第六章 血族の少女
「……くそっ!!」
前線に立つ隊長が、低く吐き捨てた。
「魔物が……多すぎる……!」
その時、一人の騎士が駆け寄ってくる。
「隊長!! 第四小隊の防衛線が、もうすぐ突破されます!!」
「……っ」
隊長は即座に叫んだ。
「魔導小隊を前に出せ!!
先に魔法で数を減らせ!!」
後方で詠唱の声が重なり、魔力が戦場を包み込む。
だが――なおも魔物の群れは押し寄せる。
(ありえない……この地域で魔物氾濫なんて……)
(兵力が……足りない……頼む、王都、早く増援を……)
――その時だった。
戦場の空気が、唐突に歪む。
重く、息が詰まるような気配が噴き出すように広がった。
「……っ!?」
隊長は目を見開く。
「幽影……騎士……?」
次の瞬間、顔を歪める。
「……魔族に汚染されている……!? まさか……」
「……黒幕は!! 帝国?」
即座に、隊長は叫ぶ。
「魔導部隊、聞け!!」
「防御障壁、最大出力!!」
戦場の緊張が、一段階引き上げられる。
――少し離れた高台。
戦場を見下ろす場所に、一人の少女が立っていた。
長い黒髪、赤い瞳。
その傍らには、手のひらほどの青い飛竜。
少女は短く告げる。
「……行くよ。琉璃」
――次の瞬間。
幽影騎士が闇を歪め、大剣を具現化させた。
地を踏み鳴らし、突撃の構えを取る。
だが――その刹那。
「行け、琉璃! 永遠凍土!!」
澄んだ声が戦場に響き渡る。
同時に、別方向から――
「雷魔法・雷縛網!!」
雷の網が走り、幽影騎士の身体を絡め取った。
少女は飛竜を操り、氷の力で戦場を凍てつかせる。
幽影騎士の動きが、明らかに鈍った。
そしてもう一方――
戦場に到着した部隊の先頭に立つのは、賽莉亜。
雷魔法を放っていたのは、間違いなく蓮だった。
「ふぅ……間に合った」
蓮が短く息を吐く。
少女はちらりと一度だけ蓮を見るが、すぐに戦場へ意識を戻し、
そのまま手を止めない。
「琉璃、来て!」
次の瞬間――
飛竜の身体が氷晶の欠片となって砕け、光の粒が少女の手元へ集まっていく。
やがてそれは、蒼白の刃を持つ、青白い細身の長剣へと形を変えた。
「……!」
それを見た蓮が声を上げる。
「ん? 姉ちゃん、これ……!
子どもの頃に話してくれた、あれだよね!?」
賽莉亜が頷く。
「うん。契約型生命神器よ」
賽莉亜は少女を見据えたまま言う。
「あの子はまだ強くはない。
でも――神器の扱い方は、なかなか上手い」
蓮が拳を握る。
「じゃあ……僕も負けてられない!」
「出てこい、黒刃!」
次の瞬間、蓮の右腕から黒い霧が噴き上がった。
闇が渦を巻き、手元へ収束する。
黒く歪んだ紋様を刻んだ一振りの刀――黒刃が現れる。
賽莉亜は一瞬だけ眉をひそめた。
だが、すぐに表情を和らげる。
「蓮……」
「姉ちゃん、心配しないで!
僕は暴走なんてしない!」
賽莉亜は答えなかった。
(……違う。問題はそこじゃない)
(あなたのその力が……確実に、強くなってきている……)
蓮は黒刃を強く握りしめる。
少女も蒼白の剣を構える。
互いに言葉を交わさない。
だが――視線は同じ敵を捉えていた。
次の瞬間。
二人は同時に地を蹴った。
氷と闇が、戦場を裂く。
その背後で――
「全軍、聞け!!」
賽莉亜の声が戦場に響き渡る。
「今だ!! 各小隊、突撃準備!!」
剣を掲げ、叫ぶ。
「この機を逃すな!!」
「――進めぇぇぇ!!」
王国騎士たちが一斉に動き出す。
戦場は、反撃へと転じた。




