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第23話 イギリスの憂鬱とチャーチルの精神

哲学は決して嘆願にならない。だが、嘆願がなければ答えは返ってこないのだ。どんな答えも問いに先立つことはあるまい。それに、不安なしの、刑苦なしの問いとは何を意味するというのだ。

発狂の寸前に、答えは突如として返ってくる。そうでなくて、どうしてこの答えを耳にすることができるだろう。


                 -ジョルジュ・バタイユ

1940年5月某日


ドイツがベネルクス三国を突破し、フランスへ流れ込み始めた頃、中東でも動きがあった。


英仏の植民地たるシリアやイラクへ日本軍が侵攻を開始したのである。


それと同時期、アイルランドと幾度に渡って交渉を続けていた重光外相から吉報がもたらされた。


大日本帝国帝都東京にて


首相官邸の会議室では、3人がコーヒーを飲みながら話し合いをしていた。


「重光さん、アイルランドとの交渉、ありがとうございました!」


杉内が立ち上がり、深々と頭を下げる。


重光が優しく返す。


「いえいえ、成功確率が低かったので一時はどうなるか不安でした。しかし...」


重光はとあるものを取り出した。


それはお守りだった。


明治神宮で売っているお守りだった。


「私が外相、あなたにお渡ししたものじゃありませんか...」


重光は嬉しそうに微笑む。


「総理、あなたが渡してくださったおかげで助かりました。勇気をもらえたんです。本当にありがとうございます」


杉内は「いえいえ、滅相もない。成功して何よりです。せっかくですので、後ほど山本海相と水野内相も誘って5人で明治神宮へ参拝へいきましょう。」


「いいですね、総理!明治神宮へぜひ!」


3人が和やかな雰囲気でいると突然ドアが開き、1人の男が入ってきて重光の両手を握りこう言った。


「外相!お見事でした!本当にありがとうございます!よくやってくださいました!本当にありがとう!」


「山本海相、嬉しいのは分かりますが外相が困惑されていますよ」


山本海相にとってこれは大きい出来事だった。


それだけにノックを忘れて感謝を伝えるほど、それは大きい出来事だった。


朝、チャーチルの秘書はいつも通り執務室へ入ろうとした。


すると執務室から大きな音がした。半狂乱になった声も入り混じる。



腰を抜かしそうになりながらも秘書は執務室のドアをノックした。しかし返ってきたのは罵声でも許可でもない。


狂ったような悲鳴だった。


恐る恐る秘書がドアを少し開けて隙間から覗くと、そこには情緒が不安定になり、家具などを破壊しながら、狂気的に笑ったり、大泣きしたりするチャーチル首相の姿であった。


床に目をやると、食い散らかされた朝食と同時に、破かれた紙片も発見した。


それを新聞と理解した秘書は全てを察した...


なぜなら、そこには『アイルランド、大東亜共栄圏に加盟』と...

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