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第一話 白百合京夜

「新たな未来を求めて」が加筆修正期間に入ったのでしばらくの間、こちらを進めます。加筆修正と言ってもほとんど加筆ですが。

一話一話長いですが、駄文を読んでください。

深呼吸をする。


息を吸い、そして、吐く。この動作を何度繰り返しただろうか。


息を吸って、吸って、吸って吐いて、


「やっぱり無理だ」


僕が振り返った瞬間、そこには出会いたかったけど出会いたくない人がいた。


髪の毛は長く腰ぐらいまである。さらには身長は平均的だろう。そして、十人中十人が必ず美少女と言う少女。その少女を見て僕の頬はひきつっている。対する向こうもひきつっている。


僕は恐怖から。少女は怒りから。


思わず戦闘服を纏いたくなるけど、少女はそれより早く僕の服をつかんだ。


「会いたかったよ、お兄ちゃん」


「あのさ、麻耶、一ついいかな?」


「何かなお兄ちゃん?」


僕は乾いた笑みを浮かべる。


「手を放してくれないかな?」


ちなみに、僕の体はこの時点で宙に浮いていた。もちろん、麻耶に持ち上げられて。白百合家の人間がこうではない。麻耶が人間離れしているだけだ。


麻耶は小さくため息をついて手を離した。


「久しぶり、麻耶」


「半年ぶりだね。さっきまでお兄ちゃんが帰ってきたらどうやって嬲り殺すか考えていたところ」


「お、お手柔らかに」


僕は顔をひきつらせながら答える。


そんな僕を見て麻耶は小さく溜息をつくけど、何か諦めたようににっこり笑った。


「本当にお帰り。お兄ちゃん」






「義母さんは?」


家の中に入った僕はあまり変わっていない部屋の内装を眺めながらお湯を沸かしている麻耶に尋ねた。


麻耶は台所から顔だけだす。


「仕事だよ。で、お兄ちゃんは今までどこにいっていたのかな?」


「主にハイゼンベルク要塞。防衛戦の時には強く感じられなかったことがいろいろとわかったよ。でも、救えなかった」


僕の言葉に麻耶が視線を落とす。


今の言葉がどこのことを言ったのかわかったのだろう。


異形によって街が一つ壊滅した。生き残った数は約30人。それ以外が完全に死んだ。身元が分からない遺体はかなり多いらしい。


その話をニューデリーにある空港で聞いて僕は唇を噛み締めたのは少し前のことだ。


「何が人間最強の称号なんだよ。それで守れるものが無ければただのお荷物じゃないか」


「お兄ちゃん」


「強くなったと思ってた。10年前に紛争に巻き込まれて、ハイナを救えなかったあの時から強くなったと思ってた。でも、僕は強くなってすらないんだ」


あの光景が思い浮かぶ。


紛争に巻き込まれた僕を助けてくれたハイナが僕を庇って死んだ光景を。思い出すだけで手足が震える。


「お兄ちゃん」


僕はいつの間にか近づいてきていた麻耶によって抱きしめられていた。麻耶が僕の背中を優しく叩く。


「お兄ちゃんはたくさんの人を救ってる。私はそう思っているよ」


「でも、僕は」


「お兄ちゃんが全てを救おうとしているのは私も知っている。でも、家の中だけは私のお兄ちゃんでいてて欲しい。一人一軍ワンマンアーミーとしてじゃなくて、私の恋人として」


麻耶が目を瞑ってゆっくり近づいてくる。僕も目を瞑って、


「昼からお盛んね」


「うわっ」


「わきゃっ」


その言葉に僕達は距離を取っていた。


声のした方を向くと麻耶を20くらいまで成長させたような女性がいる。


「か、義母さん、驚かせないでよ」


「だって、久しぶりに我が子が帰って来たんだもん。驚かせなくて何が親か」


親の認識が間違っているとしか思えない。


義母さんはにっこり笑って麻耶を見た。


「麻耶、ベッドの上でしてもらうのよ」


その言葉に麻耶の顔が真っ赤に染まった。そして、声にならない悲鳴を上げて二階への階段を駆け上がる。


「半年前にはしたんだから恥ずかしくならなくても」


「なんでそんなことまで知っているの?」


確か、あの日は義母さんはいなかったはずなのに。ちなみに義母さんは意味ありげに笑っている。


後で盗聴器とか調べておこう。


「おかえり、京夜」


「ただいま」


オレは久しぶりに義母さんにただいまと言っていた。







「麻耶、入るぞ」


オレはドアをノックした後部屋に入った。ベッドの上では麻耶が枕を抱きしめている。


部屋の中は整理整頓されており、パソコンは最新型で最新の映画のDVDが置かれている。


ちなみに、ここは麻耶の部屋ではない。僕の部屋だ。自分の部屋があまりに汚いからと言ってよくここに来るのだ。僕が覗く限り普通に綺麗なんだけどな。


「お兄ちゃん、なんでお母さんがあのことを知っているのかな?」


「ちょっと待って。ライド。『水破氷結』」


戦闘服を身にまとう。色は純白。汚れなき白。


僕は目を瞑った。瞑って小さく溜息をつく。


「この部屋、盗聴器が7個ある」


「義理の息子の部屋に盗聴器が7個って。あっ、私じゃないよ。私はそんなことはしないから」


「わかっているよ。多分、義母さんは心配なだけだと思う」


僕は麻耶の横に座って麻耶の手を握った。


「僕は麻耶とは血が繋がっていないけど、世間はそういう風に見てくれないと思うんだ。だから、心配だと思う。僕達二人がちゃんとやっていけるかどうか」


僕は麻耶と血が繋がっていない。それは、義母さんによって拾われたからだ。話によると生まれたくらいの時に捨てられたらしい。義母さんはそれなのに必死で育ててくれた。そして、麻耶を義母さんは産んだ。


だから、血の繋がりはない。でも、義母さんには本当に感謝している。今の僕がいるのは義母さんがいるから。


「麻耶、少しだけ甘えていい?」


「えっ? でも、盗聴器が」


「お願い」


「うん」


僕は麻耶の胸に顔をうずめた。別にやましい気持ちからやったわけじゃない。それに、麻耶は胸が無いし。


ただ、麻耶がさっき言ってくれた言葉から、家の中では恋人としていたい。ただ、それだけだった。


「僕は、守れてないのかな」


ポツリと呟く。


あの街もヨーロッパも、アフリカも、全て僕の行動は遅かった。到着した時には異形が街を蹂躙し、生存者は皆無。いたとしても助けることが出来ない状況だった。


何もかも手遅れになってから僕はやって来る。手遅れにならなかったのはハイゼンベルク要塞くらいだ。


あの日、ハイゼンベルグ要塞は要塞としての価値を失っていた。門が開け放たれたまま異形が入り込み、要塞内での戦闘。その指揮を執っていたのがリズィだ。ただし、リズィはちょうど来たばかりで戦死した指揮官の代わりに指揮していたらしい。


ちょうどその時に僕がハイゼンベルグ要塞に到着した。焼き払い、薙ぎ払い、吹き飛ばし、ハイゼンベルグ要塞全てから異形を消すと惨状がよくわかった。たくさん死んだ兵士。でも、侵入は阻止できた。そのことを喜ぶ兵士。でも、自分一人が場違いな感覚になったのは違いない。そして、僕はリズィと出会った。


アメリカの若き指揮官であるリズィとの面識はそれからだ。


「お兄ちゃんの活躍は時々耳にするよ。前線のことを中継するテレビでよく噂になっているから。お兄ちゃんがいたからたくさんの人が今も暮らしている。もし、お兄ちゃんがいなかったら今頃日本も異形に喰らい尽くされているかもね」


それは冗談ではなく事実だろう。ハイゼンベルグ要塞と山脈と万里の長城があってようやく異形の進行を止めることが出来た。そうしなければ異形は止められなかったということだ。


「お兄ちゃんは確かに守れなかった。それは私も思う。でも、お兄ちゃんが守った人もたくさんいるから。守れなかった以上に守っているから。だから」


僕は麻耶の頭を撫でた。そして、額にキスをする。


「ありがとう。後、ごめん」


「私達は家族だから愚痴は聞くよ。でもね」


麻耶がにっこり笑みを浮かべた。そして、僕の腕を掴んだかと思うとそのままベッドに押し倒された。


こういう状況なのに何故か嫌な予感しかしない。どうしてだろうか。


「でもね、半年の間、手紙も電話もなーーーんにも無かったのはどうしてか説明してくれるよね? 遠距離恋愛でもそんな酷いことはないはずだよね? だよね?」


麻耶が笑みを浮かべながら近づいてくる。


「いや、あのさ、そのさ、僕だって戦場を駆け回っていたんだよ。アフリカの調査とかヨーロッパの調査とか」


「ふーん」


そういう風に答えてくる麻耶の目は全く笑っていない。ちなみに、僕は麻耶には勝てない。妹だし、恋人だし。


「じゃ、リズィさんと一緒に食事をした日とかは手紙を書く隙も無かったのかな?」


「どうして、そのこと知っているの?」


リズィと話した時もリズィに僕の行動が筒抜けだった。まさか、


「私、リズィさんと仲がいいんだよ。毎日メールのやり取りをするくらい。本当に仲がいいの。だから、リズィさんからお兄ちゃんの動向を教えてもらっていたの」


「どうやって知り合ったのさ」


麻耶がどれだけ一般人を超越した存在であってもアメリカで若手エリートの中でトップを爆走するリズィと関わる機会なんて普通はない。


リズィの友達の大半は科学者か僕みたいな前線で戦うことが可能な同年代の兵士ばかり。日本人の友達は僕一人のはずだ。


麻耶と知り合うなんて無いにも等しいのにどうやって知り合ったのだろうか?


「不思議そうだね。だって、お兄ちゃんがいない間に再ブームになったものがあるんだよ。囁いたら答えてくれただけだけどね」


「なるほど」


確かにあれなら知り合うことは不可能じゃないけど、僕に関する事柄で何か合致することでもあったのだろうか。


「他にもいろいろ知っているよ。リズィさんと一緒の部屋で寝たり、リズィさんが甘えたら頭を撫でてくれたりリズィさんが」


「すいませんでした!」


僕はすぐに謝っていた。全部リズィから聞いたのだろう。確かに全部したことがある。弁解の余地はない。


「で、でも、本番はしていないよ」


「それは知っているよ。お兄ちゃんに迫ったらお兄ちゃんは『麻耶がいる。僕には麻耶がいるから』って言って拒んだって聞いたから」


ちなみにそんなことは言っていません。恋人がいると言ったら愛人でもいいと言われて麻耶の名前を出したことはある。でも、そんなことを言った覚えはない。


麻耶の中ではすでに確定事項なのか頬に手を当てて嬉しそうに微笑んでいる。僕はゆっくり起き上がった。


「麻耶、ごめん。連絡しなかったことは言い訳出来ない。実際に連絡出来た時にしなかったから。だから、ごめんね」


「うん、全く気にしてないよ」


その言葉に僕は思わずずっこけていた。だって、絶対に怒っていると思っていたから拍子抜けした。


「代わりに、お兄ちゃんはいつまで日本にいるの?」


「どうしようか考えているところ。今は異形の動きも沈静化しているし、長い間いることが出来るかな」


ちなみに、異形が沈静化しているのには理由がある。異形自体の数が少なくなっているからだ。


僕がアフリカ大陸やヨーロッパ大陸に言った時に視界に入った異形は全て倒したから絶対的な数が減っているということである。まあ、倒した数が数十億にも達するからだけど。


リズィから聞いた話だと、一人一軍ワンマンアーミーがいれば世界は救えるのではないかという話がある。もしそうなら、僕はすでに世界を救っている。


いくら倒したところでも、いくらでも復活するのが異形だからだ。倒してもどこからか湧き出てくる。このままだと、世界が滅ぶ方が早い。


「お兄ちゃん」


真剣な顔をした麻耶が僕の手を掴んでいた。


「考え事?」


「ごめん。麻耶がそばにいるのに」


「ううん。お兄ちゃんはずっと戦っているから。私に出来ることは、世界は戦いだけじゃないことを教えるだけ。私は、世界の邪魔をしているだけだから」


「でも、僕は感謝しているよ。麻耶がそばにいたら安心するから。これからについて考えていたんだ」


「これから?」


僕は頷いた。そう、これからだ。


今のままでは経済が破綻して戦えなくなる方が異形の全滅より早いとされている。それに、兵の数も少しずつだが減っている。


「うん。世界は完全に総力戦だよ。主な戦場がアジアだから南北アメリカはアラスカや海岸に陣地の形成と兵器の開発。アジアも全力で開発している。リズィだってね。それらが完成したら、きっと僕達は攻めるはずだよ。異形達の現れる場所に」


異形はどこから湧いてくるわけじゃない。アフリカ大陸にあるヴィクトリア湖近くから出てくるのだ。五年前に現れた巨大な城から。


僕もそこに侵入しようとしたけど、あまりの異形の数に撤退した。まるで、倒した矢先に増えるように出てくる嫌な感じだった。


「そこの内部に突入して本体を攻撃する。そうなると思う。その前に中東の奪還かな」


「だったら、それらが完成したら、お兄ちゃんは」


「うん。出るよ。今度は最前線よりも前で異形を倒す。それが、僕の役割だから」


麻耶はぎゅっと僕の手を握ってくる。麻耶は優しいから止めはしない。でも、心の中では止めたいと思っている。


僕は麻耶の頭を撫でた。


「事態が動くまで、僕は日本にいるつもりだよ。麻耶のそばにいるから」


「本当?」


「うん。久しぶりに高校にも行かないと。人間最強の人物が高校中退なんてしゃれにならないしね」


とは言っても、高校は長い間行っていない。リズィが仲介してくれたから本来出来る在学期間よりも長い間いられるようになっているけど、やっていく自信がほとんどないんだよね。


「本当? お兄ちゃんと私は同じクラスだから私がサポートするね」


「そっか。麻耶ももうそんな年か」


むしろ、よくそこまで留年出来たと自分を誉めたくなる。学校に行ってもクラスメートの反応はわかるけど。


「そう言えば、お兄ちゃん、その服装はなんなの?」


麻耶の言葉に僕は戦闘服を着たままであることに気づいた。まあ、これなら話しても大丈夫かな。


「これが一人一軍ワンマンアーミーである理由。僕はこの服装、戦闘服を変えて臨機応変に戦っているんだ。例えば、ライド。『疾風迅雷』」


僕の戦闘服が緑を基調としたものに変わる。


「すごーい。魔法少女みたい」


「せめて魔術青年って言ってよ」


僕は思わず溜息をつきながら返していた。


魔法少女みたいという回答が返ってくるのは日本だけだろうな。リズィはスーパーマンみたいと言っていたけど。


「特徴は加速。最速でここからインドまで10分で到着出来る速度かな。ただ、防御力はほとんど無いけど」


「防御力がないならスピードを上げることは難しいんじゃないかな? ほら、風圧で」


「そういう意味じゃなくて、攻撃に対する防御力。パラメーターで言うなら攻撃と速度が5で後は1」


ちなみに他のパラメーターは防御、魔術攻撃、魔術防御の全てで五つ。まあ、あくまで指針だけど。


『疾風迅雷』は加速したまま攻撃するためその威力はただのパンチでも桁違いに高い。弱点を言うなら市街地戦では使いにくい。下手に使えば加速をして壁にぶつかって死ぬ可能性があることだ。実際に一回死にかけた。


「スピード型か。使い勝手は良さそうだね」


「まあね。使い方によったら最強になるし」


例えば、異形の群れの周囲を最速で駆け回ると人為的に竜巻を起こして吹き飛ばすことが出来る。ちなみに、それをした場合は異形を撒き散らすだけだけど。


他の使い方は最速で駆け抜けて衝撃波で異形を殺すやり方。最速で使えば確実に即死になる。


その速度で何かとぶつかれば僕も即死しそうだけど。


「他には何かあるの?」


「うん。ライド。『爆炎光破』」


僕の服装が変わる。すると、麻耶は戦闘服をぺたぺた触ってきた。


「どうかしたの?」


「あっ、うん。何か熱そうな気がしたから思わず。熱くはないよね」


「『爆炎光破』は熱量を操る力があるんだ。例えば」


僕は右の手のひらに炎を作り出した。そして、左の手のひらに氷を作り出す。これは一連の動作で行ったものだ。炎を作り出す熱量を手に入れた場合、必ず差が出てくる。簡単に熱量だけが手に入るわけじゃない。


「炎を作り出す熱量は空気中から奪う。その代わり、その奪った熱量で氷を作り出す。こういう芸当も可能なんだよ」


「すごい。これって攻撃力は高そうだね」


その言葉に僕はすごく気まずそうな顔になる。それを見た麻耶は首を傾げた。


「これ、魔術攻撃力が高いだけでそれ以外はなんらただの服と変わらないんだ」


つまり、魔術攻撃力だけが5で他は1というむちゃくちゃな戦闘服でもある。ただし、その魔術攻撃力の高さが凄まじい。


学校の視力検査が2.0までしか計れないように、魔術攻撃力も5のランクに収まっているだけ。もし、『爆炎光破』の魔術攻撃力を5の基本とした場合、『疾風迅雷』は速度が4だが攻撃は2になってしまう。それほどまでに強力。


だって、射程距離が半径100kmになるから。


「だから、対異形にはかなり使えるんだよ。他にもいろいろあるけど」


「お兄ちゃんのことだから知りたいけど、今はいいよ。今は、お兄ちゃんと話がしたい」


今していると言えば麻耶はもっとして欲しいというだろう。それくらいに寂しくさせていたのだとわかるから。


僕は麻耶の頭を撫でる。本当はそばにいてあげないとダメなのに。


「僕だけが話しているから麻耶の話が聞きたいな。高校の話。同じクラスになったんだよね」


「うん。えっとね、委員長が委員長って人で、女子のみんなは私に優しいよ。でも、男子が私のことが嫌いらしくてよく嫌がらせされる」


「そいつらを殺せばいいよね」


僕は『爆炎光破』のままにっこり笑みを浮かべた。シスコンと言われようがなんだろうが、僕は麻耶のことが好きだ。だから、嫌がらせする奴らを根絶やしにする。


立ち上がって部屋の外に出ようとする僕を麻耶が必死で止める。


「大丈夫。女子のみんなが助けてくれるから。それに、お兄ちゃんが入ってきたらそんな嫌がらせもすぐに止むと思うし。お兄ちゃんは強いから」


「わかった。嫌がらせしているのを見た瞬間に殺せばいいよね」


「何もわかってないよね。そこまで心配してくれるのは嬉しいけど、お兄ちゃんが人殺しにはなって欲しくないな」


その言葉に僕は動きを止めていた。人殺しはしたことはない。でも、人殺しと言われたことがあるから。


その時を思い出すと、どうしても拳を握りしめてしまう。


「お兄ちゃん?」


「ごめん」


僕はベッドに座り込んだ。本当ならもっと麻耶と話をしたい。でも、僕は考えてしまった。あの時のことを。


「僕はもう、人殺しだよ。僕のせいでたくさんの人が死んだことがある。僕が到着しなかったからじゃない。それを考えたら」


考えるだけで手が震える。あの時の光景を思い浮かべるだけで気分が嫌になる。


「もしかして」


「うん」


麻耶には話したことがある。あるからこそ、麻耶は何も言わずに僕の横に座って手を優しく握ってくれる。


「僕に麻耶がいなかったら、今頃死んでいたかもね」


「冗談でも言わないでよ。お兄ちゃんが死ぬなんて、考えたくない」


でも、この世で一番危険なことをしているのは僕だろう。


単身でヨーロッパ大陸やアフリカ大陸に飛び込んで異形を倒したりしているから。だから、麻耶は心配なのだろう。


僕は麻耶の手をしっかり握った。


一人一軍ワンマンアーミーなんて呼ばれているけど、僕はこんな力は欲しくなかったな」


「お兄ちゃんもそんなことを思うんだ。お兄ちゃんならもっと力が欲しいとか言うと思ったのに」


「間違っちゃいないけどさ。もし、この力がなかったら何をしていたんだろうなって考えてしまうんだ」


もし、なかったとしたなら僕は麻耶とずっと一緒にいれたのだろうか。幸せに暮らせたのだろうか。そして、僕は麻耶と出会ったのだろうか。


この人間離れした力はどうしても何か理由があるとしか思えないから。


「私は思うけど、もしかしたら、お兄ちゃんにその力がなかったら、恋人になっていないと思う」


「えっ?」


その言葉に僕は驚いていた。もしかして、麻耶に愛されていると思っていたのは自惚れだったのかな?


「あっ、嫌いになるって意味じゃないよ。もし、義理の兄としてずっと一緒にいたなら、私はお兄ちゃんとして、兄としては好きになったかもしれないけど、異性としては見ていないと思う」


聞いたことがあるけど、身近にいる異性はあまりに身近すぎて恋愛対象にならないと聞いたことがある。それと同じ原理なのだろう。


麻耶は頬を赤く染めながら話を続ける。


「お兄ちゃんは優しいし、かっこいいから、嫌いになるわけがない。でも、お兄ちゃんがなかなか帰って来ない時、私は最初寂しいとだけ思っていたから」


それは告白された時に聞いたことがある。


僕がいなくなってから、麻耶は寂しいと思っていた。でも、月日が経ち、僕が世界を股にかけて戦っているという話を聞いて誇らしく思えたらしい。


民間人を守る英雄としての僕を。


そして、一人一軍ワンマンアーミーの名前が定着してから、麻耶は僕のファンになったらしい。


異形が現れてから、僕はちょくちょく帰るようになったが、久しぶりに会う度に恋心が大きくなっていったと聞いた。


「次第にお兄ちゃんが好きになって行った。久しぶりに会うからだと思う。久しぶりに会う度にかっこよくなっていたから。もし、ずっとそばにいたならそうはならない。ブラコンには変わらないけど」


僕は麻耶の頭を撫でてやる。シスコンとブラコンの兄妹か。僕達にとってはお似合いかもしれない。


「そういえば、お兄ちゃんって勉強出来るの?」


「ノーコメント」


はっきり言うなら出来ないけど。


だって、12歳から頻繁に戦場に出ていてまともに義務教育を終わらせれると思える人は少ないだろう。


僕が中学を普通に卒業出来たのも政府がいろいろとしてくれたからだけど。


学校に行きだしたなら必死に勉強しないと。


「放課後に一緒に勉強しない? 私でもお兄ちゃんにいっぱい教えられると思うから。どうかな」


「お願いしようかな。あっ、でも、日々の鍛錬はどうしよう。もしもの時を考えて訓練しておかないと。えっと、メニューから考えて、あう。時間がない」


1日が26時間あったら大丈夫な計算になってしまった。このままじゃ衰えるだけだ。


「待てよ。寝る時間を削ったら、大丈夫だ。麻耶、お願いしていい?」


「その前に、睡眠時間は何時間?」


僕はどうしてそのことを聞くのかわからず首を傾げた。


「2時間だけど?」


「2時間って。お兄ちゃん、もっと寝ないとだめだよ。成長期は過ぎたと言っても、健康に悪いから」


「大丈夫だよ。戦場なら2時間寝れるだけで」


そう言った僕の唇に麻耶の人差し指が触れた。おそらく、その話はして欲しくないのだろう。


「ここは日本だよ。戦場じゃない」


「ごめん。もう、職業病かな。麻耶がいなければ、僕は絶対に戦場でしか生きていけないかも」


冗談めかしてそう言って僕は麻耶を抱きしめた。


「だから、ずっと一緒にいてね」


「あらあら。プロポーズ?」


その言葉と共にドアが開いて義母さんが現れた。全く気配が無かったけど、義母さんって一体何者なのかな?


麻耶の顔は完全に真っ赤なまま固まっている。


「ふふっ、お邪魔だった? でも、京夜に渡さないとだめなものがあるから」


義母さんがそう言って渡してくれたのは通帳だった。僕はその通帳を開けてみると、最後のページには目を疑う額が大量に書かれていた。


麻耶が真っ赤な顔のまま通帳を見てまた固まる。


そこに書かれている額は大体20億ほど。貯まっている理由が全くわからないけれど。


「政府からの援助金を全て貯金しているの。京夜が使うために」


これくらいがあるならいろいろと出来ることが多そうだな。とりあえず、


「麻耶、買い物に行こう」


「はえっ? どうして買い物?」


「買いたいものが出来たから」


僕は立ち上がって麻耶の手を引っ張る。手を引っ張って歩き出した。麻耶もすぐに立ち上がって一緒に歩き出す。


とりあえず、麻耶に何かプレゼントをしてあげよう。今までの感謝と、これからの約束のために。


京夜はすごく精神が不安定であるので同じような悩みを何度も繰り返します。


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