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[12]ソランジュ,レイチェル

 カタリナはお茶に招待した側室のリストを作ってくれている。エスメラルダ姫は故国に帰るような素振りがなく、まだ皇子に疑われているらしい。

「エスメラルダ殿を招待して、メアリー殿を招待しなければいいのですよ」

 私の目の前には女装した従兄ベニート殿……ではなく、側室リザ殿がいらっしゃる。

 エスメラルダ姫のことは嫌いではないので、無実の罪を着せられるのは避けて欲しい。だから私に出来る範囲のことで潔白の証明ができないかと。

 従兄ベニート殿に相談を持ちかけたら、翌日側室リザ殿になってやってきたのだ。

 たしかに虫を撒くことができるチャンスがありながら撒かない――そのような証拠を積み重ねておくべきだろう。


 エスメラルダ姫ご当人は、まだ自分が危険な立場にあることに、気付いていらっしゃらないようだが。


「リストを拝見したところによると、まだお妃さまのお茶の招待を受けていない方がいますね」

 側室リザ殿は楽しそうにリストに目を通している。

 私は積極的ではないけれども、全員に均等に声は掛けた。大体の側室の方々は一度くらいは受けてくれるが、ほら、皆さんお茶を飲んで下らない話をするような方じゃないようで。

 そんな時間があったら読書をして有意義に時間を使いたいと、表情にありありと出ていらっしゃるので、大事な時間を下らないお茶会に使わせるのも悪いだろうと、そういう方は二度とお誘いしないようにしている。土台、住む世界が違うのだ、下手に歩み寄る必要もないだろう。向こうだって毎日茶会を開いて、皇子から渡された派手なドレスを着ている侍女あがりで学のない、向上心もない、絵に描いたようなお妃など別世界の生き物だろうし。


 メアリー姫については、来たいと言ってもカタリナに断ってもらっている。


「この方は招待しないほうが良いでしょう。この方は亡国ホロストープの王女です」

 敗戦国の王女が後宮入り。良くあることで、物語にも書かれることが多いけれど、実際に”そうなっている”のを聞くと胃の辺りが締め付けられる。

「この方、婚約者がいらっしゃったのですけれども、戦争の常といいますか、皇子の剣にかかって亡くなられました。親が決めた婚約者ではなく、本当に愛し合った結果の婚約だったそうです」

 そうですか、可哀相なことですね。そんな人はたくさんいたでしょうがね。

「側室になるのは嫌がりましたけれども、最後は仕方なく。王女ですから敗戦の責任を取る必要もありますので」

 亡国側室さまが責任を取ったということは……予想通り、他の王族の方は亡くなられたようです。正確には皇子に殺害されたそうです。

「隠しておいても良いことはありませんので。ですが皇子はお妃さまには語らないでしょうから、私が説明させていただきました」

 戦争は非情だと言うから仕方ないのでしょう。

「彼女は皇子を恨んでいます。ただ皇子を恨んでいるから復讐の為にエドゥアルドと手を組むような性格でもありません。彼女はラージュ皇国の皇族すべてを恨んでいます。だからお妃さま、あなたのことも恨んでいるでしょう。お気を付け下さい」


 もっと早くにそのような忠告は欲しかったものです。


 側室リザ殿が帰ってから、警告が遅いことをぼやいたらカタリナに謝られた。

「私は聞いておりましたが、無用なご心配をおかけすると思いまして」

 なら良いです。周囲の人が知っているのなら良いんです。

 ちなみにカタリナに”側室リザ殿”について何か知っているか聞いたら、

「リザ殿ですか? 地方都市の裕福な商家の出と聞いております。皇子の側室になったのは三年くらい前かと。私が以前側室に仕えていた頃にはいらっしゃらなかった方ですので、三年以上ということはありません」

 側室リザ殿は私に嘘は言っていなかったようだ。

「ホロストープの王女を側室にすることは、当初随分と反対されていました。王族は皆殺しにするべきだと」

 その反対を無視してわざわざ側室にしたのですか。

 もしかして皇子がお妃にしようとしていた側室とは、亡国側室さまだったのかな?

 

**********


 皇子に”側室リザ殿が”亡国側室さまに近付かないよう忠告してきたので、従ってもいいか? 尋ねてみた。あの従兄殿は言動の一つ一つが怪しい。

 女装好きでスリルを求めて側室になるくらいの皇族なのだから、怪しいのじゃなくて”おかしい”のほうが正しいのかもしれないけれども

「……そうだな、近付かないほうがいい」

 ”側室リザ殿”と聞いた時のあの顔。

 後悔の念が如実に表れている酷い表情でした。あんな顔をするくらいなら、最初から側室にしなければ良かったのに。

 カタリナに聞いたところによると、皇子は側室リザ殿のところには一ヶ月に二、三度は必ず通っているとか。話をしているだけなのだろうけれども、こればかりは自業自得ですよ。

「ソランジュ」

 ソランジュとは誰のことですか?

 女騎士の名ではなく、侍女の名ではなく、まして皇子の名ではないので、私の名前なんでしょうね。本当に誰やねん、ソランジュって。皇子の女性関係リストにある名前ですか?

 愛しい侯爵令嬢の名”レイチェル”と間違って呼ばないだけマシなのかも知れないけれども。

「私がお前に直接警告しなかったのは、近いうちにあれは後宮から退出することが確定しているからだ。これに関してはベニ……リザも知らぬ」

 側室が後宮から出るってことは、皇子が死ぬか、家臣に嫁として与えるか、当人が死ぬかの三つだけだと聞いた。

 私は側室ではなく妃なので当てはまらないらしいが。

 皇子は死ぬ予定はなさそうだし、死んだとしても暗殺だろうから予定は立てられないし、反対を押し切って側室にしたということは、家臣に押しつけるわけにもいかないだろう。となると、亡国側室死ぬの?

 不治の病か死病で余命幾ばくもないから後宮に住まわせて、最後を迎えるその時までひっそりと計画ですか。

 でもそろそろ死にそうなら従兄殿が気付いてそうですが、そんな事は匂わせもしなかった。いきなり死ぬとしたら、暗殺か処刑か。従兄殿が皇子を恨んでいると言っていたから、私の知らないところで皇子に対してなにかしでかしたのかも知れない。


 少なくとも虫を撒いたくらいのことじゃないだろう。


 後日、遠目から見た亡国側室さまは、病身には見えませんでした。元気そうではありませんでしたが、あれはどう見ても病気じゃない。ということは……皇子の計画がどうなっているのかについては口を挟まないでおこう。

 事態がよくわからないから、忠告のしようもないしさ。

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