第二話【鬼子】
壱
神峰史華は、自他共に認める天才で在った。
成績は常にトップ圏内。容姿は淡麗で、素行も良い。スポーツも万能で、正に欠点が無い完璧な人間で在る。
彼女が発する言葉には、不思議な説得力が在った。美しい凛とした声は、人の心の正鵠を射抜き、甘く魅了して止まなかった。魅せられた者は皆、一様に武陵桃源の地に立たされたかの様に、夢心地の表情をしている。
周囲からは常に、羨望の眼差しを注がれていたし、畏れられてもいる。洗練された美に彩られた容貌は、他の追随を許さない。史華は旧態依然を良しとはせずに、常に己を練磨していた。連綿と受け継がれて来た美の観点を捨て、独自の手法を取り入れていた。
其れは『食』に重きを置く事で在った。生き物は食べる事に依って、其の状態が大きく左右される。其れは、美容に関しても例外では無い。
例えば大豆イソフラボンは女性ホルモンで在るエストロゲンに似た働きをして、肌を美しく保つ事で知られている。ワイン等に含まれるフラボノイドには殺菌作用の他に、血中コレステロールを低下させる効能が在る。食べる事に依って体調を整える事は、漢方に於いての『薬食同源』にも通ずる思想で在る。食べると謂う行為は薬を飲む事と同じだと謂う考え方で、古くから脈々と受け継がれて来ている。
そして其の考え方は、史華を更なる段階へと導いた。
『美しい』と謂う事は、強さと密接に繋がると考えていた。自然界の『捕食者』は、強いからこそ弱者を喰らえるのだ。力の儘に蹂躙する様は、美しい。野生の熊やライオンは、強いからこそ獲物を捕らえる事が出来る。悠然と佇む優雅な『捕食者』は、強いからこそ美しいのだ。
史華が初めて彼等に魅せられたのは、七歳の頃だった。神峰財団の総帥で在る父は、史華にも頂点で在る事を幼い頃から義務付けた。強さを学ばせる為に、サバンナに幼い史華を向かわせた。勿論の事だが、護衛の者は附けさせた。併し其れは、最小限の物だった。極限状態の中、幼い史華は必死に生きる術を探った。其の中で、史華は『捕食者』に出逢った。
ライオンの群れが、一匹のシマウマを捕らえていた。物悲しい瞳で遠くを見詰めるシマウマの喉元に、其の雄々しき牙は無慈悲に突き立てられていた。其の様は美しく雄弁に、史華の心に語り掛けていた。強く在る事の必要性。美しく在る事の必然性。其の時に史華の中で、価値観――アイデンティティーや『魂』の在り方が、厳かに決定していた。
幼いながらに、自分自身も『捕食者』と為る事を誓っていた。以来、史華は狩りを嗜む様に為った。
狩りには、最低でも五人。多い時には、二十人以上の部隊を編成した。皆、狩猟に長けた者ばかりで在った。そして仕留めた獲物の脳を、其の場で食した。
国内外を問わずに、史華は実に様々な『捕食者』を喰らいに行った。肉食獣の脳は皆、例外に漏れる事なく苦く其の奥に、ほんのりとした甘みを含ませていた。
――強者の脳を喰らう。
其の行為こそが、魔性の『美』を授けたと史華は信じていた。強者を喰らうからこそ、自分は誰よりも美しい。
史華には、確信が在った。
そして史華は、どんな些細な事ですら、等閑にはしなかった。あらゆる学問の習熟に励み、身体も鍛えた。其の一方で、女性らしい美の追求も怠らなかった。女性本来の魅力の一つに、身体の柔らかさが挙げられる。詰まる処は、程良く脂肪を残す様に身体を練磨したのだ。程良く太り、程良く鍛える。必要な筋肉は附けるが、残すべき箇所には脂肪を留める様に意識した。
そうして作り上げた身体は、妖艶な色香を帯び始めた。そして、多くの人間を魅せた。
だからこそ、史華は孤高で在った。別次元の存在で在るが故に近寄り難く、其の美しさには畏れが附き纏った。
在る者達は、史華を天使と形容した。美しく聡明で、神の寵愛の全てを受けた存在と比喩した。
史華の通う私立晴明女学院は、富裕層の家庭に育つ所謂、お嬢様が集まる学校で在った。
生徒の大半は品行方正で、其れなりの教育を施されていてプライドが高い。
そういった者達の心を、魔性とも言える史華の存在は魅了している。
史華を奉り上げて、常に周囲を取り囲む彼の者達。
彼女達は『神峰史華親衛隊』と、周囲に称えられている。――尤も。其の呼称には、悪意が含まれている。生徒の半数近くは、史華の心の奴隷だ。残り半数の生徒達は、史華を畏れ嫌悪している。
人成らざる者。
――鬼の子。其の呼称には、生徒達の嫌悪、悪意、畏怖、妬み、あらゆる負の感情が籠められている。
神峰史華は人外の存在。
人の心を魅了して、喰らう。其の存在事態が、異質で異端だ。
そして周囲の視線に、史華は気付いている。
向けられる畏敬の念に、史華は満足している節が在った。
自室の大きな鏡の前で、史華は己の姿を見ていた。
「……美しい。私は、誰よりも美しい。皆が私を崇め敬い、そして恐怖する」
史華は嘲る様に笑った。
其の目には、狂気にも似た執念を宿していた。
自分は常に、完全でなければならない。
欠点等、在ってはならない。己よりも優れた者は、存在してはいけない。
学園内で史華よりも美しい者は、誰一人として存在しない。だが、己よりも成績が良い者、身体能力が優れた者が、何人か存在している。
史華には其れが、どうしても赦せなかった。歯痒かった。嫉妬が黒い畝りと為って、心に鈍く纏わり附いた。其の感情は、自分自身の『弱さ』の象徴で在る様に思えて、吐き気が催した。『弱さ』とは、自分の求める美の対極に位置している。だからこそ余計に、赦せないのだ。
――私が貴方を、完全にしてあげましょうか?
「誰かいるの?」
唐突に、女の声が聞こえた。とても美しい、澄んだ声だった。心を甘く痺れさせる其の声に、無意識の内に嫉妬していた。
辺りを見廻すが、誰も居なかった。胸が締め付けられた。嫉妬や妬みと謂った感情が、そうさせている。不意に理解を深めた時、鏡に映る姿を見て気が狂いそうに為った。
醜い老婆が、其処に居た。肌は浅黒く爛れて、痩せ瘠けた醜女と変わり果てた自分。目を背ける事も出来ず、鏡を凝視して史華は絶叫していた。
叫び声に、若い女の笑い声が絡み付いた。
「誰なのっ……何処に、居るの?」
背後を振り返るが、誰も居ない。焦りと猜疑心が、頭の中を埋め尽くしていた。得体の知れない恐怖が、静かに自分の中を侵食して、穢して往く。自分は今、間違いなく『捕食』される側に廻っている。
――在っては為らない。
そんな事は、何が在っても赦されない事で在った。自分が何者かに依って喰われるなんて事は、在っては為らないのだ。
「姿を見せなさいっ……」
上擦る声には、恐怖の色が含まれていた。史華自身も、其の事に気付いていた。苛立つ心と、恐怖の感情が混ざり合って、史華は何者かに蹂躙されている事を実感した。臓腑が煮えたぎる様な憎悪が、胸懐を満たしている。呼吸が荒れているのが解った。全身を脂汗が粘り附いて、酷く惨めな気分にさせられた。絶対に赦さない。相手が何者で在ろうが、喰らうのは自分の方だ。
涙が浮かぶ瞳を堪えて、鏡を睨み付けていた。老婆は既に居なく為り、美しい姿に戻っていた。深く息を吸い込んで、心を落ち着け様とした時、其れは姿を現わした。
史華の背後に、女が映っていた。
慌てて振り返るが、女なんて何処にも居なかった。だが、視線を鏡に戻すと女が居る。どうやら、女は鏡の中にのみ存在するらしい。其れにしても、美しい女だった。白く透き通った肌は、吸い込まれそうに艶やかで。妖艶な瞳は、見る者を惑わせる。秘めやかに心を撫で、同性で在っても魅了してしまう美貌。想わず女に羨望の念を抱いて、史華は嫉妬と怒りに心を掻き乱された。
先程の老婆の姿を見せたのも、女の仕業で在る事を理解して、史華は怒号を上げようとした。
――私の様に、美しく為りたいんでしょう?
唐突な女の言葉に、史華は思わず制止していた。
女が史華の肩に、ゆっくりと手を廻す。
「為りたい。貴方よりも、もっと美しく為りたい!」
気が付けば、史華は答えていた。純粋な想いからだった。誰よりも、美しく為りたかった。誰よりも――そう、目の前の女よりもだ。
妖しく嗤う女。
――なら、私を受け入れなさい。至上の『美』を、貴女に授けてあげるわ。
「良いわ。来なさい。そして、私の美貌を、全てを高めて!」
迷う事無く、史華は応えていた。
鏡から女は現れて、史華の瞳の中に吸い込まれていった。
鏡を覗き込み、史華は妖しい微笑を浮かべていた。
「美しい。私は誰よりも、美しいわ!」
更なる美を手に入れて、史華の心は舞い上がっていた。
弐
闇に溶け込む様に、羅刹は気配を圧し殺している。夜気の冷たい空気が、肌を撫でる。
真夜中の私立晴明女学院。其の校舎に一人、闇を見詰めていた。まだ幼さが残る其の面には、大きな傷跡が残っている。
「タリム。本当に、こんな処に魔徒は居るのか?」
「居るわ。間違いなく、魔徒の匂いの痕跡が在る」
羅刹の頭の中に直接、幼い声が響く。
彼女の存在は、現世の世界では虚ろな物で在った。
故に実体を持たない。
尤も彼女の力を以ってすれば、実体を生み出す事は可能だった。
「奴は何処に居る?」
「さぁ。朝に為れば、解るんじゃない?」
無責任に、タリムは答える。
「しかし、学校とか言う寺子屋は、物凄い規模だな……」
関心する様に、羅刹は呟いた。
「貴方が生きた時代とは、随分と変わってしまったもの」
羅刹は現代の人間ではなかった。生まれた時代は、江戸。過酷な宿命を負って、現世に転生された存在。
魔徒と呼ばれる魔物を狩りし者。彼奴等は人の闇に巣食い、人を喰らう魔物。放っておけば、人は簡単に滅ぼされてしまうだろう。
黒いコートに身を包み、腰には短剣を提げている。
「在れは、何だ?」
美しく光り輝く蝶が、無数に闇の中を舞っていた。邪気は全く感じられない。
「どうやら、魔徒に喰われた者達の残留思念の様ね。神峰史華は鬼の子。人を惑わし、魅了して、喰らう。そう、言ってるわ」
「鬼の子か……」
「昔の事を、思い出したかしら?」
「そんな物、疾うに忘れたさ」
羅刹は江戸の世を、鬼子と畏れられ、人を殺め続けて生きてきた。幼い頃から両親に虐げられ、そして捨てられたのだ。
江戸時代に於いて、親類・役人等が証人となり作成した勘当届書を名主から奉公所へ提出し、奉公所の許可が出た後に人別帳から外し、勘当帳に記される事で勘当は成立する。
其の際に、人別帳に「旧離」と書かれた札を付ける事から、札付きの悪と呼ばれた。
札付きとなった羅刹は、生きる為に、奪い、人を殺めてきた。
本来なら、地獄の業火で焼かれる宿命で在ったが、閻魔大王の計らいで魔徒を狩る為の騎士と成った。
「タリム。結界を張ってくれ。朝を待つぞ」
「学校を、戦場にするつもり?」
此れまで羅刹は騎士として、多くの魔徒を狩ってきた。
だが、人を護る事は考えていなかった。
「俺は、奴等を狩るだけだ。他の奴等が、どうなろうと知った事か!」
羅刹には、人を思い遣る心が欠けていた。
此れまでも魔徒を狩る戦いで、幾人もの人間を巻き込んできた。
タリムは幾度も、羅刹を諭し続けた。けれど、羅刹は其れに応えようとはしなかった。
羅刹が変わらない限りは、宿命から抜ける事は出来ないだろう。そんなタリムの声を、羅刹は聴こうともしなかった。別に、どうでも良かった。現世も、地獄も、大して変わらなかった。抜き身の刀として、魔徒を斬る為だけに自分は存在している。誰がどう為ろうとも、構いはしない。
タリムは結界を張る為に、意識を集中させていた。其の証拠に、いつもの小言は返って来ない。
宙を無数の印が、張り巡らされて溶け込んでいく。魔徒に反応して、別空間へと引き摺り込む結界で在る。
尤も、特殊な能力や才能が在る者は、無意識の内に入り込んでしまう。
そう謂った者は稀では在るが、人が集まる場所を戦場に選ぶべきではなかった。そんな事は、知っている。だが、関係ない。先日、出逢った少女――刹那を護った時は、単に気紛れだったのだ。そう、思う様にしていた。頭の片隅に時折、過ぎっては羅刹を苛つかせていた。胸裏の奥底に宿る感情を、羅刹は無視していた。
「俺は、少し眠る」
羅刹は座り込むと、胡坐を掻いたまま眠りに就いた。
他者の事なんて、どうでも良い。
参
「お嬢様、おはようございます」
執事の比津地が、寝起きの史華に頭を下げる。其の後ろにも、幾人もの召し使い達が控えている。
天鵞絨のドレスに身を包んだ史華が、ゆったりとした動作で歩きながら、皆に微笑み掛けた。其れだけで場に居る者の表情が、僅かに弛緩するのが解った。静謐な空気が場を埋める中、一同の視線は史華へと注がれていた。皆が自分の虜と為っている。男も女も、老いも若きも、史華に魅了されていた。
史華は日本有数の大富豪、神峰財団の御令嬢で在る。
正真正銘のお嬢様で在る。余り在る財と、恵まれた才。そして神も悪魔も区別なく魅了するだけの『美』を、自分は兼ね備えている。皆が魅了されて、羨み妬むのも無理はない。此の世界は、自分の掌の上を廻るのだ。
「御早う、権座衛門」
穏やかな笑顔を、比津地に向ける史華。其の笑顔に、屈託は無い。妖艶な微笑では無く、無垢なる少女の笑顔で在った。比津地は史華が幼い頃から仕えている。史華が心を許せる数少ない人間で在った。故に其の笑顔は自然な物で在ったし、温かで在った。尤も史華自身は、其の事に気付いていないのだろう。
「お嬢様、今日は一段と御美しゅう御座います」
比津地の言葉には、嘘はなかった。
いつだって、比津地は史華に対して真摯に向き合ってくれている。
時には厳しく、自分を優しく気遣ってくれる比津地が、史華は大好きだった。
忙しい両親に代わり、比津地が史華を育ててくれていた。
故に史華に取って、比津地は家族も同然で在った。
唯一、史華が人の子で在れる相手と謂っても、決して過言では無い。
「史華様。失礼、致します」
専属のスタイリストの小池が、史華の髪の手入れをしようと頭を下げる。
史華の身の周りの事は、召し使い達が全てしてくれていた。全て其の道に長けた者ばかりを、比津地に集めさせていた。比津地の采配に、史華は口出しする心算は無かった。
けれど史華は小池の事を、卑近な男だと軽蔑していた。話す言葉もヘアメイクの腕も、通俗的で面白味の欠片も感じられなかった。
黙々と髪に櫛を入れる小池の指を見て、思わず嫉妬してしまった。
男の癖に、美しい指をしていた。
そう、自分よりも美しい指だった。史華には其れがどうしても、赦せなかった。
妖艶な笑みを浮かべて、史華は小池に目線を送る。小池は其れだけで、史華に魅了されてしまっていた。
小池は召し使いとしては日も浅く、まだ若かった。二十代前半、と言った処か。史華の美貌に掛かれば、小池程度の男を虜にするのは容易かった。
「権座衛門、食事の支度をしなさい」
「畏まりました」
比津地は一礼すると、静かに退室した。
「他の者達も下がりなさい」
言われる儘に、小池を残して召し使い達は部屋を後にした。
「ねぇ、小池。貴方はもう、私に夢中でしょう?」
立ち上がり、史華は衣服を脱ぎ捨てた。
美しい肢体が、顕わになる。一糸纏わぬ史華を見て、小池の目線と心は奪われていた。
妖しく嗤う史華。小池の息は、次第に荒くなる。
ゆっくりと、史華へと手を伸ばす。
柔らかで豊満な乳房に触れる寸前で、小池の手が止まる。
「貴方、如きが……此の私に触れる事は、赦さないわ」
「申し訳、御座いません……」
「跪きなさい」
史華の言葉に従う小池。
「貴方の全てを、私に捧げなさい」
史華の腹に、鏡が埋め込まれていた。
其の鏡に、小池の姿が映っている。
「私の全てを、史華様に捧げます」
小池の体が、少しずつ鏡に吸い込まれていた。
魔徒と成った史華に、喰われているのだ。
「私の美貌の前では、全ての者が無力だわ」
史華は誰も居なくなった部屋で、嗤っていた。
肆
「羅刹。誰かが、結界に入ったみたいよ」
「魔徒が現れたか?」
何処にも、邪悪な気配は感じられなかった。
「どうして、あいつが此処に居る?」
「どうやら、此処の生徒の様ね」
「そんな事を、聞いているんじゃない」
羅刹の視線の先には、刹那が居た。何故だか解らないが、苛立ちが秘めやかに心を撫でて、落ち着かなかった。こんな事は、初めてだった。思い通りに為らない感情を胸奥に押し込んで、刹那を睨み附ける。
此の結界の中には、普通の人間は入れない。矢張り、刹那には不思議な力が在る様だ。本人に其の自覚はないのだろうが、力を持つ者は魔徒に取っては極上の餌と成り得る。
つまり其れだけ、魔徒に狙われ易いと言う事だ。刹那がどう為ろうが、自分にはどうでも良かった。
「貴方、どうして此処に居るのよ?」
此方に気付き、刹那が怪訝な表情を向ける。育ちが良さそうな、穢れの無い瞳に見詰められて、思わず眼を背けていた。
「其れは、此方の台詞だ。どうやって、入って来た?」
「おかしな事を言うのね。私は、此処の生徒よ。普通に入って来たに決まってるじゃない。其れよりも、勝手に入って来たら駄目じゃない!」
羅刹が苛立ちながら、口を開こうとした時だった。
「魔徒が、学園内に入ったわ」
「誰?」
訝る刹那。
「奴は、何処に居る?」
そんな刹那を無視して、羅刹は口を開く。談論風発を始めている暇は無い。
「残念ながら、結界の中には居ないわ」
「どういう事だ?」
「何らかの力で、結界を中和しているみたい。厄介ね」
詰まる処、魔徒を結界内に閉じ込める事が出来ないと言う訳だ。
「其れに此処は、人が多すぎるわ。誰が魔徒なのか特定、出来ない」
「不味いな……」
羅刹は闘う以外の事は、全てが不得手で在った。
人の暗幕で遮蔽されている魔徒を、炙り出すのは至極困難だ。学校と謂う偏差的空間は、格好の隠れ蓑だと謂う訳だ。
「一体、誰なの。何処に居るの?」
困惑する刹那。
不思議そうに、辺りを見廻している。
「お前、タリムの声が聴こえるのか?」
刹那との齟齬に一々、苛立つ羅刹が問い掛ける。
「タリムって言うの?」
「どうやら、此の子。《禍人の血族》の様ね」
「矢張り、そうか」
《禍人の血族》とは神と呼ばれる存在と契約し、魔徒を倒す術を得た一族の事だ。其の存在は、神と呼ぶには余りにも禍々しい存在で在る。
此の世界には、数多の神々が存在している。其の土地に眠る神と契約した者は、力を得る為に対価を支払わなければならない。
《血の定め》と《地の掟》で在る。
《血の定め》に依り、禍人が得た力は、子や孫へと継承され続ける。当人の意思に関わらず、生まれた時から神に仕える事を宿命付けられるのだ。
そして、神の定めた掟を守らなければならない。《地の掟》は絶対で、抗う術はない。又、神の赦しなくして、其の土地の外に出る事も出来なかった。
「良い事を、思い付いた」
妖しい笑みを浮かべる羅刹。
其の視線の先には、刹那が居た。
「羅刹、貴方……まさか?」
「そうだ。こいつを、囮に使う」
「駄目よ、そんなの。危険だわ!」
「一体、何の話?」
当の本人は、至って暢気な様子だった。
「こいつは、魔徒に取って極上の餌だ」
「魔徒って、まさか。此の間みたいな怪物が又、現れたの?」
「そうだ。そいつは、此の学園の生徒に紛れている。放っておけば、罪もない生徒達が奴の餌食になる。まぁ、俺には関係ないがな」
冷淡な口調で、最後を締める。
「駄目よ、そんな事。放って、置けないわ!」
刹那は表情を強張らせて、喰って掛かった。
「私に出来る事なら、何だってする。だから、皆を護ってあげて。お願い、羅刹!」
真っ直ぐな瞳で、羅刹を見据える。其の瞳には、覚悟の光が灯っていた。
迷いの無い純粋な意気地に当てられて、羅刹の心は乱されていた。他人の為にどうして其処まで出来るのか、羅刹には理解、出来なかった。苛立ちは消え失せて、刹那に対する純粋な興味が残っていた。
「貴方の覚悟は、解ったわ。なら、私の分身を授けるわ、刹那ちゃん」
白く半透明な石が付いたペンダントが、虚空に現れた。
「其れを付けていれば、貴方を危険から護ってあげれるわ」
「ありがとう、タリムさん」
「なら、決まりだな。俺達は、此処で待っている。頼んだぞ」
伍
教室の真ん中の席に、静かに佇む史華。只、其れだけなのに、皆の視線を集めている。
凛とした其の佇まいに、クラス中の人間が魅了されていた。皆が陶酔する中を、史華は悠然とした姿勢で佇んでいる。教室内を慥かに、独特なドグマが内在していた。皆の寵愛を一身に蒐めていた。
生徒も教師も、史華に魅入られている。
其れ程までに、史華は美しかった。
「跪きなさい!」
其の場に居る者が皆、史華に従った。
史華の妖艶な美と魔性に、皆が操られている。此の場に居る者は皆、史華の傀儡と化していた。
――戦騎騎士が、私達を狙っているわ。
内なる声が、史華に囁き掛ける。
「解っているわ。私の美しさの前には、如何なる者も無力に等しい。此れから、其れを証明してみせる」
妖しく嗤う史華。何者もにも、屈服する心算はない。『捕食』するのは、常に自分でなければ為らない。
「其処の貴女。此方へ来なさい」
生徒の一人に、声を掛ける。史華の言葉に従う生徒。生徒の名前は、観月。先日の体力測定で観月は、史華より良い結果を出していた。
ほんの些細な差では在ったが、史華は赦せなかった。自分より少しでも優れた存在を、史華には赦せなかった。どんな理由で在ろうとも、嚥下する訳には往かない。
「貴女の全てを、私に捧げなさい」
「畏まりました。私の全ては、史華様の物で御座います」
史華の腹に埋め込まれた鏡に、観月の顔が映り込む。あどけなさが残るが、可愛らしい顔をしていた。活発そうな娘だった。本当に、気に喰わない。
観月の体が、ゆっくりと鏡に吸い込まれて消えた。
「此れで又、一つ。私は、完全な存在に近付いたわ!」
心地良い甘美の渦が、史華の体を包み込んだ。
己よりも優れた人間を喰らって、完全なる美を求めていた。
「貴女達、私に平伏しなさい。私を崇めなさい。貴方達の全ては、私の為に存在する」
恍惚の表情を浮かべて、史華は両手を広げた。
「此の学園の中に、私を殺そうとする者がいる。其の者を見付けて、捕らえなさい!」
授業終了のチャイムが鳴った。
其の瞬間。何事もなかったかの様に皆、日常へと戻った。
陸
「魔徒に憑かれそうな生徒に、心当たりは在る?」
タリムが刹那の頭の中に直接、語り掛ける。
「解らないわ」
「魔徒は、人の心の闇に付け込むの。何処か、心に陰りが在る人を知らない?」
そう言う意味では、殆ど全ての人間が該当すると刹那は思った。多感な年頃で在る女子高生には、悩みの種は尽きない。好きな人がいる。勉強が出来ない。嫌いな人がいる。ニキビが出来た。親が煩い。飼っているペットが、いつもより元気がない。部活が忙しい。人間関係が、上手くいかない。
数え上げれば、切りがない。
刹那ぐらいの年齢の女子ならば、ほんの些細な事でも悩みの種となった。そして、其の悩みの種は次第に育ち大きくなる。
きっと、魔徒に付け込まれる様な、心の闇へと成長する。
此の学園の全ての人間が、魔徒に憑かれる可能性を孕んでいた。
「御法院さん、ちょっと良いかしら?」
「貴方は、えっと……?」
隣りのクラスの生徒だったが、名前が解らなかった。
「私は、山下よ。少し、話しが在るの。ついて来て」
刹那には、山下に呼び出される心当たりはなかった。そもそも、話すのも初めてだった。
山下の事で解っているのは、神峰史華親衛隊で在る事ぐらいだ。
「直ぐに終わるの。ほんの少しだけ、お願い。ね?」
「解ったわ」
漆
白い装束を身に纏った男が、私立晴明女学院の屋上にいた。
憂いの帯びた眼をしていた。何処か哀しそうな、けれど力強い意志の宿った眼だった。百八十は在ろうかと謂う上背は、引き締まっている。筋肉質の四肢が、男の力を雄弁に語っている。まるで男は風を纏っている様だった。物静かで在るが、重厚な佇まいは、男が並の手練れでは無い事を告げている。
男の肩には鷹が、足元には狼が居た。《禍人の血族》に附き従う霊獣だ。
「香流羅、此の学校に魔徒が居るよ」
鷹が男に囁く。
「けど、此の学校って確か……」
「そうだ。あいつの通ってる学校だ」
男が不敵な笑みを浮かべる。
「だが、既に戦騎騎士が来ている様だな」
狼が、男を見上げる。
男の眼前には、羅刹の姿が映像として浮かんでいた。
「まずは、お手並みを拝見させて貰うとしよう。赤丸、青丸。俺と奴、どっちが強いと思う?」
男は好戦的に問い掛ける。古来より、戦騎騎士と《禍人の血族》の間には、大きな溝が在った。
「香流羅に決まってるよ」
「お前は、我等が長に選ばれた男。戦騎騎士等に、遅れを取るべくもない」
二頭が口々に答える。
「まぁ、直ぐに解るさ」
捌
「ようこそ、御法院刹那さん」
山下に連れられた教室の中央に、史華が居た。
教室の中には神峰史華親衛隊が佇んでいた。
其の光景は異様で在った。史華はまるで、女王の様だった。
「貴女を呼び出した理由は、他でもないの」
「刹那ちゃん。どうやら、彼女が魔徒の様ね」
「嘘。神峰さんが、心に闇を抱えてるなんて……」
刹那には意外だった。
史華は全てに於いて、完璧で悩みとは無縁の存在だとばかり思っていた。常に自信に満ちて、皆の憧れの的で在る史華には、刹那も少なからず憧れの念を抱いていた。だからこそ意外だったし、ショックも受けていた。
史華がゆっくりと、刹那の元へと歩んで来ていた。肌を厭な空気が撫で附けて往く。自然と身体が強張るのが理解った。
「ずっと前から、思っていたの」
そっと、刹那の頬に手を当てる。悪寒が全身を衝き抜ける。
「貴女の其の、極め細やかな白い肌。透き通る様な、漆黒の髪。とても、美しいと思っていたのよ」
刹那の髪を撫でる史華。
周囲の者達が、刹那に羨望と嫉妬の目線を送る。
「本当に、美しいわ。本当に……」
史華は衣服を脱ぎ捨てる。
「気に喰わないわ!」
腹に埋め込まれた鏡に、刹那の姿が映り込む。
どうやら史華は、刹那を喰らうつもりの様だ。
「あら、残念ね。刹那ちゃんは、食べれないわよ」
「貴様、戦騎の加護を受けているのか!」
タリムの存在が、魔徒の食事を妨げていた。
「為らば、殺すまでよ!」
史華の合図で、神峰史華親衛隊が動き出した。
「其処までだ!」
羅刹が、何も無い空間から出現した。
「戦騎騎士か。お前に、罪の無い人間を斬れるのか?」
神峰史華親衛隊は、操られこそしているが、只の人間だった。
刹那は彼女達を護りたかった。
「斬れるさ。俺は、咎人だからな」
無情な羅刹の声音。不安が心を過ぎった。
「駄目よ、羅刹。罪の無い人間を斬ったりしたら、地獄に落とされるわよ」
「解っている。今の俺は、騎士だからな。殺しはしない!」
一気に、史華との間合いを詰める。
速すぎて誰も、羅刹の動きに反応し切れなかった。既に羅刹は、戦騎を喚装していた。
刀に依る一閃を、史華に浴びせる。
だが、深手を負わせる迄には至らなかった。
「貴女達、私を護りなさい!」
謂われる儘に、神峰史華親衛隊が羅刹を阻む。
「糞、こいつら邪魔だ!」
羅刹は戦騎の喚装を解いて、刹那の元へ向かう。
まるで刹那を護ろうとするかの様に、刹那の前を遮っていた。
「刹那。此処は一旦、退くぞ!」
刹那を連れて、羅刹は教室を後にした。
玖
「何なのよ、あいつ。私の美しい肌に、傷が附いたわ。嗚呼、こんなに血が出てる。もう!」
史華は憤っていた。
血に塗れる己の姿を見て、憤慨している様子だった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
比津地は血相を変えて、駆け寄っていた。史華に幼少の頃から仕えてきていた。実の娘よりも、史華の存在が大切で在った。史華の幸せの為ならば、どんな事でも出来た。
「嗚呼、比津地。痛い。痛いの。私を助けて!」
血に塗れる史華を見て、憤懣やるかた無い想いに満ちていた。
「此の比津地権左衛門、お嬢様を御守りする為なら、此の命投げ出す覚悟は出来ております!」
「なら、私の代わりに死んでくれる?」
史華の為ならば、喜んで我が身を捧げる事が出来た。
「私に出来る事なら、何なりと御申し付け下さい。必ずや、史華様のお役に立ちます」
自分は何時如何なる時も、史華の事だけを考えて生きてきた。史華の幸せだけを願い、史華の為ならば何でも出来た。
既に史華が、以前とは違っている事に気付いていた。人ではない存在で在る事も、薄々は勘付いていた。其れでも比津地には、史華に生き続けて欲しかった。
幸せになって貰いたかった。
例え人外の道を歩もうとも、史華に仕え続ける覚悟が出来ていた。
全ては、史華の為。
比津地も又、主と共に人の道を外れる決心をしている。道を過とうとも、史華を護る肚は附いている。
史華の為に死ねるならば、此の命は少しも惜しくは無かった。
拾
「さぁ、観念して貰おうか?」
放課後の誰も居ない教室。其の中を、史華は佇んでいる。不敵に笑いながら、羅刹を見据えている。
史華に短剣の切尖を向け、問い詰める。
「神峰史華は、何処に居る?」
「何を馬鹿な事、謂ってるの?」
「奴の術で、上手く化けたつもりか?」
羅刹は懐から、鈴を取り出した。
ゆっくりと鈴を振ると、美しい音が流れて来た。
其の途端、史華の姿が輪郭を変えた。
「お前は、史華の使いの者か?」
目の前には、比津地がいた。
「お願いします。史華様を、見逃して頂けませんか?」
涙ながらに、比津地は懇願した。
「駄目だ」
「お願いします。私が代わりに、命を捧げます。だから、何卒!」
「此のまま放っておけば、在の女は多くの命を奪う。史華とか言う女の魂は、永遠に魔徒に縛られる」
比津地の襟を掴み上げる羅刹。
「一生、在の女は苦しみ続けるんだぞ。其れでも、良いのか?」
比津地を放り投げる。
血に這いつくばり、嗚咽を漏らす比津地。
暫くして、比津地が意を決したのか言の葉を紡ぐ。
「どうか。史華様を、お救い下さい……」
「解った。お前の覚悟、聢と貰い受けた」
拾壱
「さて。今度こそ、終わりにしようか?」
魔徒の特定さえ出来れば、タリムが見付け出す事は容易だった。譬え何処へ居ようと、追い詰める事が可能だった。魔徒の探知は、同族には容易い事なのだ。
戦騎には、浄化された魔徒の魂が宿っている。契約さえすれば、互いに裏切り合う事は出来なく為る。
史華に短剣を向けながら、周囲を窺う。
「此の状況で、私を斬れるかしら?」
神峰史華親衛隊は、相変わらず史華の周囲を囲んでいる。全く、鬱陶しい奴等だ。
「斬れるさ」
感情の籠らぬ声。自分は只、魔徒を斬り捨てるだけだ。其れは此れまで同様、変わらない。
「無関係な人間ごと、斬ろうとでも言うのか?」
人間を斬る心算は、毛頭なかった。と謂う依りも、斬れなかった。斬れば地獄に逆戻りだ。其れに認めたくは無いが、刹那と出逢ってから僅かに心象に変化が在った。其の変化が、自分を妨げている様で、癪に障った。
兎に角、無関係な人間は斬れなかった。
「俺達が何もしなかったとでも思ったか?」
羅刹が手を翳すと、教室中に魔法陣が浮かび上がる。
「俺の戦騎タリムには、空間を操る力が備わっている」
「馬鹿な?」
神峰史華親衛隊の姿が消えた。
「お前だけを、結界内に閉じ込めさせて貰った。準備に多少、手間取ったがな」
大掛かりな結界装置を作る為、刹那に依代と為って貰った。
禍人の血を受け継ぐ刹那だからこそ、可能で在った。彼女の体力を考えると、三分程しか保たないが其れで充分だった。
「余り時間がない。早速、斬らせて貰うぞ」
「ふぅん。其れで、私を追い詰めたつもり?」
史華から、余裕の表情は消えなかった。
「羅刹、気を付けて。奴の能力は、複写。お腹の鏡に映った者の力を、再現する事が出来るみたいよ」
史華が、戦騎を纏っていた。
「只の猿真似だろう?」
間合いを詰める史華。
太刀筋も、剣速も、羅刹と寸分違わぬ精度でトレースしていた。
だが、所詮は二番煎じに過ぎない。
太刀筋が解っているなら、受け流すのも容易い。
短剣で払い、左腕で殴り付ける。
戦騎を喚装して、大剣で叩き付ける。其れを、刀で受ける史華。
史華の刀は、あっさりと折れた。
刀での戦い方を真似ると言うのならば、違う戦い方をすれば良いだけの事だ。刀と違って、剣での戦い方は打撃が主体で在る。
「幾ら自分を着飾ろうと、どれだけ他者の真似をしようと無駄だ!」
大きく体勢を崩した史華を、羅刹は斬った。
「己の力で勝負も出来ない奴に、俺は負けない」
史華の体が、硝子の様に粉々に砕け散った。
結界が消えて、元の空間に戻った。
神峰史華親衛隊は皆、一様に倒れていた。
洗脳が解けて、一時的に意識を失っているだけだった。暫くすれば又、意識を取り戻す。
部屋の片隅に蹲る刹那に、羅刹は仏頂面を向ける。
「お前のお陰で、助かった。ありがとう……」
照れくさそうに、礼を述べる羅刹を見て刹那は笑った。
「何を笑っている?」
「貴方がそんな事を言うなんて、意外だなって思ったの」
「俺だって、礼ぐらい言うさ……」
羅刹の頬が、朱に染まっている。刹那と居ると、調子が狂う。
そんな自分自身に、苛立っていた。
「貴方、意外と可愛い処も在るのね」
「黙れ。其れ以上、余計な事を言うなら斬るぞ!」
「どうぞ!」
真っ直ぐな瞳に、羅刹は戸惑っていた。無垢な瞳に見詰められて、胸が締め附けられた。
まるで、自分が自分じゃない様な錯覚に捉われて、困惑していた。
「羅刹、貴方の負けよ」
タリムが羅刹を諭す。自分を掣肘する存在に、羅刹は大いに戸惑っていた。其の事を気取られまいと、踵を返した。
羅刹は無言で教室を出て行った。
「あ。ちょっと、待ちなさいよぉ!」
刹那は、慌てて羅刹を追い掛けた。
拾弐
「あいつ結構、強いね?」
「だが、香流羅の方が強い」
霊獣達が口々に告げる。千里眼を通して、羅刹の戦いを一通り見た。立ち居振る舞い。太刀筋や剣速が、非凡で在る事は理解った。
羅刹は確かに強い。自分と五分の力を有しているかも知れない。其れ程迄に習練された『武』を、羅刹は積んで来ている。
だが、戦えば勝つ自信が在った。
「人の妹に、ちょっかい出してるんだ。少しぐらいお仕置きしても、良いよな?」
「やっちゃえ、やっちゃえ!」
香流羅は千里眼越しに、羅刹を睨み付ける。憎悪の宿った血が、肚の底で滾っていた。
羅刹自身には、何の恨みもない。だが、戦騎騎士は赦さない。奴等は魔徒以上に赦す事が出来ない存在だった。
全ての騎士は、此の御法院香流羅が倒す。
戦騎騎士も魔徒も、仇為す存在だ。千年以上もの歴史が、其れを物語っている。《禍人の血族》に取って、戦騎騎士の存在は憎しみの象徴でしかない。
《禍人の血族》の力は、戦騎騎士の力を凌駕していると言う事を証明してみせる。
香流羅は、静かに笑った。其の瞳には、狂喜とも哀しみにも取れる暉が宿っていた。