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『戦火の絶えぬモクモク王国で、暗殺稼業の成り上がり貴族の長男に転生した(※生まれながらの裏切り者)について』  作者: 凪塩 未来


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第1話:光ある王都と、血に濡れた影のあわい

今回は「神に禁じられた暗殺術」「成り上がり貴族」「影の貴公子としてのし上がる主人公」をテーマにしたダークファンタジー&戦記ものをスタートさせていただきます。


正々堂々の騎士道が尊ばれる世界で、あえて「禁忌の暗殺」を背負って国を裏から支える一族。その血を色濃く引く転生者の主人公・空が、冷徹に、しかし自身の目的のために世界を渡り歩いていく物語です。


ちょっと一癖ある設定や、ザ・なろう系らしいシリアス&スカッとする展開がお好きな方に楽しんでいただければ幸いです!


それでは、第1話「光ある王都と、血に濡れた影のあわい」をお楽しみください

戦火の絶えぬ時代にあって、その中心でひときわ異彩を放つ成り上がり貴族がいた。

名を連才家。もとは平民でありながら、数多の戦功によって貴族に召し抱えられ、時の王が手放すまいとしたほどの人材である。王族すら、その動向に目を配る。彼らの存在は、モクモク王国における最大の機密であり、同時に最大の抑止力でもあった。


だが、華やかな宮廷の噂話の裏で、知る者ぞ知る隠された事実があった。

なぜ、幾度も周辺国から侵略の危機に晒されながら、モクモク王国だけが決定的な惨禍を免れ続けているのか。なぜ、幾多の強国が突如として内乱や指導者の急死に見舞われ、自壊していくのか。


その理由は単純かつ、おぞましいものだった。

——連才一族が、敵国の要人を闇から刈り取ってきたからだ。


表向きの武功。その裏に隠されていたのは、この世界ではありえぬはずの業。

暗殺。

それは、この世界を創った神が、人類に固く禁じた思想だった。争いを防ぐため、人同士が決定的な死の技術を極めることを神は良しとしなかった。ゆえに正当な戦術や魔法以外の「密やかな死の授け方」は、すべて天罰の対象、すなわち禁忌とされていた。


しかし——神と敵対する邪神が、密かに人へと授けた禁忌の知恵があった。

連才家は、代々その禁忌の知恵を血族の血肉に刻み込み、王国の盾として影で血を流し続けてきたのである。正々堂々の騎士道精神がもてはやされる表の世界において、彼らのやってきたことは紛れもない「神への反逆」そのものだった。


そして今代、彼らはマケマケ王国とミケ王国の王族の首を立て続けに取るという、歴史的かつ決定的な功績を手に入れた。

敵対する二大王国の頭目を同時に失った両国は混乱の極みに陥り、モクモク王国への侵攻作戦は完全に瓦解した。国中が歓喜に沸き、王宮は連才一族の当主を盛大に讃えた。国民たちは彼らを「国の盾」「英雄」と呼び、狂喜乱舞した。


だが、英雄と呼ばれる者たちの足元は、常に血の泥で汚れている。

かくして連才は名実ともに王国最高峰の貴族となり、その長子は光ある王都と、血に濡れた影のあわいに立つことになった。


その長男の名は、連才空。

年は、まだ十二歳だった。


薄暗い石造りの地下室。

王都の豪奢な屋敷のさらに地下、日光の届かないその場所で、空は冷たい床に胡坐をかいていた。石壁には魔力抑制のルーン文字が刻まれ、外界の音を完全に遮断している。


「……ふう」


吐き出した息が、白く淀む。地下室の気温は低い。しかし、空の額にはうっすらと汗が滲んでいた。

十二歳という年齢相応のあどけなさ、まだ幼さの残る整った顔立ちだが、その双眸だけは、年の暮れた老人のように静かで、底知れぬ冷気を湛えていた。


(転生して、はや十二年か……)


空は心の中で、微かに自嘲の笑みを浮かべた。

彼の前世は、現代日本に生きるしがないサラリーマンだったはずだ。理不尽な上司に頭を下げ、満員電車に揺られ、終電間際に帰宅するだけの日常。それがどのような因果か、この剣と魔法、そして終わりのない戦乱が支配するファンタジー世界へと生まれ落ちていた。それも、よりによって「国家の汚れ仕事を一手に引き受ける暗殺貴族の長男」として。


前世の記憶を持ったまま赤子として目覚めたとき、空は絶望よりもむしろ奇妙な納得感を覚えた。

なぜなら、彼の育った環境は常軌を逸していたからだ。歩き方を覚えるよりも先に「気配を殺す方法」を叩き込まれ、言葉を話すようになる頃には「毒の種類と致死量」「急所の正確な位置」を実物見本と共に教え込まれた。


一般の子供が絵本や玩具をねだる年齢で、空は短剣のメンテナンス方法と、人体を効率よく沈黙させるための解剖学を叩き込まれていたのだ。遊園地に行く代わりに暗闘術の訓練場へ通い、絵本の代わりに禁忌の魔導書を読み聞かされた。それがこの一族の「日常」だった。


——ガチャリ。


重い鉄の扉が開き、足音が静かに響いてきた。

現れたのは、漆黒の仕立ての良い服をまとった男。空の父親であり、現・連才家の当主である男だった。その纏う空気は、一国の騎士団長をも圧倒するほどの殺気を孕んでいる。だが、その瞳の奥には、長子に対する複雑な情愛の色が揺れていた。


「空。今日の鍛錬はそこまでだ」

「父上」


空は立ち上がり、父親にまっすぐ視線を向けた。親子の間に愛情がないわけではない。むしろ血のつながりは濃く、互いの能力を深く信頼し合っている。だが、この一族において「親子」とは、師弟であり、共犯者であり、そしていつか互いの命を背負い合う関係でもあった。


「今日の王宮からの使者は見事だったな。マケマケとミケの首魁を葬った我が一族の功績を、王は手放しで褒めちぎっていた。我が連才家は今や、モクモク王国において揺るぎない地位を得た。宮廷の貴族どもも、表面上は我々にへりくだっている」

「……表向きは、ですね」


空が冷徹にそう返すと、父親はわずかに目を細め、満足げに片端の口元を吊り上げた。


「そうだ。表向きはな。だが、お前も知っているはずだ。我々が使っている力が、いかなるものかを」

「神に禁じられた思想。邪神の知恵……暗殺の業」


空の言葉に、地下室の空気が一段と重くなった。

神が定めた世界の理において、人間の命のやり取りは「正々堂々の戦い」でなければならない。正面から武器を合わせ、互いの技量をぶつけ合うことこそが、神に許された唯一の闘争の形だ。しかし、連才家が使う技術は、正面からの戦闘力を超越した「一方的な死の強制」だ。気配を完全に断ち、影に溶け込み、相手が息絶える瞬間まで自らの存在すら認識させない。


それは、神の秩序に対する真っ向からの反逆——すなわち「裏切り」に他ならない。


「私たちは、モクモク王国を守る英雄であると同時に、世界そのものを敵に回している生まれながらの裏切り者だ。違うか、空?」

「……否定はしません。ですが、父上。僕たちがその『裏切り』をやめれば、明日にはこの国が滅び、僕たちの首が串刺しになる。それだけの話です」


淡々と語る息子の姿に、父親は深く、そして重々しく頷いた。


「その通りだ。綺麗事では誰も守れん。王族も貴族も、平民すら、我々が闇で血を流しているからこそ、日々の平穏を謳歌できている。だがな、空」

父親は一歩、空へと歩み寄り、その肩に重く温かい手を置いた。実の子を道具ではなく、後継ぎとして認める重みのある手だった。

「お前はこれまでのどの当主よりも、その『業』に対する適性が高い。生まれ持った魔力の色が、この一族の誰よりも深く、そして黒い。常人であれば、その魔力に精神を侵食され、狂い死にするところだ」


空は自分の手のひらを見つめた。

時折、自らの魔力を練り上げると、周囲の光が吸い込まれるような奇妙な感覚に襲われる。それは前世の記憶を持つ人間から見ても、明らかに常軌を逸した特異体質だった。魔力というよりは、呪いに近い何かが血管を巡っている感覚がある。


(神の禁忌……邪神の知恵。それが俺の身体の奥底に流れている)


恐怖や嫌悪感はなかった。むしろ、この残酷で理不尽な世界で生き抜くための最も確実な武器として、空はその力を受け入れていた。

前世の日本で、会社組織という見えない歯車の中で無力にすり潰され、最後は過労と理不尽な事故で命を落としたからこそ、この世界では「奪われる側」ではなく「奪う側」、あるいは「すべてを掌握する側」でなければならないという執着が、彼の魂の根底に深く刻ばれていたからだ。


「生き残るためには、綺麗事も善悪も関係ない。強い者が勝ち、隠れた者が生き残る。それがこの世界の真理だ。空、お前はすでにそれを理解しているな」

「当然です。生きるために邪魔なものは、たとえ神であっても排除する。それが我が連才家の生き方でしょう」


空の冷徹な返しに、父親はどこか誇らしげな笑みを浮かべた。我が子でありながら、一族の業の極致を体現する怪物。その誕生を、当主としての誇りが肯定していた。


「いい目をしている、空。……ならば、次の任務の話をしよう」

父親の声音が、一段と低くなり、地下室の空気が引き締まった。


「今度は、隣国ペコペコ王国の特務騎士団長だ。奴らは我が国の動きを察知し、一族の秘密を暴こうと水面下で動いている。連才家の根城が割れる前に、奴の息の根を止めなければならん。今度の相手は、これまでの雑魚とは違う。王国最強と謳われる『白銀の剣』の異名を持つ男だ」

「……承知しました」


空は静かに頭を下げ、腰に差した特製の短剣に手をかけた。

十二歳。世間一般であれば、まだ親に甘え、学校で友人と笑い合っている年齢である。

だが、このモクモク王国の影に生きる少年・連才空にとって、それは通過点に過ぎなかった。


神に禁じられた殺しを家に背負う少年は、やがて国を守る刃となるのか。

それとも、禁忌そのものに呑まれるのか。


答えはまだ、誰も知らない。ただ確かなのは、彼の踏み出す一歩が、世界の運命を確実に狂わせ始めているということだけだった。冷たい地下室の闇の中で、少年の瞳が仄かに黒い光を帯びて輝いた。



第1話をお読みいただき、ありがとうございました!


いかがでしたでしょうか?

前世の記憶持ち×暗殺貴族の長男という、最初からハードモードかつチートな裏設定を抱えた主人公・空のスタートとなりました。


次回、早くも隣国ペコペコ王国の特務騎士団長『白銀の剣』との暗闘が幕を開けます。国家の秘密を守るため、影の貴公子がどのような手段で標的を葬るのか……! 次回もぜひお楽しみにしていただければと思います。


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