最悪、、、
雑踏の喧騒が耳に響く中、鈴、湊、そしてレイの三人はヒカリエ内のカフェに集まっていた。
湊が気を利かせて「三人で話す場を作ろう」と提案したのがきっかけだ。
鈴は心の中でレイを観察していた。
(よく考えたら、初対面で“お前”呼ばわりなんて失礼よね。レイのやつ。)
湊がスマホをいじりながら、「じゃ、私は先帰るわ」と立ち上がる。
「あ、湊!」と鈴が呼び止めようとするも、湊は軽く手を振って去っていった。
カフェには鈴とレイの二人だけが残された。
レイはアイスコーヒーのラベルをじっと見つめている。
沈黙に耐えられず、先に鈴の方から話を振った。
「パッケージが気になるの?」
レイは気だるそうに答える。「ん、いや。なんとなく。」
また沈黙が訪れる。気まずい。何かを話したいのに、言葉が見つからない。
突然、レイが萌え袖を机に置いて口を開いた。
「今日、天気良いなー。」
鈴は戸惑いながらも返す。「え、まあいいわね。」
しばらく当たり障りのない会話が続いたのち、レイは鈴をじっと見つめた後、低く笑った。
「お前、つまんないな。」
「え、何よ。急に。」
鈴は、戸惑った。
憧れのアーティスト レイ に会えた。しかも初対面で2人で話せている。だけど聞きたいことは何も聞けてない。
そして言われたのが、「お前、つまんないな」??
鈴は状況が呑み込めず、何も話せなくった。と、同時に腹も立ってきた。
だから、言い返した。
「あなたこそ失礼じゃない。初対面でお前なんていうやつ」
レイは笑いながらこちらを見ている。
(なんなのよこいつ。本当に失礼。)
「失礼。確かにそうだな。」
なんでこんなに落ち着いているのよ。意味わかんない。こいつ本当にレイなの?
レイの余裕が鈴の神経を逆なでする。
「そもそも、私はあなたが本当にレイなのかも疑ってるわ。湊が言ってたから本当なのでしょうが。」
「じゃあ、本当じゃねーか。意味わかんねー笑」
ますます腹が立ってきた。わからせてやらないとだわ。
「あなた、人気者だからって調子に乗ってるでしょ。態度で分かるわ。あなたみたいに天狗になっている人はもれなく破滅よ。いずれは誰も見向きもしなくなるの。」
「作品はいいと思ったけど残念だわ。予想外よ。」
レイの表情が変わった。軽薄さが消え、真剣な目つきになった。
「そうか、予想外か。いいか、、、あたしは"予想通り"過ぎる。お前の全部、作品も性格も態度も。」
「何ですって?」鈴は目を見開いた。
「それはあなたの感想でしょ?アンチみたいに好きに言えば?」
腹立たしさと同時に、涙があふれてくる。こいつはただのアンチなのに。。
レイが冷たく言った。「そうじゃない、作品に対する覚悟が足りねーんだ。作品を見てればわかる。」
レイは続けた。「お前の作品からは鼻につくんだ。お高く留まって、器用にごまかそうとして。アーティスト気取りで。お前は表現者なんかじゃない。あたしは、お前のアンチにもなりたくない。ただ、つまらない。」
何なのよ、こいつ。鈴は限界だった。
好きだったアーティスト、レイ。湊の友達。個展で自信を失ったこと。ワクワクしながら実家を訪れたこと。すべてが胸を締めつけていた。
「うるさい!!!」
涙で息が詰まり、声を出すのがやっとだった。その声はうまく調整できず、ただ震えていた。
カフェの中が静まり返り、全員が鈴を見守っていた。
鈴はお会計もせず、机の上の財布を手に取り足早に店を飛び出した。
レイ「あ、待て、、、」
そこから先の記憶は、まるで霧の中のようにぼんやりしていた。
部屋に戻ると、ドアを閉め切り、暗い部屋の中で布団にうずくまっていた。
数日後、、、
鈴はレイを振り切ったあの日以降、学校にも行けてない。
部屋の中は、外から入るわずかな光だけが頼りで、静寂が包み込んでいる。
レイに言われた現実が、あまりにも重くて、どう向き合えばいいのか分からない。
スマホを手に取ると、そこには湊からの未読メッセージがいくつも表示されていた。
しかし、指が動かない。返信することが怖かった。
「しかも、あたしレイの財布、持って帰っちゃってた…」鈴は小さく呟いた。
その言葉が、どこからか自分自身を責めるような痛みとして、心に突き刺さる。
その瞬間、鈴は布団を引き寄せて顔を埋め、涙を流し続けた。
自分がどうすればいいのか、全てが分からなくなっていた。




