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1 【幸運値】って一番不要だから

新連載です! よろしくお願いいたします!

 全世界に5000万人以上のユーザーがいる大人気オンラインRPG、「ゲート・オブ・レジェンド」。通称、「ゲーレジェ」。


 プレイヤーはキャラクターを作成して、ソロやパーティーでダンジョンをクリアしたり、ドラゴンと戦闘したりする王道RPGだ。


 気づいたら、俺はその世界の人間に転生していた。

 名前はアルク。


 もちろん「ゲート・オブ・レジェンド」の中の国王や勇者や魔王といったネームド・キャラじゃない。モブの一人だ。ゲームの世界に転生といっても、その世界で一般人として生きていくのと大差ないな。恋愛シミュレーションのネームド・キャラへの転生とかとは意味が全然違う。


 物心ついた時には孤児として施設で育てられていた。ずっと施設の厄介になるわけもいかないので、15歳の誕生日に街に出て冒険者ギルドに登録した。魔法の素養なんてないから、とりあえず職業は「剣士」を選んだ。


 その日から若手冒険者としての道を歩み始めた。


 同世代の仲間たちもできて、時にダンジョンの魔物や罠に泣かされたりしながらも、3年間、楽しく冒険者生活を過ごしてきた。


 現状では、有名になる未来もない。

 現状では、大物になる未来もない。


 でも、似たような境遇の仲間とともにパーティーを組んで戦っていく日々は割と充実していた。


 前世の記憶はうっすらとしかないが、たしかひたすらパソコンの前で何か入力していたと思う。毎月の作業にほぼ変化がなくて、2年目ぐらいから1日が終わるのが異常に高速に感じて怖くなったのを覚えている。


 世の中になくてはならない歯車の仕事らしいが、あまりにも歯車すぎた。

 楽しい要素がなさすぎるし、自分が倒れても、確実にほかの誰かが代替できる。

 俺は事故で倒れたはずだが、きっと今も誰かが単調にもほどがある入力作業をしているんだろう。


 それに引き替え、魔物に殺されるリスクやデストラップで即死というリスクもあるが、それでも剣士として体を動かし続ける冒険者の生活は楽しいものだった。


 仲間もいてくれるしな。




 だけど、そう思っているのは俺だけだったらしい。







 森の中でほどほどの値段のつきそうな薬草を採取して、パーティーで酒場に繰り出した。

 それ自体はいつものことだ。

 違いがあるとすれば、バカ騒ぎするような安い酒場ではなくて、少しだけ値段が張って静かな店だったこと。


「アルク、大切な話がある」

 武道家のガストルがおごそかな声で言った。


「悪いが、このパーティーから抜けてくれ」


 ガストルの顔を見るのが怖くて、ほかの仲間の顔に視線を向けた。


 誰も驚いたような顔はしておらず、気まずそうにうつむいていた。

 どうやら事前にわかっていたらしい。俺以外のみんなで決めたということのようだ。


「ええと……一応、理由だけ聞かせてくれないかな……?」

「そのつもりだ。理由もなく追い出すなんてふざけたことをするつもりはない」


 これ、理由を聞かされるだけ、俺自身が傷つくわけだけど、そこから逃げるわけにもいかない。


「とはいえ、歩くもわかってるだろ。お前のステータス、【攻撃】【防御】【敏捷】、すべて水準未満だ」


「……そうだな」

 自分のことだから、当然知っていた。


「もしかしたら伸びしろがこれからあるのかもしれんが、攻撃の主力であるはずの剣士のお前がその役割を果たせてないせいで、クエストの攻略も低調になっている」


「別に俺だって、手を抜いてるわけじゃないんだ……。ただ、なぜかステータスの上昇が遅いんだよ……」



「わかってるさ。お前のステータス上昇が、なぜか捨てステータスの【幸運値】に特化してるってことぐらいな」


 そう、俺のステータスは明らかに異常だった。



 俺の現時点のステータスはこれだ。


=====

アルク レベル16 冒険者ランクE

HP 33/33

MP 0/0

攻撃  26

防御  23

敏捷  31

知力  25

精神  17

容姿  27

幸運値999

=====


 このレベルで、このステータスというのは、はっきり言って弱い。パーティー内でも、回復担当の僧侶より【攻撃】が低い。


 この世界では自分のステータスだけは見ることができる。

 なので、他人のステータスは普通はわからないのだが、命にかかわる仕事である冒険者はギルドにステータスを正しく申告する義務がある。なので、パーティー内でのステータスはみんな共有していた。


 一応、ステータス項目の説明をしておくと、【攻撃】とか【防御】、【敏捷】はそのまんまだ。

【知力】というのはいわゆる賢さのこと。


【精神】というのは魔法の威力に影響する。剣士にはほぼ関係ない。


【容姿】というのは、つまりかっこよさだが、そんなものを数字で決めていいのだろうか。

 まあ、そういうゲーム世界なので仕方ないか……。

 なお、「ゲート・オブ・レジェンド」の中では、【容姿】の数字が高いとNPCとの交渉などの成功確率が上がる。

 現実世界でも、イケメンや美女のほうが面接の合格率がプラスに働くとかいう話もあるそうなので、交渉などに影響するというのは案外リアルなのかもしれない。




 で、【幸運値】なのだが、「ゲート・オブ・レジェンド」の中では、戦闘終了後の敵のアイテムドロップ率がわずかに上がる。

 以上。


 本当にそれだけだ。


 少なくとも、攻略ウィキとかにはそれしか書いてない。


 しかも、戦闘終了後、誰の【幸運値】を参考にするかは完全ランダムらしく、つまり、5人組パーティーで戦闘をしても、俺の【幸運値】が参考になるのは20%だけ。


 ほかのパーティーより薬草や錆びた剣をやや拾いやすい――という程度の実感しかなかった。



「うん……。俺、明らかに剣士として弱いよね……。なぜか【幸運値】っていう捨てステータスだけ異常に上がって、今日のレベルアップでカンストしちゃったんだ」


「「カンスト!?」」


 俺の言葉にほかのパーティーメンバーも声を上げた。

 魔法使いのアルティナの高い声も響く。


「待ってよ、カンストって999だよね……? そんなの、英雄譚とか伝承の中でしか聞いたことないよ。3桁の数字があるだけでもかなりすごいって言われてるのに……」


 アルティナは少し身を乗り出した。長い髪がちょっと揺れた。


「パーティー内でステータスの誤魔化しなんてしない。レベル上がった時に50ぐらい数字が上がって999になった」


「まあ、すごいことなのは俺たちも認めるが……冒険者には向いてないな。アルク、ほかの仕事でも探してくれ。18歳だろ。今ならほかの仕事も見つかるさ」


 言葉は表面上、優しい。


 でも、ガストルの目は冷たい。役立たずと見下した相手に対する視線だ。


「俺たちは冒険者として、もっと上を目指したい。僧侶より【攻撃】の数字が低い剣士は置いておけない」




 反論の言葉は何も思いつかなかった。

 俺も感じていたのだ。

 【幸運値】だけが高くても何もできないと。


「これまで世話になったな」


 俺は酒場を出て、いつも使ってる宿とは違う宿に入った。


次回は明日朝8時か9時頃に投稿できればと思っています!

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