第三章「空白の約束」
「忘れることは、守ることだったのかもしれない」
誰かを救うために、自分の記憶を封じた少年。
そして今、再びその記憶が、彼の前に立ち塞がろうとしている――
仮想記憶領域。
そこには、空白のまま保存された“ある約束”があった。
通信の痕跡をたどり、アークたちは《記憶の階層都市・レミナール》へ向かった。
街の一角にある閉鎖エリアには、“欠損記憶”のデータが保管されている。
その中心にあったのは、かつてアーク自身が封印した《プロミス・ファイル》。
「ここに、何が記録されてるんだ……?」
恐る恐るファイルを起動した瞬間、記憶の波がアークを呑み込んだ。
———
夕暮れの並木道。
幼いアークと、少女が歩いている。
「もし、いつか私のことを忘れても……」
「……うん」
「絶対、探しに来てね」
「絶対、約束する」
———
映像が終わると、アークは膝をついた。
「……誰なんだ、あの子は……!」
セラはファイルを解析し、そこに保存されていた“仮想記憶認証”のIDを読み取る。
「この記憶……リノアのものと、共鳴してる……」
一方そのころ、《アーカイブス》の副官・ノワール=シェイドは動き出していた。
彼は記憶管理局の暗部にいた存在。仮想世界での“記憶消去工作”の責任者だ。
ノワールが新たな計画を発動する。
「第03記憶層にある“リノアの記憶”を、完全消去しろ。
過去の契約も、約束も――すべてなかったことにする」
アークはそれを阻止すべく、《記憶層》へ急行する。
だが、そこに待っていたのは……
記憶を上書きされ、感情を失ったリノアだった。
「……あなたは、誰?」
「リノア……俺だよ、アークだ」
「知らない。あなたに、何の感情もない」
アークは激しく動揺するが、セラが静かに言う。
「彼女の心に、まだ残ってる。“約束の記憶”が、きっと……」
アークは静かに手を伸ばす。
「もう一度……思い出してくれ。あの日、君がくれた言葉を」
リノアの胸元に、淡い光が灯る。
そこには消しきれなかった“手紙の記憶”が――
「君に会えたら伝えたいことがある。
君が世界を変えても、私は君を信じるって」
次の瞬間、記憶層が光に包まれ、リノアが涙を流す。
「アーク……っ!」
リノアの記憶が戻ると同時に、《プロミス・ファイル》が完全復元される。
そこには、リノアが幼い頃にアークと交わした**「自由な世界を作る約束」**が保存されていた。
だが、ノワールの影が静かに囁く。
「君たちは、なぜ“悲しい記憶”を手放せない?」
彼の真の目的――“人類から悲しみを消す”ための記憶最適化が、加速し始めていた。
アークとリノアの間に交わされた、幼き日の約束。
それは失われたと思われた記憶の中で、確かに息づいていました。
“消せない記憶”が人を救う。
その証明が、今回の章に詰まっていました。
しかし、ノワールの存在が示す通り、《記憶の最適化》という脅威は、確実に迫ってきています。
そして次章では、セラの過去がついに明かされる――