29 騎士になれた
御前試合2戦目のあと、俺とポポロは部屋に戻った。試合前の控え室ではなく、ベッドの置いてある貴賓室のほうだ。
「多分疲れていると思うので、少し覚えた指圧というのをやりましょう」
ポポロが俺を腹ばいに寝かせて、指で型と背中を押し始めた。
「痛っ! いてて……。なんか、効いてる気はするな……」
「くちばしで一箇所を押すのは慣れていますから」
「えっ? まさか、これくちばしじゃないよな? 人の姿でやってるよな?」
「手ですよ。あくまでも取り組み方の問題です」
回復アイテムももちろんあるのだが、あの手のものはあくまでも傷を治すものだ。
溜まった疲れはマッサージとか、温泉とかで癒すほうがいい。温泉なんて相当限られてるけども……。
そんなところにバンティスが入って来た。
「さすがにだいぶ疲れただろうな。まあ、女性にツボでも押してもらうのも戦ったあとの醍醐味か。ゆっくり休んでおいてくれ」
「ええと……起き上がれない姿勢なのでこのままで失礼します……。3戦目のお呼びですか?」
また大物の冒険者とぶつけられたら正直なところ、勝てるかわからない。
この場に呼ばれてる連中の時点で相当な実力者だし、2度勝ってる俺が当たるとするなら、向こうも2勝してる奴の可能性が高い。
「その点は心配ない。宮廷御前試合はすべて終わりとなった。で、アルクには直々に国王陛下からお呼びがかかった」
「国王陛下!?」
ガーネット王国の国王デキストリン。
「ゲーレジェ」プレイ中も何度も顔を見たキャラだ。
ただ、ムービーシーンとか、パレードの最中にちょっと見るのが大半で、自分のプレイ中に直接会ったような経験はない。
一回の冒険者に一人ずつ会ってくれる王なんているわけがない。
なお、「ゲーレジェ」はアクションRPGであって恋愛シミュレーションゲームではないので、貴族階級のお姫様や王子様が出てきても恋仲になったりは普通はしない。
ルイーザ姫という国王の一粒種の姫が美少女枠として置かれているが、彼女が誰と婚約してるかということも多分作中では語られなかったと思う。
そんなわけで、あまりよくガーネット王国の内情をわかってるわけじゃないのだが、国王に呼ばれたというのは緊張する……。
◇◆◇◆◇
ポポロとともに謁見の場に向かうと、国王おんみずからがこっちにやって来られた。
ひざまずいて礼をする前だったので、どうしていいか戸惑った。
おいおい、王族と会う時の礼儀作法なんて何も言われてないぞ……。これで無礼者扱いされるのは勘弁してほしい!
「ああ、そのままでよい。これは好成績者を讃えるための場じゃからな。余計な礼は不要じゃ」
「あ、ありがたき幸せ……」
「もちろん余も見ておったが、むしろ娘のルイーザのほうが感心しておってな。感想を言いたいらしいからちょっと聞いてやってくれ」
えっ? 姫と? こっちが何かリアクションする前に、もう王の後ろからルイーザ姫らしき女性がやってきた。
あの栗色の長い髪はゲームで見覚えがある。
そこまで派手な服ではないが、むしろだからこそ本当の金持ちの着る服だなというのが伝わってきた。
金がかかってることを見せつけるような派手なところがなくて、品がいいのだ。
それと、ちょっと信じられないほどの美貌だった。
すぐに数字で考えたくなってしまうが、これって【容姿】のステータスが200や300ぐらいはあるんじゃないのか。ちょっと背中のほうが光っているようにすら見える。
ゲームの宣伝ムービーとかでもルイーザ姫はよく登場していたし、運営はPR兼ねて、徹底した美少女のデザインを採用したのではないか。
「アルクさん、本当に素晴らしい戦いぶりでした。とくに2戦目、爆発の魔法にもひるまずにまっすぐ向かって行かれましたね。あそこで怯えでもして、立ち止まっていればおそらく魔法に巻き込まれて敗北してはずです」
「ま、まあ、ほかに攻め手もなかったので」
【幸運値】が高いから多分大丈夫だと思ったと言うわけにもいかないしな。
その時、またあの感覚が来た。
レアイベントが自分に迫っている気がする。
「その勇気は騎士道の精神そのものと言えますわ。それで、アルクさんを騎士に推薦したいのですが、かまいませんか?」
ぶっちゃけ、「喜んで!」と威勢だけはいい居酒屋の店員みたいな発言をしそうになったが、恥ずかしいのでこらえた。
「自分などでは、とうてい騎士の職責を果たせるとは思えませんが、少しでもお力になれるのであれば……」
騎士は剣士の上位職で全ステータスに自動ボーナスがかかる。
受けないメリットなんてどこにもない。
逆に言えば、自由が制約されるかもということで騎士になるのを拒否する冒険者もいる。バンティスが騎士にならずに冒険者の肩書だけなのも制約を受けないようにするためだろう。
バンティスは騎士じゃないのに、御前試合に冒険者を推薦はできるわけで、きっちり王家とつながってるのだが。まあ、特別枠みたいなものだな。
「わかりました。ぜひ騎士に加えるよう、わたくしと父様から関係各所にお願いしておきますね」
王と王が大切に育ててきた姫のお願いを拒否できる奴なんていないので、これで騎士になるのは確定だ。
Bランク冒険者になっただけでなく、騎士か。俺が「ゲーレジェ」プレイヤーだったら、周囲にドヤ顔してたな。
さらに騎士になればステータスも上がって、Aランク冒険者への道も一歩近づく。
【幸運値】以外の特徴が何もなかったザコから、ついにゲーム有数の強キャラに近づいて来た。
横でポポロが軽く手を叩いて拍手をしている。
ポポロも本当に喜んでくれているんだな。
「アルクさん、私と同じ地位にまで上がってきましたね。厳密にはまだですけど」
「そういえば、騎士になれるからやっと対等か!」
メイドのほうが偉いという状態はどうにか回避できそうだ。メイドと対等になる主人って何だって話だが……。




