタシもサンセー」

2    「乱暴だなー」

6    「女を泣かせるヤツなんて生きてる価値もない」

5    「そうでない男だっているんだって」

12   「男がダメだから、女は自立していくしかないんだよ。アタシみた

いにさ」

10   「まあジェンダー論はともかく」

7    「な、なんですか? じぇ・じぇんだー??」

8    「さぁ」

9    「ジェンダー論とは社会的性別の差異を」

3    「ともかく! 被告は『死ね』とまで言ってるんです」

9    「『死ね』ではなく『死んじゃえ』です」

裁判長  「言葉は正確に願います」

3    「はい。・・・皆さん、ここに殺意があったとは思いませんか?」

10   「でも彼女は、そんなこと言ってないと言っています」


   メイン舞台 照明ハーフ

   舞台奥 上手段上に被告 PIN


被告   「言ってません、そんなこと! ただその、そのときは錯乱してい

ましたので・・・ でも殺そうなんて思ってなかったんです! 本

当です! あの時はなにがなんだか・・・ただ、あの人に殺され

るんじゃないかと思って怖くて・・・必死で・・・うう(泣)」


   被告PIN アウト

   メイン舞台 照明戻る


3    「自分の立場を考えれば『言ってない』って言うでしょう? でも」

2    「えー、でもよく言うよね。軽く『死ねー』って。(1に)ねぇ」

1    「はぁ」

7    「ああ、私もよく旦那が『忙しくて死にそう』って言うと『死んじ

ゃえ死んじゃえ』って(笑)」

12   「アタシもすぐ触ってくる客には『死ねば』って言うね」

11   「言うよねー」

12   「だからさっきからなんなのよアンタ」

11   「だってあなたとは同じ匂いを感じるんだもの」

12   「一緒にしないでよ! 知ってるわよ。アンタオカマでしょ」

一同   「え?」


   4、急に立ち上がり


4    「死は!! 皆を快楽と天使の抱擁をもって迎え入れてくれるであ

ろう!! 性の差別はそこにはない!!」

6    「なんだ?!」

7    「(手元の詩集を見て)ああ、あなたのこの詩! ね?」

1    「詩の朗読はやめてください!」

2    「あ、今『死』と『詩』をかけたでしょう。上手いなぁ」

3    「あのですね!」

11   「(4に)もしかしてアタシをフォローしてくれたの? ね」

裁判長  「(13に)そちらの方、先ほどから意見を述べられてませんが」

13   「はい?」

5    「あ、マンガ読んでる」

8    「そのジャンプ、今週号ですか?」

9    「(手帳を繰り)表紙が『HUNTER×HUNTER』の28号・・・

2004年のものですね」

5    「えらく古いのを」

8    「マニアですねぇ」

裁判長  「(咳払い)何か、えー・・・(1を促し)」

1    「ええその、ここまでで何かご意見は?」

13   「・・・・・執行猶予」

一同   「え?」

13   「被告の状況を鑑みて、執行猶予が付く可能性は大です。もし付い

たとしてこのケースでは期間は(裁判長に)」

裁判長  「判例では、おおよそ2年」

13   「2年。2年間、他に罪を犯さなければ彼女は刑に服する必要はな

い。つまり」

7    「無罪と同じってこと?」

12   「ホント?」

11   「マジカル?」

裁判長  「全く無罪というわけではありませんが、まあ」

13   「だったら、ここで無理に有罪にして面倒な手続きをする位なら、

      潔く無罪でいいじゃないですか」

3    「しかしそれでは! ・・・それでは」


   しばし間


9    「陪審員長。決を」

5    「おうそうだ。ちゃっちゃとやろう」

1    「(3に)いいですか?」

3    「私は・・・」

6    「もう! 往生際が悪いわね!」

2    「あきらめなさいよ」

5    「裁判長! 多数決じゃだめなの?!」

裁判長  「それは受け入れられません」

12   「融通利かないわね」

3    「皆さん!! もう一度よーく考えてください!!」

6    「もういいって」

3    「私たちは法の下、社会正義を貫くために集められた栄誉ある陪審

員なんです!」

2    「来たくてきてるやつなんていないけどね」


   2・5・6・7・11・12 小さく笑い


3    「話し合いましょう。誇りを持って真実を見極めましょう。私たち

にはその義務があるんです。確かに被告は同情されるべき状況に

あったかもしれません。可哀想です。男も酷いやつでしょう。し

かし!!」


   一同 沈黙(あきれる者、聞き入ろうとする者、無関心な者)


3    「人ひとり死んでるんです。どんなに酷い人間でも生きる権利はあ

る。更正できる機会もあった。・・・遺族はどうですか。被害者の

遺族の気持ちは? 尊い命を奪った責任を、罪を背負う必要があ

るとは思いませんか?! 皆さん、同情だけで罪を見逃そうとし

てませんか? めんどくさいから、早く帰りたいから・・・適当

に罪を流そうとしてませんか? そんなことではこの社会は」

10   「もういいでしょう」

3    「しかし」

10   「陪審員長。私も有罪に入れます」

一同   「!!!」

5    「ちょっとあんた!」

6    「どういう」

10   「いえね。ほだされたんですよ。彼女の演説に。それに議論をする

のは私も嫌いじゃありません」

12   「はぁ??」

9    「とんだタヌキ女ね。ただの議論好き。知識をひけらかしたいだけ

よ」

1    「裁判長」

裁判長  「・・・選ばれたのは皆さんです。皆さん全員の意見が評決となる。

      どのような議論の果てであろうと」

10   「裁判長、皆さん。別に私は酔狂で言ってる訳じゃありませんよ。

例えばこういうのはどうです。これは計画殺人だったとしたら?」


   一同 驚愕

   3にニヤリと目配せする10


9    「荒唐無稽です!」

10   「しかし可能性はある」

3    「計画殺人なら(13に)」

13   「執行猶予はつきません・・・(裁判長に)ね?」

裁判長  「ええ。実刑です」

12   「けどさぁ」

1    「聞きましょう」

10   「思い出してください。当日の、被告の行動の詳細を」


   メイン舞台 照明ハーフ

   再び下手段上に現れる検事 PIN


検事   「被告は被害者を振り切った後、自宅とは反対方向に走った。自宅

は目と鼻の先なのに」


6    「錯乱していたんでしょう」

11   「バカだった!」

12   「それはアンタ」


検事   「そしてまだ街灯も整備されていない、暗く人気のない道路に出た。

長距離トラックなどが高速で行き交う幹線道路に。ここは」


10   「ここは・・・人を突き飛ばして殺すにはうってつけだ」


   検事 PINアウト


   一同 沈黙


10   「逃げたいだけなら真っ直ぐ家に帰ればいい。なのに彼女はそうし

なかった。なぜか?」

3    「もう、殺すしかこの男から逃れる術はないと思った。前もってこ

の辺りを下調べしこの道路が最適と思い」

10   「案の定追いかけてきた男を、人気のないのを見計らって突き飛ば

す。相手は泥酔しているから、女の細腕でも簡単だ。どうです皆

さん」


   しばし間


8    「・・・あ」

1    「なんです?」

8    「へんなこと思い出しちゃった」

12   「何よ」

8    「いやその」

2    「言った方がいいですよ」

13   「そう。どんな些細なことでも何かの役に立つかもしれない」

5    「いいこと言うね、このひと(13)。あんたうちの会社にこない?」

7    「(8に)なんですか?」

8    「確か被告は、被害者と会いに行く前、子供のために宅配ピザを注

文してましたよね」

6    「そうでしたっけ?」

9    「ええ。(手帳を繰り)出掛ける前の19時10分頃、宅配ピザ業者

      『ドミソ・ピザ』に出前の電話を入れています。(裁判長に)ね?」

裁判長  「ええ。確かです。正確な情報ありがとうございます」

10   「あなた聞いてた? さっきの裁判?(嘲笑)」

6    「ふん!」

1    「(8に)で?」

8    「ええ、前もって子供のために晩御飯を用意したってことは」

4    「あああ!!」

5    「もう、なんだよ!!」

1    「もう詩の朗読は」

4    「いえ、つ、つまりその・・・ 被告さんはその晩帰るつもりはな

かった、ってことでしょうか?」

3    「そうだ!!」

13   「裁判長。事件後、被告は?」

裁判長  「はい。実際被告は取り調べ等で明け方まで拘留されています」

10   「ふ。計画犯罪がますます濃厚になりましたね」

7    「そんなまさかあんな優しそうな方が」

8    「あー、私、いらんこと言ってしまいましたかなぁ」


   しばし間


2    「はぁ。悔しいですが陪審員長。私、有罪に変えます」

5    「はぁ?!」

7    「ワタクシも!!」

10   「(9に)あなたは?」

9    「・・・状況証拠だけとはいえ、よくもまぁ(しぶしぶ手を挙げる)」

4    「人は見かけによらない。だからこそ人間は奥深い。人間だもの。

      (手を挙げる)」


   6も無言で手を挙げる


12   「ちょっとちょっと! なに考えてんのよアンタたち!!」

11   「アタシわかんなーい!」

12   「(11に)アンタもう帰っていいよ!」

裁判長  「陪審員長?」

1    「あ、はい。ええっと、これで有罪が・・・6人」

裁判長  「割れましたな」

3    「さ、話し合いましょう!」

5    「カンベンしてくれよ!! なんでこんなに縺れるんだよ! 気で

も狂ったかあんたたち!!」

6    「ちょっと落ち着いて」

5    「うるさい! なんだあんた、さっきは『死んで当然の男だ』なん

て言っときながらコロっと態度変えやがって! 自主性ってのが

ないのか!」

1    「ちょっとお静かに!」

5    「私はな、あんたらみたいに暇人じゃないんだ! (10に)こん

な女みたいにのんびり討論ゲーム楽しんでる場合じゃないんだ!

 こうしているうちにも、うちの会社の売り上げが億単位で動いて

いるんだ! 私はな!」

11   「ガタガタうるせーぞジジィ!!!」


   一同、沈黙


11   「アタシらだってアタシらなりに懸命に生きてんだ。上からもの言

ってんじゃねーよ、ばーか!」


   しばし間


12   「・・・いい事言うじゃん」

11   「言うよねー」


   少し和む場


1    「(5に)冷静にお願いします。いいですか?」

5    「・・・すまなかった」

2    「(8に)でもおじさん、なんで有罪にしないの? 自分でピザのこ

と言い出しといて」

6    「そうですよ」

8    「はぁ・・・でも、なんか釈然としないんですよ」

10   「なにか明確な理由でも?」

8    「そんなの分かりませんよ。あたしゃ頭悪いから」

11   「自分のことそんな風に言うのは良くないわ」

12   「お前が言うな」

8    「ただ・・・フィーリングかなぁ」

10   「理論立てて説明してくれないと話しになりませんね」

8    「はぁ、いやその」

13   「(立ち上がって)まあ皆さん。(8に)ゆっくりでいいですよ。思

い出してみてください。なにが気になるんですか?」

8    「ええっと、確か裁判で目撃者の女性が」


   メイン舞台 照明ハーフ

   舞台奥 下手段上に目撃者 PIN


目撃者  「男女がね。言い争ってるのがはっきりと見えたんですよ」


8    「見えたんですよね」

3    「ええ。それが?」


   目撃者の横に検事が現れる


検事   「その女性の方は、あそこにいる被告に間違いないですか?」

目撃者  「ええ。間違うもんですか。あの人ですよ。そうそう。あの時もあ

んな色の服を着てて」


   舞台奥 上手段上に被告と弁護人 PIN


弁護人  「異議あり!」


裁判長  「異議を認めます」


弁護人  「当日の被告の服装はこれではありませんでした」

検事   「(目撃者に)要点だけを簡潔に」

目撃者  「まあ、それはともかく、その人に間違いないですよ。『ぎゃー』と

か『やめてー』とか『死んじゃえー』とか叫んでてさ」

被告   「い、言ってません! 叫びはしたかもしれませんが、『死んじゃえ』

      なんてそんな」

弁護人  「証人には正確な証言を求めます」

目撃者  「まあともかく、そんなこと言ってたんですよぉ」


   上下、PINアウト

   メイン舞台、照明戻る


2    「改めて思い返すと」

7    「いい加減なおばさまですわね」

5    「まあ、あの手合いのおばさんは思い込みが激しくていい加減なも

のだ」

13   「裁判での目撃者の証言については・・・(9に)間違いありません

か?」

9    「(手帳を繰り)え、ええ」

13   「あのおばさんがちょっといい加減なことは分かりました。(8に)

で?」

8    「ああ。あのおばさんは『はっきりと見た』んですよね」

10   「そうですよ」

8    「でも、さっきの仮説では『被告は人気のないのを見計らって』突

き飛ばしたんですよね?」

3    「なにが言いたいんですか?」

6    「ああ!!」

13   「なるほど。おばちゃんには被告と被害者が見えてたのに、なぜ被

告におばちゃんが見えなかったのか?」

9    「計画的に殺そうとしてたなら、周りにひとがいないかどうか念入りに注意を払ったはずね」

2    「ということは」

5    「あのおばさん、やっぱり適当なこと言ってるんだよ! 韓流ドラ

マにハマッてる女なんてのはみんな思い込みが激しいんだ」

7    「ちょっと! それは語弊がありましてよ!」

1    「講釈師、見てきたような嘘を言い」

一同   「・・・・・」

1    「あ、すみません。つい」


   しばし間


3    「皆さん、もう一度よーく考えてください。目撃者は確かに見たと、

聞いたと言ってるんです!」

12   「ノリで言ってんじゃないの?」

11   「言うよ」

12   「(被せて)言うよねー!!」

7    「でもね、あのおばさん、裁判中でも色々聞き違いとかされてまし

たよ」

5    「ああ! そうだそうだ!」


   裁判長、舞台前センターへ PIN

   舞台奥 下手段上に目撃者 PIN


裁判長  「では証人、前へどうぞ」

目撃者  「誰が使用人ですか!」

裁判長  「(咳払い)証人! あなた!!」

目撃者  「誰が市原悦子ですか!!」

裁判長  「使用人でも家政婦でもない! あなた! 証人! ね?」

目撃者  「はぁ」


4    「そうそう。で、終わった後も」


裁判長  「下がって結構です」

目撃者  「はい(しゃがむ)」

裁判長  「しゃがむのではなく、下がって!」

目撃者  「は?」

裁判長  「もう! 帰って結構です!!」


10   「まあ、確かに注意力散漫な感はありました」

13   「そんなおばさんの証言に、はたして信憑性が?」


   一同、沈黙


2    「陪審員長。無罪に撤回!」

3    「ちょっと!」

7    「ワタクシも・・・」

3    「自主性はないんですか?!」

7    「もうわかんない! アタマ、ぱーん!」

11   「脳―ミっソ、ばーん!!」

12   「死んでしまえー!」

2    「ほら、こんな風に軽く言うもん。『死ね』って(笑)」

3    「それとこれとは」

10   「はぁ、思慮の甘い人ばかり。(13に)あなた、なかなかやります

ね。何者?」

13   「はは」

1    「ええっと、ということは今で有罪は・・・いくつだ?」

3    「陪審員長。あなたは先ほどから意見を述べられてませんが」

5    「おう、そうだ」

1    「いや、私は」

9    「どうなんです?」

1    「私は・・・無罪です」

3    「理由はなんです?」

1    「まあ、いいじゃないですか」

10   「聞きたいですね」

1    「・・・(3に)失礼ですが、あなたご結婚は?」

3    「なんですかいきなり」

1    「私は妻も子もいます。娘は8歳になりました。裕福とはいえませ

んが、まあ、幸せだと思っています。あなたはいかがですか?」

裁判長  「陪審員長、それはいま重大な事柄ですか?」

1    「場合によっては」

3    「・・・子供はいます。夫は・・・・・その」

1    「そうですか。大変言いづらいことをお聞きして失礼しました。

皆さん・・・皆さんはこの陪審員に任命されるのは初めてですか?」


   13以外、各々頷く


1    「私はね、5年前にも一回やってるんです。これ。その時の案件は、

コンビニ強盗・・・17歳の少年が店員、居合わせたお客を含め

4人を包丁で刺殺。犯人は即逮捕。陪審員の評決は・・・当然、

全員一致で有罪。死刑でした」

一同   「・・・・・」

1    「評決を下したときのね、あの被告の目・・・ 私は一生忘れませ

ん。いかにもこの私が彼を殺すかのような、地獄のような恨めし

い目で見られて・・・。私自身が死にたい思いになった。いや、

私より、妻や子のことが心配でたまらなかった。私たちはこんな

重圧に耐えてこれから生きていかなければいけないのかと」

3    「しかし」

1    「私はまあ家族の支えもあってなんとか耐えました。しかし、あの

時、同じ陪審員だった人でね・・・ ちょうど法律を学んでる学

生さんだったんですが」

10   「その人が?」

1    「被告を死に至らしめたという重圧に精神的に耐え切れず・・・」

12   「どうしたのよ」

1    「自ら・・・ 命を絶ってしまいました」

7    「いや・・・」

8    「なんと」

3    「で、でも、それは」

1    「分かってますよ。でも、私はイヤだなぁ。もうあんな思いは」


   しばし間


4    「あああああ!!!」

10   「なんですか?!」

4    「ええ。思ったんですが、その・・・ あそこのピザってかなりボ

リュームありますよね」

5    「またピザの話かよ」

4    「私、あそこのよく食べます・・・一番小さいのでも(手で示し)

このくらい・・・」

11   「いやーん。太っちゃう~~」

6    「オカマは黙って!」

11   「(男に戻りドスをきかせ)んだとコラ、クソメンタァ!! しばき

      回すぞコルァあ!!!」

5    「ちょっと! もう完全に男に戻ってるぞあんた!!」

11   「あ・・・ いやーん(はぁと)」

裁判長  「えー、(6に)差別的発言は控えてください」

12   「裁判長、理解あるわね」

11   「あるよねー。惚れていい?」

裁判長  「(咳払い)で、陪審員長?」

1    「あ、はい。(4に)そのピザが?」

4    「ええ。私いつもひとりで頼んで残しちゃうんです。分かってても

頼んじゃうんです。ひとりで。ひとり。ひとりぼっち・・・」

7    「寂しいのは分かりましたから。で?」

4    「その、5歳の子供がひとりで食べるには大きすぎないかな、と」

2    「つまり?」

13   「帰らないつもりで頼んだピザは子供には多すぎる。ということは」

9    「被告は・・・すぐ帰るつもりだった?!」

13   「うん。被害者の男とはすぐ話を済ませ、帰ってゆっくり息子と2

人でピザを食べるつもりだった」

8    「その方が自然だ!」

2    「そっかぁ」

6    「そうだよね」

12   「うん、納得」

5    「そうだよ! あの女性はそういう優しい人なんだよ!」

3    「わ、私だったらひとりで食べ切れます!」

7    「無理ですよぉ」


   そうだそうだ、と盛り上がる一同


3    「待って下さい! そんなくだらないことで!」

13   「くだらなくない。これも状況証拠です」

3    「だったら、自宅と反対方向に逃げたことはどうなるんです?!」

2    「自宅を・・・知られたくなかった?」

7    「大事な息子さんがいますもの。巻き込まれでもしたら!」

10   「ふう・・・参ったわね。陪審員長、皆さん。私を天邪鬼な女だと

思わないで下さい」

6    「もう思ってますけど」

10   「(咳払い)前言撤回。過失。無罪です」

2    「はいはい」

13   「決、採りますか?」

11   「採るよねー」

1    「あ、そうですね。では改めて決を採りましょう。被告を無罪だと

      思う方」


   3以外、全員手を挙げる


9    「(3に)意固地もここまでくると嫌味よ」

10   「残念ですが負けを認めましょう。ね」

3    「うるさい!!!!!」


   一同、驚愕


3    「なんだ? なんなんだアンタたち!! そんなにあの女が可哀想

ですか?! 若くて、美人で、生活に困ってる女には同情するも

んだってことですか! ふざけちゃいけませんよ!!」

1    「誰もふざけてなんかいません」

裁判長  「落ち着いてください」

3    「大体、不倫なんてする女なんかロクな女じゃないんです! アバ

      ズレの最低の女なんだ。ひとの・・・ひとの旦那を横取りして、

      あまつさえ子供まで?!! 妻の気持ちはどうなるっていうの?! 妻は? 私はどうすればいいの?? あの人を奪った泥

棒猫なんて、死んで当然よ! 地獄に落ちればいいのよ!! あ

んな、あんな女なんて」


   一同、唖然として3を見ている


3    「は? 何よ? 私はただ!」

13   「(3を優しく制し)落ち着きなさい。今裁かれているのは、あの被

告の女性で・・・ あなたの旦那を奪った浮気相手ではない」


   M3


   愕然とイスに崩れ落ちる3


1    「では決を採りたいと思います。被告を無罪と思う方」


   次々に手が挙がる

   3以外は

   皆の視線が3に集まる

   憔悴した顔を上げる3


   暗転


   舞台奥 下手段上に検事と目撃者 PIN

   検事、悔しそうに去る

   目撃者、我関せずな雰囲気でつまらなそうに去る PINアウト


   舞台奥 上手段上に被告と弁護人 PIN

   ほっとする弁護人

   被告、涙ながらの笑顔で何度も会釈をしている PINアウト


   メイン舞台 溶明


   三々五々、退出する陪審員たち

   4と7・8

   2と5・6

   11と12

   9と10 そして3

   1と13を残し、裁判長も頭を下げて去る

   13は上手のソファで相変わらずマンガを読んでいる


1、去り際に


1    「まだしばらく、ここにいるんですか?」

13   「・・・」

1    「ここで、あなたにまた出会えてよかった。ありがとう」


   13、本から顔を上げ軽く笑う

1、深々と礼をして去る

13、またマンガに目を戻す


音楽 盛り上がって


   暗転



   カーテンコールなど


















                              END




                           初稿 2009/6/19


13人目、は、台本で見るとのっけからネタバレなんですよね。

でも、舞台上で観れば、


「13人いる」とは、わざわざ数えてみない、見えない・・・


そんな「ミスディレクション」を狙って書きました。


そして、その「13人目」は・・・



自画自賛ですが、この設定とラストは、自分でもぞぞっとくるくらい大好きな作品です。

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