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● 久しぶりの勇者志願者

 こんにちは、本作品の主人公のモリブデンです。魔王を倒す勇者を募集してからはや1年、最近、募集してくる猛者もめっきりいなくなって、困っていたところでしたが、1ヶ月振りに、勇者志願者がやってきてくれました。そして、簡単な接見をしていたところでした。


「さっそく勇者となる為の試練を行いたいと思うが、準備はよいか」


「準備万端です! いつでもかかってこいです!」


 勇者志願者が、ファイティングポーズで言った。この若さあふれる坊主頭の志願者名は、忘れてしまった。あまりに弱そうだったので、一目見た瞬間に興味がなくなったからだ。


「はは、朕が相手する訳ではないぞ」


 あまりの無礼さに、魔法で消滅させてやろうかと思ったが、我慢して作り笑いで対応。


「そうですか。俺の相手は何処ですか?」


 廻りをきょろきょろし始める志願者。俺は困って、王座の下に控えている戦の女神ヴァルキュリヤのシルティーを見た。シルティーと目が合った。シルティーは、「こいつ、殺します?」と目で伺いを立ててくる。俺はそれを、左手を少しだけ挙げて制止させた。


「君の相手は、ゴブリンだ。闘技場で戦ってもらう」


「ゴブリンなんて、余裕です!」


 志願者は大声で叫んだ。これ以上、こいつと会話をするのと、俺の品性が損なわれそうな気がする。さっさとこの接見を終わらせたい。


「ところで、君の装備は?」


 一応、勇者募集のチラシの応募要綱にも、「王との接見後、戦闘試練がございます。各自、装備を調えてお越し下さい」と記載していたはずだが、明らかに普段着だ。しかも丸腰。


「俺の武器は、この拳です!」


 志願者は、拳を高く天に掲げた。


 その姿は、語り継がれる伝説のかの勇者のごとく勇ましく、そして誇り高かった。拳は、空を分厚く覆っている雲を切り裂いた。そして、太陽の光が勇者を包んだ。まるで、太陽神が祝福と加護を与えているような、神秘的な光景だった。


 シルティーからため息が漏れた。


 そう、彼のこの神々しい姿を見れば、麗しき乙女達は、深いため息と共に、腰が砕け、立っていることさえ難しいだろう。初心な娘は、失神してしまうかもしれない。彼は、乙女達の心を大鷹のような鋭い爪で掴み持ち去るだろう。彼が、魔王討伐の為に王都を出発する際には、王都の娘という娘が涙し、しばしの別れを惜しむだろう。そして、彼が、無事にこの王都に戻ってくるまでの間、乙女達は、彼の身を案じ、眠れない夜を過ごすことになるだろう……。



 おっと、あまりにも貧相な志願者の姿を直視出来ずに、妄想の世界へと逃げてしまった。現実逃避はいかん、いかん。

 もちろんシルティーのため息も、失望のため息だ。接見の間に入ってきた瞬間に、こいつはただのモブだとシルティーも気付いているだろうから、いまさら失望することもないだろう。彼女のため息は、言葉にするのもはばかられる位の悪意の込められた軽蔑のため息だろう。


 接見の間に流れた沈黙、時間にしておおよそ十秒。この十秒は俺が現実逃避をした時間でもあったが、彼はその間、同じポーズのままだった。


「おお、頼もしいぞ」


 棒読みになってしまった。これでも王様を長くやっていて、演技力には自信があったのだが、この状況では仕方ない。


「でしょ、でしょ」


 シルティーの殺気が微かに漏れた。王様というか俺を敬わない言動を見て、キレそうになったのだろう。一瞬で殺気を沈める器量はさすがシルティーである。


「では早速闘技に移動してもらおう。シルティー、案内を頼むぞ」


「畏まりました」


 シルティーは、俺の方を向き、膝を屈し、頭を深く垂れた。シルティーが、案内途中でこいつを亡き者にしてしまいそうな気がしたが、そうなったらそうなった時でいいや。まだ同じポーズのままの志願者を見て俺はそう思った。

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