第16話 イタリアとスエズ
避けられぬ意志は通さねばならない。
-ベニート・ムッソリーニ
日本軍によるジブラルタル占領の一報は本国やドイツのみならず、ローマにまで届いていた。
イタリア首都ローマにて
ムッソリーニが口を開く。
「にしても日本軍は凄まじいな。これでイギリスは地中海を通れなくなった。」
「ええ、イギリスはアフリカをぐるっと回らないと、東南アジアへ行けなくなりました。」
「うむ、であるならば...我々も動いてもいい頃だと思うんだ。」
座っていたムッソリーニが徐に立ち上がり、ヨーロッパとそれから北アフリカの北部と中東の一部が描かれた世界地図に向かって指棒でとある地点を指した。
「ここだ、ここを攻略したい。」
「スエズ...ですか」
「ああ、そうだ。ユーゴスラビア、ギリシャを占領して、エジプト、そしてスエズを奪還する。」
「いい考えですね。もしかして、日本との共同作戦も考えているのですか?」
「ああ、おそらく日本的にも友好関係を結んでいるイランの隣にイギリスがいることは悩みの種だろうから、リビアやイラク、エジプトまでを制圧したいと考えるだろう。ならば、イタリア軍が地中海から北アフリカへ急襲し、我がイタリア軍と東部からの日本軍の侵攻で挟み撃ちができる。」
「なるほど、場合によってはドイツからの支援ももらえれば北アフリカから連合国を追い出せる...」
ムッソリーニは密かに口角を上げた。
しかしそこに油断の気持ちはない。勝利するまで気を抜かない....それが彼のポリシーだ。
ほどなくして、彼は執務室の電話に手をかけ、受話器を取り、ダイヤルを回す。
しばし、呼び出し音が鳴り続け、ブツっと音とともにとある声が受話器越しに聞こえてきた。
数分の電話会談ののち、ムッソリーニは受話器を下ろすと、再び立ち上がった。
「軍部上層部に招集をかけてくれ。作戦会議だ。」
近くにいた秘書官はメモをとりながら詳細をすり合わせ、そののちにムッソリーニの執務室をあとにした。
1939年12月某日帝都東京にて
「首相、ジブラルタルの件、今年中に決着ついて良かったですね。」
「ああ、ローマ合意では、スペインの枢軸入りを条件に、日独がジブラルタルのスペイン帰属を認めるという内容だったな。」
杉内と水野が語り合う。
ジブラルタルの返還条件に枢軸入りをスペインのフランコに求めたのは、ジブラルタルの地政学的な理由で枢軸国が抑えておきたかったわけで、特にドイツとイタリアには、スペインが連合国に入らない保障を欲したのであった。
おそらく、イタリアはギリシャとユーゴスラビアへ侵攻するだろうが、ドイツではなく、イランに在中している日本軍を当てにすると考えられる。
エジプトまで侵攻できれば、海を渡り、イタリア・ギリシャ戦争を手助けできると...。




