第四章 ラファエル王国
朝から馬を走らせ続け――
蓮と賽莉亜は、ついにラファエル王国へと辿り着いた。
「……わあ……」
思わず声が漏れる。
目の前にそびえ立つのは、
これまで見たこともないほど巨大な城壁だった。
正門の両脇には、
光輝の女神と慈愛の女神を象った二体の石像が並び立っている。
「すごい……!
これが、ラファエル王国なの!?」
賽莉亜は小さく笑った。
「ふふ、でしょ。
さ、行こう」
⸻
城内へ足を踏み入れた瞬間、景色は一変した。
通りの両脇には露店が並び、
行き交う人々の顔には、自然な笑顔が浮かんでいる。
「……なんか」
蓮はきょろきょろと周囲を見回しながら言った。
「みんな、幸せそうだね」
賽莉亜は、その言葉に軽く頷く。
⸻
「おおっ!!
剣聖様じゃねえか!!久しぶりだな!!」
突然の大声に、蓮はびくりと肩を跳ねさせた。
声の方を見ると、
屋台の前に立つ中年の男が、満面の笑みで手を振っている。
「……?」
蓮は賽莉亜を見上げた。
「……せいけん?」
男は気にする様子もなく、
屋台の奥から串を二本取り出す。
「ほらよ!
剣聖様、久々の再会の祝いだ!」
一本を賽莉亜に差し出し、
もう一本を蓮に向けた。
「坊主も食え!
成長期だろ!」
賽莉亜は串を受け取り、軽く頭を下げる。
「ありがとう」
それから蓮の方を向いたが、
彼の疑問には答えなかった。
「今は、まだ話せない」
少しだけ声を落として続ける。
「まずは女王陛下に会って、落ち着こう」
「それから、話す」
「行こう、蓮」
⸻
王城の奥へと進むにつれ、
空気は少しずつ張り詰めていった。
高い天井。
赤い絨毯。
左右に整列する近衛兵たち。
蓮は、自然と背筋を伸ばしていた。
大きな扉の前で、賽莉亜が足を止める。
「――賽莉亜様、謁見の許可が下りております」
扉が静かに開かれた。
その先には、広大な玉座の間が広がっていた。
王座に座していたのは、一人の女性。
淡い白桃色のローブを纏い、
頭上には王冠。
その姿を見た瞬間、
蓮は思わず息を呑む。
賽莉亜は一歩前に進み、片膝をついた。
「お久しぶりです、陛下」
女王――白綾は、静かに微笑む。
「よく戻りました、賽莉亜」
その視線が、蓮へと向けられる。
「……その子が」
蓮は慌てて頭を下げた。
「は、はじめまして!
れ、蓮です!」
白綾は小さく目を細めた。
「そんなに緊張しなくていいわ」
「ここでは、安心して過ごしなさい」
賽莉亜は立ち上がり、蓮の肩にそっと手を置く。
「陛下、しばらくの間、この子をお預かりいただけますでしょうか」
白綾は、迷うことなく頷いた。
「ええ」
「この国は、彼を守ります」
⸻
謁見を終えた後、
賽莉亜は蓮を連れて王都を歩き始めた。
石畳の道。
整った街並み。
行き交う人々の声。
しばらくして、蓮が口を開く。
「……ねえ、姉ちゃん」
「さっき外で、なんで剣聖って呼ばれてたの?」
賽莉亜は歩きながら答えた。
「私が騎士団に所属しているからだよ」
あくまで、さらりとした口調。
「それなりに実力があるから、
そう呼ばれることもあるだけ」
(……うそだ)
蓮は心の中でそう思った。
(どう考えても、ただ者じゃない)
少し間を置いて、蓮はまた尋ねる。
「……じゃあさ」
「フィア姉と、リナ姉は?」
賽莉亜は、少しだけ表情を緩めた。
「二人ともね、ちゃんとこの国にいるよ」
その言葉に、蓮はほっと息をつく。
「……そっか」
賽莉亜は歩きながら続ける。
「今は国境で駐留してるだけ」
「しばらくしたら、騎士団が交代で向かう予定だから」
「その時に、戻ってくるよ」
「……うん」
また会える。
そう思うと、胸の奥が少しだけ軽くなった




