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● 8番目の勇者:サードニクス 3

 俺は、今日も勇者の冒険を、暖かく見守っている。職務に忠実な王なのだ。


 8番目の勇者、サードニクスか。まったく情けない戦闘だ。なんだ、ダークウルフに囲まれて、ボコボコにされているだけじゃないか。勇者として任命した俺の、人を見る目が疑われてしまうじゃないか。

 

 あっ。サードニクスがなんかした。剣を横に払ったぞ。ああ、彼のスキルだったな。しょぼいスキル。児戯に等しい。ダークウルフを斬るつもりがあるのかい? ダークウルフに向けて、そよ風を起こしてどうする。トット草原は、カルコン山脈からの吹き下ろしの風があるから、そよ風なんて起こさなくても充分に涼しいぞ? まぁ、その吹き下ろしの風が魔素を大量に運んできて、狼がダークウルフになっちゃうんだけどね。

 俺は、自分の治める土地の風土地理も理解している見識豊かな王なのだ。



 おっ、サードニクスが前に出た。あのダークウルフの指揮官を狙ったのか。狙いはいいな。狙いだけだけどね。一応、頭が悪いなりに、頭を使って戦っているようだな。後先を考えていないけどね。


 あ〜、やっぱりな。危ない、危ない。ジュリエちゃんだったか。いま、首を食いちぎられるところだったよ。こら、サードニクス。しっかりジュリエちゃんを守らないと駄目だぞ。むやみに突っ込んで陣形を崩しちゃだめじゃないか。暴虎馮河ぼうこひょうが、冷静さに欠ける男だ。


 あ、村に引き返すみたいだな。今回も進展なしか。まったく。応援する俺の身にもなって欲しいものだ。時間というものは、有限なのだ。


 ・


「今回も、同じ負け方しゃちゃったね……」 


 ジュリエちゃん、その発言はおかしいぞ。『今回も』、じゃねぇっての。まったく。前回も、前々回も、前々回の前々回も、同じ負け方だよ。

 同じような映像を見せられているようで、俺、苦痛だぜ。拷問だよ拷問。



「ああ、すまない……」


 サードニクスよ。俺にも謝罪せよ。此処まで馳せ参じて、土下座しろ。 


 まぁ、はっきり言って今の現状であ、ダークウルフに勝てる見込みないよ? サードニクスのそよ風スキルの有効射程を伸ばす特訓をするか、パーティーに戦士かウィザードを加えないと。

 戦士を加えるとしたら、ダークウルフの包囲を破る役と、ジュリエちゃんを守る役という風に役割分担すれば、勝機が見えてくるだろうよ。

 ウィザードをパーティーに入れて、魔空は放つ狼に攻撃できれば、あっという間に討伐完了だ。

 百戦錬磨の俺が言うんだから間違いない。


 そもそも、パーティーが2人だけで、しかも恋人同士ってのが宜しくない。サードニクスもジュリエちゃんも、パーティーに誰か加えないと勝てないって、本当は気付いているんだろう? 

 サードニクスは、男性がパーティーに入って、ジュリエが心変わりするのを恐れているし、ジュリエちゃんも、まぁ同じようなことを心配して、女性がパーティーに入って来て欲しくない。そんな2人だから、パーティーに新しく人を加えるという決断が出来ない。自縄自縛じじょうじばくだ。

 まったく、恋愛なんかよりも、魔王討伐を優先して欲しいぜ。大事の中に小事無し。勇者とそのパーティーメンバーとしての自覚と覚悟が足りん。



「まったくよ。昨日畑仕事してたら、ダークウルフの群れに襲われそうになったよ。あいつらは何をやっているんだか」


 わぁお。この村人、言うねぇ。勇者は、お前達の為に命をかけて戦っていてくれているんだぞ。それが分からない愚民め。サードニクスも、何か言い返せよ。村人と勇者が喧嘩するって、新しいパターンで面白そうだし。


「ジュリエ、気にすることはない。次は上手くいくさ」


 サードニクス、なんて語彙の少ない奴だ。その台詞、もう何回も聞いて、憶えちゃったよ。


「ねぇ、もう魔王討伐なんて辞めない? 私、もう辛い……」


 あ、ジュリエちゃん泣いちゃた。サードニクス、ついに恋人を泣かせる。先生に言いつけてやろうかなぁ。あはは。


「壁にぶつかることなんて誰にでもあるさ。今が、苦しい時期なんだよ」


 安心しろ。トット草原を通過できても、ドラゴン峡谷に住むドラゴンも並じゃなく強いぞ。火竜ファイヤードラゴンが、魔素を存分に吸って、暗黒ファイヤーダーク火竜ドラゴンになってるしね。

 これからも、ずっと苦しい時期が続くぞ。そんな気休めの言葉、言わなきゃいいのに。


「私達じゃなくてもいいんじゃないかって、最近そう思うの。第7の勇者も、一ヶ月以上前にドラゴン渓谷に向かったそうじゃない。きっと、カルコン山脈も越えている頃じゃないかしら……。第1の勇者なんて、腐食の森を抜け切って、魔王の城に着いていてもおかしくないわ。きっと魔王も倒してくれるわよ」


 ジュリエちゃんの仰るとおり。まぁ、どの勇者が魔王を倒しても、問題ない。要は、倒せればいいのさ。だから、俺もわざわざ十二人の勇者を認定したんだしね。だけど、俺は王様として、口先だけだけど、こう言わなければならない。君たちがやらないで、他の誰がやるんだ!!と。



「少し、少しだけでいいの。冒険をお休みしない? 他の勇者が、魔王を倒せなかったと分かったら、また旅に出ればいいじゃない。私、少し疲れちゃったの…… 。お願い、ロミー」


 今の所、どの勇者も、魔王を倒せる気配すらないけどね…… 。他人任せにするなよ。


 ・ 


 お早い出発ですね。出奔しゅっぽんというやつですか。

 それにしても、昨晩もお楽しみでしたね。あんな清楚なジュリエちゃんが、あんなに乱れるなんて……。机に両手を付けて立っているジュリエちゃんを後ろからとは……。まったくけしからん。

を一緒に見物していた側室のヴィーナスちゃんが、顔を真っ赤にさせていたぞ。純粋無垢なヴィーナスちゃんに、卑猥な物を見せやがって。まったく。今度、机じゃなくて窓辺で同じことをやってみるか。外から見られていると思わせて、ヴィーナスちゃんの羞恥心をくすぐってやろう。


 それにしても、きっとこの2人は魔王討伐という責務から解放された気になって、気が楽になったせいで、いつもより激しくなったんだろうな。まったく。呆れて物が言えないぜ。

 

 ・

 

 あーあ。せっかく俺がくれてやった宝石を、地中深くに埋めちゃうなんて。なんて悲しい事をするんだ。俺の心がまた、愚民のせいで荒んでしまうよ。 


「これでよし。行こうか、ジュリエ」

  

 『これでよし』じゃないよ。サードニクスの奴、何かをやりきった表情しやがって。しかも二人して日の出を眺めちゃってさ。新しき希望の一日が始まるってな雰囲気を出すのは止めようよ。お前等が魔王の討伐任務を放棄したから、王国は、さらなる暗黒時代に突入しちゃうよ。


 もう駄目だ。二度寝したい。まったく朝早くから俺がなんで起きて、こんなの見なきゃなんないんだよ。愚民には裏切られ、早起きはしなきゃならん。王様というのは、なんて報われないのだろう。

 ヴィーナスちゃんの寝顔、やっぱいいなぁ。寝ているヴィーナスちゃんの黄金色の髪をなでなでする。



 あ、あれ? サードニクスとジュリエちゃんが、光に包まれたぞ? あれって聖光ホーリルの光だよな。あの2人が、聖光ホーリルなんて食らったら、死んじゃうぞ?


「敵前逃亡と判断し、処理致しました」


 あれ、シルティーちゃん、いつの間に部屋に来たの? なるほど、さっきのはシルティーちゃんの仕業か。

 シルティーちゃん、なんか不機嫌そうだな。それにしても、聖光ホーリルをぶっ放すこともなかろうに…… 。シルティーちゃんの聖光ホーリルだったら、暗黒ファイヤーダーク火竜ドラゴンも即死しちゃうよ? 


「……」


 無言で、俺を遠慮気味に睨むシルティーちゃん。

 やれやれ。もしかして、俺の隣で寝ているヴィーナスちゃんに嫉妬しているのかな? 後宮を顧みることも、王としての勤めなのだ。浮気をした訳じゃないよ。その辺をシルティーも理解してほしいなぁ。


 彼方ヴィーナスを立てれば、此方シルティーが立たず。立つのは俺の彼処あそこのみ。本当に、王様とはバランスを取るのが難しい。俺以外では務まらないだろう。

 ああ、そうか。いま分かった。聖光と性交を掛けて、遠回しに俺を批判しているって訳ね。シルティー、意外とお茶目だな。



 とりあえず、8番目の勇者は、志し半ばで倒れましたと。魔王を倒すためとは言え、愚民が命を落としていくことは嘆かわしいことだ。悲しみのあまり、俺は二度寝をすることにした。

 シルティーちゃんに手招きをすると、嬉しそうにベッドに飛び乗ってきた。今日は、もう執務終了ということにしよう。

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