7話 レフィー=アーネルド
アレス=ガイア Lv5
力E+(17)
耐久E+(14)
敏捷D(22)
技能D(25)
魔力E(0)
不幸E+(14)
スキル
蒼眼
憧憬投影
魔法
なし
昨日の戦闘により、レベルが上がった。格上の敵と戦った事により、大きな経験を得られたのだろう。
最近、レベルアップするのが早くなってきた。
「やっぱり、まともに敵と戦えるようになって効率が上がったのかな?」
つい最近まではゴブリン一体とも死闘を繰り広げていたのにな……。
「そういえばその頃にアシアさんを助けたんだっけ。」
よく助けられたなぁ……。なんて思ってしまう。
確かあの時は血だらけになってアシアさんを庇いながら戦ったような……。
苦笑し、もう一度ステータスカードを見る。
あの時より確実に成長している。スキルを使ったけど、あのマーマンを倒したんだ。自信を持とう。
「……よし!」
今日も外で狩りをしよう。
椅子から立ち上がり、準備をしてから家を出る。
王都の外に出る前に、やる事がある。それは、昨日出来なかった修理された防具を取りに行く事だ。
本当は新調したいけど、お金の余裕がないからなぁ………。こうして同じ装備を修理するしかない。
駆け足で中央の噴水をぬけ、繁華街の奥にある鍛冶屋に入る。
「すみません、修理してもらった防具を取りに来たんですが。」
「おう。ちゃんと修理しておいたぞ。」
そう言って鍛治師のお兄さんは胸部を守る鉄の鎧を渡す。
僕は大人しく受け取るとそれを早速装着する。
「うん。ばっちり!それじゃあ、ありがとうございましたー!!」
手を振りながら店を出る。
再び駆け足で町をまわり、王都の入り口付近までやって来ていた。
そこには今日も沢山の冒険者が集まっていた。
ギルドの者達と一緒に行動する者や、パーティーを組んで狩りをしようとする者。僕みたいに単独で行動しようとする者はいなかった。
でも一人だけ、気になる人がいた。
「お願いします!パーティーに––––!!」
「いらねーよ。レベル1なんて。」
「っ––––!お願いします!!パーティーに!」
「聞いたぞ。レベル1だってな。囮になら使ってもいいぜ。」
一人の少女がパーティーに入れてもらうと頼んでいるが、全て失敗に終わっていた。
僕はその姿を以前の僕と重ねてしまった。
『どうか……、お願いします!!ギルドに入らせてください!!』
『無理無理、君みたいなひ弱そうなガキなんか募集してないから。』
『お願いします!ギルドに入らせてください!!』
『レベル1で入れると思うか?冒険者なめてんじゃねーよ。』
『お願い、します……。ギルドに–––––』
『消えろ。お前みたいな雑魚を入れるわけにはいかねーんだよ。』
誰もギルドに入れてくれない。その後、今の彼女みたいに、パーティーに参加させてもらおうとするが、それも失敗した。
きっとこのままじゃ彼女は、悲しみ、苦しみ、怒り、そして自分の無力さに打ちのめされるだろう。以前の僕のように。
–––––僕は静かに、彼女がいるほうへ、歩き始めていた。
「僕と一緒に、パーティーを組んでくれませんか?」
「えっ?」
僕は無意識に彼女の前に立ち、言葉を投げかけていた。
綺麗な銀髪。僕と同じ青い瞳をした少女は、突然の出来事にうろたえていた。
「僕も一人だから、心細いんですよ。だから一緒に、冒険しませんか?」
「な、なんで私に……?」
「僕もまだ未熟者だから、誰も入れてくれなくて……。見たところあなたも僕と同じようだったから。」
「––––––ます。」
自分の事を話し、苦笑していると、彼女は小さな声で何かを呟いた。
「えっ?」
「入ります!入らせてください!!」
「–––––よろしく。僕はアレス=ガイア。あなたは?」
これから仲間となる彼女に、少し砕けた話し方で名前を聞いてみる。
「レフィー=アーネルド。よろしく。アレスさん。」
「アレスでいいよ。僕もレフィーって呼ばせてもらうから。」
「………わかったわ。アレス。」
こうして、僕とレフィーのはぐれ者で出来たパーティーが完成した。周りからは、こそこそと何かを言われているような気もするけど、そんなのは気にするな。
いつか、ここにいる人達より僕は強くなって、エリスの隣に立つんだ。
「それじゃあ、とりあえず外に行こうか。」
「ええ、わかった。アレス。」
レフィーは持っていた杖を握りしめ、僕と並んで歩き始めた。
***
王都の外に出た僕とレフィーは、まず先にレフィーのレベルを上げようと王都付近の草原を歩いていた。
「本当にありがとう。」
「いいよ。レベルを上げてもらった方が、僕も助かるし。」
微笑しながらそう返すと、レフィーは少し嬉しそうに、顔を下に向ける。僕はレフィーのその可愛らしい行動にドキッとしながらも、前方にあった草むらから何か発見する。
『グゲッ?』
草むらから棍棒を持ったゴブリンが姿を現した。
「き、来た!!」
『グッ!?グゲゲゲッッ!!』
レフィーの声により、敵の存在に気づいたゴブリンは雄叫びをあげ、僕達を警戒する。
……レフィーは魔法使いだ。彼女のレベルを上げるには僕が前衛でフォローして最後にレフィーが倒す。やり方はそうすると決めて、王都に出る前に伝えておいた。
「さっき言った戦い方でやるから、構えて詠唱しておいて!」
「わかったわ!!」
レフィーは杖を構え、僕はパリィナイフを抜く。
「ふッ!!」
僕は前進し、振りかざそうとする棍棒を払い除ける。その衝撃でゴブリンはわずかだが、隙を作った。
「今だ!」
「燃えろ–––––。」
合図をすると僕は一度、ゴブリンから離れる。
「–––––ファイア!!」
レフィーの杖から、炎の球体が出現し、ゴブリンに向かっていく。
『グギガガャャャャッッッーー!!?』
ゴブリンは炎に包まれ、外側から身を焦がしていく。
灰になったのを確認し、僕はレフィーのもとへ向かう。
「やっぱり、魔法って凄いね。」
「ううん。まだまだだよ。熟練度が足りないから、ゴブリンは倒せても、他の魔物は倒せないよ。」
「–––––魔法は熟練度を上げると進化するんだったよね。なら、無理しない程度に頑張ろうよ。」
「ええ、そうね。」
レフィーは頷き、杖を再び構える。
「……やっぱり、今ので来るよね。」
炎の音を聞きつけた二体のゴブリンが棍棒を持ち、警戒しながらこっちを睨んでいた。
「今回も僕が隙を作るから、そこに魔法を放って。」
「わかった!」
「はぁッ!!」
僕はすぐにゴブリン達の目の前に立ち、パリィナイフを振り上げる。
二つの棍棒をどこかへ飛んでいき、僕は強引に二体のゴブリンを近づける。
………よく思えば、凄いよな。つい最近まで、このゴブリンにさえ苦戦していたのに、今じゃ、こんな簡単に抑えられる。
「今だ!」
僕はすぐさま、そこから離れ、レフィーに合図を送る。
「燃えろ。ファイア!!」
魔法を唱えると炎が二体のゴブリンを包みこむ。
『『グ、グガガギャャャャッッッーー!?』』
足からどんどん灰へと変わっていき、2秒もしないうちにゴブリンは全て焼き切り、灰へと変わっていた。
「うん。この調子だと、もう少し先に行ってもいいんじゃないかな?」
「そ、そう?本当に行けるかな?」
レフィーは自信が無さそうに、僕に問い返す。
「レフィーはレベル1なのに、魔力が高そうだしね。」
「そうかな?」
レフィーはバッグから何かを取り出したかと思えば、それはステータスカードだった。
あ、アシアさんに借金を作ってようやく買えたのにレフィーはレベル1で既に持ってるなんて……。
「そのステータスカードはいつ買ったの?」
「えっ?冒険者になってすぐだけど……。」
「––––––––。」
「ん、どうしたの?」
「えっ、いやなんでも無いよ!そ、それより、見てもいい?ステータス。」
「うん。いいよ。」
レフィー=アーネルド レベル1
力E(3)
耐久E(6)
敏捷E(10)
技能E(9)
魔力E+(11)
スキル
なし
魔法
ファイア 熟練度3
詠唱(燃えろ)
「レベル1なのに、レベル3だった時の僕とあまり変わらない………。」
「本当?」
「あぁ。敏捷なんて、まったく同じ。」
力が低いのは魔法使いだから仕方ない。その代わりとなる魔力がレベル3時の僕の力とあまり変わらない。
レフィーは逸材なのでは?
僕のステータスが低すぎた可能性もあるけど……。
「はぁ………。」
僕の凡人っぷりにため息が出る。
「ん、どうしたの?」
「な、なんでもないよ。それより、狩りを続けよっか。」
「ええ。」
レフィーがステータスカードをバッグに入れるのを確認すると、次の狩場に移動する事にした。
***
「ふー。結構倒したんじゃないかな?」
あれから1時間以上が経ち、僕は息を吐く。
「レフィー。もうレベル上がってるんじゃない?」
「ちょっと待って。今確認する。」
レフィーはバッグからステータスカードを取り出し、現在のステータスを確認する。
レフィー=アーネルド レベル2
力E(4)
耐久E(8)
敏捷E+(11)
技能E(9)
魔力E+(14)
スキル
なし
魔法
ファイア 熟練度5
詠唱(燃えろ)
「やったっ……!!レベルが上がったよ!!」
「おめでとう!よかったね!!」
手をあげて喜ぶレフィーを見て、僕も喜んでしまう。
……僕も、初めてレベルが上がった時は物凄くはしゃいだよな。多分、今のレフィーより、喜んだ。
あの時の出来事は覚えている。
アシアさんを助けた後、窓口に行ってステータスを確認して、レベルが上がってる事に気づいて、アシアさんと一緒に喜んだんだ。
「やっぱり、パーティーだと効率がいいね。」
「ええ。私もこんなに早く上がるとは思ってなかったよ!アレス。ありがとう!!」
「礼なんていらないよ。それより……。」
「ん?」
「あらためてこれからも、僕と一緒にパーティーを組んでくれないかな?」
レフィーにパーティーを組んで欲しいのは、さっきの共感だけじゃなくて、単独よりも生存率も上がるし、前衛と後衛で分かれてるから戦いやすいという理由もある。
「ええ。こちらこそよろしくね。アレス。」
「……ありがとう。それともう一つ、お願いがあるんだけど。」
「もう一つ?」
「うん。4日後に護衛の依頼を受けるんだけど、レフィーも参加してくれないかな?報酬も半分渡すから。」
「私でいいなら参加させてもらうけど?」
「本当に!?ありがとう!!」
僕はレフィーの手を握り、礼を言う。
報酬が減るのは仕方ない。でもこれで依頼の成功率が上がる!
「でも、役に立つかわからないよ?」
「いや、魔法使いのレフィーがいてくれるだけで凄く心強いから!」
「そうなの?」
「ええ、もちろん!」
「………それならもっとレベル上げを頑張らないとね!」
レフィーは杖を握り、僕の顔を見て微笑む。
「……そうだね。頑張ろう!」
レフィーとパーティーを組んで本当によかった。この人となら、より一層頑張れそうな、そんな気がした。
***
この後も狩りを続けて、2時間が経ち、レフィーは魔法を使うのに必要なマインドをほとんど使い果たしてしまっていた。
「さすがにレベル3にはなれなかったけど、ステータスはあがったね。」
「ええ。一日でこんなに上がるとは思わなかった……。」
レフィーの言う通り、全てのステータスが上がった。でも、その中で特に驚いたのは魔力だ。
2に上がった時は14だったが、今では18になっている。たった2時間で4も上がっているのだ。
さらにファイアの熟練度も5から8も上がっている。成長の速さが僕よりも速い。
「今日はもうここまでにしよう。レフィーのマインドももう少ないと思うしね。」
「わかった。王都に戻ろっか。」
「うん。そうだね。」
僕とレフィーは持っていた武器をしまい、王都に戻った。
「これから、ご飯を食べに行こうと思うんだけど、レフィーも行かない?」
王都に着き、レフィーに昼ごはんの誘いをしてみる。
「ううん。私、これから用事があるから。」
「そうなんだ。それじゃあ、明日も今日と同じ時間に狩りをしようと思うけど、行けるかな?」
「ええ。大丈夫。それじゃあ、また明日ね。」
「うん。また明日。」
手を振って、姿を消していくレフィーを見送ったあと、僕は以前エリスに教えてもらった酒場に寄る。
あそこの料理をもう一度食べたいと思っていたんだ。どうせならレフィーと一緒に食べたかったけど、まぁ、仕方ないか。
酒場に入ると、店員の案内に従い、席に座ると、メニューを見てみる。
前はメニューを見ずにエリスちゃんと同じ料理を頼んだから、今度はちゃんとメニューを見て頼もう。
「すみませーん。」
店員を呼び、僕は選んだ注文をする。店員は紙に注文を書いた後、奥へ消えていく。
店員が行ったのを見ながら僕は水を飲む。
「料理を食べたらダンジョンにでも潜ろうかな。」
さっきの戦闘でレフィーのレベルやステータスは上がったけど、僕は何も上がって無いしな。僕も強くならなくちゃ。
コップに水を入れた後、鞘からパリィナイフを抜き出す。
使っていて思ったけど、やっぱり攻撃を弾くのが凄くやりやすい。さすがパリィナイフと言ったところか。
こんな場所でナイフを出すのはまずいと気づき、僕は鞘にナイフを戻す。それと同時に注文した料理が運ばれて来た。
トマトソースや、その他具材を絡めたパスタ。名前はナパリタンと言うらしい。
値段は500ベルとお手軽なわりに結構な量をしていて、僕としてはかなり助かる料理だ。
パスタをズルズル食べていると、離れた席で食べているパーティーと思われる人達の話し声が聞こえてきた。
「この近くで白いオークが現れたって知ってるか?」
「白いオーク?知らないなぁ……。」
オークは緑の肌をした中型の魔物でランクはDの真ん中。レベル15で勝てるほどの強さだと資料に書いてあった。
「その白いオークがどうしたんだよ?」
「あぁ。そのオーク。見た目だけじゃなくて、強さも違うらしくてさ。レベル17の冒険者が戦ったらしいんだけど、Cランク程の強さを持っていたらしいぜ。」
Cランク。以前戦ったマーマンと同じぐらいか。憧憬投影を使ってさらに全力じゃないと倒せなかった相手だ。おそらくそのオークもそれほどしないと倒せない相手なのだろう。
「へー。まだレベル10なったばっかだし、なるべく会いたくないなぁ。」
「あぁ。その通りだな。」
その後、パーティー達からオークの話題が消えた。
「白いオークか……。」
憧憬投影を使わないと普通のオークですら勝てないだ。僕もなるべく注意しよう。
パスタを食べ終え、会計を済ませて店から出る。
「よし、ダンジョンに行こう。」
そして、僕は王都の外を目指して走り出した。