第7話 通州事件、そして戦争へ
7月29日、帝都東京にて
「これは、まずいことになりましたね...」
水野が重光と神妙な面持ちで、冷や汗をかきながら話している。
「ええ、通州の件、国際問題になりかねない事態ですぞ。」
重光が答える。
「しかし、驚きましたな。毛沢東が国民党の人間によって暗殺されたと...」
水野も、毛沢東暗殺に加えて、通州事件の一報を聞いて動揺を隠せないようだった。
水野が深く腰掛けて、お茶を一口飲みながら
「重光大臣、特務機関によると、蒋介石は大粛清を実行に移されたと聞きましたが...」
重光は水野の対面のソファに腰掛けてこう言った。
「ええ、まるでスターリンの大粛清を彷彿とさせますな。どうやら、蒋介石を排そうとした人がいたみたいで...」
「なるほど、それなら少し納得が行きますが...今回の通州の件を受けて、近いうち、遅くとも今週のどこかで御前会議を開くみたいですよ。」
水野の言葉に重光は
「なるほど...となれば、盧溝橋から今回の通州の件を理由に宣戦布告、となりそうですな。」
重光は少し納得しつつも、どこか不安を拭えない顔をしながら、窓の外を見た。
首相官邸のとある部屋にて、杉内と石原は話し合いをしていた。
「石原大臣、例の件、うまくことが運び感謝しております。」
杉内が頭を下げる。
「頭をお上げください。とはいえ、予想以上に仲間割れしてくれたことは願ってもないことですが...」
杉内が頭を上げる。
「そうですね、それと今回の件と盧溝橋の件を理由に、対中国戦を開始しようという次第でして...」
杉内がそう言うと、石原が
「ええ、杉山大将らと会議を行い、貴殿の作戦を採用しつつ、より詳細にかつ綿密に立案いたしました。貴殿の作戦案は、現実味がありながら勝利できる可能性が一番高いですぞ。」
石原莞爾が笑顔で答える。
杉内は頭を下げて
「陸軍の最高位にいるあなたからそのような評価をいただき、誠に感謝申し上げます。」
「なぁに、構いませんよ。それに陛下もきっと承諾してくださる。」
数日後、御前会議が開催された。
天皇陛下がご臨席賜う中、独特の緊張感を出しながらも、粛々と行われていた。
「中国との戦争やむなしとの意見が出揃う手前、他に意見がある方は挙手をお願いします。また、反対であれば、その意見も述べていただきたい。」
杉内が会議を進行させていく。
「いえ、いくらなんでも、今回に関しては、中国側に非がある。加えて盧溝橋の一件といい、中国の反日的あるいは抗日的態度は軟化するとは思えない。これが、外務大臣からの意見です。」
重光が淡々と述べると、陛下が口を開く。
「うむ...君たちの努力、誠にありがたい。そして、陸軍も海軍も...綿密な軍事計画、極めて現実的と私は見る。」
陛下が言い終えると、皆起立し、頭を深々と下げた。
全員が頭を上げ終え、着席すると杉内は
「では、これにて、御前会議を終了とする」
各々が陛下の御前で止まり、頭を下げて、退室していく。
杉内は心の中で考えていた。
(事実と違うのは、入念な軍事作戦があること、加えて宇垣軍縮の完全撤廃による軍拡が成功した。なんとしても、一年でケリをつける!)
1937年8月1日、ついに日本と中国が戦争状態に入った。
正式な宣戦布告の処理がなされ、日中戦争が勃発した。




