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私の名を呼ぶまで  作者: 剣崎月


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[50]私の名を呼ぶまで:第三十話

 エドゥアルドが詰め所から水とりんごジュース、皮を剥いたり切り分けたりしないでも食べられる果物と、ドライフルーツに肉と魚の燻製に、オリーブオイルと塩と胡椒を散らしたヨーグルトを運んできた。

 椅子に置かれた剣クリスチャンと向かい合い、

『では話を始めよう』

 二人はつまみに手を伸ばしながら、話に耳を傾けた。

『剣師ノベラについて。剣師というのは何でも斬ることができる、剣師に斬れないものはない。ノベラは最強の剣師と言っても過言ではない。ノベラは斬ることが大好きで、特に不死系を斬るのが好きだ。永遠に斬り続けることができるから。斬られるほうはたまったものではないだろうが、斬るほうはそんなことはお構いなしだ。次に私について。私の名はクリスチャン。ホムンクルスだ。ホムンクルスというのはフラスコの中でしか生きられない。以前一度テオドラに会い、葬られ、また作られて地上に現れた。そして私はテオドラと再会し、剣となった』

 声は剣の内部で反響しているせいもあり、生き物の声とは異なる。

「フラスコの中でしか生きられないのに?」

 二人ともフラスコがどのような物なのかは知っており、目の前にある物は世間一般ではフラスコとは言わないことも――

『そうだよ。この剣が私にとってフラスコなのだよ。テオドラが物を作り出す姿、見たことあるかい?』

 だがクリスチャンは持ちづらい装飾だらけの柄と、剣というよりはのこぎりと評したほうが正しそうな荒れた波のような目立つ刃の中に存在している。

「ある」

『なら話は早い。テオドラがあの技でフラスコを剣に作り替えたのさ。私は喋る剣になったのさ。私が喋る剣になった理由は、私が高度な知識を生まれながらにして持っているからだ。この知識と、テオドラが作った私の意志で材質を変化させることができる容れ物が上手く連動したら、素人でもなんでも斬れる剣ができあがる』

「なぜそのような剣を作ろうと?」

『君たちラージュ皇族のためだよ。聞いているかな? いずれ君たちの国がユスティカ王国を滅ぼすと』

「なんだと?」

「呪解師テオドラから聞いた。次に血の呪いの原石を持って生まれた者が……」

『そうだ。その時に使われる剣が私だ。ただね、私は知識はあり剣の材質変化もできるが、タイミングを合わせることが中々できなくて、その練習のために剣師ノベラに預けられた。ものを斬る感覚やタイミングを叩きこんでくれたのがノベラだ。剣の心得を教えてくれたのはノベラの愛剣チタだけどな』

 かたく響きながらくぐもった笑い声。

「愛剣チタ?」

『ノベラの右腰真ん中に吊されている最強の剣。人間相手には使われない類のもので、正式名称……というかノベラはチプ・スタァと名付けたが、本人が嫌……と言うか言い張ったというか、まあ……作ったテオドラが”略してチタでいんじゃない?”と祖母を説得して――』

「ちょっと待った! いま祖母と?」

 化粧している男と間違われたノベラ。自分たちとは時の流れが違うことは理解していたが、孫がいるとは想像もしていなかった。

「誰が誰の祖母だと?」

『ノベラはテオドラの祖母だ』

 ましてその孫がテオドラだとは、思いもしなかった。

「リュドミラとかいう錬金術師ではないのか?」

 グレンから散々聞いたリュドミラの名をかたると、

『リュドミラは母方、ノベラは父方の祖母だ』

 クリスチャンは当たり前のことを教えた。

「あ、ああ……そうか」

 無限の時を生きているテオドラが、自分たちと同じように祖父母を持っているということが、二人には驚きであった。

 クリスチャンと同じくホムンクルスだと言われたほうが、よほど納得できただろう。

『リュドミラについては知っているということは、恐らく史上最悪の錬金術師だと聞いたのだろうが』

 そのようなことを言われたら、クリスチャンは「テオドラと私は違う」と完全否定するのは確実だが。

「違うのか?」

『いいや、正しい。最悪な女だ……ただ、その最悪な女錬金術師にも苦手な相手はいる。それがノベラだ。テオドラとはいがみあうがノベラは避ける』

「……」

 ノベラの姿を思い出し、二人は納得してしまった。

『さっき言った通りノベラは斬るのが大好きだ。リュドミラはテオドラの祖母だ、並大抵のことでは死なない。だから会ったら斬られる、斬られ続ける ―― という理由で苦手なのだそうだ。リュドミラ本人が言っていた。話が逸れたな。私が剣になったのは、リュディガーが原因だ。リュディガー……』

 話すのを一度止め、クリスチャンは柄と中心にある青玉を光らせる。

『この光をその白い壁に向けてくれないか?』

 言われた通りにエドゥアルドがクリスチャンを移動させた。

「これで?」

『……うん、いいようだな』

 青玉から発せられる光は白い壁にぶつかると上下が長い長方形になり、その四角の中に風景が映り、そして人が現れた。

 ヨアキムは立ち上がり壁に触れる。感触は有り触れた壁で、熱も冷たさもない。

「これは?」

『映像というものだ。過去を伝える手段の一つ……君たちには無理だろうがね』

 突如画面に映し出された、かさついた赤黒い肌に呪文のような物が全身に刻まれている、異様な生き物。

『リュディガーだ。ノベラがテオドラのところに連れてきた当時の。ノベラはテオドラにリュディガーを預けた』

 リュディガーは「事情があり」全身に包帯を巻き、その上に札を貼っていた ―― とは伝わっており、二人ともそのことを知っている。

 この姿であるのならば仕方ないことだろうと ――

「なぜノベラはリュディガーを……」

『順を追って話すよ』

 クリスチャンは様々な映像を映し出しながら、説明を続けた。

『リュディガーは生来呪いを受けやすい体質だった。呪術師が施すような呪いどころか、人の妬みなども近くにいると”道”を開いてしまうくらいの。その性質で死にかけるのだが、もう一つ特殊な体質の為にどれほど呪いを受け苦しくても死ねない状態になっていた。そこにノベラがやってきた。もちろん斬るために』

 呪術師と深い関わりがあり、呪われることで命脈を保っているヨアキムやエドゥアルドは、漠然とではあるがクリスチャンの話を理解することはできた。

「道が開いたことで、全てを共用する……のか?」

『その通りだ、ヨアキム皇子。リュディガーは呪いにより他者とつながる。つながった道は生命をも行き来させる。リュディガーは普通の呪術師が手間暇をかけて作る”運命共同線”を、意図せずに作ることができた。”師”は総じて長命だ。その長命を維持する方法は様々。リュディガーたち呪術師は、他者の命に吸い付く』

 呪術師は呪う ―― まずは依頼者を呪い、そこから筋道を付けて相手を呪う。料金ももちろん取るが、本当の報酬は命。

 呪う人間が増えれば増えるほど、命を吸い取る道が増える。依頼主が呪いを受ければ、その道をも辿って呪いを集め、命を吸い取る。

『リュディガーは生まれつきその能力を持っていたため、普通の呪術師ならば防げる呪いの逆流を防げず呪われ、同時に生命も吸い込み不死になった』


 そこにノベラが現れた。全ての生命を枯らす呪われた不死を殺すために。


『リュディガーはノベラに必ず殺してくれと頼んだ』

「殺しきれなかったのか?」

『殺しきれなかったわけではない。言っただろう、ノベラはなんでも斬ることができると。呪術師が作る呪いの道など簡単に絶てる』

「ではどうして?」

『分からない。ノベラの本心など分からない……ただ珍しいことらしい。その頃、テオドラと一緒にいたのだが、ノベラがリュディガーを預けて去ったその後ろ姿に”あの人らしくもない”テオドラは確かにそう言ったよ』


 テオドラはリュディガーに呪いを解いたら死ぬと教えてから、呪いを解こうとした。ノベラは斬れるが呪いの扱いかたは知らない。対するテオドラは呪いの扱いを誰よりも熟知している。

 リュディガーは呪いを扱えるようになりたいと願ったのだが、彼はあまりにも呪いに弱かった。


『そこでテオドラは冥界の水を凍らせたものをリュディガーの額に埋め込み、呪いが一点に集まるよう細工した。いまヨアキム皇子の右目にある物だ』


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