表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

○ 12番目の勇者:タンザナイト 7

 朝、防壁の見回りの兵士の気配で目が覚めた。僕は、目をこすって、目やにを落とした。周りも明るくなっていた。


「誰かと思ったら、昨日の勇者志願者じゃないか。なんでこんなとこで寝てるんだ? 」


 昨日の検問所の兵士さんだった。僕だと気付いたのか、兵士さんは槍の構えを解いた。兵士さんの殺気も薄れて、感じなくなった。


「おはようございます。すみません。野宿してました。さすがは王都近辺、モンスターも少なく、熟睡できました」

 

 昨日の夜は、蝙蝠コウモリが2、3匹襲ってきた程度だ。そのコウモリ達も、台所火魔法 (キッチン・ファイヤー) で威嚇をしたらすぐに逃げていってくれた。王都、なんて安全な所だ。

 僕は、立ち上がって、体についた埃を払った。


「何にせよ、生きていて良かったよ。動く死体 (アンデッド)になってたら、駆除していたぞ。ははは」


「脅かせてしまい、すみませんでした」


 人間の死体でも、魔素に当たると、動く死体 (アンデッド)になる。動く死体 (アンデッド)と勘違いされて、兵士さんの槍で、攻撃されなくて良かったと、僕は心の中で密かに安堵した。


「別にいいさ。それより、朝飯、食わなねぇか? 検問所に戻ったら、俺は、朝の警備は終わりだからな。一緒に来るか? 」


「あ、僕、お金が……」


「そんなの、知ってるよ。金を持ってる奴は、こんな所で寝てたりしない。もちろん、俺のおごりだ」


「ありがとうございます」


 僕は、お辞儀をした。


「いいってことよ。じゃあ、検問所に行くか」


 僕は、立ち上がり、兵士さんの横を歩いた。


「あ、僕は、12番目の勇者タンザナイトです。よろしくお願いします」


 王様が、今後はタンザナイトと名乗れと仰られたので、本名は名乗らず、勇者として名乗った。失礼には当たらないだろう。


「俺は、ユーグリッドだ。よろしくな。それにしても、志願者試験、受かったんだな。てっきり、駄目だったんだと思ってたよ。良かったな」


 ユーグリッドさんは、屈託のない笑顔だった。ユーグリッドさんは、僕と雑談をしながらも、周囲を警戒しながら歩いていた。さすがだと思う。僕は、志願者試験の内容、仲間を集めようとしていること、そして、酒場での出来事を話した。


「酒場のマスターというと、ドルクの奴だな。あいつは、お堅い奴だからなぁ」


 ユーグリッドさんは、僕の酒場での顛末を聞いて大笑いしていた。



 検問所に戻り、検問所近くの屋台でユーグリッドさんが買ってくれた醤油炒麺やきそばを、噴水の横で並んで食べた。


「仲間集めで酒場が駄目なら、冒険者ギルドに行けばいいんじゃねぇか。一緒に依頼クエストを受けてれば、気の合う奴とかも出てくるかも知れないしな。お前の場合、どこかの冒険者集団パーティーがお前を受け入れてくれるかもしれないしな」


「どこかの冒険者集団パーティーにですか。僕なんかを入れてくれる人達なんて、いますかね?」


「まぁ、どうだろうな。戦力っていうと……、俺はお前の強さは分からんから判断できないが……、勇者が所属していると、冒険者集団パーティーメンバー全員の公共料金が無料になるし、宿も3割引きだからな。受け入れ側にも、メリットがある話にはなるだろうよ」


 ユーグリッドさんは、言葉を選んで話をしたように思えた。


「ありがとうございます。この後、冒険者ギルドに行ってみます。ごちそうさまでした」


「おお、いいって事よ。俺も一人で哨戒するのは暇だからな。話し相手がいて良かったよ」


「あ、あとユーグリッドさん」


「なんだ?」


「駄目で元々でお聞きますが、僕の仲間になって魔王討伐に行っていただけないですか?」


「それは無理だな。妻も居るし、もうすぐ、子供が生まれるしな」


「そうですか」


 やはり、都合良くは行かない。


「そうがっかりするな。お前なら、どこかの冒険者集団パーティーが拾ってくれるさ。がんばれよ」


 ユーグリッドさんは、僕の肩を叩いて励ましてくれた。


「ありがとうございます。本当に、お世話になりました。では失礼します」


 僕は、ユーグリッドさんに教えてもらった冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルド、そこには、背中を預けられる、強い絆で結ばれた大切な仲間が、僕を待って居てくれそうな気がした。僕は、知らないうちに小走りとなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ