第6話 戦争前夜
盧溝橋からの騒動から数日...どうにか事態の収集に向けて、目処が立ち始めていた。
帝都にて
「杉内首相、まずいことになりましたね。」
水野が緊迫した面持ちで言う。
「ああ、石原大臣閣下の尽力もあって、ことなきを得たところではあるがな...」
「驚きましたよ、なにせ相手は実弾をぶっ放してきたわけですから。」
二人が廊下を歩きながら話していると、石原大臣と合流した。
「首相、今回の件で関東軍が暴れないよう、私の方で何度も釘を刺しておきました。ただ、日中がぶつかるとなれば、話は変わりますが」
「石原大臣、感謝する。先に山本大臣が着いてる頃だろう。今回は、最もまずい事態、つまり日本と中国間で戦争が起きた場合の、作戦について話し合う予定だ。」
「ええ、それならうちの杉山もそろそろ着く頃と思われます。」
「ありがとう、彼の意見は貴重だ。」
会話をしながら歩いていると会議室に到着した。
ドアを開けるとそこには、山本大臣と米内光政大将の二人が、緊張した面持ちで、話し合いをしていたが、立ち上がって三人を迎え入れた。
「首相、それに水野内務大臣に石原陸軍大臣、お疲れ様です。」
「二人とも、今日はありがとう。盧溝橋の件がもし、一番まずい事態になった時、つまり日中間での戦争となった場合について、今日は話し合う。」
「ああ、よろしくお願いします。」
山本五十六がそう返すと
「一応海軍の方は、いつでも出撃可能に加え、制海権の確保については問題ないと思います。ただ...」
米内は何かを言いかけて途中でやめた。
するとあとから遅れて入ってきた杉山が
「まさかとは思うが、帝国陸軍に懸念を抱いているのではあるまいな?」
少しの静寂の後、「なんとか言ったらどうなんだ!おい!米内君!まるで我々陸軍が貧弱だと言いたげではないか!」
杉山が声を張り上げ怒気を込める。
杉内が「落ち着いてください。現に宇垣軍縮の撤廃と、ドイツ偵察による主力戦車の開発と、スペイン内戦での新兵20万の実戦経験は済んでいますから」
杉内が宥めるように言う。
米内も少し懸念が消えたと言わんばかりの顔をして席に着いた。
「盧溝橋の一件につきまして、お集まりいただき、ありがとうございます。」
杉内が立ち上がって述べた。
「今回の盧溝橋事件につきましては、どうにか穏便にことを納めたい次第です。ですが、場合によっては戦争に発展しかねないのです。」
すると杉山大将が手を挙げてこう言った。
「であるならば、我々陸軍も対中戦争計画を立てる必要が出てきますが...」
杉内が返す。
「ええ、その件ですが、少し石原莞爾陸相と話してからでもよろしいでしょうか?」
杉山大将が返す。
「ま、まあ、よろしいでしょう」
杉山大将が返すと、今度は米内が手を挙げてこう言った。
「わかりました、では我々連合艦隊率いる海軍は、制海権、とりわけ、東シナ海と南シナ海の制海権確保を迅速に行うことを約束いたします。」
杉内が「米内大臣、感謝する」
水野が立ち上がってこう言った。
「では私は、不測の事態に備え、総動員体制を敷ける準備と、反体制派の監視及び見回りを強化します。」
こうして、各々がやるべきことを再認識し、それぞれの持ち場へ戻っていたが、杉内と石原だけは残り、話し合いをしていた。
「杉内さん、それで話というのは?」
石原が不思議そうに返す。
お茶を汲み直し、茶托の上にお茶を出し、隣に甘味を置くと、杉内は座ってこう言った。
「ええ、日中戦争へ発展した場合の作戦について、妙案がありまして」
「妙案...ですか...。して、その妙案というのは...?」
石原は疑問符を浮かべたまま杉内に尋ねた。
「おそらく日中戦争ともなれば、長引くだろう...そこで僕から二つのことを提案したく...」
石原は少し疑問に思いながらも了承した。
「承知しました。聞きましょう。」
「感謝します。まずは毛沢東の暗殺を、関東軍に頼みたい。」
石原は驚いていたが杉内は続ける。
「アメリカ製の拳銃を使い、共産党の末端の連中に中華民国軍の制服を着させる。」
石原は言う
「なんですと⁈本気ですか⁈」
「ああ、それによって国共合作を阻止できる。何よりあの男は蒋介石より厄介だ。成功すれば、国民党は共産党を敵とみなすし、共産党は頭脳を失って右往左往するはずだ。」
石原は少し落ち着き払って
「わかりました...あなたがそうおっしゃるなら...それともう一つというのは、なんでございましょう」
杉内はその問いに答える。
「ええ、陸軍の作戦行動についてですが...」
陸軍の作戦行動について石原に話したあと、彼は少し片付けをして、首相官邸へ戻って行った。
数週間後に、大陸で悲劇が起こるとも知らずに...




