第8話 日中戦争開幕、一つ目のターニングポイント
勝利は怨を生ず、敗者は苦しんで臥す。勝利を離れて寂静なる人は楽しく臥す。
-法句経
1937年8月1日、大日本帝国はついに中国との全面戦争に突入した。
アジア唯一の列強たる日本の海軍が、東シナ海、南シナ海へ向けて出航した。
その先陣を切るのは、最強と謳われた誇り高き連合艦隊である。
その連合艦隊の旗艦は、これまた日本海軍、いや、日本の造船技術の粋を結集で就役した、ビッグ7の一隻、戦艦長門である。
世界に7隻した存在しない41cm砲を主砲とする長門は、大日本帝国が誇るべきステータスシンボルでもあった。
長門の艦橋の一室で、鮫島艦長が部下たちに叱咤激励を飛ばしていた。
「大日本帝国海軍たるもの、相手を弱いと見くびることなかれ!屈強な海軍だからこそ、全力で海戦に挑むのだ!」
力強い言葉とともに、その場にいた全員が一糸乱れぬ敬礼をした。
数日が経ってから、大陸では、満州と中国国境で動きがあった。
「大日本帝国の連中、意気揚々と宣戦布告しておいてこの様とは...お笑いですな」
「待たれよ、油断はするなよ。とはいえ、日本軍どころか、関東軍も満州軍すらいないとは...」
蒋介石とその部下は少し訝しながらも、軍を引き連れて進軍していた。
「しかし、これでは、満州をあげますと言ってるようなものですよ。」
「ああ、満州をくれるというなら...それとも共産党の連中にやられちまったか?はっはっはっ、敵ながら天晴れじゃ」
蒋介石は高笑いしながら言った。
史実では存在した国民統一戦線...しかし、毛沢東暗殺から国民党内で起きた粛清の嵐とともに、その構想は脆くも崩れ去り、連携もままならない状態で日本と戦争に突入した。
「蒋介石閣下、ご報告です!ここから数キロ先で関東軍と我が軍が戦闘に入りました」
前線を偵察に行っていた部下が蒋介石に伝えるが
「敵地だ。当然理解している。激しい戦闘になりそうだ。気を引き締めろよ!」
その時、もう1人の別の部下が慌てた様子で走ってくる。
「大変です!たった今、東シナ海と南シナ海の制海権が取られました!加えて、我が国の艦艇の9割が撃沈されました!」
蒋介石は一瞬眉間に皺を寄せるが、表情を変えて
「だとしても橋頭堡を確保される前に追い出せば問題はない!」
「それが...」
部下は冷や汗をダラダラ流しながら、固唾を飲み込み、こう伝えた。
「日本軍が...南京へ侵入しました!現在共産党軍2個師団と戦闘中とのことです!」
蒋介石は顔の血の気が引いていくことの意味を理解した。
そして自分たちが罠に嵌められたことを理解した。
「くそっ!まずい!国民党軍主力を連れて南京へ引き返すぞ!南京を奪還する!」
その時、後ろからキャタピラ音とともに軍靴の轟が徐々に大きくなってくるのが聞こえた。
「閣下...まさか...」
部下の1人は理解した。旭日旗が旗巻いている。
「に、日本軍⁈まさか...」
「閣下!前方からも!まさか関東軍と満州軍ではあらませんか⁈」
国民党軍は二つの罠に嵌められてしまった。
杉内の考えた作戦は、国民党軍と共産党軍の注意を惹きつけるため、あえて満州国境で派手に暴れ、主力を誘引。そして、蒋介石たちは見事、その罠にまんまとかかってしまったのである。
一方帝都東京では
「これほどうまくいくとは...正直驚いているよ、石原大臣」
杉内が少し感心しながら言う。
「ええ、そうですね。しかし問題はここからです。南京を占領したとて、そこから武漢、そして奥地の重要都市である重慶まで。」
石原莞爾が一息ついた様子で答える。
「加えて満州国境部から重慶を中継してベトナム国境までを繋げられれば...それが本番かもしれませんね。」
杉内が神妙な面持ちで言う。
「ええ、中国を分断...もしかすればですが...モンゴルの参戦もあり得ます。ただし...」
石原が言いかけてやめる。
「もしかして、我が軍が優勢となれば、モンゴルだけでなく、チベットも参戦すると言いたいのですか閣下?」
杉内が問いかける。
「ええ、そうです。日中戦争の天秤は日本に少し傾きましたが、またいつ中国に傾くかはわかりません。なので、二つの国は様子を伺っているのでしょう」
石原が答える。
慌ただしいノックが響き渡る。
「入りたまえ」
石原莞爾が入室を促す。
「失礼します!」1人の男が入室し、敬礼する。
「閣下!ご報告です!大陸から伝令!」
石原莞爾が尋ねる。
「伝令の内容は何かね?」
「はい!我が皇軍が!国民党軍主力15個師団を包囲!加えて南京を陥落させ占領いたしました!」
杉内が立ち上がり、テーブルを両手で叩いて
「素晴らしい戦果だ!よくやった!敵首都を陥落させたのだ!」
部下が続ける。
「現在、南京に拠点を構築し、奥へ逃げた共産党軍を追って武漢へ向けて進軍を開始しています!」
「ありがとう...ここからだ...」
「杉内首相...気を引き締めていきましょうか。」
前書きに関しては、名言などを入れていこうと思います。




