第十一章 違和感
蓮が第十階層の守護者の注意を引きつける。
その隙を、ジェナは見逃さなかった。
「琉璃――永遠凍土!」
瞬間、膨大な魔力が収束する。
蒼白い光が一直線に走り、
守護者の上半身を一気に凍りつかせた。
「今だ!」
蓮は地を蹴る。
「鬼王・乱舞――!」
背後に巨大な鬼王の虚影が浮かび上がる。
振り下ろされた一刀が、
凍りついた守護者を真っ二つに斬り裂いた。
やがて、
守護者は砕け散り、光となって消える。
「……倒した、か」
第十階層の守護者自体は、
決して強敵ではなかった。
だが攻撃の軌道があまりにも不規則で、
二人は何度も回避を強いられた。
気づけば、
体力の消耗は思っていた以上に大きい。
リナが腕を組みながら言う。
「まったく、お前たち……」
「あれは十階層で一番弱い守護者だぞ?」
「少し休め。体力を戻してから進む」
そう言い残し、
リナは退屈そうに周囲を歩き回る。
塔の隅、
崩れかけた石壁の近くに、
ひとつの奇妙な羽根が落ちているのを見つける。
リナはそれを拾い上げ、
そっと懐へ収めた。
一瞬だけ目を細める。
(……これは……)
「蓮、ジェナ」
「あと二分休め」
その声は、いつも通り落ち着いていた。
――――――――――
その頃。
天空の塔、第二十五階層。
Aランクの正規五人隊が、
慎重に探索を続けていた。
「アコ!」
「気を抜くな!」
隊長が鋭く叱責する。
「ここは天空の塔の二十五階層だ!
もっと警戒しろ!」
だが、名を呼ばれた魔法少女アコは、
くるりと振り返り、軽く笑った。
「やだなあ、隊長~」
「ほら、ここ全然魔物いないじゃないですか」
「私たちの連携なら楽勝ですよ~」
そう言いながら、
壁を撫で、仕掛けを探っている。
――その瞬間。
空間が歪んだ。
足元に黒い穴が開く。
「え……?」
次の瞬間、
アコの身体が引きずり込まれた。
「アコ!!!」
「離れろ―――!!」
「いや……!」
「隊長……っ――」
言葉は最後まで続かなかった。
だが、それで終わりではない。
黒い穴は拡大し、
周囲の四人へも強烈な吸引を始める。
「くっ……!」
「手を繋げ!」
「絶対に離れるな!!」
隊長の怒号が響く。
残された四人は、咄嗟に互いの手を掴む。
だが――
抵抗も虚しく、
そのまま全員が闇へと引きずり込まれた。
――――――――――
次の瞬間。
暗闇の空間に叩き出される。
「隊形を組め!」
隊長の号令と同時に、
残された四人は即座に陣形を整える。
周囲を警戒する。
そして――
弓兵が凍りついた声を上げた。
「……アコ」
「やめろ……!」
そこにあった光景は――
アコの周囲に、
黒い人型の存在が群がっている。
影のようなそれらが、
彼女を貪っていた。
「たす……け……」
血と涙に濡れた声が響く。
「隊長……助けて……」
だが隊長は歯を食いしばる。
「陣形を崩すな!」
なぜなら――
すでに包囲されていたからだ。
そして。
隊長はゆっくりと視線を上げる。
そこに立っていたのは――
この時代に、
とうに滅びたはずの種族。
天翼族。
その姿は歪み、
黒き翼を持つ――
堕落天兵だった。




