第六話【食堂】
壱
仄暗い室内を、テレビの照明が照らす。
狭く寒い部屋の空気を、闇に彩られた様に寂しく染めている。部屋の照明は付けてはいるが、どう謂う訳か薄惘やりとしていた。秘めやかに流れるテレビの音量。其の音に、カップラーメンを啜る二つの音が絡み付く。何とも寂しい音の様で在った。
部屋の中には、二人の若者がいた。どちらも男で、共に貧乏臭い身形をしている。歳の頃は、二十歳前後と言った処で在ろうか。寒いのかスウェットの下に、服を着込んだ様子だった。どうにも意気地の見られない様子で在った。
「金が欲しい……」
呻く様に、男の一人――今西健吾が呟く。相方の岸本華は何も応えずに只、ラーメンを啜りながらテレビに視線を向けていた。テレビの中では、お笑い芸人の司会者が、滔々(とうとう)と人生について語っていた。其の様子を華は、醒めた眼で眺めている。日常が詰まらないのか、人生が詰まらないのか、其の表情は暗い。
「俺等、いつまでこんな事してるんだろうな……」
健吾は空になったカップラーメンの容器を、乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。暗澹たる声音。華と同じく醒めた眼をしている。嘱望とは懸け離れた場所で生きている所為なのか、希望の一切が感じられない。
深い溜め息をついて、煙草に手を伸ばす。箱の中には、煙草の吸い殻が入っていた。何れも未だ長い。近所のコンビニで、吸い殻を貰って来た物を選り分けて、箱の中に詰めていた。ガスの切れ掛かったライターを、何度も擦っている。呆れた様に華は、健吾に視線を送る。
「金がないなら、煙草ぐらい我慢しろよな。そんな、みっともない真似して……恥ずかしくないのか?」
文句を言いながら、ガスの入ったライターを差し出す其の様は、まるで女房の様で在った。
「恥ずかしくない。そんな事より華。今、いくら在る?」
煙草に火をつけ、煙りを肺に送る。其の様が身窄らしい。
「金なら、貸せないぞ。俺も余裕ないからな」
二人は家賃が三万五千円のワンルームマンションで、共同生活をしていた。
バイトはしているが二人共、金が無かった。
選り好みさえしなければ、仕事は幾らでも在る。けれど二人は何故か、貧乏を選んでいる。夢が在る訳でもない。只、其の日を遣り過ごすだけの生活を二人は送っている。何の生産性も無い、蒙昧してばかりの人生で在った。だからこそ、金が無いのだ。やる気の無い人間に、大金は決して舞い込んでは来ない。
「俺、此れからバイトあるから」
「何だよ、華。いつの間にバイト、増やしたんだよ」
「居酒屋の面接、受けたんだ。時給も割りと良いし、週五日ぐらい入れるってさ」
「そんなに働いて、昼のバイトは続けるのか?」
昼間は本屋で週五日、働いていた。居酒屋で夜も働くとなると、かなりの勤務時間となる。
「勿論、続けるよ。今は兎に角、金が欲しい」
「マジかよ。お前、そんなに金に困ってたのか?」
間の抜けた事を聞く健吾。華は立ち上がると爽やかな笑みを、健吾に送った。
「お前よりは、マシだけどな」
「うるせぇな……貧乏で、悪かったな!」
楽しそうに笑う華。
釣られて笑う健吾。
「今日、初出勤だろ。頑張れよ!」
手を軽く挙げて応えると、華は玄関の戸口に向かった。
一人残された健吾は、溜め息をつく。漫然とした様子で在る。何か目的が在る様には、とてもでは無いが見えない。暗い表情。意思の籠らない瞳。だらしなく開かれた口元には、先程のラーメンの食べ粕が付着している。意味も無く部屋を彷徨いては、何やら逡巡している。
思い立ったかの様に財布の中身をぶちまけるが、五十五円しかない。其れが全財産なのか、何度目かも解らぬ溜め息をつく。何とも情けの無い様子で在る。
「仕方がない。遂に、トントンを使うか……」
トントンとは、半年前に百円ショップで買った豚の貯金箱の事で在る。
「……お。結構、入ってるぞ!」
期待に胸を膨らませながら、健吾はハンマーでトントンを叩き割った。乾いた音と共に、無惨に砕け散るトントン。
破片を避けながら、小銭を拾い上げ数えた。
――三千六百七円。
「良し!」
健吾は一人、ガッツポーズを執っていた。
小銭を財布に詰めて、コンビニに煙草を買う為、立ち上がった。
弐
無心で短剣を振るう。
羅刹が寝床として使ってる廃墟と成ったホテルを、無数の人形が徘徊している。人形の手には其々(それぞれ)、武器が握られている。槍、刀、弓、薙刀、大剣、湾刀、杖、拳銃、短刀、戦斧。実に様々な武器を手にした彼等は、多種多様な武術や刀剣術を使用していた。
剣術、棒術は勿論。サバットやクラビー・クラボーン、フェンシング、太極拳や八極拳と言った中国武術、空手や素手ベアナックルを用いたボクシングまで、縦横無尽に羅刹を襲った。
全てを躱し、払い退けて、斬り捨てていく。だが、其の動きには何処か、憂いが見られた。
「羅刹、どうしたの。今の貴方の剣には、迷いが見えるわよ?」
人形達の群れの中心に、若い女がいた。とても、美しい女で在った。整った顔には、厳正な表情が張り付いている。小柄な体躯には、白い戦騎が纏われていた。
其の女の手にも又、刀が握られている。
「此の間の事を、気にしてるのかしら?」
女は微笑を浮かべながら、羅刹に問い掛ける。
――人殺し。
此の間の女の言葉が、頭にこびり附いていた。胸を痛みが満たしている。互いに愛し合っていた男女。男は魔徒に憑かれていた。斬らなければ、何れは多くの哀しみを招いていた。
其れなのに、羅刹は後悔している。果たして、本当に自分が正しかったのかが、解らない。戦騎騎士として、魔徒を斬らなければ為らなかった。其れなのに、迷いが汚濁の様に心に纏わり附いて離れない。迷いを払拭しようと、足掻き藻掻く様に剣を振るった。
無言で只、振るい続ける。己の迷いを断ち斬ろうと只々、必死で在った。何故か脳裏を過去が過ぎった。幼い頃の事や、札付きと成った時の事が鮮明に蘇る。畏怖や嘲りの眼が、羅刹を捉える。人形達が突然、声を上げて嗤い出した。
其の声に、獣の声が絡み附く。羅刹の叫び声で在る。
一心不乱に、剣を振るった。其の剣では人形は斬れても、心の闇までは斬れない。自分自身の心の闇は、決して斬れはしない。晴れぬ心を、悲しみにも似た怒りが満たしている。
「貴方の心には、大きな闇が在るわ」
女――タリムは、静かに語り掛ける。こうして戦騎の姿ではなくて、人の姿で羅刹に語り掛けるのは数年振りで在った。
人形達も皆、タリムの力で生み出した幻覚で在る。此れまで羅刹が闘った者だけでなく、タリムが幾千年もの間に共にした騎士や敵達の動きを再現している。
人形の姿は、タリムのイメージで決定付けられるが、時として羅刹の心にも呼応する。其れは、羅刹の闇を、具現化した物だ。羅刹を嘲笑う人形が、禍々(まがまが)しい異形を象り始めた。
鋭利な刃が、次々に羅刹を襲う。其の太刀筋は縦横無尽で多彩だった。全てを捉え、見切る事は不可能で在った。数々の斬撃が、羅刹を撫でる。痛みは無い。幻影の刃は、身体を傷付ける事は無い。だが、羅刹は負傷していた。
迷いが心を侵して、惑いが剣を曇らせる。幻影に心を奪われれば、身体にまで影響が及ぶ。幻影に斬られる度に、羅刹は負傷して往く。斬られれば斬られる程に、羅刹の傷は深く成る。けれど、羅刹は退かない。斬られながらも、剣を振るい続けた。
「貴方の中の大きな闇は、何処に在るのかしら?」
人形達を全て蹴散らした時には、羅刹は汗と血に塗れていた。呼吸は無様に荒れている。まるで、暗幕の掛かった心を映し出しているかの様で在る。苛立ちは焦りと成り、羅刹の判断力を奪い、剣を鈍らせる。此れが実戦で在る為らば、致命的な状況を生み出している。
僅かな隙を衝いて、タリムが間合いを詰める。静かで流麗な動作で在った。棘が無く、羅刹とは対照的な動きで在る。気配を完全に断っている。
タリムの刀の一撃を、羅刹は辛うじて短剣で受け止める。交わる刃。無機質な感触から、不思議と温かな物が伝わって来る。タリムの剣は、慈愛に満ちている。羅刹を厳しく諫めながら、何かを伝え様としているのかも知れない。羅刹に取って、タリムは慈母の様な存在で在った。
「良く眼を凝らし、己の心と対話しなさい。貴方の憎しみは、誰に向けられた物なの?」
タリムの言葉に呼応する様に、羅刹を取り巻く空間が変化して往く。タリムを通して、羅刹の心が空間を染め上げて往く。羅刹の心の闇が、次第に輪郭を持ち、実態を顕わにして往くのだ。
燃える家屋。逃げ惑う人々。上がる悲鳴や懇願の声。其れは羅刹が生前、最期に見た光景だった。寸分の違いも無く、其れ等は再現されている。
正に地獄絵図で在った。人が焼けながら斬られ、金品は奪われ、女子供は虐げられて、矢張り殺されていった。死臭と炎。絶望と恐怖。そして、一人の男の哄笑に染まっていた。
江戸時代の小さな在る村を、盗賊達が襲っている。盗賊の頭目の名は外道丸。本来の名は、誰も知らない。狂気に染まった笑みに、多くの者は畏れを抱いた。
羅刹も又、其の一人で在る。羅刹の憎しみの根源の一つで在った。そして、もう一つ――。
目前で剣を交える相手を見て、羅刹は我を忘れていた。心の中を憎悪や憤怒の感情が、暴れ狂う蛇の様に蠢めいている。決して忘れる事の出来ぬ相手で在った。
己の顔に傷を付けた其の相手は、羅刹と同じ歳だった。札付きと成った羅刹と共に生き、共に剣を磨いた。羅刹と同じく修羅の道を歩んだ同士。互いに背を預ける程の中で在った。
彼の者の名は――
「出狗……何故、裏切った!」
過去にも同じ言葉を、投げ掛けていた。
仲間だと想っていた。唯一無二の友だと信じていた。其れなのに何故、袂を分かち、剣を交えるのか。憤怒の炎が滾り心と体を、内奮わした。憎悪の細霧が、心を色濃く深い闇へと彩る。出狗の短刀を払い刀の鞘で、出狗が繰る弐の太刀を受け流した。短刀二刀流が、出狗の剣で在った。縦横無尽に上下左右から、繰り出される連撃は正に獣の剣。羅刹は出狗の剣を、知り尽くしていた。出狗も又、羅刹の剣を知り尽くしている。
共に生き、共に闘った二人だからこそ、常に息がぴたりと揃っている。正に阿吽の仲で在った。実力も互いに、拮抗している。
故にこそ、互いに死合えば相討つ定めも又、必定で在ったのかも知れない。
互いの刀が、互いの急所を捉える瞬間。
「羅刹っ……!」
刹那の叫び声と共に、出狗の姿は消え去った。景色も元居た廃墟と成っていた。タリムの姿も無い。何時の間にか、負傷した傷すらも消えていた。
羅刹だけが只、抜き身の刀を握り締めていた。憎悪を携え、憤怒を懐いた其の刀は羅刹、其の物で在った。
「貴方には、光が必要よ。心を祝福で満たす、暖かい光が……。彼女には、其の光が在る。だから、此処に招かせて貰ったわ」
タリムの存在も又、羅刹を導く者で在った。
けれども、人の温もりまでは与えられない。
「余計な事を……」
刀を鞘に納めながら、羅刹は呟いた。其の瞬間、刀は短剣に戻っていた。
「迷惑……だったかな?」
遠慮がちに、羅刹を見上げる刹那。
気まずい雰囲気を纏わせていたが、羅刹は良い意味でも悪い意味でも空気が読めない。
「迷惑じゃない。腹が減った。何処か、別の場所へ行こう」
黒のコートを手に取り、静かに歩き出す羅刹。
無言で後を追う刹那。
参
冬の寒さに包まれた町は、何処か寂しく感じられた。町行く人も何処か忙しなく見え、よそよそしく思えた。
其の中を一人、歩く健吾。寒風に晒される中、早足で歩いている。
懐には小銭を両替して得た千円札が、三枚。残った小銭で、煙草と缶コーヒーを買っていた。僅かな金で在ったが、健吾に取っては大金に等しかった。
本来ならば、大切に使うべきで在った。けれども愚かにも、健吾はパチンコ屋の前で立ち止まっていた。パチンコ【玉出】の看板を眺めながら、健吾は紫煙を吐き出している。
たったの三千円で勝てる程、パチンコは甘い物ではない。だが、三千円で勝てる事も在るのも又、事実では在る。
「さて、行くか……」
煌びやかなネオンに誘われる様に、健吾はパチンコ屋に吸い込まれて行った。
喧騒に包まれる店内を、健吾は歩いている。
ゆっくりと台を品定めしながら、歩いている。一円パチンコのコーナーを、行ったり来たりとしている内に、在る台に視線を落としていた。
本日、大当たり回数が零。既に二千回転以上も回っていた。正に、大ハマり台で在る。
健吾はパチンコに詳しい訳ではない。と言うよりも、今まで数回しか打った事がなかった。はっきり言って、パチンコ初心者で在る。しかも、一度も勝った事が無かった。
人生で一度でも良いから、パチンコで勝って良い思いをしてみたかったのだ。今の自分は底辺に近い存在だ。そんな自分には、目の前の台がお誂(sつら)え向きな気がした。
台に着き、千円札を入れる。玉貸しボタンを押して、玉を出すとハンドルに手を遣った。
――どうか、勝てます様に。拙く儚い願いを込めて、ハンドルを右に捻る。次々に打ち出されるパチンコ玉。其の内の幾つかの玉が、ヘソと呼ばれる箇所に吸い込まれる。抽選が始まり、派手な演出に台は彩られる。大音量の期待が、玉と共に飲み込まれて往く。
数分後には、千円分の玉は全て飲み込まれていた。
二千円目の札を投入する手は、僅かばかり震えていた。逸る気持ちと焦りが、秘めやかに心を撫で附けている。パチンコ屋独特の空気に、健吾は飲み込まれている。
煙草に火を着けて、健吾は台を睨み付けていた。
――ちっとも、当たらない。音と見た目が派手なだけで、一向に当たる兆しが見られない。不安が胸奥を満たしている。既に健吾は、パチンコを打った事を後悔していた。其れでもどうしても、勝ちたかった。華の初出勤の門出を、買った金で祝ってやりたかったのだ。けれど、当たらない。穏和しく三千円で、細やかに祝ってやれば良かったと心底、後悔していた。残る千円では、してやれる事なんて高が知れている。
こうなったら、当てるしかない。けれど、胸中を不安が満たしている。
本当に、パチンコなんかで勝てるのだろうか。自分でパチンコ屋に来ておきながら、一抹の希望すら残っていない。
――と、其の時で在った。液晶画面を、でかでかと『激熱』の二文字が、金色の文字で埋めていた。一際に派手な効果音が鳴り響いている。隣りで同じ様に飲まれている中年女性が、恨めし気に此方を見ていた。
パチンコ初心者の健吾にでも、其の意味を理解する事が出来た。派手な演出を経て、派手なギミックが作動して、SPスペシャルリーチが発生した。
否が応でも、期待は高まっていく。激しく胸を打つ己の心音が、健吾の緊張を最高潮にまで高めていく。実際には短い時間では在ったが、健吾には相当な時間に感じられた。
長いSPリーチの果てに、再びギミックが作動して、液晶画面をスリ―セブンが埋める。
「当たった……」
信じられないと言った様子で、健吾は人生初の大当たりを体感した。驚きや喜びよりも先に、理解が追い附いて来ないと謂った様子で在った。
右アタッカーを狙え。
画面上に浮かぶ文字に従って、狼狽えながらも、健吾はハンドルを右一杯に捻った。
下皿から大量に吐き出される玉を見て、健吾は漸く笑みを浮かべていた。
「すげぇ……」
間の抜けた声を上げていた。
肆
町外れに建ち並ぶビルの一室に、ニコニコ金融と言う名の事務所が在った。
違法な金利で金を貸す所謂、闇金と言う奴だった。事務所に居る男達の顔は皆、一様に厳つい。蒐られた視線の先には、華の姿が在る。
全裸で正座をしている華を、オールバックの男――田辺が睨み付けていた。眼が合わぬ様に、華は俯いている。
「君さぁ……約束した事、覚えてる?」
ニコニコ金融の社長が、穏やかな口調で華に問い掛ける。未だ若い男で在った。険しい連中とは対照的に、とても穏やかな表情をしている。
「はい……。けど、もう少しだけ待って下さい!」
恐る恐る華は顔を上げていた。其の拍子に田辺と目が合い、僅かに弛緩していた筋肉が再び強張った。
「てめぇ、嘗めてんのか。返済期限は、昨日までだろうがっ!」
「田辺、煩い。黙ってろ」
抑揚の無い声音で、社長は田辺を諫める。其れが気に喰わなかったのか、田辺は華に無言の圧力を掛ける。そんな田辺を無視して、社長は華を見た。
「昨日から、居酒屋のバイトも始めたんです。ですから、もう少しだけ待って下さい。お願いします!」
必死に懇願する華。
嘘ではなかった。きちんと働いて、真面目に返済する心算でいた。けれども今回だけは、どうにも都合が附かなかった。
「良いよ。今回だけは、ジャンプさせてあげるよ」
五万円を華の眼前に投げ捨てて、社長は胸ポケットから《うまか棒》を取り出した。ジャンプとは、更に追加融資を受けて、利息分だけを返済する事で在る。其の場は凌げるが、とても危険な行為で在る。
安堵に表情を緩める華。
「けど、忘れるな。次は、容赦しない」
其の声には、研ぎ澄まされた刃物の様な鋭さが在った。田辺の見掛けだけの恫喝とは、全く比に為らない恐怖を感じて、華の心は恐怖に満ちていた。
一瞬で華の表情が強張ったのを確認して、社長は欠伸をした。詰まらない、と謂った様子で投げ掛ける。
「君、もう帰って良いよ」
「有り難う御座います!」
頭を地面に擦り付ける華。そんな自分が、酷く惨めで在った。何故だか涙が零れていた。悔しさと恐怖。そして嘆きの感情が、そうさせている。そんな自分が、愚かしく思えた。どうにかして、此の現状から抜け出したかった。死ぬ気で働いて、必ず完済してみせる。
――人間とは、愚かな者だな。
卑しい笑い声と共に、頭の中で声が響いた。
「どうかしたか?」
不思議そうに周りを見渡す華に、男の一人が問い掛ける。
「いえ、何でも有りません……」
華は慌てて衣服を纏って、事務所を後にした。
伍
小さな食堂の片隅で、羅刹と刹那はカツ丼を食べていた。
早々にカツ丼を平らげる羅刹とは対照的に、刹那は全く箸を付けていない。
「食わないのか?」
「タリムさんに、貴方の過去を少しだけ聞かされたの……」
幼い頃から鬼子と呼ばれ、忌み嫌われて育った事。両親に捨てられて、札付きと成った事。そして、生きる為とは言え、多くの悪事を働いてきた事。
其れ等の事実を、タリムに依って知らされた。羅刹に対して、軽蔑の感情は無かった。憐れみの感情も無かった。其の当時と現代では、物事の考え方が根本的に違う。
想像を絶する様な生涯を、羅刹は歩んで来たのだろう。刹那の心を、哀しみが満たしていた。
今の羅刹が騎士として、魔徒を滅ぼす者だと言う事は以前から知っていた。
けれども、其れが生前の罪滅ぼしで在る事は知らなかった。
羅刹の胸中を、自分では推し測れる物ではなかった。羅刹の抱える闇を、消し去る事も出来ないのだろう。其れでも、刹那は羅刹の力に成りたいと考えていた。一体、どうすれば良いのかは、解らなかった。
「刹那ちゃん、貴方は気負う必要はないわ。只、羅刹の傍に居てあげるだけで良い。貴方のお陰で、羅刹は変わり始めたのよ」
優しいタリムの声が、頭の中に流れた。
「羅刹。ゆっくりで良いから、己の闇を払って往きなさい。そして、多くの命を護るの。そうすれば、きっと貴方の心は、光に満ち溢れるわ」
諭す様に、羅刹に囁く。
「俺は……人を護りたい。此の間の様な、哀しみに満ちた人間を誰一人、生み出したくない」
真っ直ぐな瞳を、刹那に向ける。
「刹那。勿論、お前もだ。例え、お前が《禍人の血族》で在ったとしても、俺はお前を護りたい!」
「えっ……?」
戸惑う刹那。
「羅刹、貴方……其れが一体、何を意味しているのか、解ってるの?」
「解っているさ」
刹那には、羅刹の言葉の意味が解らない様だった。どうやら、何も知らずに育って来たのだろう。《禍人の血族》の事も、自分の力の事も、無自覚なのだ。
「刹那ちゃん。戦騎騎士と《禍人の血族》には、大きな溝が在るの――羅刹!」
話しを中断して、羅刹は立ち上がった。
「直ぐ近くに、魔徒の気配を感じる」
周囲を探る様に、羅刹は辺りを見廻していた。
陸
「バイト始めた祝いに、旨いもん好きなだけ、食わしてやる!」
意気揚々とバイクを走らせる健吾。其の後ろに座る華。以前は今の様に、二人でバイクに乗って出掛ける事が多かった。部屋の中でしか顔を合わせる事しかしなくなったのは、何時からで在っただろうか。別に不仲と謂う訳では無い。互いに時間は在ったが、何となくタイミングが合わなかっただけだ。金も無く、部屋で籠る事も多かった。
此れからは、少しずつでも二人で遊びに行こう。健吾は、そう心に決めた。
初めてパチンコで勝った為か、健吾は舞い上がっていた。単純な理由で在ったが、久々に心が弾んでいる。たったの三千円が、五万円に増えたのだ。此れが、喜ばずには要られない。健吾に取って五万円は、一ヶ月分の収入に等しかった。
「此れから、取って置きの店に連れて行ってやるよ!」
叫ぶ健吾の表情は、喜びに満ちていた。満面の笑みは、爛漫と輝いている。
こんなに気分が満ち足りたのは、数ヶ月振りの事で在る。走るバイクも心なしか、軽快だった。今日は信号に捕まる事もなく、全ての物事が自分を味方してくれている気がした。
「着いたぞ、華!」
行き着いた店は、何処にでも在る小さな食堂で在った。けれど、健吾に取っては、取って置きの店で在る。いつも、何かが在れば足を運ばせている。
「此処のカツ丼、めっちゃ旨いんだぜ!」
一年程前、健吾は此の店で食い逃げをしようとした。食う金にも困り、華にも相談する事も出来ずにいた。そして空腹に耐え切れずに、此の店に吸い込まれる様にやって来た。カツ丼を頼み、健吾は一気に平らげた。米粒一つ残さずに、綺麗になった器を見詰め続けた。財布の中は、空っぽだった。無銭飲食で在る。此の儘、逃げる事を健吾はどうしても出来なかった。勇気を振り絞って、店の大将に本当の事を打ち明け様とした。立ち上がろうとする健吾に、大将は幾つかの料理を差し出して来た。どうやら大将は、金が無いのを見透かしていた様だった。代金は要らないから、腹一杯に成って帰る様にと言う大将の言葉に、健吾は心から涙していたのを覚えている。其れ以来、健吾は金が出来る度に、此の食堂を訪れていた。
「……お、其の顔は何か良い事が在ったな!」
店に入るなり、大将は健吾に声を掛けた。上機嫌の健吾の笑い声に、阿阿大笑の声が絡み附く。大将の年齢は七十は越えていたが、溌剌とした様子で在る。いつも穏やかな笑みを張り付けている。
「大将、いつもの!」
健吾は此処に来ると、いつもカツ丼を頼んでいた。肉厚のカツに甘辛い汁が溶け込んでいた。フワッ……とした卵のトロトロの触感が、心地良く舌上で蕩けるのだ。
「あいよ……で、そっちの兄さんは、何にする?」
穏和な表情の大将。優しい眼差しを華に向けている。人生を達観しているのか、大将は人の心が見えている節が在る。不思議と大将の優しい笑みを見ていると、心が落ち着けられるので在る。そんな大将が目的で、店に足を運ばせる者も少なくはない。
中々の高齢者だったが、一人で店を切り盛りしている。本人曰く、年寄りの道楽。店を切り盛り出来なく為ったら、ころり……と、逝ってしまう。客が来てくれてる間は、死んでも死に切れない。だから健吾は金が出来れば、必ず大将に逢いに来ていた。
逡巡する華の眼が、健吾と交わる。にこやかに健吾が笑うと、華も釣られて笑った。
「……あ、じゃあ。カツ丼、お願いします」
「あいよ!」
威勢良く、厨房へと向かう大将。
二人はカウンター席に腰掛けて、勝手にグラスを手に取り水を注いだ。
「しっかし、急にバイト増やして……金に困ってんのか?」
「うん、まぁ……」
図星を突かれたと言う様に、口を濁す華。
其れ以上、何も言うなと言わんばかりに、華はグラスに視線を落とした。其の様子が少しばかり、寂しかった。
「まぁ、良いや。其れより、マジで此処のカツ丼、うめぇから楽しみにしてな!」
「あぁ……」
何故か気まずい雰囲気に成って、健吾は店内に視線を泳がせた。
隣りの席に、高校生ぐらいのカップルが、何やら神妙な顔付きで話していた。大方、別れ話でもしているのだろう。
そうこうしている内に、カツ丼が運ばれて来た。
早い、安い、旨い。が、此の店の売りだ。
「カツ丼、二丁おまち!」
後、大将の人柄も売りの一つだ。
「さぁ、食ってみろよ!」
湯気を立てる丼からは、芳ばしい薫りが漂っている。健吾に促されて、カツ丼を口に運ぶ華。
「旨い……めっちゃ、旨い!」
華の表情が、僅かに明るく成った。
「だろ!」
笑顔を返す健吾。
箸を手に取り、カツ丼を掻き込む健吾。
「やっぱ、此処のカツ丼は、最高だ!」
満足そうに笑う健吾。
釣られて、笑う華。
穏やかな空気が、二人を包み込んだ。
漆
華がカツ丼を半分程、平らげた時で在った。
柄の悪そうな男達が、来店していた。
其の中には、田辺の姿が在った。華の胸中を、昏い物が満たして往く。
「あれぇ~……。ウチで金を借りて措きながら、カツ丼ですかぁ。良いご身分ですねぇ~!」
「おい、田辺。次の返済期日は、まだ先だ。勝手な事をしたら又、社長に怒られるぞ?」
男の一人が、見下した様に田辺を止める。
「解ってるよ、うるせぇなぁ~!」
男の手を払い、田辺は不機嫌そうに席に着いた。其の時には既に、華の表情は、翳りを見せていた。
――愚かな奴等だ。人間は皆、愚かだ。
又、頭の中で声がした。甲高い男の声だった。けれど、其の姿は何処にも無い。
「どういう事だよ、華。まさか、お前……闇金に、手ぇ出したんじゃねぇだろうな!」
咎める様に問う健吾。健吾にだけは、知られたくは無かった。心配を掛けたく無かったからだ。掛け替えの無い友達だから、迷惑を掛けたく無い。
「そうだよ。悪いか……?」
口から出た声には、険が含まれていた。
「何で、俺に相談の一つもしないんだよ!」
「おい。こいつ等、内輪揉めし出したぞ!」
「放っとけ。そんな物、ウチの客じゃ珍しくもないだろ」
口々に卑しく笑う男達。
翳る健吾の表情。
「此の間、彼女が消えて……代わりに、こいつらが突然、やって来たんだ!」
「……んで、お前が女の借金、肩代わりしたんだよなぁ~……華ぁ?」
田辺が楽しそうに、高笑いを上げる。
「何だよ、其れ……」
「お前を、巻き込みたくなかったんだよ。健吾、俺達……親友だろ?」
「水臭い事、言うなよ。金なんか、俺が払ってやるよ!」
健吾が財布から、五万円を取り出そうとした。
「足りないんだよ!」
健吾の手を、慌てて止める。金を出させれば、健吾からも取り立て兼ねない。そう為れば、本当に友情に亀裂が入る気がした。其れだけは、絶対に嫌だった。
「そうそう。其れっぽっちじゃ……全然、足りないの。こいつ、ウチから五百万も借りてるから。けど、社長は優しいんだぜ。女の借金、肩代わりする代わりに、利息をトイチに負けてるんだからな!」
嘲笑が、店内を木霊する。
――薄汚く、醜い奴等だ。お前の女も、こいつ等と出来てるぞ。
内なる声が、悪魔の様に華の心を撫でる。どす黒い感情が、心を掻き立てる。
「其れは、本当か?」
――本当だ。こいつ等が、憎いか?
「あぁ、憎い……」
「おい、華。どうしたんだよ……。一体、誰と話してんだよぉ……?」
狼狽えた様な表情の健吾。健吾を見ていると、胸が締め付けられる様に痛かった。けれど、心の奥底から沸き起こる感情を、どうにも抑えれ無かった。憎しみの念が、田辺達に向けられる。
「ごめんな、健吾。お前の大切な店で、こんな事になっちまって……」
――我を受け入れろ。そうすれば、此処に居る奴等を殺してやろう。
内なる声の誘いに、抗えない。
「あぁ……受け入れる!」
染まる憎悪が、心地良く華の心を変貌させた。
捌
口々に、卑しい言葉を放つ男達。
虫酸が走った。
「羅刹、気持ちは解るけど……駄目よ」
「解っている」
戦騎騎士は、人間を傷付けてはいけない。其れが例え、どんなに虫酸が走る様な醜悪な人間で在ってもだ。人間を裁くのは、人間の役目だ。自分が立ち入るべきでは無かった。
其れよりも、今は魔徒だ。どの人間に、魔徒が憑いているのかを、見極めなければ為らない。早くしなければ又、犠牲者が出る。今迄の自分ならば、決して抱く事の無かった感情。其の想いが、羅刹を焦らせている。
――人を、護りたい。そんな想いが、羅刹の心に芽生えていた。
「貴様等、良い加減にせんか。寄って集って言いおって。恥を知れ!」
店の大将が、堪り兼ねて叫んでいた。
「何だと、此の糞ジジィが!」
男の一人が叫んだ瞬間、魔徒が動いていた。
少年の一人が、男の胸を手刀で刺し貫いていた。
「糞、遅かったか……」
又、一つの命を護る事が出来なかった。
自分は、騎士失格だ。だが、今は嘆いている暇は無かった。
魔徒が、もう一人の男に手刀を放とうとしている。短剣を引き抜き、手刀を受け止める。悲鳴と共に、店内を混乱と恐怖が蠢いていた。
「お前達、逃げろ!」
例え、虫酸が走る人間で在ろうとも、護り抜いてみせる。
己は、戦騎騎士なのだ。
全ての人間を護る。
我先へと逃げる男達。
少年と大将は、逃げなかった。
「お前達。何故、逃げない!」
「そいつは、俺の親友なんだ。見捨てるなんて、出来る訳がないだろ!」
又、魔徒と親しい人間が傍に居る中での戦いで在った。
だが、斬る事を躊躇う訳には往かない。誰かが傷付く事に成ってからでは遅いのだ。
「良く言った坊主。おい、兄さん。此処は儂の店だ。微力ながら、加勢するぞ!」
包丁を取り出しながら、大将が笑った。
「余計な事は、しなくても良い!」
はっきり言って、大将が居たら逆に足手纏いだ。
居ない方が良い。
「刹那、二人を頼む!」
「……え、頼むって?」
「お前には、タリムが居る。二人の近くに居るだけで、結界が張られる。行け!」
三者を背に庇う様にして、羅刹は前に出た。
「邪魔をするな、小僧!」
どうやら今回の魔徒は、依代の心を完全に支配している様だ。
最早、少年の自我は何処にもない。
次第に鬼神化する魔徒を睨み付けて、羅刹は戦騎を喚装した。
「華ぁ……お前、身も心も、化物になっちまったのかよぉ!」
「そうだ。奴を斬らねば、お前の友は永遠に化物の儘だ!」
「そんな……」
表情を暗くする少年。
「羅刹。魔徒の能力が、未だ解らないわ。気を付けて!」
「其の必要は無い。俺が逃げれば、後ろの三人が死ぬ。俺には、前にしか道は無い!」
炎を纏わせた大剣を構えて、前へと全身した。
其の突進エネルギーを利用して、魔徒へと大剣を刺し貫いた。
其の剣に最早、迷いは微塵も無かった。
人を護る。今の羅刹の胸は、其の想いで溢れていた。
――何が在っても、必ず護り抜いてみせる。
玖
「……あいよ」
店内に残された大将と健吾。薄暮の日に染まり始める店内に、哀しい暉りが満ちている。自分は何もして遣れなかった。二人で描いた遠い過去が、急激に健吾の心を絞め付けている。堪える涙。先程まで華が座っていた席を見詰めながら、惨めな自分が赦せなかった。
呆然と佇む健吾に、大将はカツ丼を差し出してきた。
「俺……カツ丼なんて、頼んでないよ?」
「儂の奢りだ。こんな事しかしてやれんが、食ってくれ」
優しく穏和な笑みを向ける大将。何時だって、大将は優しい。そんな大将が、健吾は大好きだった。
湯気を立てるカツ丼を、強引に掻き込んだ。白米に染み入る甘辛い汁に、カツの肉汁が閉じられた卵が絡み附いている。口内に溢れる芳ばしい薫り。
「旨い……。旨いよ、ちくしょう……やっぱり、大将のカツ丼は最高だ……」
涙と共に、カツ丼を平らげる健吾。自分は変わらなければ為らない。華の分も性根を入れて、確りと生きなければ顔向け出来ない気がした。
次第に傾く日が、店内を朱に染め上げて往く。静かに湛えた覚悟を抱いて、健吾は立ち上がった。
拾
「嫌だ、嫌だ……ふふふ。年末だと言うのに、そんな顔をしないでおくれよ」
昭久が、年端もいかぬ少女を見据えていた。ナイフの刃先が、心地良い感触を伝えてくれる。恐怖に染まった眼まなこが、非常に唆らされる。
町の外れに在る小さな社。大晦日だと言うのに、参拝者は誰一人としていなかった。詰まりは、潜伏するのに持って来いと言う訳だ。死に損ないの老神主は、既に始末した。目の前の少女以外は、生存者は居ない事も確認済みだった。最高の塒だった。
「今宵は大晦日。除夜の鐘の代わりに……巫女の悲鳴でも聴いて、年を越すとしようか?」
恐怖に顔を歪めて、震えながら昭久を見る少女。何度も何度も、優しく切り刻んであげよう。気が触れる迄、丁寧に恐怖を植え附けてあげよう。
糞尿を垂れ流して、余程に恐怖しているのだろう。可哀想に……。優しく、じっくりと壊してあげよう。
「おいおい……君。随分と恐がって、どうしたんだい?」
昭久は、僅かばかりの違和感を抱いていた。少女の様子が、おかしいのだ。
獲物が恐怖するのは、何時もの事で在ったが、其の恐怖が自分に向いていない。
「私は……こう見えても、紳士なんだよ……。安心し給え。優しく、君を……殺してあげるから……ふふふ……」
震える指先で、明後日の方を指差す少女。
矢張り、何か在る様だ。
「何か、言いたいのかい?」
口を塞いでいる為、少女は呻く事しか出来ないでいた。
猿轡を取って遣ると、か細い声で呟いた。
「タタラ様に、呪われる……」
少女が指差す方に、視線を送る。
「タタラ様って、さっき私が壊した御神体の事かい?」
視線の先には、粉々に成った仏像の残骸が在った。
「貴方は、きっと……タタラ様に呪われるわ!」
怨めしそうに、少女は叫んだ。
「いいや……其れは、違うね。タタラ様は……私に、味方してくれるよ……」
――お前が、私の封印を解いた者か。
「ほらね……。声が、聴こえた」
嬉しそうに、愉しそうに、昭久は少女に囁いた。
「そうだ。私が、お前の封印を解いた。私に力を授けるが良い。そうすれば、騎士ですら斥けてみせよう!」
――ほう、面白い事を言うな。お前の様な邪悪な人間は、此の数百年は見ていない。
「御褒めに預かり、光栄だね」
少女の身体が、異常に迄に震えていた。全身から、凡ゆる体液を垂れ流している。
――気に入った。お前こそ、我が依代に相応しい。
「さぁ、タタラ様……私に、力を与えるが良い!」
邪悪な魔物が、邪悪な心の奥深くへと入って往った。昭久の身体を、溢れんばかりの力が満たした。
古の時代。多くの戦騎騎士を屠った魔徒が存在した。数多の英雄が立ち向かい、屠られた。戦騎と騎士の屍の山を築き、人々に恐怖と死を招いている。邪悪なる魔獣・タタラの名は、多くの戦騎騎士を震え上がらせた。だが数百年前に、多くの騎士の犠牲と共に、此の社に封じ籠められた。
其の邪悪なる魔獣・タタラが、此の東山昭久の力と成った。何者にも自分を止める事は出来はしない。
少女の断末魔の悲鳴を喰らって、昭久は甘美な眩暈に包まれた。