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私の名を呼ぶまで  作者: 剣崎月


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[49]私の名を呼ぶまで:第二十九話

 男装した貴族令嬢と逢瀬を重ね、女装した従兄、蛹持ちの王女、返却確定の王女など、呪われている皇族として恥じない多種多様な問題のある側室を抱えているヨアキム。

 彼はいま、まったく注意していなかった一人の側室と向かい合っていた。

 ユスティカ王国からやってきた侍女であった側室。

「答えろ! お前は何者だ?」

 少々癖のある栗毛は背中の中程。身長は女性としてはやや高め。顔の作りは無難で普通としか言えないのだが……注意をして見るとグレンやリュシアンの顔と同じ作り物めいていた。

「ふふふ……」

 側室が笑いを漏らすと同時に、強風が巻き起こり彼女の着衣が風にたなびき、そして――

「……」

 ヨアキムの前に現れたのは化粧の濃い”男”。

「私の名は地上に舞い降りた血濡れた片翼の堕天使の末裔が集う闇の組織最後の一人ノベラ」

 低く擦れた声と、左肩あてをおおう無数の鳥の羽、そして上下黒い服。片耳だけに赤いピアス。腰には片側に三本ずつ剣が下げられており、二本の剣を交差させて背負っている。

 髪は黒く短く、整えられてはいない。背は高く、ヨアキムと同じほどあり、体格もほぼ同程度。

「…………チジョウニマイオリタチヌレタカタヨクノダテンシノマツエイガツドウヤミノソシキサイゴノヒトリノベラ! 貴様何者だ!」

 ヨアキムは賢い男なので、一度聞いただけで覚えた。もちろん意味など理解はしていない。

「やっだー。すっごーい。一回で覚えてくれたのって君が初めてー」

「……」

 ”これは一体なんなんだ?”ヨアキムは深く追求したくはなかったが、そうも言ってはいられない。

 剣を抜き、

「答えろ!」

 構えて声を荒げる。

「勝負しようか、少年」

 相手は左手側の剣を一本抜き、ヨアキムと同じように構える。

「……」

 そして相手が切り込んできた。

 ヨアキムは受け止めようとしたのだが、なにかを感じ取り受けずに体を反らす。胸部を横に切り裂かれた。傷は深くはないが赤い血の線が描かれる。

「良い判断だ」

 ヨアキムは防戦どころか、逃げるのに精一杯。体勢を立て直すためにも、通路に逃げ込もうとしたのだが、見えない壁が行く手を阻む。

「結界を張ったんだ」

 背後に立った相手と、

『そろそろ遊びは止めないか、ノベラ』

 相手の背後から聞こえてくる声。

「それもそうだな、クリスチャン」

 ”ノベラ”は左手を伸ばしヨアキムの行く手を阻んだ物質に触れる。背中を預ける形になっていたヨアキムは、突然消えたそれに後ろに数歩よろめいた。

「ヨアキム?」

 体勢を崩したヨアキムと、後宮に忍び込んでいたエドゥアルド。

「エドゥ……」

 銀髪に蒼い瞳で、薄い水色の服を上着を着ているヨアキムが怪我をし、血を流しているのは非常に目立つ。

「賊か?」

 エドゥアルドは剣を抜き、倒れかかっているヨアキムの脇を抜けてノベラに斬りかかる。

 床に倒れ込むのを間逃れたヨアキムの足元に転がってきた”なにか”

「……ん?」

 エドゥアルドが自分の額に触れると、半分の大きさになっていた。

『ノベラ』

「結構強かったのよーヨアキム、エドゥアルドの頭持って来てくれる?」

 足元に転がってきたのが脳が入っている頭部と気付き、慌てて持ち近寄るが、

「大丈夫なのか? エドゥアルド」

 エドゥアルドは驚きはしているが、普通に喋ることも手足を動かすこともできる。

「痛くもないし、別に……」

『そのまま放置していると死ぬよ』

 先程から聞こえていた声の正体は、ノベラが背負っていた剣の一本。

『治療する……ちょっと記憶に障害が出るかもしれないが』

 喋る剣・クリスチャンはそう言い、エドゥアルドの頭を光りで包み元に戻した。



 頭の治療を終え、三人と一本の喋る剣は中庭を抜けてエドゥアルドの後宮へと入り、そこでやっと事情の説明が始まった。

「私の名は気高き灼熱の氷薔薇のように鋭く研ぎ澄まされた空気をまといし孤高の狼ノベラ」

 先程と違うではないか……と、全身の至るところに切り傷を負ったヨアキムは思ったが、口を挟む気力がなかった。

 ヨアキムの傷が治療されていないのは「テオドラでも傷が治せないんだぞ? 私が治せるとおもうか?」と、喋る剣クリスチャンでも不可能であったため。

「ケダカキシャクネツノコオリバラノヨウニスルドクトギスマサレタクウキヲマトイシココウノオオカミノベラ? 変わった名前だな」

 治療された頭を触りながらエドゥアルドが言い返す。

「うれしーあのねー」

『話が進まないぞ、ノベラ。二人とも、こいつは剣師ノベラ。ラージュ皇国に伝わる十人の師の一人だ』

「……」

「……」

 ヨアキムとエドゥアルドは視線を合わせて”ローゼンクロイツと言い……”無言で通じ合ってしまった。

『そして言っておかなくてはまず分からないだろうから言っておく。ノベラは女だ』

 二人は上から下まで不躾に見て、また視線をかわす。

「やだー。それは言わなくても分かってるでしょ。だってーここは女性以外立入禁止じゃないのー」

「……」

「……」

『黙れ、ノベラ。フランシーヌの子孫たちが俯いてしまっているぞ』

「フランシーヌ? フランシーヌ・ラージュのことか?」

『そうだよ。それについては後で話すが……あまり横道に逸れずに話せよ、ノベラ』

 二人に女性であると言うだけで衝撃を与えた剣師ノベラ。

 彼女の口から語られた真実――

「楽しそうだったから、ユスティカ王国の諜報部【闇】とか作ってみたりして、その闇のあれでーエスメラルダちゃんの身辺警護を、担当ってことでねーでもね、それってー」

 あまり話が見えてこなかった。

 聞き終えたヨアキムは、

「剣師ノベラはチジョウニマイオリタチヌレタカタヨクノダテンシノマツエイガツドウヤミノソシキサイゴノヒトリでも、ケダカキシャクネツノコオリバラノヨウニスルドクトギスマサレタクウキヲマトイシココウノオオカミでもないのですね」

 取り敢えずそこを確認した。

「そこを確認するところ、フランシーヌに似てるわ。あの時私は”闇夜と永遠の凍る刃の異名を持つ光の戦士”と名乗ったら、律儀に聞き返してきたわよねー」

『まあな』

 ノベラは過去の「自作二つ名」を言いたいだけ言って立ち上がる。

「そうそう、私は爆ぜたことにしてくれない。そろそろ帰るから」

「わ、分かりました」

 事情を色々と聞きたかったのだが、これでは聞いていても埒があかないだろうと、ヨアキムは引き留めようとはせず、ひたすら頷く。

「あと詳しいことはクリスチャンに聞いてね」

 そう言いクリスチャンをヨアキムに手渡すと、剣師ノベラはまさに風の如く去っていった。


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