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18 ラッキーの一種

 州都スラーツからマヒア神殿までは3日ほどかかる。

「ゲーレジェ」のゲーム内ではプレイヤーの体感時間はたいしたことないので、3日かかるといってもたいしたことなかったが、今ではしっかり3日かかる旅なので大変だ。


 もっとも無駄とは思ってない。


「うしっ! 骨の仮面を拾った!」


 かなり特殊な防具だ。たしか特定の地域では高値で取引されるんだったか。


「装備するほどではないアイテムのようですが、そんなにうれしいものですか?」


 ポポロにはこの気持ちは理解できないらしい。


「レアアイテムが手に入るとちょっとテンション上がるだろ。トレカ開封動画だって、使わなくても貴重なカードが出たらみんな喜んで――いや、今のは忘れてくれ」


 ポポロにトレカ開封動画で通じるわけがない。

 動画で配信者が「うわ、ものすごいカードが引けました! 今日は豪運です!」とか言ってるやつな。


「まだ人間の気持ちでわからないことはいろいろあります。ポポロもまだまだですね」


 これは皮肉ではなく、ポポロはすごく真面目に言っている。

 フクロウの気質なのかポポロの性格なのか不明だが、ポポロが真面目なのは間違いない。





「わからないと言えば、わざわざ幸運の女神の神殿にまで行かなくてもいいように思うのですが。別にステータスが大幅に上がるなんてことはないんですよね?」


「そんな神がいたら、神殿の前は大行列だな。まあ、ゲン担ぎだよ。勝ち続けてる間はヒゲを剃らないみたいな」

「ん~……。よくわかりません」


 ポポロが困った顔で首をかしげた。


「別にわからなくてもいいぞ。ぶっちゃけ、ポポロのほうが科学的思考だし」






 スポーツでもゲームでも「流れが悪い」という表現を使うことがあるが、あの「流れ」も証明不可能なんだよな。


 あんなのオカルトだと鼻で笑う奴もいるし、真剣に考える奴もいる。

 あと、運をつけるために、パチンコ行く前に部屋をやたら掃除する奴とかも本当にいる。



 実際には、みんな運とかって都合よく捉えていると思う。


 俺も似たようなものだ。幸運の女神のマヒア神殿に行くから急に強くなるわけはないだろうけど――






「ああ、そうか。得しに行くと思うから、変なんだな。お礼を言いに行くと考えればいいんだ」

「お礼、ですか?」


「そうそう。俺は今まで幸運のおかげで今の地位をつかんでる。運が悪すぎたら大ケガして冒険者を引退してた可能性だってある」


 そこでBランク冒険者になって活動できてる時点で運に助けられた面は絶対にある。



 そのお礼を幸運の女神に言いに行くならまっとうだ。

 もちろん宮廷御前試合でも勝たせてほしいけど、勝ちたいのは対戦相手も同じはずだし、高望みはするまい。










 歩いていると、道は森のほうに入った。

 と、ポポロが少し早歩きになる。


 ポポロはフクロウだからなのか、あまり走るということはしない。急ぐ必要があるなら鳥になって飛ぶし、ちょっとだけ急ぐなら早歩きでいいという発想らしい。


「この先に泉があるそうです。水浴びをさせてください」

「ああ、ちょうど休憩するような箇所だし、ゆっくり休んでくれ」



 ポポロは地形を覚えるのが得意なのか、本当にすぐ直径20メートル程度の泉が出てきた。


 ポポロがフクロウの姿になり、泉に入っていく。



「鳥ってきれい好きだよな。カラスも水浴びとかよくするし」


 俺は靴を脱いで足だけ洗うかな。

そして、泉のほとりに座った時――





 ポポロが人の姿に変わった。





 なぜかメイド服はなくて、一糸まとわぬ姿になっていた。

 いや……泉に入ってるんだから当たり前か。いいや、そういう問題じゃないな。



「うわ! 悪い! ん……これって俺が悪いのか? とにかく、悪い!」



 俺は目を背けた。

 だが、妙に気配を感じる。

 目の前に裸のポポロが立っていた。



「あの、何が悪いんでしょうか? よくわからないんですが」

「お前、わざとやってないか……? 人間は裸はあまり見せないんだよ!」


「あっ……ああ、なるほど。そういえばそうでしたね。人の姿のほうが洗いやすいという利点もありまして。なお、服も変身の時に着脱可能です」

「それはそうなんだろうけど……ひとまず、泉に戻るか、フクロウになるか、してくれ!」



 ポポロは泉のほうに戻っていった。

 まあ、見るものはすでに見てしまったが……。




 そして、俺はこんな言葉があったなと思い出した。





 これがラッキースケベってやつか……。




 ラッキーって言うぐらいだから【幸運値】がカンストしていれば出くわすこともあるよな。



 昔、アニメとかラノベで、女子が入ってることに気づかずに風呂に入る(あるいはその逆で女子のほうが風呂に入ってくる)なんてシチュエーションは理屈としてありえないだろ、だって先に入浴してる奴の衣類とかあるはずだしと思っていたのだが、ちゃんと発生するんだな。






◇◆◇◆◇






 俺は水浴びのあと、ポポロに人前で肌をさらすとトラブルになるから気をつけるようにと指導した。



「いいか? 服っていうのはフクロウにおける体毛みたいなもんなんだ。そう覚えておいてくれ」

「なるほど。しかし、女性の剣士などの方で、たまにやけに露出高めの鎧の方がいますが、あれはどういうことなんでしょうか?」



 ああ、そういう女剣士の装備ってあるよね……。



「あれって、本当になんでなんだろうな」



 やっぱりフクロウのほうが合理的な思考ができてるのかもしれない。



「あっ、いい獲物が見つかりました」



 フクロウになったポポロは泉に入ると、すぐに巨大な魚を獲ってきた。



「このサイズの泉にいるとは思えない大物ですね。ラッキーですよ」

「いろんなラッキーが起きたな。あと、足が妙に軽い」



 そして、もう一つのラッキーに気づいた。



「ここ、回復の泉か!」



 ごくたまに存在するという浸かるだけでHPやMPが回復する泉だ。



 おかげでその日の宿泊予定の村より一つ先の町まで歩くことができた。



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