3 カンストで手に入れたギフト
そのあとも、数日間、俺はザコ戦を繰り返した。
2万ゴールドで売れる『万能回復』も何度も魔物がドロップしてくれたが、中でもおいしいのは、巨大バッタを倒した時に入手したアイテムだ。
倒れている巨大バッタの横に握りこぶしほどのサイズの石が落ちていた。
ドロップで入手したものの中ではハズレかと思ったが、そのへんの石にしては見慣れない色と艶だし、一応は街の商店に持っていくことにした。
「おいおい! これって豪商の遺品クラスの奇石ですよ!」
商店のヒゲ店主が店の外にまで響きそうな声を上げた。
そういえば、稀少な石の類ってやけに高い値段がつくことがあったな。大半は有力魔族と言われるクラスの奴が落とすぐらいだったはずだが。
ちなみに魔族というのは、人に近い知能を持ち、文化的な生活を営む魔物のことだ。
角とかも生えてることが多いから、「ゲーレジェ」ユーザーの中にはケモ耳キャラの一つとして認識してる奴らもいた。
中には仲間になってくれる奴もいるが、基本的には人間に敵対する連中のほうが多いし、小さな国を滅ぼすぐらいの戦略を仕掛けてくることもある。
「この石であれば……そうだなあ……。120万ゴールドで買い取りますよ」
「120万っ!?」
思わずおうむ返しで尋ねてしまった。
そんなに金があるなら、装備を一新させることも可能だ。
今の俺は武器も鎧も安物を使っている。この世界、剣や鎧の値段もシビアで、鋼の剣も何十万ゴールドもするので、強い装備を揃えるには高級車1台分ぐらいの予算が必要になる。
だから、しょぼい冒険者はたいてい安物の装備をしていて、見た目だけでも立場がよくわかるのだが……。
120万ゴールドあれば、上級冒険者の装備とまではいかなくても、そこそこの冒険者の装備は買えそうだ。
冒険者ランクで言うと、Cランクぐらい。
今の俺の冒険者ランクがEなので、2ランク上ということになる。
「にしても、お客さん、よく見つけましたね。まさか盗品ってことは……」
「盗んでませんよ! それにこんなものがごろごろある屋敷に侵入するリスクなんて冒せません! 見つかったら処刑されます!」
店主に怪しまれているので、俺は大慌てで否定した。
「ゲーレジェ」のゲーム内だと、NPCの商店や豪邸に盗みに入ることはルール上、可能だ。盗賊のような一部の職業にそういう選択肢が用意されている。
だが、失敗するとガチでそのキャラが処刑されてゲームエンドになったりする。
リスクと成果が見合わないので、普通はやる奴はいない。
「まあ、こんなものが転がってる屋敷はこのへんにないか。石だから魔物が拾っててもおかしくないし、ドロップ品と信じましょう」
店主は120万ゴールド分の金貨と銀貨、あと小銭の銅貨も出してきた。いきなり金貨だけだと買い物がしづらいだろうという気づかいだろう。
巨大バッタさまさまだな。おそらく巨大バッタが100万以上のものをドロップするなんて「ゲーレジェ」を10年やって一度起こるかどうかだろう。少なくとも聞いたことはない。
となると――
「やっぱり【幸運値】が高すぎるせいとしか思えないよな……」
俺は硬貨の入った重い袋を持ちながらつぶやく。
「でも、【幸運値】ってドロップ率は上がるはずだけど、ドロップで入手できるアイテムの質に変化が起きるなんて聞いたことないんだよな……。でも、質が明らかに変わってる」
だとすると、たんなる数値以上の違いが何かで起きていることになる。
そこで、一つ思い当たることがあった。
「カンストの影響か……」
俺の【幸運値】は999だ。それより上は見た目としてはない。
攻略ウィキでステータスのカンストが起こると、たんなる上限以上の変化があるということが書いてあった気がする。神のような奇跡が起こるとか。
俺は「ゲーレジェ」の攻略ウィキはたいてい読んでいた。ゲーム中に経験がなかったことでも知識では知っていたりする。カンストの変化もそれだ。
ただ、実際のところ、ステータスが999になってるキャラなど目にすることがないので、デマ扱いされて、誰かに削除されてしまったんだっけ。
今の自分にはそんなことが起きてるのかもしれない。
もっとも、確認する方法はないが。
前世なら「ゲーレジェ」開発者に質問するということも(ものすごく迷惑なユーザーだが、理屈の上では)可能だが、この「ゲーレジェ」内部の世界に開発者がいるわけもない。
俺は手に入ったお金で装備品をCランク冒険者並みのものに変えた。
「よく、そんなお金ありますねえ……。では、このあたりのものがいいんじゃないですか」
武具店の店員も驚いていた。
なにせ、俺がそんなにお金持ってるような雰囲気もなかっただろうしな。
経済力と冒険者の実力はだいたい比例しているので、見た目でおおむねの強さもわかるのだ。
「剣は鋼のものでいいとして、鎧に関してはまだこれぐらいでいいんじゃないですかね」
店員が指し示してきたのは、思ったよりも安価で薄い金属製のものだった。今のやつよりはきっと丈夫だろうが。
「お客さんが本格的な金属のやつを買うと、重くて動きが鈍ります。まともに動けない剣士なんて論外ですよ。これのほうがいいです」
「ありがとうございます。おっしゃる通りです」
店主の言葉は至言だ。
動きの遅すぎる剣士なんてまったく使い物にならない。それこそただの置物扱いされかねない。
「ゲーレジェ」の世界でのステータスは一般的に、武具の装備を加えてないものだ。
たとえば、俺の――
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アルク レベル16 冒険者ランクE
HP 33/33
MP 0/0
攻撃 26
防御 23
敏捷 31
知力 25
精神 17
容姿 27
幸運値999
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このステータスも武具のボーナスを加算してない。
今回の装備品の変更で【攻撃】と【防御】は20ずつは上昇するはずだ。
それでも、生身のステータスが重視されるのは、そのステータスを見ればだいたいの実力がわかるからだ。
【攻撃】が20の奴が、200も数字が上昇する剣を持ってることは、普通はありえないし、仮にそんな伝説級の武器を持っていてもおそらく扱うことができず、力を発揮できない。
俺がいい鎧を持ちすぎても、おそらく【敏捷】が下がりすぎる結果になり、戦闘にならない危険がある。
生活の心配はドロップ品のおかげでなくなっているが、どこかで肉体的にも強くならないとな。
次回は夕方更新予定です。




