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[14]ユーフェミア,シャルロッタ,ヘルミーナ,メレディス

 メアリー姫の両親は侍女クロードがクローディア王女だと認め、その後王女を侍女と偽りなにか良からぬことを企んでいるのではないか? と、両親共々厳しく取り調べを受けて、

「エドゥアルド皇子に買ってもらった!」

 クローディア王女が簡単に白状して、二人はお引き取りとなった。

 ただでお引き取りになったのか? それとも賠償があるのかどうかは知らない。側室が後宮から出る三条件のどれにも当てはまっていないようだが、世の中には抜け道が幾つかあるようで。側室の故国の男性に嫁がせるという第四の方法があるのだが……これは結構色々な制約があるそうです。

 私は詳しくは知りませんが、エスメラルダ姫の帰国もこのような形で執り行われるとか。ユスティカ王国くらいになると、そんな小手先の誤魔化ししないで悠々と帰ることができそうだけれども。

 エスメラルダ姫の意思はさておき。

 それと”虫の包”の資金提供者であるエドゥアルドさんですが、

「王女の帰還費用を提供しただけだ。まさか虫師から虫の包を買ってくるとはな」

 これで言い逃れ成功。皇子も深く追求するつもりはなかったようですが。

 従兄ベニート殿が調べてきてくれた所によると、無害な虫を室内にばらまいた罪を問うことは原則できないのだそうです。

 撒かれた部屋の主が怯えるなりしていたら、どこかから罪状を引っ張ってくることができるそうですが、私は怯えたりはしなかったので。


 ……じゃあ、メアリー姫を後宮から追い出す必要はなかったのでは?


 皇子の考えは解らない。

「お前はクロードとクローディアについては知らなかったことにしておくように。解ったな? ユーフェミア」

 素知らぬふりをするのは構いませんが、私はユーフェミアではありません。

「シャルロッタ、警戒は解いて構わん」

「はい、ヨアキム殿下」

 私付きの女騎士の名前はしっかりと覚えてるんだよね。

 皇子は過去、私と同名の誰かに虐められるかなにかして、トラウマになって言えないの? そんなことあるのかな? カタリナと話していたら、脇でシャルロッタが首を振る。

「ヨアキム殿下が過去、お妃さまと同名の方にそのような扱いを受けたことはありません」

 シャルロッタは皇子と幼馴染みなのだそうだ。

 それは知らなかった。幼少期が想像できない皇子だが、もしかしたら従兄ベニート殿のように幼少期は可愛らしかった……どうでもいいや。

 シャルロッタは皇子と例の剣の側室と幼馴染みで、三人で剣の練習をしていたのだと。

「こんなことになるとは、あの頃は思ってもいませんでした」

 言葉少なに部屋の隅を力なく虚ろに見つめながらシャルロッタが呟く姿は、私が知らない皇子を知っているからこその姿だろう。


 剣の側室はシャルロッタよりも強く、女性では相手になる人は誰も居なかったのだそうだ。それ程強かったが、彼女は皇子の側室になることを望み、皇子も望んでいたという。


「お妃になるものだとばかり……申し訳ございません」

 気にしなくていいよ、シャルロッタ。むしろ比べては駄目。

 憤怒を拗らせ勢いだけで妃にされて名前を間違い続けられている私と、妃になることを望まれ迎え入れられた剣の側室を比べるのは可哀相だ。そんなことをしたら、それはもう死者冒涜です。


 皇子の心にトラウマがあるとしたら、その剣の側室の名前だろうが……


「ヘルミーナのこと、今でも思い出すのです」

 やっぱり私の名前と掠りもしない。


**********


 カタリナとシャルロッタと一緒に街のカフェテラスでコーヒーを飲んでいたら、変なのに絡まれた。

 向こうは私のことを知っているようなのだが、私には心当たりがない。

 騒いでいる男の腹にシャルロッタが拳をめり込ませたら、乱闘になりました。そのうち警邏隊が来て、男はあえなく……と簡単にはいかないけれども、なんとか取り押さえられてと。

「あれは騎士のようです」

 騎士? 私に騎士の知り合いなんていない……いや、一人だけ、ほとんど顔も覚えていない相手がいる。

「そうだ、クローディアと駆け落ちした男だ」

 捕らえられた男は城まで連れてこられて、そこで取り調べを受けて、全てを語ったのだそうだ。私に絡んだ理由は”自分のことを皇子に言うな”と脅したらしい。

 声が大きすぎて、なにを言っているのか理解できなかった。近寄ってこなければ捕まることもなかったのに。私は騎士の顔も覚えていないければ、名前すら知らないというのに。

「男の処遇は私が決める。いいな? メレディス」

 私に異存はありませんが、メレディスさんという方の意思は知りません。

「暴行などされたら正直に申告するように」

 えー面倒です。

 そうか、外出すると暴行される恐れもあるのか。そうしたら事情を説明する必要があるのか。三十年前に側室たちが外出できるように制度を変えた方は、たしか故ヘルミーナさんの叔母さんで……多分、ご自身が強かったんだな。

 私のようにシャルロッタに守ってもらったり、警邏が呼ばれてきて大捕物になるような弱い人間は後宮で大人しくしているべきなんだろう。

 シャルロッタ、少し怪我してしまったし。

「暴行されないに越したことはないが、申告を怠るとお前の命にも関わるメレディス」

 後宮内で別の皇子に暴行された場合は申告しなくていいのですかね?

 側室リザ殿から聞いた後宮についての話をすると、皇子は少しばかり悩んだような表情になり、別室に移動し二人だけで話をしたいと言いだした。

 最初は私の寝室へ移動しようとしたのだが、そこに移動すると皇子の逢い引き場所が丸見えなので、皇子の部屋で聞くことに。


「後宮は呪われた男しか出入りできないよう、呪いをかけられているのだ」


 意味がわかりません。いや、意味は解りますが? なんの話ですか。

「後宮は女性ならば誰でも出入りできるが、男性は皇族男子のみだ。決まりとして定められているが、破るものは当然いる。だがそれらは全て後宮にかかっている呪いにより阻まれて死ぬ。皇帝の娘に生まれたものは、息子として生まれた者とは違い、皇族の誓いをたてることができない。誓いを立てられるのは、降嫁し息子を産み、その息子が後宮を出入りすることができて、初めて女は皇族と認められる。ベニートが最初母リザにより後宮に連れてこられたのは、皇族として認められるためだ」

 従兄ベニート殿はそんな事言っていなかった気がします。やはりあの詐欺師っぽい顔だちの人は信用しては駄目ですね。

「ベニートが後宮に頻繁に出入りしていても、誰も咎めないのはそのためだ。この後宮は皇族男子のみの出入りを許す。この後宮は女を入る際に間をおかない。普通の後宮であれば、他の男の種が女の腹にないかどうかを確認するために六ヶ月間別宅で過ごさせる」

 六ヶ月監禁ということですか。

 言われてみれば当たり前のことですが……そして確かに、私はすぐに後宮に入った。

「この後宮は他所の男の種を身籠もっても排除できるために間をおく必要がないのだ。女は身籠もると、月に一度後宮と城を繋ぐ通路を歩かされる。胎児が他所の男の種であれば、腹が爆ぜ女も死ぬ。胎児が女の場合は爆ぜぬが、皇族の子である証拠がないとしてリザのように息子を後宮に連れてきて証明するのだ。女がこの国を継げない理由でもある」


 外出の為に通っていた通路にそんな仕掛けがあったとは!


「私の側室も、三名ほど爆ぜている」

 うわーこわー。暴行? それとも自分の意思?

 やっぱり外出するの止めておこうかな。

「暴行された場合は薬もあれば、生まれるまでどこかで静養して腹を空にして戻ってくることも可能だ。だから正直に申告するように、メレディス」

 メレディスさんは正直に申告するかもしれませんが、私は……どうしようかなあ。

 しかし従兄ベニート殿には騙された。

 本当のことを一つも言っていなかった!

「側室に与える知識は、お前が聞いたものだ。一応側室として振る舞ったのだろう。あいつとまともに話をしても仕方がないから諦めろ、メレディス」


 ベニート殿の従弟である皇子とも、まともに話しても仕方がないと思うので諦めておきます。私の名前はメレディスじゃないです。


**********


 皇子を含む皇族男性が呪われているとはどういう事なのだろう。

 ”爆ぜる”というのはもしかしたら、ただの脅しかもしれない……でも証拠を見せられるのは遠慮したいから、結局信じるしかない。

 皇子に呪いがかかり後宮にも呪い。

 そう言えば、呪い解きを専門にしている人がいたよな……なんだっけ……そうだ呪解師だ。そういう人に呪いを解いてもらって……あれなんか体がふわふわするような……私、目を瞑ってる?


 目を覚ました私がまず気付いたのは空気の冷たさだった。


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