9話 依頼前日
僕とレフィーが狩りを続けて3日が経ち、依頼まで残すところ後1日となっていた。
レフィー=アーネルド レベル3
力E(6)
耐久E+(12)
敏捷E+(14)
技能E(9)
魔力E+(18)
スキル
なし
魔法
ファイア 熟練度8
詠唱(燃えろ)
「レフィーもレベル3になったし、今日はダンジョンに行ってみようか。」
「いよいよダンジョンに……。大丈夫かな?」
「大丈夫。僕もレベル3の時に一人で挑戦した事あるから。」
あの時は自分の不幸でヘルハウンドを招き寄せてしまったせいで大火傷を負ったけど……。
苦笑しながら、僕が先行してダンジョンの中に入って行く。
「結構明るいんだね。」
「うん。ジャスティスギルドが管理してるらしくて照明が置かれてるんだ。」
「そーなんだ。じゃあ他のダンジョンはこんなに明るくないって事かな?」
「多分。僕もこのダンジョンしか挑戦した事ないからわからないや。」
階段を降り終わり、上層の攻略を始める。
「今の僕達なら中層まで行けるはずだけど、とりあえず魔物を倒しながら進もう。」
「ええ。わかったわ。」
上層ならレフィー一人でも倒せる為、経験値稼ぎの為に全て任せて、中層に向かう。
「燃えろ––––。ファイア!!」
『グゲッ!!?』
熟練度が上がったおかげか、ゴブリンなどの弱い魔物は一瞬で灰になるようになった。
本当に強いよな。このまま順調にいけば良い魔法使いになるんじゃないか?
そう思いながらも、上層の攻略を続けていく。
ダンジョンに入って約30分。上層は終わりを迎え、中層が姿を表した。
「もう中層に来れた……。」
前回僕が来た時は確か40分はかかったんだけどなぁ。今回僕はサポートしてない分、余計に凄いと感じてしまう。
「ここが中層……。」
レフィーは初めて見る景色に、目を大きく開かせ、辺りを見渡す。
「ここからは僕も戦うから。」
「わかった。よろしく。」
「うん。よろしく。」
前回はもう狩り尽くされて探検出来なかった。だから今日はその分経験値を多く稼ぎたい。
そう思っているとちょうど曲り角から、剣を持ったゴブリンが二体現れた。確かあれは廃村で見た個体と同じはず。
「レフィー。このゴブリンは上層のゴブリンより、知性があるから気をつけて!」
「わかった!!」
僕は二つのナイフを鞘から抜いて、剣を構えているゴブリンを警戒する。
「僕が右側の一体を倒すから左のゴブリンをお願いしていい?」
「ええ。任せて!」
僕は走り出し、右にいたゴブリンは剣を振り下ろそうとする。それをパリィナイフで受けながらそのまま走り、ゴブリンを押していく。
「レフィー、もう一体頼んだよ!」
もう一体を任せた後、僕は受けていたゴブリンの剣を弾き飛ばす。
「はあぁぁッ!」
『グゲゲェェェッッー!!?』
ハンターナイフでゴブリンの体を斬っていく。ステータスのおかげか、体にすんなり刺さるのがわかった。
「……燃えろ、ファイア!!」
一方、レフィーは魔法を唱えてゴブリンを倒そうとしたが、持っていた剣で炎を防がれてしまった。
やっぱり、上層のゴブリンとは一味違う。
「燃えろ、ファイア!!」
レフィーは再び魔法を唱えて炎を放つ。
さすがに二発目は防ぎ切れず、ゴブリンは声も出さずに焼き尽くされた。
「……うん。レフィーは中層でも戦っていけるね。」
レフィーの戦闘を見てそう言うと、レフィーは少し嬉しそうな表情をするが、「でも……」と言葉を続ける。
「一対一……ならね。二体だったら勝てないよ。」
「そこは僕がサポートするから。二体倒せるようになったら次は三体。三体倒せたら四体倒せるように頑張っていこうよ。」
僕は自分にも鼓舞させるようにレフィーを応援する。
「ええ……。そうね。どんどん倒せるように頑張る!」
「うん。……僕も頑張るぞーー!!」
ダンジョンの中で手を天井に伸ばして、叫ぶ。
その声で魔物が来るかもしれないが、来るなら来い。僕とレフィーが倒してやる。
『グルルルルルルッッ!!』
僕の叫び声を聞きつけて、一匹のヘルハウンドがやって来た。
「ヘルハウンドの炎。レフィーの炎。どっちが強いか勝負してやろうよ!」
「ええ!」
レフィーは杖をヘルハウンドに向ける。
「燃えろ、ファイア!!」
杖から炎が生成され、ヘルハウンドへ向かっていく。
『グガガアアァァッッ!!』
ヘルハウンドも自慢の炎を吐き出して抵抗する。
だが、炎勝負はレフィーが勝ち、ヘルハウンドの炎を押し退けてそのまま真っ直ぐに進み、ヘルハウンドにぶつかる。
『グッ、グガアアァァァアアッッッーー!!?』
体が燃え、ヘルハウンドは悲鳴をあげるが、さすがは炎を吐く魔物。なかなか燃え尽きない。ならここは僕が。
「止めは僕が刺す!!」
前にいる敵に向かって走り出し、パリィナイフを燃えているヘルハウンドの心臓に突き刺した。
『グ、グガァァァッッ……!!』
ヘルハウンドの声は徐々に小さくなっていき、やがて灰になって消えていく。
ヘルハウンド戦で初めて負傷しないで勝てた……。
「やっぱり、二人ならこの中層は攻略出来る……っ!」
レベル5の前衛とレベル3の後衛がいればこの層で戦っていける!
「よし、このまま頑張って進んでいこう!」
「ええ!」
再び、鼓舞するように声を出して、中層の攻略を始めた。
***
中層攻略開始から1時間半が経ち、さすがに僕達も疲労が溜まり、ダンジョンから脱出する事になった。
「やっぱり中層なだけあって、敵も強かった……。」
「でも、僕達のレベルが上がったじゃない。」
「うん。私が4でアレスが6になったんだよね。」
1時間半の戦闘の結果。
アレス=ガイア Lv6
力D(21)
耐久E+(17)
敏捷D(26)
技能D(26)
魔力E(0)
不幸E+(15)
スキル
蒼眼
憧憬投影
魔法
なし
レフィー=アーネルド レベル4
力E(6)
耐久E+(14)
敏捷E+(17)
技能E(10)
魔力E+(20)
スキル
なし
魔法
ファイラ 熟練度1
詠唱(燃え尽きろ)
レフィーのレベルが4になり、魔法も進化して、ファイアからファイラになった。
試運転として使っている所を見たが、ファイラはファイアよりも炎が大きく、より色が赤くなっており、当然だが威力も増していた。
「明日に向けて、今日はもう切り上げようか。」
ダンジョンの入り口でポーションを飲んだ後、レフィーに提案する。
「ええ。わかったわ。」
僕はレフィーにもポーションを渡して、王都に向かって歩きだす。
「窓口でドロップアイテムを換金してから、ご飯を食べようと思うんだけど、レフィーも来る?」
「うーん……。それじゃあ行こうかな。」
「そっか。おいしいお店だから楽しみにしててね。」
「ええ。」
王都の中に入り、窓口で換金作業を済ませた後、酒場に赴いた。
「酒、場?」
「うん。まぁ見た目通り賑やかだし、味も美味しいよ。」
「へー。そうなんだ。」
「それじゃあ入ろっか。」
「わかった。」
***
席に座って料理を注文してしばらく。
「レフィーってほんと魔力高いよね。」
「……そうらしいね。」
レベル6の僕の力と1しか変わらない。
それに力だけじゃない。敏捷も耐久力も4だった時の僕よりも高い。ただ唯一勝ててたのは技能だけ。
「明日の依頼、頼りにしてしまうかもしれないけど大丈夫?」
「ええ、任せて!」
「うん。任せるよ。……とは言っても距離はたった5キロなんだけどね。」
だが、たった5キロとは言っても油断はできない。
なんせ僕には不幸というレアステータスがあるから、何が起こるかわからない。もしかしたら噂になっている白いオークに出くわす事があるかもしれない……。
はぁとため息をすると、店員がこっちにやって来て料理を並べる。
「料理もきたし、食べよっか。」
「うん。そうだね。」
そう言ってフォークを持つ。
頼んだ料理は前回と同じく、お手軽な値段でボリュームがある料理。ナパリタンだ。
レフィーも同じ500ベルで食べれるグラテンを頼んでいた。
「「いただきます。」」
***
「もうすっかり夜だね。」
雑談を交わしながら食事をした後、外に出るともう辺りは暗くなっていた。
「明日は早いし、帰って準備をしないと。」
王都の中央にある大広場に入る。大広場は照明がたくさんあるおかげで明るく、人もまだ多い。
「ん、あれは………。」
僕は見た事のある衣装を着た二人の少年を見る。
「確か……、剣魔学校だよね。」
「うん。剣と魔法を学べる学校だって聞いたことがあるけど。」
剣魔学校には剣の学科と魔法の学科に分かれており、それぞれ剣と杖の紋章が肩に付けられる。
肩に剣の紋章が付いた黒い制服と杖の紋章が付いた黒いローブ。だとすると、剣の学科と魔法の学科の3年生かな?
「緑が一年生で白が二年、黒が三年生だったよね。」
「うんそうだったはず。」
剣魔学校は王都出身の子供達が通ってる。他の町の子供はお金が無くて通うことはなく、僕のように実戦で学ぶ事が多い。
「僕も通ってみたかったな……。」
王都に来てすぐに学校の存在を知ったけど、お金が無くてすぐに諦めたんだった。
「転入はしないの?」
「うーん。まだお金に余裕が無いし、無理かなぁ……。」
「なら、剣魔大学は?」
「あー。確かに。17歳から入学出来るし、ありかもしれないね。」
「アレスが入学するなら、私もありかも。」
「うん。目標の一つとして頭に入れておこうかな。」
また一つ、新たな目標が出来た。けどまぁこれは行けたらいいなと思ってる程度だけど。
「今日はここで解散って事にしようか。」
「ええ。明日に備えないとね。」
「うん。それじゃあまた明日。」
「また明日ー。」
***
家に帰ると僕は早速明日の準備の為に、ポーションや包帯などの道具をバッグに入れていく。
準備は念入りに。なんせ僕は不幸だから、何が起こるかわからない。
さっき考えてたように白いオーク……。もしかしたらマンティコアみたいなイレギュラー中のイレギュラーも現れるかもしれない。その時は逃げるしかないけど……。
「よし、これで後は明日の為にしっかり寝るだけっ!」
バッグに荷物を入れ終えた後、僕はベッドに倒れ込み、目を閉じた。
ダンジョンに潜ってたおかげか、すぐに寝ることが出来た。