第二話 経済の立て直しと軍備拡大と農村の救済
就任した翌日、杉内は、高橋と重光、稲塚の三人呼び出し、三人で会議をしていた。
稲塚は緊急の会議が入ったらしく遅れるとのことだった...
「首相、本日はどのようなご用件で?」
高橋が口を開く。
杉内はそれに答えるように
「今日二人を呼んだのは他でもない。日満蒙経済圏の形成と、それに伴う経済的援助だよ。」
と用件を伝えた。
日満蒙経済圏...日本、満州、蒙古の三カ国による一つのアジアにおける巨大な経済圏。
満州や蒙古から日本は資源を輸入でき、満州と蒙古は日本からの援助で開発や開拓の恩恵を受けることができる。
それだけではない。杉内は二つの国を開発・発展させることで、大陸北部の大部分を支配するソビエトへの防波堤になることも期待していた。
それに反日感情が強大になりつつある中国への牽制になるとも考えていた。
「三カ国による経済圏の形成...ですか...たしかに日本の立て直しにも必要かもしれませんね」
高橋は納得したような声色で返す。
「分かりました、満州政府及び蒙古政府との交渉に当たってみます。」
重光が言う。
そのとき、ドアが突然開き「遅くなって申し訳ございません!緊急の会議で遅れました。」
転がるように会議室に入ってきたのは農林大臣の稲塚権次郎だった。
杉内はソファから立ち上がると
「稲塚大臣、お気になさらず。ささ、どうぞお座りください」
稲塚は申し訳なさそうにソファに座った。
「失礼致します。それで一体どのようなご用件で」
三人はことの顛末を稲塚に話した。
「なるほど、そう言うことでしたか...ならば品種改良した作物を育てられるようにしなければなりませんね。」
「稲塚大臣のおっしゃる通りだ。食糧生産は国家の根幹に関わるからな。」
「総理、満州や蒙古へ進出する企業は財閥に任せますか?」
高橋が尋ねると杉内は
「いや、財閥ばかりではダメだ。新進気鋭の財閥でない企業に進出の優先権を与える。」
「何故ですか⁈それでは財閥から反発を招きますよ!」
高橋が疑問をぶつける。しかし杉内は
「なあに、問題はありませんよ。高橋大臣、また別の機会に話し合いましょう。」
高橋は意味深な笑みを浮かべる杉内にどこか違和感を覚えながらも深く追求することを断念した。
「ではここで話したことは次の御前会議の場でも話しましょう。きっと陛下もわかってくださると思う」
杉内がそう言うと一人を除いてその日は解散となった。
「ああ、稲塚大臣、ちょっといいかい?少しだけ。申し訳ない」
「どうされましたか?」
「東北の食糧飢饉の解決を君にお願いしたい。もちろんただではといわん。国からの補助金や援助はする。」
「ありがとうございます。現在寒さに強い野菜や果物の品種の開発を鋭意行っておりますので」
「それは心強い。感謝する。君を農林大臣に任命したことは間違っていなかった。これからもよろしくお願いします。」
杉内は頭を下げ、握手を求めると、稲塚も頭を下げ握手に応じた。
数日後、杉内は各財閥のトップ、石原、山本、高橋、陸軍技術本部長、陸軍兵器本部長、海軍技術研究所所長らを集めて会議を開いた。
杉内が立ち上がり口を開く。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。本日皆々様にお集まりいただいたのは、他でもない軍備拡大についてです。」
杉内が挨拶をすませ、議題を簡単に話し終えると、大きい会議室は少しざわめいた。
「首相、具体的にはどんなことを?」
石原が疑問をぶつける。
「簡単にいえば陸軍は宇垣軍縮の完全撤廃と本格的な戦車や装甲車等の研究・開発・生産・運用、海軍には軍縮条約からの脱退を行い、艦隊の強化や新型潜水艦の開発等を行います。」
杉内の発言に対し、三菱財閥の当主が質問する。
「本格的な戦車というのはどのようなものかね?」
「お手元の資料を見ていただければお分かりかと思いますが、ドイツが開発・運用しているIV号戦車のようなものです。現状、日本の戦車では到底歯が立つとは考えにくいのです。火力においてはゼロ距離から主砲を打ち込んでも撃破できないとまで言われる始末です。ですから本格的なあるいは、新型戦車の開発を行う必要があります。」
杉内が質問に答えると別の財閥当主から質問が上がる。
「新型の潜水艦とはどんなものか、教えてくれるかね?」
「それについては山本君、君が話すといい。」
山本が立ち上がり、話し始めた。
「海軍大臣の山本です。新型の潜水艦とは潜水空母のことです。現在、フランス海軍がスルクフを竣工させました。しかし我が国は海洋国家で、同時にアメリカを仮想敵とする海軍ではより本格的なものが必要になるかと思います。そこで航続距離60,000キロ、特殊攻撃機あるいは戦闘爆撃機を三機ほど艦載したものを提案いたします。」
その発言にざわめきが起こった。
とはいえ、列強各国は潜水空母の研究や開発を進めているのも事実である。
何より山本大臣はフランスのスルクフに言及していたが、それが何よりの証明だろう。
もし完成すれば、アメリカのみならず欧州方面への攻撃や爆撃も可能となる。
どうにか会議室のざわめきを諌めながら、会議を終了させることに成功した。
その日の逢魔時、杉内は3月上旬とは思えない寒さを感じつつも、外の寒風吹く街並みを横目に、今日の非公式の会議の内容と、この前の経済復興について話し合った会議の内容をまとめていた。
近くに行われる御前会議のために必要であった。
筆を走らせながら、これで破滅的な未来を避けられるならと...そんなことを考えていた。
一通り書き終えると乾いたノートを持ちながら、今日はおでんを一人でつまもうか考えながら部屋をあとにした。




