○ 12番目の勇者:タンザナイト 7
朝、防壁の見回りの兵士の気配で目が覚めた。僕は、目をこすって、目やにを落とした。周りも明るくなっていた。
「誰かと思ったら、昨日の勇者志願者じゃないか。なんでこんなとこで寝てるんだ? 」
昨日の検問所の兵士さんだった。僕だと気付いたのか、兵士さんは槍の構えを解いた。兵士さんの殺気も薄れて、感じなくなった。
「おはようございます。すみません。野宿してました。さすがは王都近辺、モンスターも少なく、熟睡できました」
昨日の夜は、蝙蝠が2、3匹襲ってきた程度だ。そのコウモリ達も、台所火魔法 で威嚇をしたらすぐに逃げていってくれた。王都、なんて安全な所だ。
僕は、立ち上がって、体についた埃を払った。
「何にせよ、生きていて良かったよ。動く死体 になってたら、駆除していたぞ。ははは」
「脅かせてしまい、すみませんでした」
人間の死体でも、魔素に当たると、動く死体 になる。動く死体 と勘違いされて、兵士さんの槍で、攻撃されなくて良かったと、僕は心の中で密かに安堵した。
「別にいいさ。それより、朝飯、食わなねぇか? 検問所に戻ったら、俺は、朝の警備は終わりだからな。一緒に来るか? 」
「あ、僕、お金が……」
「そんなの、知ってるよ。金を持ってる奴は、こんな所で寝てたりしない。もちろん、俺のおごりだ」
「ありがとうございます」
僕は、お辞儀をした。
「いいってことよ。じゃあ、検問所に行くか」
僕は、立ち上がり、兵士さんの横を歩いた。
「あ、僕は、12番目の勇者タンザナイトです。よろしくお願いします」
王様が、今後はタンザナイトと名乗れと仰られたので、本名は名乗らず、勇者として名乗った。失礼には当たらないだろう。
「俺は、ユーグリッドだ。よろしくな。それにしても、志願者試験、受かったんだな。てっきり、駄目だったんだと思ってたよ。良かったな」
ユーグリッドさんは、屈託のない笑顔だった。ユーグリッドさんは、僕と雑談をしながらも、周囲を警戒しながら歩いていた。さすがだと思う。僕は、志願者試験の内容、仲間を集めようとしていること、そして、酒場での出来事を話した。
「酒場のマスターというと、ドルクの奴だな。あいつは、お堅い奴だからなぁ」
ユーグリッドさんは、僕の酒場での顛末を聞いて大笑いしていた。
検問所に戻り、検問所近くの屋台でユーグリッドさんが買ってくれた醤油炒麺を、噴水の横で並んで食べた。
「仲間集めで酒場が駄目なら、冒険者ギルドに行けばいいんじゃねぇか。一緒に依頼を受けてれば、気の合う奴とかも出てくるかも知れないしな。お前の場合、どこかの冒険者集団がお前を受け入れてくれるかもしれないしな」
「どこかの冒険者集団にですか。僕なんかを入れてくれる人達なんて、いますかね?」
「まぁ、どうだろうな。戦力っていうと……、俺はお前の強さは分からんから判断できないが……、勇者が所属していると、冒険者集団メンバー全員の公共料金が無料になるし、宿も3割引きだからな。受け入れ側にも、メリットがある話にはなるだろうよ」
ユーグリッドさんは、言葉を選んで話をしたように思えた。
「ありがとうございます。この後、冒険者ギルドに行ってみます。ごちそうさまでした」
「おお、いいって事よ。俺も一人で哨戒するのは暇だからな。話し相手がいて良かったよ」
「あ、あとユーグリッドさん」
「なんだ?」
「駄目で元々でお聞きますが、僕の仲間になって魔王討伐に行っていただけないですか?」
「それは無理だな。妻も居るし、もうすぐ、子供が生まれるしな」
「そうですか」
やはり、都合良くは行かない。
「そうがっかりするな。お前なら、どこかの冒険者集団が拾ってくれるさ。がんばれよ」
ユーグリッドさんは、僕の肩を叩いて励ましてくれた。
「ありがとうございます。本当に、お世話になりました。では失礼します」
僕は、ユーグリッドさんに教えてもらった冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルド、そこには、背中を預けられる、強い絆で結ばれた大切な仲間が、僕を待って居てくれそうな気がした。僕は、知らないうちに小走りとなっていた。