最終話 幸運な二人で生きていく
「ありがたき幸せでございます。これからも騎士として精進いたしたいと思います」
俺はルイーザ姫に改めて頭を下げた。
騎士たる者、礼節もわきまえるようでなければいけない。
おそらく礼節とか雑だと運も逃げていくと思うしな。
「はい。騎士としてのご活躍、今から待ち遠しいです。ふふっ」
ルイーザ姫が可憐に微笑んだ。
「ところで……」
ルイーザ姫が何かに気づいた顔になった。
「アルクさんのお仲間は本当にお美しい方なのですわね。本当に驚いてしまいましたわ。どこかの貴族の方ではありませんわよね?」
ん? これって、ポポロのことを言ってるのか?
「私は身寄りのないところをアルクさんに拾っていただきました。冒険者として活動しています」
ポポロがぺこりとおじぎをした。
「それと、マヒア女神様の教会騎士としても活動しています。貴族のはしくれです」
教会騎士としてはまだ何も活動していないだろ。
「少し奇跡のお話は聞いておりますわ。たしか、フクロウの姿が本体だとか――」
すぐにポポロがフクロウの姿になった。
「別に減るものではないのでお見せいたしますよ」
「わーっ! 本当にこんなことが起こるんですのね! 奇跡としか思えません!」
ルイーザ姫がこれまでで一番高い声を上げた。
「やはり衝撃だのう……」
国王も目をぱちぱち見開いている。
なんか、俺が騎士になるという話、流れてないか……? そんなに持ち上げられても気を遣うけど、話題を持っていかれているのはちょっと納得いかないぞ。
フクロウになったポポロがルイーザ姫の足元に寄っていく。
「うわーっ! こんなふうにフクロウを触れ合えたことなんてないので、感激です!」
「少しだけなら、撫でていただいても構いませんよ」
「では、お言葉に甘えて……。あっ、本当にいい障り心地ですね」
なんか、見事にポポロがルイーザ姫に取り入っている。
見た目がかわいいことって、どこの世界でも強みなんだな。
「父様、ポポロさんに伯爵の地位ぐらいは与えてもよくありません? 鳥の世界のことも知ることができますし、政治にもきっとプラスの効果がありますわ」
ルイーザ姫がとんでもないことを言いだした!
そんなことをされると、またポポロが偉くなる。身分制社会の伯爵にはさすがにタメ口ではしゃべれないぞ……。
「ふふっ。冗談です。でも、本当にポポロさんはかわいいですね♪」
「あの、私を撫でてくださるのはいくらやってもらってもいいので、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、ポポロさん、何かしら?」
「アルクさんと私は恋人とかではないのですが、もしも、二人で語らうような時には一声かけていただけるとありがたいです」
えっ?
俺はその言葉にきょとんとしてしまった。
なんだ、その……自分のものだから手を出すな、みたいな言い方……。
「その……従者として知らないままでは困りますから。ポ、ポポ-」
「ご心配なく。あなたのアルクさんを盗ったりはいたしませんよ」
ルイーザ姫は楽しそうに微笑んでいた。
部屋に戻った後、ポポロはメイドの姿になった。
「お前、姫の前なんだからもうちょっと言葉に気をつけろよ……」
「すみません……。でも、あれは……本心ではありますから……」
それから二人でちょっと黙ってしまったが、これからも二人で旅を続けていこうと改めて思った。
◇◆◇◆◇
王都にとどまって2日後、俺は正式に騎士になった。
その時のステータスが、これだ。
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アルク レベル22 冒険者ランクB
HP 122/122
MP 0/0
攻撃 162
防御 180
敏捷 171
知力 51
精神 24
容姿 48
幸運値999☆
スキル
超刺突・薙ぎ払い・這い上り斬り・みね殴り・一刀両断
仲間
クマ食いフクロウ(ポポロ)・マヒア女神
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【攻撃】【防御】【敏捷】の戦闘に必須な3つのステータスがそれぞれ30ずつ増えていた。
我ながらこれは強い……。
もう少し努力すればAランク冒険者も狙えるはずだ。
Aランク冒険者の場合、ステータスというより何かしらの実績を残すほうが必要だが。例えば王都に攻めてきたドラゴンを倒したりすれば、その功績からランクを上げてもらえる。
ポポロも強く拍手をしてくれていた。
目には涙まで浮かべていた。
「おい、別に泣くようなことではないだろ」
「うれしいですよ。アルクさんがどんどん成長するというのは、野性の勘で感じたんですが大当たりでしたね」
たしかに適当に仕官した主人の昇進ペーストしては破格だろうか。
「ああ、それと、領地をもらえるらしい。スラーツの周辺なんだけど」
◇◆◇◆◇
俺はスラーツ郊外の平坦地と屋敷を与えられた。
屋敷は少し古いが、大きく傷んでいるわけでもなく、問題なく生活できる。それと屋敷にはマヒア女神様を祀る祭壇も置いてある。
「うん、悪くない、悪くない」
俺は屋敷の近くの畑地を見ながら言った。その先にスラーツの街がある。
「今後は宿からじゃなくて、ここから冒険者ギルドに通勤か」
持ち家が手に入ってしまった。冒険者なら、一生各地の宿暮らしをするのも当然と思っていたから、【幸運値】さまさまだ。
「領主としてのんびり暮らすことも可能なはずですが、冒険者を続けるわけですね?」
ポポロは早速畑地を耕している。メイド服から作業着姿になっている。フクロウから変身しているとはいっても、着替えはできるらしい。
「まだまだ成長過程だからな。ていうか、いきなり農作業しなくてもいいぞ」
「体を動かすのは楽しいですから。ここはアルクさんの拠点にするのにちょうどいいと思うんです。町もそこまで遠くないですし、自然も多いですし」
ポポロはフクロウの姿に少し、周囲を飛んで、また戻ってきた。
「ねっ?」
「何が『ねっ』かわからんが、フクロウ目線でもいい場所なのはわかった」
「ここを拠点にすれば、冒険者としてさらに飛躍できると思います。間違いありません」
「だな。差し当たって――」
状況がどんどん変わってきたので、次は何を目標にしようか。騎士にまでなってしまったし。
「Aランク冒険者を目指したいのはもちろんだけど、パーティーの仲間も増やしていきたいかな」
「パーティー?」
そう、「ゲーレジェ」は4人や5人でパーティーを組んでダンジョンや大物のボスを倒すのが醍醐味の一つだった。
今は自分とポポロしかいないし、また信頼できるパーティーを組めたらいいなと思う。
「そう、ですか……。パーティーですか」
「あれ? なんか、反応が悪いな……」
何かまずいこと言ったかな……?
「もう少し、アルクさんと一緒の時間を過ごしたくはありますけど、まあ……パーティーの人数を増やしたいという気持ちもわかります」
ポポロは嘆息してから、フクロウの姿になった。
「少し撫でててもらえますか?」
「うん、それぐらいなら……」
ふわふわ、もふもふした頭を撫でる。
だんだんとフクロウのポポロの顔も柔和になっていく。
「うん、気持ちいいですね。これは一人ではできませんからね~」
ごきげんが直ったようでよかった。
俺はそのあともポポロの頭をしばらく撫でていた。
「もう少し、ポポロと二人でいようかな」
「私もそれがいいかと思います」
―END―
これにて、完結です!
ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました!




