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第5話 忍び寄る戦禍

チベットに対して、独立保障をかけることに成功した大日本帝国。


一方、かつて清王朝として君臨し、アジア大陸の大部分を支配していた中国は、虎視眈々とチベットを狙っていた。


独立保障...それは、保障をかけた国とも戦争する可能性を孕んだものであり、同時に保障をかけられた国が攻められたとして、保障をかけた国が助けてくれるかどうかはともかく、一種の抑止力になりうるものだった。


現に、ナチスドイツが台頭した今、英仏はポーランドに独立保障をかけている。


一方で、1936年に起きたスペイン内戦は、杉内にとって、いや、日本にとってある意味機会であった。


「日本軍の増強にあたり、練度と経験値を積ませるためにスペインへ、派遣したのか?杉内閣下」


水野が問いかける。


「まあ、それもあるが、スペイン側、とりわけ国粋派の、フランコ閣下ととある協定を結びましてね」


杉内はソファに腰掛け、窓を見ながら答えた。


それに対し、水野が問いかける。


「もしかして、派遣することと引き換えに在スペイン日本軍を置くように協定を結んだのか?」


「理解が早くて助かるよ、水野。私が在スペイン日本軍を置いた理由、わかるかい?」


しばし水野は考えて、こう切り出した。


「ジブラルタル...でしょうか...?今はイギリス領です...」


「さすが、私が内務大臣に任命しただけはあるよ。あそこを確保すれば、イギリスは本土から地中海へ行くのにスエズ周りをしなければならない。地中海は要所だよ。」


杉内は誇らしげに答えていた。


「ではイランを大東亜共栄圏に組み込んだのは...ソ連への牽制と...スエズですか...」


「そうだ...特に地中海に英海軍を閉じ込めてしまえば、ドイツは苦もなくイギリス本土上陸ができるだろうね。英独関係が悪化すれば、そうなる可能性さえある。ソ連への防波堤ということで、日独は利害が一致しているが、いずれぶつかるだろう」


その言葉はどこか予言めいていた。


杉内は欧州の情勢を心配しつつ、中国をはじめとする大陸へ警戒の目を光らせていた。


国共内戦中とはいえ、こちらに火の粉が降ってこないとは限らない。


現に満州国、特に関東軍が中国にちょっかいをかけないか心配であった。


少なくとも石原莞爾が陸軍大臣であるうちは問題と思いつつも、関東軍による張作霖爆殺事件に、さらに西へ勢力を広げる可能性も無視できない。


なんもか、日満蒙経済圏は形になり、機能し始めたものの、中国が心配であった。


杉内は、何かあってはと考え、日満蒙経済圏設立から間も無くして、満州国保険業法制定し、ならびに対米綿布輸出の規制による反動を避けるべく、そしてできる限り中国という市場に依存しない経済体制を整えつつあった。




1937年7月7日 盧溝橋にて


「よし、今日の訓練も上手くいった。明日はもっと上達できるようになりたいぜ」


「ああ、そうだな。お前の向上心の高さは、みんな見習うべきだな」


「いえいえ、准尉殿。私も准尉殿のような軍人を目指したいです」


「そうかそうか、励むことだ」


二人が話していると、対岸から数発の弾丸が発射される。


「准尉殿!大丈夫ですか⁈」


「あ、ああ...だがまずいぞ!場合によっては...」


「え、ええ...日中が戦争になりかねません!志村二等兵を探してきます!」


「頼んだ!俺は牟田口連隊長へ連絡する!」


慌てふためくのは二人だけではない。


その場にいた部隊の全員が、緊迫した空気に包まれ、厳戒態勢になりながら、対処にあたることとなる。

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