こちら王都第七教区、懺悔室です
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以前からアイディア的にはあったのですが仕事をしながらだと完成させ、発表するチャンスがないですね。
もとは、長編(30話くらい?)のシナリオとして考えたものです。
とりあえず拙作ですが、ご覧ください!
「迷宮都市〜光と闇のアヴェスター」も宜しくお願いします!
ああ、何度見ても古いなあーー。
王都にある教会は、長いこの国の歴史とともに数を増やした経緯があり、時に戦争や王朝の変遷によって数を減らしたが、現在では七つの聖堂を残している。
私がいる教会は王都で最も古い歴史を誇り、王都の端にある居住区の奥に存在する。
貧民街に最も近い居住区であるためか、清貧を旨とした教えがその居住区の特徴でもあった。
教会もその地に根差した神の家となった。言い換えれば、建物がボロい?
だんだんと温かくなる気候は穏やかな風を運び、春の気配を感じる日も多くなってきている。
しかし、まだまだ肌寒いのが実情だ。朝の日差しが差し込む時間帯に早起きして掃除をする身としてはやはり堪える。特に隙間風です。
教会の朝は早く、一日は陽が昇る前に始まっている。
この神の家は、私にとって仮初の宿だ。
居候させてもらっているのだが、今ではそれなりに愛着が湧いている。
教会の宿舎には大きめの姿見の鏡があり、毎朝身嗜みをチェックできるのは良い点だ。
私の髪は漆黒で、瞳の色も黒。身長は低めで体格も細身。
黒い修道服との相性も良く、ベールを被れば見習いだとは思うまい。服装チェックした後は、ただちに清掃活動を始める。掃き掃除から始まって、拭き掃除へとテキパキやっちゃう。
信者用に設えてある長椅子を丁寧に拭き上げるといよいよ終わりが見えてくる。
懺悔室を清掃し始めた時、誰かが入り口のドアに手を掛けたようだった。重い扉がギイと鳴る。
掃除道具を散らかしている等と悪い風評がたってはいけません。私は懺悔室に隠れました。
ガタンという扉が閉まる音が聞こえると同時にバクンと心臓が鳴る音が聞こえた気がした。
状況的に件の人物はどうやら教会の懺悔室に用があったということでしょう。よりによって何故今日なのですか。ホント、何故いまなのですか。
神父様と違い、私にはまだ思い悩む信者の心を安寧に導く説法は難しいのだ。
やがて、隣の狭い部屋というのもおこがましい空間に腰を下ろしたことが察せられた。むう。やるしかないか。
「それでは、罪の告白を」
なるべく歳上に見られるよう私は低い声を意識した。
「……神よ、汝の子をお救いください。私の罪を聞いてくださいますか?」
とても丁寧な、それでいて真の通った声で大人の男性が話し出した。懺悔室の壁に設けられた小窓から震えるような声が響いてくる。
状況は不味いけれど、神に仕える身として見過ごす訳にもいかない。
うるさい心臓の音を抑え込み、私は静かに声を掛ける。
「神の家はいつでもあなたがたに開かれています」
何やら慌てたような、それでいて安堵の息を吐くような物音が隣から聞こえた気がした。
正直言って、すっごい頑張ってる、私。
「おお、神よ。とこしえの緑なすエッダに感謝を」
小さな金属音がキン、と響く。
どうやらこの方は、王都騎士団の正騎士様のようです。歴史ある騎士団の略式拝礼にある祈りの言葉と作法が胸に沁みます。
そうして“彼”、この際だから少しだけそう呼ばせていただきます、による懺悔が告げられた。
内容は、簡単に要約すると佳日、騎士団による魔物の討伐戦が行われた。彼も同僚達とともに勇ましく出征し、勇敢に戦ったようだ。
だが、王都に帰還する直前、別働隊の危機を告げる知らせが届く。
彼らはすぐさま討伐戦を切り上げ、友軍を救うべく別働隊のいる地へと馳せ参じたという。
ただ、其処が悪かった。十分でない装備や食料、立ちはだかる強敵に心が折れ掛け、更には魔物に襲われた仲間を助けられなかったと。ふむふむ。
「ひとつ、お尋ねしても?」
「……なんでしょうか?」
そのような試練を課された場所とは何処なのか。悪い予感がしながらも私は確かめるべく彼に質問した。
「貴女がご存知か分かりませんが、“落日の冥土”という迷宮です……」
それを聞いた時、ああ、と腑に落ちました。
王都の騎士団が出動しながら仲間を助けられず、連れて帰れなかった訳が。
この世界には“迷宮”と呼ばれる試練の洞窟があります。
大抵は階層型や蟻の巣状の形をしており、成長していく特徴があります。中には開けた平野型のものもあるとか。そして難易度が高い迷宮には、その性質を表すような二つ名が付けられることがあるのです。
そこはあまりにも有名な瘴気の溜まり場。
死霊達が蔓延り、登りきれぬ丘陵が広がる死地。
いわゆる王国指折りの心霊スポットですね。
「あいつは今も苦しんでいるんです! あの時、私があいつの手を掴めなかったから。きっと、私を恨んでいるはずです!」
男の人の激しい苦悩の表出を初めて聞いたかもしれない。
懺悔室の薄い板一枚を隔てた向こう側で後悔の念に苛まれる彼の姿に何故か胸が痛くなった。
「ですが、再度の討伐が決まりました。そこで、私はあいつに会うでしょう。その時、私は罪悪感から任務を全うできる自信がないのです……」
思い悩む信者の心の声が懺悔室に響く。
「昨夜も夢に出てきました。何故、置いて行くのかと。私を責めるあいつの顔が頭から離れないのです!」
先月、何処かしらに巣食う魔物達を殲滅せよとの王命が下されたとは聞いていました。
討伐成功の報を聞かないので何かあったのかと思っていましたが、なるほど失敗したのですね。
そして、少なくない犠牲が出たため王国も後に引けなくなったと。騎士団が名誉回復をかけて再び討伐に挑むのでしょう。
思いがけず知ってしまった事実に、私は軽く息を吐いた。
「貴方の罪はきっと許されます」
決して、赦しの秘蹟ではないけれども、何もしないままではいられなかった。口をついて出た言葉は独り歩きして、いつのまにか彼の心に届いていた。
「ありがとうございます……!」
「神の導きがありますように」
それから暫くして、彼は礼を述べて出て行きました。
なんとも言えない、重い気持ちに引き摺られて私は一日中どんよりとした気持ちになっていました。
その日のお昼過ぎ、アンニュイな私の気分をアンナ婆が現実に引き戻した。
「いいかなぁ、もう帰ってもぉ?」
陽が傾いてきた頃、アンナ婆が尋ねた。
「おばあちゃん、ありがとう! もう大丈夫だから!」
昼間、教会内の雑務を手伝ってくれる村の産婆は炊き出しや怪我の手当てなど教会の行うボランティアを手伝ってくれる。その縁で雑用でも手伝いに来てくれるのだが、アンナおばあちゃんは腰を軽く叩きながら人の良い笑顔で扉から出て行った。
今夜は神父様が帰って来ない日だから、いつもより遅くまで残ってくれていたんだろう。その優しさに胸が温かくなる。
ゆっくりと歩くアンナおばあちゃんの姿を見送りながら、私はひとつの決意を胸に秘めていた。
その夜、私は教会の宿舎をひとり抜け出して郊外へと走った。
夜の闇は夜明け前にかけて、これから最も濃くなる頃合いだ。
王都のヘリに近い場所にある第七教区の教会からは外部とを隔てる門まで近いうえ、スラムの子ども達が使う抜け道も把握済みです。
夜間、修道服は闇に紛れるに最適な服となる。
呼吸を続け、夜を疾走する。
昼間、聞き込みという名の井戸端会議を乗り切った私は、騎士団が明日にも出征するとの情報を掴んだ。
騎士団が来るのは明け方からのはず。だったら彼らが来る前に終わらせるのみ。
迷宮“落日の冥土”は郊外にある古戦場のような雰囲気を持つ場所だ。
此処に先回りする。
闇夜に月が傾げる。まだ満月ではないのは幸いだった。
さあ、始めましょうと気持ちを込めて目を開く。
其処には、神の遣わした“聖女”がいた。
その容貌には特徴的な瞳が開かれる。私の目が闇夜を見通す。
「へえ、本当に地獄と繋がるんだ」
真っ黒な瘴気が辺りに漂い始めた。みるみるうちに霞がかかったように視界が悪くなる。
(この濃度だと、爵位持ちなのかもね)
周囲を見渡した私は、ゆっくりと、しかし確かな足取りで迷宮へと踏み込んだ。
群がる黒い影。終わらない瘴気。魔素が濃すぎて呼吸さえままならない。
ジワジワと身体を蝕む劣悪な環境に迷宮を探索する者達は苦しめられるだろう。
私がいなければ、の話だが。
(フンフン〜♩)
先程から私の周囲には瘴気の類いは近寄ってきていなかった。
この状態となった私には、瘴気など意味を為さない。
地下迷宮だというのに私の周囲、半径十数メートルは明るく照らされ、神の祝福が満ちるように呼吸も楽になっていた。
実家の近所まで散歩するかのように、私は迷宮を踏破していく。
いやー、便利だわ。
神の恩寵が陽の差さぬ迷宮に光を届け、影を駆逐する。
歩き続ける私の周囲には、人ならぬ者たちが押し寄せて来るのだが、いずれも途上で果てる。
生者の放つ生命の脈動は、死者たちにはえも言われぬ芳香となるらしく、近付く影は絶えない。それでも突破できない。
薄暗いはずの迷宮内は煌々と照らされ、変質していた魔素は文字通り雲散霧消している。
私の身体から発せられている何かによって迷宮内は清く清浄な空間へと変貌している。
行く先には叡智の光が灯り、迷路の中から最適な道が選択される。出現する魔物は弱いものから溢れる光輝に触れて消滅し、力を減じて苦痛に呻きながら逃げ出していく。
だが、一度神の祝福に捕らえられた魔物はほぼ逃げる事は出来ず骸を晒していた。
ゴースト。レイス。シャドウピープル。スケルトン。
主に死霊系の魔物が発生しています。
私の経験値になーれ!
進むに従い、魔物が次々と入れ替わり、次第に質量を持つアンデッドになった頃、私はそれらしいものを見つけた。
「ふうん、このあたりね……」
ゾンビ化した人間のなれの果てが近づいてくる。
生前の記憶もあるかないか分からない。
ただ、生きる者が憎いのか赤く血走った目だけが印象的だ。
少し気合を入れて魔力を練る。すると不思議と恐怖は感じなくなる。
手出しはしない。私は戦闘員ではない。
それよりも己の内なる獣と向き合うのだ。
「汝らに、神の祝福あれ」
比較的、新しいであろうゾンビ達に祝福を授け、私は聖印をきる。
超強力な聖属性のデバフが彼らにかかる。苦悶とも懊悩とも取れる声が響き渡った。
年代はバラバラだが、彼らが身に付けている装備は王国騎士団のものだ。
昨日、騎士様が話していたご友人もいるかもしれない。その事実が吐き気を誘った。
それでも私は今回の騒動を起こした問題の根本的な解決を探った。
彼らの魂を死後も縛り付け、弄んでいる輩の存在を探す。
そして、見つけた。
迷宮の深く、闇が何処よりも濃い場所で。
「人間ガ訪レルトハ、久シブリダ……」
黒い影が喋っていた。誰かの遺体を抱きかかえ、その口元に赤い華が咲いている。
「女カ……、美味ソウダ」
ああ、嫌だ。この異世界に特有の現実に怖気がする。
向こうでも野生生物に襲われることはあっただろう。人類の歴史は開拓の歴史だとも言える。未開の山林や密林を切り拓き、人の領域を広げ続けてきた歴史だから。
それでも、こんな形で死を迎えたいなど誰が思うものか。
悪魔に食われる最後なんて。
「オマエモ喰ッテ……!」
近付くな、吐き気がするでしょう!
「神に仕えよ!」
真昼のような強い光が迷宮を白く塗り替えた。
爆発する白光に悪魔の素形が浮かび上がる。
黒い肌。捻れた角。飛び出した牙。背中から生えた蝙蝠のような翼。蛇のような長い尾。
およそ地獄の住人として人類が想像してきた醜悪なイメージそのままの姿。
そして、体内に膨大な魔力を持つ存在。
悪いけど、到底、騎士団ごときでは討滅することは出来ない。
出来そうもない。それほどの器だ。
間違いなく、この悪魔は低級だが爵位持ちだ。
「光ノ神ノ僕カ!?」
強烈な光に、濃い影が生まれる。
その影を踏んだ悪魔に地獄の魔力が流れ込む。
反発するふたつの力が招く明度差が生む現象だ。
「貴方に恨みはないけれど、この迷宮から出て行ってもらうわ!」
手を翳す私こそ、この場を支配する者だ。
爵位持ちだが低級の悪魔では相手にならない。
影が光に対して濃く地面を覆う。尻尾を突き刺した悪魔が圧に耐えようと踏み留まる。
高い魔力抵抗値は伊達ではないらしい。でも、そうは問屋が下さない。
強烈無比な聖光に邪悪なる存在は塵に変じて崩れ落ちた。
「ナッ……! 何故!?」
焦る悪魔の顔が恐怖に歪む。咄嗟に、何か魔法を使ったようだが逃がさない。
私の力は凡ゆる魔を滅する。
(もう身体はボロボロに崩れ始め、維持することが出来なくなっているはず!)
おそらく、あと数秒で勝負は決する。
(この世界で、神の意思は何者にも曲げられない!)
白く輝く神の威光は、邪悪に汚れた迷宮の暗部を確実に駆逐していく。
その様は、まるで暗闇の中から生まれる暁の夜明け。
私の魔力は地下迷宮の深くを完璧に浄化する。浄化していく。
それは夜明けを告げる鶏の鳴き声にも似て、何処までも響き渡る。
死霊王だろうと誰だろうと、この光を隠すことは出来ない。
そして数秒の後、私は目の前の光景に少しだけ驚いたのだった。
「……嘘、逃げられるなんて!」
低級だが爵位持ちの悪魔の素形が消え、私はこの探索行が失敗したのだと後悔した。
後日、彼女の探索行の結果とも言える英雄譚が王都中に喧伝された。
あの日、王国騎士団は佳日の無念を晴らすべく迷宮“落日の冥土”へと進撃。おおいに活躍して攻略した。
逃げ出した悪魔は迷宮の浅層付近に逃げ落ちたらしく、そこを突入してきた騎士団に発見されたそうだ。
仲間の仇討ちと名誉回復に燃える騎士たちの剣は教会の祝福を受けて間がなく、鋭く闇を斬り裂き、瘴気による活動時間の限界すら超えて大いなる魔を滅したそうだ。
新たなる騎士団の英雄譚に王都中が興奮している。
現実的に自分達を守ってくれる騎士の存在がありがたいのだろう。
私はと言うと、教会で清掃に勤しんでいた。
睡眠時間が減ったせいで目の下にクマができるし、寝不足だしで業腹だけど、まあ心は落ち着いている。でも、お肌には悪いのよ。
誰に知られる訳でもない聖女としての私は御役目がある時だけの限定版だ。
ある日、目覚めたら異世界にいて、何も分からずにいた私を受け入れてくれたこの場所に愛着もある。それ以前の事は覚えていないが。
そう、私の記憶は途切れている。
死んだ17歳の時の記憶と、初めてこの世界で目覚めた記憶。
転移なのか、転生なのか。
今の私には分からないことばかりだ。
それでも私は私であり、今ここで確かに生きているということだ。
自分らしく生きて行く。
こんな異世界の片隅にいる私だけど、歩いていく先にはきっと素晴らしい明日があるのだから。
新しい一日を精一杯、生きて行きたいから。
「シスター・マキ」
「はひっ!」
まずい、あまりの事に心臓がサプライズにダムしたわ。
帰っていらしたのだわ、教区長様が。
ダラダラと落ちてくる嫌な汗に、不吉な予感がする。なぜだろう。
「……ところで、シスター・マキ。私が不在の間の事で、何か話さなければならないことはないでしょうか?」
「話さなければならないこと……?」
ダラダラと背筋に冷えた汗が流れる。なにゆえにこの人の笑顔は圧迫感があるのだろう。
人が出していい圧であろうか。いや、ない。
「いえ、特にありませんが……」
「ほお」
物覚えが悪いですね、と襟首をガッツリ掴まれる。
ええ〜!?
ズルズルと引き摺られて連れて行かれる私。
何故にと問いたい。いや、それより教区長様のお説教は長いのよ!
どうしてこうなった?
「さあ、詳しい話しは懺悔室で聞くとしましょう」
いーーーやーーーーーーー!!!
私、頑張ったのに何故!? 解せぬ!!
次の話を出せるのは、いつになるやら(笑)
せめて来年中に出したいです!
ランキングが更新して、日間第84位まで上がりました! 作者、単純なので頑張っちゃおうかなとか考えますよね(笑)




