表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

○ 12番目の勇者:タンザナイト 6

「本当です。お酒を飲もうと思って酒場に入ったんのではないんです」


「はいはい。分かったから早く失せな。商売の邪魔だ。そもそも、酒を飲むつもりがないのに、酒場に来るな。客ですらないってことじゃないか」


 僕が、勇気を振り絞って酒場に入った瞬間、酒場の主らしき人がカウンターから出てきて、僕を玄関先まで、猫のように僕の首筋を持って摘まみ出した。さすがは、荒れくれ者もたくさんお客として抱える酒場だ。酒場の店員も、強そうな男だ。上腕二頭筋の盛り上がりが並じゃない。


「あの、僕は勇者で、酒場に仲間を集めに来たんです」


「やっぱりか。そうだと思ったよ」


 酒場の主らしき人は、ため息をついた。


「毎度の事ながら、どうして勇者様は、俺の酒場でパーティーを集めようとされるのかなぁ。常連客を冒険に引き抜かれたんじゃあ、こっちが商売あがったりだよ。とりあえず、帰れ、帰れ。ここは子供の来るところじゃねぇ。20歳になったら、また来な」


「あ、でも仲間集めを……」


 店の中に戻ろうとする店のマスターを呼び止めるように僕は言った。


「あのなぁ、魔王討伐も大事だし、その為の仲間集めも大事だ。それは、分かる。俺も、魔王を討伐して欲しいと思うし、店の売り上げの低下にも目をつむる。しかし、それとこれとは話が別だ。20歳未満は、法律で酒場での出入りを禁止されている。それともなぁにかぁ? 勇者は何をやってもいいと思っているのか?」


 マスターは、両手を腰にあてた。僕の返答次第では、げんこつが飛んでくる。そんな予感がした。


「いえ。そういう訳ではないんですけど」


 マスターの言っていることは正論だ。僕は何も言い返せない。ぐうの音も出ない。


「まぁ、悪く思うなよ。決まりは決まりだ。あとな、店の客を悪く言うつもりも無いんだが、魔王を倒そうっていう意気込みのある奴は、もうみんな、とっくに旅に出ちまってるよ。この店にいるのは、飲んだくれだけだ。他を当たった方が、身の為だぞ」


 そう言って、マスターは、酒場の中に戻っていた。僕は、しばらく酒場の玄関前に佇んだあと、王都の検問を抜けて城壁の外に出た。当番制なのか、入った時の検問所の兵士は居なかった。


 今日、泊まれる所を探さなきゃならない。


 検問所付近はさすがに気が引けたので、防壁に沿って歩いた。本当に堅牢な防壁だと思う。どれほどの資材と労力を掛けたのか見当もつかない。

 僕は、検問所からも、街道からも離れた所に腰を下ろした。城壁を背にして寝れば、警戒する範囲が前方だけになる。

 防壁に体重を掛けてもたれかかり、僕は一息ついた。そして、母が持たせてくれたパンを食べ切った。日持ちするようにと、二度焼されたパンで、もともと固かったが、日が過ぎたせいで、パンの中まで乾燥でぱさぱさだった。


 城壁で隠れて見えないけれど、夕日が落ちたのだと思う。辺りが急速に暗くなりはじめ、影の輪郭が曖昧になっていく。気温も下がっていくだろう。背中に、城壁の石の冷たさも感じた。城壁に沿って吹いてくる風と、頭上から吹いてくる風の二種類が、僕の髪をなびかせる。僕は、ローブにくるまった。そして、両手に持った杖に魔力を流し、暖をとった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ