19 明朗会計で頼む
俺とポポロはマヒア神殿に到着した。
神殿の周辺は土産物屋が並んでいたりして、なかなか栄えている。
「もっと静かな場所なのかなと思っていたのですが、人通りも多いのですね」
不思議そうにポポロは人の流れを観察していた。
「実は俺も意外だった……。そうか、よく考えたら現世利益の神様だもんな」
人ごみからは「クジ当たりますように!」「競馬で大穴!」みたいな声が聞こえてくる。
そうか、かなり俗っぽい場所なんだな。
「ゲーレジェ」をプレイして時はマヒア神殿に行ったことがなかったので、雰囲気がわからなかった。
「これ、神殿近くに小さい競馬場もカジノもあるみたいだな。神殿って言っても遊興の街か……」
これはいわゆる繁華街だ。信心深い人がいる場所じゃない。
「うるさくて疲れてきました」
ポポロはストレスがたまるのか、小さなため息を吐いた。
「ここはうるさいもんな。店にでも入って食事にするか」
看板がやたらと派手な店に入った。店頭には「創作肉バル」と書いてある。異世界っぽくない言葉だが、「ゲーレジェ」作った人間は異世界の住人じゃないからそのせいだろう。
メニュー表を見るとそこそこ値段がする。一品2000ゴールドぐらいだ。とはいえ、食費を削らないといけないほどカツカツじゃないから別にいい。
ポポロも肉料理を食べて気分が上向いたようだった。
おそらくメイド姿で歩いて移動する疲れもあったんだろう。少し飛んで、先に目的地にいるほうが楽なんだろうけど、そういうわけにもいかないしな。人間だって這いつくばるようにして移動したら絶対に疲れるし、慣れた動き方というのはある。
食うものも食ったし、会計をすると店員を呼んだ。
なんか異様にコワモテのスキンヘッドの店員が来た。
もちろんスキンヘッドで生活してもいいんだが、やけに腕が太いし、飲食店の店員というより用心棒とか冒険者のように見えた。
「お客さん、こちらの値段になります」
スキンヘッドが出してきた紙には13万ゴールドと書いてあった。
「えっ! これ、ボッタクリだろ!」
「兄ちゃん、変なこと言っちゃいけませんぜ。よ~くメニュー表を見てくだせえよ」
ポポロがメニュー表をじっと凝視する。
「これ、小さく0がもう一つついてるのがいくつもありますね、『別途サービス料がかかります』という表記もあります」
「やっぱりボッタクリだな。10倍以上の値段を払わせる気かよ!」
「おいおい、兄ちゃんと姉ちゃん、名誉棄損になること言っちゃダメだぜ。さあ、すぐに払ってもらうからな!」
スキンヘッドがすごんでくる。
おいおい! 【幸運値】が高い二人が遭遇するイベントじゃないだろ、これ! 明らかに不運じゃないか!
「払うのはお前らの店のほうだ。迷惑行為の罰金を払ってもらおうか」
警備員みたいな見た目の人間が数人、裏手からやってきた。しかも、店の経営者みたいな連中も捕まえている。
「げっ! 神殿警備兵かよ!」
スキンヘッドがあわてた声を出す。
「今、明らかな迷惑行為を確認した。現行犯だ。全部話してもらうぞ」
神殿警備兵と呼ばれた連中にスキンヘッドも拘束された。
俺たちの飲食費は結局無料になった。というか、払う相手が誰もいなくなって払いようがなくなったのだ。
「これはラッキー……なんでしょうかね?」
ポポロが難しいなという顔で首をひねった。
「ある意味、ラッキーなのかな……。普通に会計して普通に店を出たかったけど」
なんか落ち着かないので、俺たちは続いて喫茶店に入った。
「よくメニュー表を見ろよ。この店は椅子に座ると席料として一人5万ゴールドかかるんだよ!」
また、ボッタクリの店だった!
渋い喫茶店のマスターみたいな人間がボッタクリ仕掛けてくるので、マジかよと思った。
だが、そのマスターもずかずか入店してきた神殿警備兵にすぐ取り押さえられた。
「席料が5万ゴールドと書いたメニュー表という動かぬ証拠を発見したぞ。迷惑行為として連行する」
「くそっ! バレたか!」
マスターも引っ立てられて、またしてもお金を払う相手がいなくなってしまった。
「これは無料で飲食ができたので、ラッキーということでしょうかね」
「お金減らないという意味だとラッキーだけど、変な奴の店に来た時点で不運じゃないか?」
ここは解釈のしようによって分かれそうだな。
変な気持ちのまま、いったん荷物を置きに、その日泊まる予定の宿に行った。
そこにも神殿警備兵が何人もいた。
「法外な宿代を請求する手口を発見したぞ! 連行する!」
「くそっ! なんでバレた!」
宿の店主も引っ立てられていった。
いや、この場合、宿泊できるのか……? 野宿はしたくないぞ。
どうしたものかと思っていると、警備兵の一人が来た。
「ここの宿に宿泊予定のお二人ですよね。神殿警備兵の者です。お二人の跡をついていくと、ボッタクリなどの迷惑行為を働く不届き者を次々に発見できました。おかげで神殿の門前町の治安がかなりよくなりました。ご協力感謝いたします!」
何もしてないのに感謝されてしまった。
ある意味、幸運を周囲の人間に分け与えたということだろうか。
「あんまり跡をつけてもほしくないんですけど」
「すみません、ボッタクリをする奴も人を選ぶので。メイドさんがいらっしゃるので、ちょっと吹っ掛けても事を荒立てるのもばからしいから、金を払うと連中は考えるんです」
なるほど、いいところの出だと思われたか。すごい金持ちならたしかに払える額だからな。
「あの、この宿って今日泊まっていいんですかね?」
「管理責任者が引っ立てられてしまったので、神殿の客人用貴賓室にお泊まりください。宿代の支払いは不要です」
これは間違いなくラッキーだな。
今のところ1ゴールドも使わずにすんでいる。




