第十章 開幕
数日間の馬車の旅を経て、
蓮、ジェナ、リナたちは、
ついに天空の塔のある地へと辿り着いた。
そこは、
ベルグリス王国とラファエル王国の国境地帯。
両国が共同で管理している土地であり、
関係も深いため、
交易も盛んに行われている場所だ。
馬車を降りた瞬間、
蓮は思わず足を止めた。
雲を突き抜けるように聳え立つ、
一本の巨大な塔。
「……わぁ―――!」
「でっか……! 高すぎだろ!!」
思わず口を開けたまま、
蓮は見上げる。
ジェナもまた、
隣で言葉を失い、目を見開いていた。
リナはそんな二人を見て、
どこか楽しそうに笑う。
「ははっ、どうだ?」
「迫力あるだろ~?」
「ほら、いつまでも見てないで行くぞ」
「まずは受付だ」
そう言って歩き出すリナ。
するとその様子を見ていた
周囲の冒険者や街の人々が、
ざわつき始めた。
「……おい、あれって……」
「拳鬼様じゃないか!?」
「まさか……」
「復帰するのか!? 冒険者に戻るのか!?」
その声を耳にして、
リナはげんなりした表情を浮かべる。
「拳鬼、ねぇ……」
「まだその呼び名使われてるのかよ」
「……ほんと、センスない名前だ」
すると今度は、
近くにいた子どもたちが駆け寄ってくる。
「拳聖さま!!」
「サインください!!」
リナは一瞬驚いた後、
優しく笑って手を振った。
「はは、ごめんな~」
「今日はちょっと用事があってさ」
「また今度な!」
その光景を見て、
蓮は思わず心の中で呟いた。
(……姉ちゃん、)
(あんな優しい顔もするんだな……)
――その瞬間。
なぜか、背筋に悪寒が走った。
次の瞬間、
リナが振り返り、鋭い視線を向ける。
「おい」
「今、何か失礼なこと考えなかったか?」
「えっ!?」
「い、いや、全然!!」
蓮は慌てて首を振り、
乾いた笑いを浮かべた。
「は、はは……」
――――――――――
煩雑な手続きを終え、
ようやく塔の内部へ入る許可が下りた。
リナは歩きながら、
改めて二人に言い聞かせる。
「中に入ったら、
私は基本的にあまり手を出さない」
「指導はするが、
危険だと判断したら――」
「私が『止まれ』と言う」
「その時は、必ず従え」
「分かったな?」
蓮は力強く頷く。
「分かってるよ、姉ちゃん!」
ジェナも静かに頷いた。
そうして三人は、
ゆっくりと塔の中へ足を踏み入れる。
蓮は周囲を見回しながら、
どこか浮き立った様子で口を開いた。
「なんか……」
「ほんとに冒険って感じだな!」
だが――
周囲にいる他の冒険者たちの表情は、
一様に硬く、重苦しかった。
張り詰めた空気が、
塔の内部を満たしていた。
リナは前方を見据えながら言った。
「この先の魔物は、まだ弱い」
「お前たちなら問題ないはずだ」
「だから――」
「一気に十階層まで駆け上がるぞ」
――――――――――
三人は立ち止まることなく、
一気に第十階層へと到達していた。
現在、
第十階層の守護者を相手にしているのは、
蓮とジェナだ。
リナは少し距離を取り、
二人の動きを見ながら声を飛ばす。
「蓮!」
「呼吸が乱れてるぞ!」
「ジェナ、お前もだ!」
「力任せに行くな!」
「周囲を使え!」
「地形も、瓦礫も、全部が武器だ!」
次の瞬間――
蓮の身体が吹き飛ばされ、
壁へと叩きつけられた。
「がっ……!」
壁にめり込んだまま、
もがくように身を起こし、
そのまま床へと落ちる。
蓮は息を整えながら、低く呟いた。
「……ここの魔物」
「外のとは、ちょっと違うな……」
それを聞いたリナは、即座に答える。
「当たり前だ」
「天空の塔は、
膨大な魔力が集まる場所だ」
「自然発生する魔物だって、
外より強くなるに決まってる」
そう言って、前方へ視線を向ける。
「ほら、続けるぞ」
「気を取られるな」




