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● 12番目の勇者:タンザナイト 10

 長風呂をしてしまった。すっかり深夜じゃないか。シルティーちゃんも、闇属性の空気を浴びたせいで疲れているのにも関わらず、献身的に俺の体を洗ってくれて……。俺は良い部下を持ったとしみじみと思う。まぁ、俺の人徳を慕って、有能な部下が集まったのだけどね。聖属性の入浴剤で、シルティーちゃんの体力回復したし、お肌もすべすべで、よかった、よかった。


 さてと、タンザナイトは何をやっていることやら。おや、ここは、王都の城壁か? なんでこんな所に居るんだ? 観光か? まったく、タンザナイトの奴め。心憎い奴だ。俺様の魔法で作り上げた城壁を見学するなんざ、流石としか言いようがないな。やはり俺は人間の見る目がある。この城壁の素晴らしさが分かる奴なんて、そうはいないぞ。

 王都に住んでいる愚民は、この城壁が当たり前にあると思って生活してやがる。俺が、鼻くそほじりながら、築き上げた一品ということも知らずに、城壁に向かって立ちションする愚民まで現れている始末だ。悲しいことだ。

 タンザナイトよ。しっかり堪能しろよ。その城壁は、俺の語るも涙のエピソードが詰まっているぞ。


 まず、俺の土属性魔法、粘土操作ランドマリオネットによって、粘土で城壁を作ったのだ。さすがの俺でも、あの大きさの城壁を作るのには、無詠唱ではきつかったのだよ。俺が、2秒くらい魔法の詠唱するなんて、有史以来滅多にないぞ。俺様の、王都の愚民を守りたい気持ちは、空よりも高く、海よりも深いのだ。


 そして次に、石化ストナライズを城壁に掛けて、粘土を硬質の石に変質させ、雨風、台風、竜巻でもビクともしない城壁にしたのだ。石化ストナライズを使ったのだ。

 そうだ、思い出した。城壁を、魔力だけで石化するのは疲れそうだったから、触媒を使ったんだっけ。触媒は、地底人ドワーフの髭だったなぁ。地底人ドワーフは、所属的に地属性魔法と相性がよかったし、あの触媒はかなり使いやすかった。

 懐かしいなぁ。地底人ドワーフの長老に対して、地底人ドワーフの髭を献上しろと要求したら、長老は「髭は地底人ドワーフにとって誇りなのです、それを切れというのは、無理な相談でございます」とか変な事を言って渋っていたなぁ。あまりに非協力的な態度だったから、地底人ドワーフの髭に対して、重税をかける法整備を行ったんだっけか。


 髭を切りたくない地底人ドワーフは、税金を稼ぐ為に必死に、金、銀、宝石、希少鉱石を採掘してたなぁ。

 俺様も、地底人ドワーフの努力に敬意を表して、国庫に眠っていた、金、銀、宝石、希少鉱石を大量に市場に供給したのも、なかなか良い経済政策だった。


 市場に大量にそれらが出回りすぎたせいで、値崩れが起きたなぁ。そして、地底人ドワーフが採掘してきた物が、二束三文で、商人達に買いたたかれるという現象が起きて、地底人ドワーフの奴ら、市場原理とは言え、気の毒だった。奴らの大好きなお酒も我慢して必死に採掘してきた品を買いたたくなんて、あの時代の商人は、極悪非道だ。

 結局、地底人ドワーフの税金滞納者が増えていって、そいつ等を取り締まるのも大変だった。捕まえて、髭を切って、首を切る。法律で決まっていたこととは言え、地底人ドワーフを処罰していくのには、俺様の心も痛んだような気がしないでもなくはない。

 そういう、俺の涙ぐましい努力があって、城壁の石化も無事に終わり、魔物が攻めてきてもビクともしない城壁が生まれたのだ。この俺様の苦労話だ。

 あっ、良いことを思い付いた。この城壁を消滅させるのも手だな。突然、城壁が消えて無くなり、狼狽える愚民。見ていて楽しいかもしれない。



 おやっ? タンザナイトの奴、なんか魔法を使ったぞ? なんだあの魔法? 火属性魔法か? コウモリを追い払う為に使ったようだが、俺の知らない魔法だ。生意気な奴だ。俺が知らない魔法を使うなんて。 


「シルティー、いま奴が使った魔法は何だ!」


「も、申し訳ありません。私も存じません。愚かな私をお許しください」


 あ、シルティーちゃんが半泣きになった。俺様の口調が厳しかったし、不機嫌そうに言ったから脅えちゃったのかも知れない。


「シルティー、宮廷魔道師長官を呼べ!」


 聖魔法には詳しいシルティーちゃんだけど、火属性の魔法にはあまり詳しくないのだろう。この俺様ですら知らない魔法だし、シルティーちゃんが知らないのも無理はない。


 


「モブリデン王。ペニィー・シー・リーン、馳せ参じました」


「おお。夜遅くに、大義である」


 一応労いの言葉を口にだす。まったく、ペニィーの奴、寝ていやがったな。深夜だろうがなんだろうが、俺様の呼び出しに三分以内に来ないなんて不敬な奴だ。四十秒で準備しな! しかも、あの寝癖はなんだ。みっともない。呆れて物がいえないぜ。


「いえ、遅くなりまして申し訳ございません」 


「よい。時間がもったいない。まずは見よ」


 俺は、タンザナイトが魔法を使った時の映像を宮廷魔道師長官ペニィー・シーリーンに見せた。こいつが、一応、この国の宮廷魔道師長官だ。代々、宮廷魔道師の長官には、この国の二大貴族の一角、海の道シー・リーン侯爵が任ぜられている。ちなみに、近衛騎士団長には、陸の道ランド・リーン侯爵が任じられる。

「おお、流石はモブリデン王。千里眼フル・ハイビジョンを自在にお使いになられるとは」


 ペニィーの奴、目を丸くして驚いていやがる。まったく。呆れて物が言えないぜ。俺様が、そんな安っぽい魔法を使うわけがないじゃないか。千里眼フル・ハイビジョンは、媒体となる魔法具が見える景色しか見えない、かなり使い勝手の悪い魔法だ。媒体となる物を袋に入れられてしまったりなんかしたら、袋の中の光景しか見えない。

 俺様が、勇者に渡している宝石に掛けている魔法は、掌映画館ミニシアターという魔法で、その魔法の媒体周辺まで視点を広げることができる。袋にしまってあったとしても、勇者と同じ視線で見ることができるし、上空から俯瞰するような視点で、勇者達を見ることができるという優れものだ。しかも、映像を記録することもできるんだぜ。


 千里眼フル・ハイビジョンは、宮廷魔道師長官であれば使えるが、掌映画館ミニシアターは、歴代の宮廷魔道師長官の中でも使える奴なんていなかった。まったく、ペニィーの奴、魔法の区別も付けられないなんて、無知にも程があるぜ。


「この十二番目の勇者、タンザナイトが使った魔法の正体を知りたいのだ」


 その途端、ペニィーの顔が青くなる。あ、こいつも知らないのか。まったく役に立たない。


「大至急調べろ! 本日中に分からなければ、お前の命はないと知れ」


 ペニィーの、無知に対しての言い分けが長そうだったから、先制しておく。

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