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ストレス


 情緒不安定だ、私……

 

 お腹が大きくなるにつれ、確かに胸も大きくなった。ナース服のボタンがはちきれそうで最近ヒヤヒヤする。


 子供ができてから歩登と性行為を持つことはなくなったけど、彼は隙さえあればすぐに甘えてくる。性行為をしない間のスキンシップは大切というけど、以前はあまり甘えるような男ではなかったので、正直どうしていいかわからない。


 性行為をしてはいけないというわけではないんだけど、何故かそういう気になれない。というのもシたいと思ってもいざとなったら濡れない。砂漠のようにカサカサのところに入れなくてはいけないと思うと考えただけで痛い。



 歩登は『無理をしなくていい』とは言うけどなんとなく罪悪感があった。

 仕事に来ても家に帰っても休まることがなくて私はため息ばかりついていたんだ……。



***



「ねえ、永井さん」


 ベッドの周りの黄色いカーテンをピンクのナース服の後ろ姿を見ながら、背後から彼女に声をかけた。


「はーい?なんでしょう、伊崎さん」

「看護婦さんの名前は? 苗字じゃないよ」


「ん?」


「永井さんの名前が知りたいんだ」


「ナンパなんて10年早いわよ」


 10年経ったら永井さん、もういい歳だろ?オバサンの領域入っちゃうじゃん、ということはいくら俺でも言わない。でも、この永井さんならオバサンと言われる歳になったら綺麗なんだろうな、なんて考えるけどおそらく10年後この人と会える保証なんてどこにもない。


 退院してしまえば赤の他人なんだから。だから、少しでも彼女に近づきたくて名前を聞いたんだけど永井という苗字以外は聞くことができなかった。


***



 最近、何かと絡んでくる高校生、伊崎(イサキ) 佐千(サチ)。サッカー部の彼は複雑骨折をし、手術が成功した後、リハビリに励みみるみるうちに回復していく。骨折だから治っていくのは当然なのだけれど、その回復力の早さにやはり若いのだな、と感じた。


 『何かと絡んでくる』と言うのは夜間見回りのときにカーテンの中を覗いたときに照明を消そうとしたら、胸を触ろうとしたことから始まり、名前はなんて言うのか、とか休日は何をしているのか、などと屈託のない笑顔で聞いてくるのでつい、言ってしまいそうになるが、ここは看護師のプライベートを喋るわけにはいかない。



「永井さんて固いよね」


 フフンと鼻を鳴らした彼が私を馬鹿にしたように見ながら言う。そんな10歳も年下の男の子にそんな馬鹿にされた態度をとられたことにカッと頭に血が上った。


「そ、そんなことないわ。でも、普通、看護師は患者にはプライベートなこと教えないのよ」


「そういうとこ。俺の友達、ここに入院したとき、看護師さんからメアド聞いたって」


「う、嘘よ!」



 私の明らかに動揺した態度を見たら屈託のない笑顔ではなく、悪ガキのような何かを企んでいるその笑顔を見せたので少しだけドキっとした。


「ホ・ン・ト」



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