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憧憬投影  作者: カイザ
一章 冒険始動編
3/28

3話 そして、走り出す

 一旦家に帰り、爪を置いた後、僕はまた王都の外に出ていた。


「初めてダンジョンに行くけど大丈夫かな……。」


 ダンジョン。それは古代の人間が地下に作った要塞。誰にも使われなくなったその要塞は魔物の溜まり場となり、それを狙った冒険者の狩場ともなっている。


 王都の近くに一つのダンジョンがある。そこは推定Eランクとされており、魔物は低レベルでも倒せる者達でビギナー達の狩場となっている。


 今までゴブリンにすら苦戦していた為、ダンジョンに挑戦する事を控えていたが………。


「よし、行くぞ………。」


 自分を鼓舞するように呟き、ダンジョンに入って行く。


 地下へと続く階段を全て降りきると、細い道が三つに分かれていた。


 ここは既に攻略されたダンジョン。僕はこのダンジョンの地図を確認し、真ん中の道へと進んで行く。


「っ!!」


 その時、前方から凄まじい速さでこっちにやって来る一つの影があった。


 その影は僕の後ろに行くのを確認した後、振り向いて影を確認する。


「………こ、これがヘルハウンド。」


 紅い狼。口から炎を吐き、相手をじわじわと炙ってから食べるらしい。Eランクの中でも最も強いとされている魔物だ。


「勝てるか……?」


 いや、勝てるかどうかじゃない。


 勝つんだ。勝つしかないんだ。


「うおおおぉぉぉぉぉっっっーー!!」


 ナイフを構えてヘルハウンドに立ち向かう。


「ぐっ!?」


 ヘルハウンドは口から炎を吐き出す。

 右肩に少し当たったが、躱す事が出来た。


「せやああぁぁぁっ!!」


 再びヘルハウンドが攻撃を仕掛けてきたが、体を回転させる事で回避し、その勢いと共にナイフをヘルハウンドに突き刺した。


『グガアアアァァァッッ!!』


 ナイフをもっと深く刺そうとしたが、ヘルハウンドの抵抗力は凄まじく、ナイフと共に吹き飛ばされてしまう。


「ぐっ」


 壁に叩きつけられ、地面に膝をつける。


 諦めるな。足掻け。立ち上がれ。


 自分に言い聞かせ、僕は血を吐きながらも立ち上がる。


 ナイフを握りしめ、目の前にいる敵を睨む。


「はああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」


 ヘルハウンド目掛け豪快に走り、ナイフを前に突き出す。


『グギガアアアアアァァァッッ!!』


 ヘルハウンドは口を大きく開け、炎を吐き出す。


 逃げるな!避けるな!!勢いを消すな!!


 左手で顔を炎から防ぎながら炎の中を走り抜ける。

 体中が熱い。でも、今はそんな事どうでもいい。


 この一撃で決める。


 ヘルハウンドの炎を振り切った僕はナイフを脳天に突き刺す。今度は抵抗出来ないように強く。


 ヘルハウンドは断末魔か雄叫びかはわからないが咆哮し、やがて灰になって消えていく。


「た、倒した………!」


 Eランクの中でも強いとされる魔物を倒した。


 だが、倒した代償は大きかった。


「ぐっ!」


 全身に高熱の炎を浴びた為、火傷が酷い。


 バッグに入れていたポーションを二個取り出し、全て飲み干す。


 火傷は少しずつ消えていき、少しはマシになった。


 その時、前と後ろから足音が聞こえてきた。


「……二対一か。」


 現れたのは棍棒を持ったゴブリンだった。


 ––––––大丈夫だ。僕なら勝てる。


 瓶をポーチの中にしまい、僕は再びナイフを構え、吠えた。




 ***


 ギルドに帰った後ヴァレスは自室に戻り、今日出会った少年を思い出して微笑していた。


(アレス=ガイアか。)


 ギルドの入団を許可し、マンティコアの爪を武器にする為のお金を貸そうとしたが、全て断り、自分で叶えようとしていた。目指すべき目標として。


(目標を持ち、それを叶える為に走り続ける者は強くなれる。身体だけじゃない。心もだ。)


 コンコン。


 扉の向こうからノックの音が聞こえた。


「どうぞ。」


 入室を許可するとゆっくりと扉が開かれて行く。


「ゼルドか。どうしたんだ?」


 現れたのはこのギルドでもトップクラスの実力を持つ青年。ゼルド=バートムだ。


「暇だから話しに来た。」

「………君はいつまでクール系を演じているんだい?」


 彼、ゼルドはみんなからクール系と言われている。だが、本当はそんな事は無く、話すのが好きなのだが、みんなのイメージを保つ為に、クールに演じて続けている。ヴァレスを除いて。


 ヴァレスには本当の自分を知られている為、たまにこうして、話し相手を求めてヴァレスの部屋へとやって来るのだ。


「………。まぁいい。今日、エリスの幼馴染の少年に出会った。」

「エリスの?そいつはどんな奴だったんだ?」


 ゼルドは興味ありげにそう聞いてくる。ヴァレスも「あぁ」と言い、


「真面目な子だったよ。僕が救済を与えようとしても、自分の力でどうにかすると断った。見た所、まだまだビギナーだけど、あの子は強くなるよ。」

「………エリスと同様、随分その子を買ってるようだな。」


 ゼルドは微笑し、そう言う。


「あはは。まぁね。あの子、このギルドに入団するつもりらしいから、その時は可愛がってやってくれ。」

「このギルドに?……そうか。わかった。その時になったら戦い方でも教えてやるか。」

「うん。頼んだよ。」

「あぁ、それで、その子の名前は?」

「アレス=ガイア。」

「……覚えておこう。」


 そうしてアレス=ガイアの話題は終わったが、二人の雑談はまだ続いた。



***


「れ、レベル4!?」


 ダンジョンから帰還した後、僕はすぐさまステータスカードを確認するとレベルが4になっていた。


「た、たった一日でレベルが上がるなんて……。」


 ヘルハウンドを倒した後にもさまざまな魔物を倒していったから経験値が溜まったのだろうが、それでも一日で上がるとは思っていなかった。


 レベル以外にも僕はステータスも確認する。


 アレス=ガイア Lv4


 力E+(12)

 耐久E(10)

 敏捷E+(14)

 技能D(25)

 魔力E(0)

 不幸E+(14)


 スキル

 蒼眼


 魔法

 無し


「よかった。不幸は上がってない……。」


 むしろ下がって欲しいが、そこは我慢しよう。


「それにしても……。」


 僕は自分の目蓋に触れる。


 この青い目。この世界では青い目は珍しいらしいけど、その目がスキルになるなんて思わなかった。


 蒼眼。あらゆる状態異常を無効にする。


 このスキルは冒険者をやり始めた時からあった。

 地味に見えるが凄く心強いスキルだ。


「これが無かったらとっくに死んでたかも……。あ、まだ、状態異常を与える魔物に会ってないな。」


 僕は一人で苦笑した後、ベッドに倒れる。


「………それにしても。」


 エリスが冒険者になっていたとは。しかも、最強ギルドと呼ばれているアストライオスに入ってるなんて。


 五年前までは身近にいた幼馴染だったのに、いつの間にか遠い存在になっていた。


 僕もいつか……エリスちゃんみたいになれるかな。




 ***


「アシアさーん!!」


 冒険者窓口。そこでアシア=アルゴスはいつものように仕事をしていると、聞き慣れた少年の声が遠くから聞こえてきた。


「アレス君?」


 アシアは走ってこっちに来てくるアレスを確認し、首を傾げる。


(何かあったのかな?)


 そう思っていると、アレスはアシアがいるカウンターに到着する。


「僕、昨日レベル4になりました!」

「–––––えっ!?たった一日で上がったの!?」

「はい!ダンジョンに行って頑張りました!」

「ダンジョンに行ったの!?」


 驚きが止まない。


 たった一日でレベルが1も上がった事。アレスがダンジョンに行った事。


「………アレス君。私との約束破ったね?」

「あっ。」


 以前、アシアはアレスにダンジョンは危険だからレベル5以上になってからじゃないと行ってはいけないと約束したのだ。


「す、すみません!!昨日、いろんな事が起きて頭から完全に抜け落ちていました!!」

「いろんな事?何があったの?」

「えっとですね––––––。」


 アシアはアレスの話を聞いた。


 いつもの狩場より奥に行った事。そこでマンティコアに出会ってしまった事。幼馴染、そしてアストライオスの団長ヴァレス=ライオットに出会い、ギルドの入団を許可してもった事。


「確かにいろんな事が起きたんだね……。」

「はい……。アストライオスギルドに早く入団したくてがむしゃらになってました。」

「………」


 アシアは黙り込む。目標の為に走り始めたアレスを応援するべきなのか、やはり危険だと止めるのか……。


「––––––行くのは許可するけど、ほどほどにね?」

「はい!ありがとうございます!!」

「はぁ……。」


 自分の甘さにため息が出る。アレスには死んでほしくないけど、頑張って冒険してほしい。そんな矛盾を抱える。


「あっ、そうだこれ。換金してください。」

 

 何か思い出したような顔し、アレスは大きな袋をカウンターに置いた。


「これ、全部ドロップアイテム?」

「はい。ダンジョンで戦ってると結構溜まりました。」


 アシアは驚きながら、袋を開ける。


「えっ!これ、本当にアレス君一人で集めたの?」

「はい。」

「本当に頑張ったんだね。」


 袋に入っていたドロップアイテムは一個や二個ではなかった。少なくとも十個以上はあった。


「おかげで家に帰って来たのは深夜ですよ。」

「もー。ちゃんと夜になったら帰るんだよ?」

「あはは。すいません……。」

「まぁ、とりあえず、換金をしてくるからちょっと待っててね。」

「はい。」




 ***


「明日だよね。キングラムに行くの。」

「うん。そーだよ。凄い楽しみ!」

「……寂しいな。」

「ん、なんで?」

「………離ればれになるから。」

「ならないよー。」

「えっ?」

「心が繋がってるじゃん。」

「–––––––そ、そうだね。」

「…………。」

「…………。」

「………。」

「–––––僕も、行くから。」

「えっ?」

「僕も必ず、必ず王都に行くから!だ、だから、待ってて!!」

「……うん。待ってる。」



 ***


「んっ………。」


 誰かに肩を叩かれている事に気づき、ゆっくり目を開けていく。


「あっ、やっと起きた。」

「んん。アシア……さん?」


 僕は、寝ていたようだ。


 目蓋を擦り、何度か瞬きをする。


「良い夢見れた?」

「………懐かしい夢なら。」

「懐かしい夢?」

「はい。五年前、エリスちゃんと一緒にいた頃の夢です。あっ、エリスはさっき言った幼馴染です。」

「……エリス?」

「ん、どうしたんですか?アシアさん。」


 アシアさんが驚いた表情でエリスの名前を呟く。もしかしてエリスちゃんの事を知っているのかな。


「確認だけど、エリスってエリス=アスタリアの事だよね?」

「はい。やっぱり、エリスちゃんの事知ってるんですか?」

「知ってる。と言うか、エリスさん、凄い有名人なんだよ?」

「えっ?」


 エリスちゃんが有名人?確かに、有名なギルドに入ってるけど、彼女自身が有名?


「たった二年でレベル40まで上り詰めたんだよ。冒険者の間では記録姫(レコードクイーン)や最速の美女とまでも呼ばれている有名人だよ。アレス君、凄い幼馴染を持ってるんだね。」

記録姫(レコードクイーン)。最速の美女………。」



 絶望した。圧倒的な距離に。


 僕がどう足掻いても埋まらないと思えてくる、とてつもない距離に。


 自分と彼女とはここまでの差があるのか。


「ん?どうしたの。アレス君。」

「えっ、あっいや、なんでもないです。」


 不思議に僕を見つめてきたアシアさんの目を逸らし、今の状況を思い出す。


「……そうだ。報酬は?」

「ああ。はいこれ。1500ベル。」

「せ、1500。僕が受ける依頼より高いぞ……。」

「強くなってきてる証だよ。」

「強くなってきてる証……。」

「そうだよ。だから、あまり気にしすぎちゃ駄目だよ?エリスさんとは二年の差があるんだから。」


 でも、彼女はたった二年でレベル40にまで上り詰めた。それに対して僕は四ヶ月経ってようやくレベル4だ。


「………そうですね。それじゃあ、今日は帰りますね。」

「うん。帰った後は何するの?」

「–––––ちょっとダンジョンに潜ろうかなって思います。それじゃあ、さようなら。」

「あ、ちょっと待って。 ––––––あまり無理をしないでね。」



***


「はああああぁぁぁぁっっっ!!」


 ナイフを振り回してダンジョンを駆け巡る。

 通り過ぎていくゴブリンを切り裂いていき、どんどん奥へと進んで行く。


 もっと。もっとだ。もっと来い。


 細い道にいる魔物を傷を負いながら倒していく。


 まだだ。まだ足りない。何もかも足りないんだ。僕は!!


「うおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!」


 ナイフを逆手に持ち、次々倒していくが、いつの間にか刃はもう限界を迎えそうになっていた。


「なっ、ぐっ!!」


 今更気づき、気を緩めてしまったその瞬間、ゴブリンに反撃を喰らう。


「はああああぁぁぁぁっ!!」


 それでも、僕はナイフを強く握りしめゴブリンを斬り裂く。


 切り味は落ちているがゴブリンを倒す事に成功した。


 だが、ダンジョンは僕に牙を剥く。


「ヘルハウンドが二匹……。」


 奥から二匹のヘルハウンドが獲物を見つけた狩人のようにゆっくり近づいて来る。


 無我夢中だった今の僕は一旦退くと言う選択肢が無かった。


「………やってやる!!」


 予備で持ってきていたもう一つのハンターナイフを取り出し、二つのナイフを構え、敵のいる方へ走り始める。


「はあああぁぁぁっっ!!」

『『グガガアアアァァッッ!』』


 二匹のヘルハウンドは同時に炎を吐く。


 細い道に吹く二つの炎。避ける方法は無いと思っていたが。


「ぐっ!!」


 下に炎が吹かれていない隙間があり、僕はスライディングして避けながらヘルハウンドへ近づいていく。


『『グガァァッ!?』』

「せやあああああぁぁぁぁっっっ!!」


 一気に距離を詰められて焦ったのかヘルハウンド達は炎を消し、爪で僕を迎え撃とうとする。だが、遅い。


 二本のナイフを一匹のヘルハウンドの頭に深く突き刺す。絶命したヘルハウンドは灰になり消えていく。それと同時に、ボロボロだったナイフもついに使い物にならなくなる。


「くっ……」


 もう一本のナイフを利き手に持ち替えたその時。


『グガガガアアアァァァッッ!!』

「ぐああっ!?」


 鋭利な爪で左腕を切り裂かれた。


 左腕から血が垂れ流れていく。痛みで左腕はもう使えそうにない。


『グガアアアアアァァァァッッッ!!』

「ぐっ!!」


 もう一度、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきた。


 ナイフで攻撃を防ごうとしたが、ヘルハウンドの方が力は上。力負けし、僕は軽く吹き飛ぶ。


 地面に転がり、衝撃で立ち上がれなくなっていた。


「うっ………!」


 こんな所で死ぬのか?

 否。死ぬわけにはいかない。


 だったらどうする?

 立ち上がるんだ。目の前にいる敵を倒す為に。


「ぐっ……! うおおおおぉぉぉぉっ!!」


 僕は自分自身を奮い立たせる為に叫び、無理矢理立ち上がる。


 口から血が垂れる。なんて貧弱な体なんだ。


 悔しい。


 貧弱で、軟弱。

 そんな自分が情けなくなる。


 変わりたい。こんな自分から、強い自分へと。


 目指すべき姿は英雄。誰もが憧れる英雄。



「………。」


 次で終わらせる。


 右腕を前に出すように構える。

 相手も同様。この一撃で狩るつもりでいるらしい。


 足をゆっくり加速させていく。


「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」

『グガガガアアアァァァァァァッッッッ!!』


 互いに雄叫びを挙げ、全力疾走で敵を迎え撃つ。


『グガアアアァァッッッ!!』

「うっ……」


 ヘルハウンドは大きく口を開き、こっちへ飛びついてくる。だが、僕は咄嗟に横に回り込み、胴体にナイフを突き刺した。


「ふはあああああああぁぁぁぁっっっ!!」


 強く。もっと強く。心臓に届くまで。


『グガガガアアアァァァッッ!!』


 ヘルハウンドは灰となり、消滅した。


「………。」


 一瞬倒れそうになったが、なんとか踏みとどまる。


 勝てた。Eランクで最も強いとされるヘルハウンドを二匹同時に倒す事が出来た。


「うっ……。」


 視界がぼやける。おそらく左腕の出血が原因だろう。


 僕はバッグから包帯を取り出し、左腕に巻きつけ止血を試みる。


「ぐっ……!」


 傷が痛むがなんとか成功した。バッグからポーションも取り出し、一気に飲み干す。


「……今日はもう帰るか。」


 僕はまだ完全に治りきっていない体を動かし、地上へと目指して行く。


 その道中、ゴブリンなどプランターなどと言うEランクの中で弱いとされる魔物が僕を襲ってきたが、ヘルハウンド二体に比べてたいした事は無かった。


「や、やっと地上に着いた。」


 ダンジョンに続く階段を登り切る。だが、体力も限界を迎えてしまった。


「うっ………。」


 入り口の少し先で僕は倒れてしまった。


 まずい……。こんな所で倒れていたら魔物に襲われる。


『グギアァァッッ!!』

「–––––ご、ゴブリン。」


 最悪の状況が起こってしまった。


 こんな無防備に状態で魔物に遭遇してしまうなんて……。


『グゲッ』


 ゴブリンは凶悪な笑みを浮かべながら、こっちへ近づいてくる。


『グガアアアァァァッッ!!』

「くっ!!」


 ゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしたその瞬間。


『グ、グガッ!?』


 ゴブリンの体がいつの間にか細切れになっていた。


 傷の隙間から血が噴き出す。そしてゴブリンの後ろ誰かが立っている事に気づいた。


 太陽に照らされて輝く金色の髪。宝石のような綺麗な赤い瞳が印象的な少女だった。


「大丈夫……アレス?」

「え、エリスちゃん?」


 その少女の正体は僕の幼馴染エリス=アスタリアだった。


「どうしたの?」

「––––––––。」


 また、助けられた。


「アレス?」

「あっ。」


 僕は見上げるようにエリスちゃんの顔を見る。


「……どうしたの。」

「それはこっちのセリフだよ。」

「–––––ダンジョンに潜っていた。」

「そう。頑張ってたんだね。」

「………まだまだ足りないんだ。」

「えっ?」


 僕の声にエリスちゃんは少し驚いたような表情をした。僕の声にはほんの少し怒りが混じっていたからだろう。


 僕はふらりと立ち上がり、エリスちゃんを見つめる。


「これだけじゃ足りないんだ。」

「足りない?」

「……君に追いつくにはまだまだ足りないんだ!」

「私に?」

「僕は追いつきたいんだ。君に。エリスちゃんに。」

「そう、だったんだ。」


 言ってしまった。本人に。エリスちゃんに。

 本当は言うつもりは無かった。でも、気持ちが昂っていたからか、口を滑らせてしまった。


「でもなんで?」

「君が遠くに行ってしまった気がしたから。気持ち悪いと思うけど、僕はそれが嫌なんだ。」

「………。」


 エリスちゃんは何も言わずに話を聞いてくれる。


「……僕は君の隣に立ちたい。憧れのギルドに入団したい。だから、僕は強くなりたい。」

「………うん。待ってる。ずっと待ってるよ。アレスがここに来るまでずっと。」


 待ってる。


 エリスちゃんは待ってくれる。だから、僕は走り出そう。君に追いつく為に。君の隣に立つ為に。


「僕、強くなるよ。」


 もう一度。今度は決意を込めて言葉を口にする。


 エリスちゃんは何も言わずに微笑んだ。

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