第六章「エデンの審判」
記憶は重荷か、それとも希望か。
最果ての地で、アークたちは世界の真実と向き合う。
全てを終わらせようとするノワールの意思を前に、誰もが問いを投げかけられる。
——記憶を守るか、記憶を捨てるか。
答えは、すぐそこに。
目を覚ましたアークの視界には、青白い光を放つ《エデン》の中枢が広がっていた。無数の光の線が宙を舞い、崩壊寸前の世界がその輝きで彩られている。
「アーク……!」
かすれた声で、セラが呼びかける。血がにじむほど唇を噛み、彼女は立ち上がっていた。
傍らのリノアもまた、深い傷を負いながら必死にアークの背を守る。
その前に、黒衣の男が静かに佇んでいた。
ノワール——かつて仮面に隠されていた素顔は、透き通るような冷たさを宿している。
「お前たちは何もわかっていない」
ノワールの声は機械のように冷たい。
「記憶は呪いだ。過去に縛られ、未来を恐れさせる。人類は記憶を持つ限り、争いをやめない」
アークは、震える拳を握りしめて立ち上がる。
「違う……記憶は人間そのものだ。痛みも悲しみも、誰かと生きた証なんだ!」
ノワールは目を伏せ、悲しげに微笑む。
「……君は甘い。だからこそ、世界はもう一度やり直さなければならない」
鋭い光がノワールの指先から迸る。
空間がねじれ、《エデン》の迷宮がアークたちを包み込む。
迷宮の試練
幻影がアークを襲う。幼い頃の後悔、奪われた仲間の声。
セラは、失われた家族の幻に怯え、足がすくむ。
リノアは父の幻に「お前には力がない」と囁かれ、泣き崩れそうになる。
だがアークは声を振り絞った。
「こんな幻じゃ……俺は負けない! 俺は、みんなの記憶を守る!」
声に応えるように、セラとリノアも立ち上がる。
二人の涙が光に溶け、迷宮の壁を揺らす。
だがノワールは笑う。
「無駄だ。記憶は幻に過ぎない……真に自由を手にするには、全てを忘れろ」
クライヴ、再臨
絶望的な光景の中、ノワールが止めの一撃を放とうとしたその時——
鋭い剣閃がノワールの攻撃を弾き飛ばした。
「……まだ終わっていない」
低い声が空気を震わせる。
光の中から現れたのは、クライヴ。
血のように紅い瞳が、再び開かれていた。
「クライヴ……!」
アークは息を呑む。
「お前たちの声が……俺を呼んだ気がした」
クライヴは一瞬迷うように目を伏せるが、その手は確かに剣を握っていた。
「……ノワールの言葉に従うだけの俺じゃない。俺は、俺の意思で戦う」
ノワールの瞳が冷たく細まる。
「愚かだ。お前は再び苦しむだけだぞ、クライヴ」
だがクライヴは静かに首を振る。
「苦しみを背負ってでも……記憶は、消しちゃいけないものだ」
再び剣を構えるクライヴの姿に、アークの胸が熱くなる。
「……お前がそう言うなら、信じる!」
アークは剣を握りしめ、クライヴと肩を並べる。
「記憶を守る……それが俺たちの戦いだ!」
4人の瞳が重なり、ノワールに立ち向かう。
世界が震え、《エデン》の迷宮が砕け散る。
決戦の舞台が、いよいよ姿を現した。
クライヴの再臨が、絶望の淵に光を灯す。
かつての敵は、仲間として再び剣を取った。
彼らが信じるのは、記憶が織りなす痛みと絆の物語。
次章、第七章「記憶の継承」へ。
いよいよノワールの真意に迫る最終決戦が始まる。