○ 12番目の勇者:タンザナイト 5
僕は、お城から出た後、仲間捜しを始めることにした。おそらく、僕1人だけでは魔王は倒せないだろう。
先ほどの城の衛兵が、調べ物をするのだったら、図書館に行けば良いと、図書館の場所を教えてくれた。
この衛兵さんが、僕の仲間になってくれないかと期待していたのだけど、そうはならなかった。たしかに、あの素晴らしい王様を護衛できるというのは、大変な栄誉でやりがいがある仕事だろう。ずっと衛兵を続けたいという気持ちも充分に分かる。魔王を倒す為とは言え、あの素晴らしい王様の身辺を危険に晒すようなことを考えた僕が不敬だった。僕は、気持ちが焦りすぎているようだ。猛省した。
僕は、勇者の伝説を調べる為に、王立図書館を訪ねた。図書館の利用には、本来はお金がかかるけど、王様から戴いた宝石を見せたら、顔パスだった。城の衛兵さんが教えてくれた通り、勇者は、公共の施設は全て無料というのは本当なようだ。
図書館で、勇者に纏わる伝説を集めたコーナーの本を物色した。
伝説には、作り話的も、眉唾な話も多い。真に受けるには危険で、参考にならないかも知れないが、勇者には、多くの仲間が登場する。
戦士、ウィザード、ヒーラーという良く聞く職業の人達だけでなく、千里の先からでも的を外すことが無かったというハンターまでいる。千里の距離からなんて、かなり脚色されているかも知れないけど、魔王を討伐できたパーティーのメンバーならそれくらいの凄い人がいるのも当然かも知れない。
それに、伝説を数多く調べる限り、明らかに人間ではないと思われる人達も数多く登場する。
停留する街や村の酒場の酒を全て飲み干したというハンマーナイト。ハンマーナイトは、子供のような身長なのに、長い髭を持ち、自らを地底人と名乗っていたそうだ。地面を深く掘ったら、地底人に会えるのだろうか。いや、そんなことをする時間があったら、地道に、旅を進めた方が良さそうだ。
風の刃を操り、大空を自在に飛び回ったシルフ。『シルフのお気に入りの場所は、勇者の肩の上だった』。この記述に出てくるシルフも、おそらく人間ではないだろう。この時の勇者は、肩に人を容易に乗せることの出来る大男だった可能性も残るけれど…… 。
あっ、似たような記述がある。『どんなに致命傷と思われる傷も、エインセルはすぐに完治させた。そんなエインセルが勇者の頭の上に留まると、まるで蛍が勇者の頭に留まったようだった。エインセルの暖かい光は、戦いで疲れたパーティーの心も癒やした』。勇者の頭上? 蛍の…… 暖かい光? 文字面を読めば、エインセルは、蛍のような虫っていうように読める。
昔の勇者は、どんな人達を仲間にしていたのか、僕の理解が追いつかない。
図書館に分類されている勇者に関する文献を、一通り目を通した。この100年の間に魔王討伐に成功した勇者のパーティーは、戦士、ウィザード、ヒーラーを仲間にしている。僕の常識の範囲に収まるし、それらの勇者のパーティーは、バランスが良いというのが分かる。
それにしても、この1000年少々の期間で討伐に成功した勇者87人の内、8割程度の勇者のパーティーが、勇者以外は、全員女性だ。そして、そのパーティーの女性と勇者の夜の赤裸々な記述が、記述の全体の8割を占めているというのは、どういう事態だろうか。誰がこの資料の編纂をしているのだろうか。
兄が隠していた色本を内緒で読んだ事があったけど、その色本の内容の方がまだ健全だった気がする。魔王は10年で復活するのだから、後世に役立つ記述と編纂を心がけて欲しいと、切実に思った。
あと、気付いた事がもう一つ。いつの年代記も、5000年前の記述を遡っても、勇者を認定するのは、いつも『モリブデン王』だ。ア王朝、イ王朝、ウ王朝、エ王朝と、幾度の王朝交代があっても、王様の名前は、常に『モリブデン王』だ。ちなみに今は、シ王朝の27代目の王の治世だ。
今の王様は素晴らしい。おそらく、『モリブデン王』というのは、賢王とか、そういう名称の総称で、世襲によって名が受け継がれるような名前なのだろう。きっと、今のモリブデン王は、どの時代のモリブデン王と比べても、遜色のない素晴らしい王様だろう。僕は、そんな素晴らしい王様の治世で、勇者に選ばれたことを光栄に思っている。王様の期待に添えなくては! 。
それにしても、仲間を集めるのに、困った事実に直面してしまった。過去の勇者の記述に拠れば、勇者が仲間を探す場所というのは、酒場らしい。でも、僕はお酒なんて飲んだことがないし、そもそも、酒場に僕の年齢で入れるかも分からない。この国でお酒が飲めるは20歳からだ。まだ年齢が足りない。何か方法を考えなくてはならない……。




