第五章 魔物氾濫
ラファエル王国に来てから、気がつけば一週間ほどが過ぎていた。
蓮はすでに王城の中にも慣れ、
最近では時間があると城下町へ足を運び、
顔なじみになった住民たちと挨拶を交わすようになっていた。
その日も、いつものように昼頃、
王城へ戻ろうとしていた――その時。
「どいて!!」
突然、背後から鋭い声が飛んできた。
「うわっ!?」
反射的に身を引き、思わず声を上げる。
「び、びっくりした……!
なにそんなに急いでるの!?」
その男は立ち止まることなく、声を張り上げた。
「緊急通報だ!!」
「リュミエールの町が――
魔物に襲われている!!」
その場にいた兵士たちが、一斉に息を呑む。
「魔物氾濫……?」
「リュミエール周辺は、魔物の出現数が少ないはずだろ!?
そんなはずは……!」
動揺が広がる中、
ひとりの近衛兵が即座に踵を返した。
「女王陛下に報告する!!」
そう叫ぶと、彼は王城の奥へと駆け出していった。
⸻
その報せは、当然のように蓮の耳にも届いていた。
気づけば、彼は走り出していた。
城内を駆け抜け、王城の大広間へと飛び込む。
すでにそこでは、白綾が即座に指示を出していた。
「賽莉亜」
鋭く名を呼ぶ。
「今回の件、あなたが出なさい」
「第二騎士団――
第二、第五、第六小隊を率いて、
リュミエールへ向かって」
迷いのない命令だった。
「現地の被害を抑え、
住民の安全を最優先に」
賽莉亜は一歩前に出て、膝をつく。
「はっ。承知しました」
その瞬間――
「ま、待ってください!!」
広間に、少年の声が響いた。
白綾と賽莉亜の視線が、一斉に向けられる。
「……蓮?」
蓮は息を整える間もなく、声を張り上げた。
「ぼ、僕も行きます!!」
「……僕にも、できることがあります!」
⸻
白綾は、蓮の言葉を聞いても、すぐには答えなかった。
広間に、短い沈黙が落ちる。
まるで、何かを天秤にかけているかのように。
「……」
数秒後、白綾は小さく息を吐いた。
「……いいでしょう」
「陛下!!」
賽莉亜が思わず声を上げる。
白綾は、彼女を見つめた。
何も言わず、ただ静かに。
その視線を受け、
賽莉亜は一瞬言葉を失い――
やがて、何かを悟ったように、小さくため息をついた。
「……わかりました」
そう言って、蓮の方を向く。
「蓮。行くのは構わない」
「でも――」
声音が、はっきりと変わった。
「必ず、私の指示に従うこと」
「勝手な行動は、絶対にしない」
蓮は、迷いなく頷いた。
「うん!」
「わかってる! 姉ちゃん、安心して!」
賽莉亜は、ほんの少しだけ苦笑する。
「……約束だよ」




