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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
六章 吹き抜ける風
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086 寮・魔闘連盟・相談

 寮が変わってメアがまず思ったことは、便所が綺麗だということだ。ほぼ野ざらしの寅雲寮の便所と違って屋内であるせいなのか、汚く使う野生児が一年で成長するからなのか、上級生も使うため駄目な生徒は教育されるからなのか。ともかく、メアにとっては非常に嬉しい点だった。

 もう一つは、非常に居心地の良さそうな談話室があるという点。ただし、こちらの恩恵はまだ預かれていない。フッサの調べによると、談話室へ入ることができるのは三年生以上であり、二年生が入ると虐められるらしいのだ。校則や寮の規則として入ることは問題ないはずだが、それを聞いて試してみる勇気はメアにはなく、結局、メアは自室で過ごすことが多い。

 水浴びを終え、夕食を食べ、メアとレオゥが自室でくつろいでいると、唐突に部屋の扉が開かれた。

「メア、レオゥ! 集合!」

 元気よく扉を開けたのはディベだった。

「……入室の際にはできれば扉を叩いて合図をしてほしいんですが」

「硬いこと言うなレオゥ。そんなこそこそとしてたらまるで夜這いみたいじゃん。ね、メア。別にいいよね?」

「よくないです。というかやっぱりここの規則変だよね。男子は女子寮入れないのに女子は男子寮入り放題なの。どっちも禁止しようよ」

「メーアー。そんなこと言ったら他の男子から殺されちゃうぞ。女の子が石鹸の匂いを漂わせて夜中に自分の部屋を訪れる妄想している男子は多いんだから。そして、そんな男の夢を叶えちゃうのが私ってわけ。あ、今すけべな妄想したな? ん? 違うぞ? 触らせはしないから。あくまで遊びに来るだけ。ああ罪な私」

 メアとレオゥが閉口していると、ディベは思い出したようにレオゥの隣に座り、レオゥの背中をばんばんと叩いた。

「って違う違う! 集合なの。魔闘連盟の団員に緊急招集がかかりました」

「ああ、あれですか。新入生勧誘のための打ち合わせですか?」

「そうそう。よくわかったね。ってことでとりあえずウォベマの部屋集合。はい、行くぞー」

「服が破れるので引っ張らないでください」

 襟を掴まれて渋々とついていくレオゥ。抵抗こそしていないが、面倒だと感じていることは態度から明らかだ。

 一方、メアはうきうきとした足取りで部屋を出る。魔闘連盟がこうした団体らしい行事をやるのは珍しかったからだ。他の団体が目標を決めて計画を立てて団結して行動している中、魔闘連盟がやることは日がな一日卓上遊戯。メアが誘えばたまに個人訓練。行事は各自が勝手に参加。あまりに不良団体過ぎる、とメアは常々感じていたからだ。

 だが、そんなメアの期待はすぐに裏切られることになる。

 ウォベマの部屋に入ると、三人の生徒がいた。部屋の主であるウォベマと、その相部屋らしき見慣れぬ男子生徒と、ハナだ。相部屋の人の良さそうな男子生徒は気にしないでとだけ言い残して気配を消した。直後、ウォベマはメアたちを睥睨して言った。

「よく来た。これから行うことは何かわかるな?」

「新入生勧誘の打ち合わせ」

「違う。団長位禅譲の儀だ」

「は? え? なにそれ聞いてない! 団長?」

 ウォベマの言葉にディベは食って掛かり、すぐにハナの方を振り返ってぐっと顔を近づけた。

 メアが首を傾げていると、ハナが苦笑しながら説明した。

「僕も今年は四年生だからね、学校にいないことも多いし、先輩に習って退団と言うことにするよ。ということで、新しい団長を任命する必要があるんだけど」

 ウォベマとディベが同時に身を乗り出す。二人の自信満々な表情からは自身が指名されるのが当然だという強い意思が感じられる

「今年の団長はウォベマと言うことにしようと思う」

「当然だな」

「えええ!? なんでなんでなんで! やだやだやだ!」

 にやりと口の端を歪めるウォベマ。荒々しくハナの肩を揺さぶるディベ。納得して頷いているレオゥ。不安そうな顔のメア。反応は様々であるが、ハナはそれらを見て自身の意見を変える気はなさそうだった。

 ハナはディベの両手を優しく自身の肩から外して言った。

「理由は単純だ。年功序列」

「だったら私でもいいじゃないですかー!」

「ディベは他の団体、走り屋と掛け持ちしてるからね。いくら活動内容が大きく違うとは言っても、規模は向こうの方が大きいし、活動も活発だ。ディベが気を付けていたとしても、最終的に併吞と言う形で吸収されてしまう可能性もある。なので、今年はウォベマが団長と言う形にした。納得してもらえただたろうか」

「そ、それは……」

「まあ僕もたまには顔を出すからさ。何か問題があったらそのとき言ってよ。そうなったら話し合いで解決しよう」

 ディベは反論を考えていたようだったが、結局何も出てこず頷いた。

 それを見てウォベマは勝ち誇った顔で立ち上がる。

「ということで、新団長となったウォベマだ。早速だが団員たちに任務を与える。今月中に、新入団員を一人以上連れてくること。以上」

 それだけ言って満足そうに座ったウォベマに対しメアは挙手をする。

「あの、それだけですか」

「それだけとはなんだ。団体を維持するために五人は必要なんだぞ。司祭委員から文句をつけられる前に団員を集めるんだよ」

「それはそうなんですけど、新入生呼び込みのために団体で何かしたりしないんですか? 確か初日に他の団体は色々やってたと思うんです」

「そういえばそんなのあったな。夜に新入生の寮を訪ねたりな。あれ、そういえば去年はディベ先輩が走り屋の勧誘には来てたけど、魔闘連盟の勧誘はなかったような」

 メアとレオゥに疑問の視線を向けられたウォベマは不機嫌そうに視線を逸らす。しかし、その先には穏やかな笑顔を向けたハナがいた。それを見て露骨に焦るウォベマに、ハナは口を開いた。

「ウォベマ? 去年の夜の勧誘は君たち二年生に任せたわけだけど」

「あ、私は走り屋の方で勧誘するんでウォベマが全部やるってことになってました! ね! だって掛け持ちしてる私とウォベマじゃ立場が違うわけだしぃ。それくらいはねぇ」

「ウォベマ?」

「ち、違うんですよ、ハナさん。メアたちの部屋だけを巡りそびれただけで」

「でも組の他の奴らも魔闘連盟のこと知りませんでしたよ。最初に知ったのは三年生組対抗戦のハナさんの名乗りだっていう奴ばっかで」

「忘れてただけかもしれないだろう! とにかくこの話は済んだこと! 結果としてメアとレオゥが入っているのだから問題なし!」

「あれあれぇ? その二人を連れてきたのは誰でしたっけぇ? え? もしかして何もしてないし何も成果を上げてないのに団長やるつもりなんですかぁ? 去年の魔術宴も出てないしぃ、個人戦闘祭でもぱっとしない成績だったのにぃ?」

 ウォベマが言葉に詰まっている。その珍しい状況だけでメアとレオゥは気分が良く、しばらくの間穏やかに眠れそうだった。

 ウォベマは顔を傾けて見下ろしてくるディベを反対側の寝台に突き飛ばすと、寝台に仁王立ちして宣言した。

「ええい黙れ! 俺は今年個人戦闘祭で団体存続に十分なだけの実績を上げる! それが団長の務め! そうすれば文句ないだろう!」

「おお? 言ったね。じゃあ魔術宴と武道大会も出なよ。団長なんでしょ?」

「出てやらあ!」

 唾を飛ばして盛り上がる二人をよそに、ハナがこっそりとメアに耳打ちする。

「メア、メア。そう言えば、今年は彼女どうするって?」

「彼女?」

「クァトラさん。個人戦闘祭と武道大会出るのかな。何か聞いてる?」

 メアとレオゥは顔を見合わせた。二人ともハナの言いたいことはすぐに分かった。もしクァトラが出てくるのであれば、運次第でどんな実力者であっても初戦敗退する可能性がある、ということだ。ウォベマの本気の戦闘はまだ見たことがなかったが、クァトラに勝てる可能性はほぼないと二人とも思った。

 同時に口を開こうとし、レオゥはメアに譲る仕草をする。

「多分出ません。出たうえで穏やかに勝つという可能性もなくはないですけど」

「穏やか?」

「腕を切り落としたりとかそういうことはしないっていう意味の穏やかです。ただ、最終的には気分次第なんじゃないでしょうか。まああんまり勝つことには興味なさそうですけど」

「怖いね。彼女には僕でも全然歯が立たないからさ」

「魔術を全力で使用しても?」

「無理だね。というか比べることが烏滸がましいというか。去年の優勝者でも無理だよ。彼女はそういった類の怪物。別の生き物だと思った方が良い」

 黙って聞いていたレオゥが口を開く。

「だとすると、大変ですね。全員参加じゃないですか、三年次組対抗戦って」

 ハナの穏やかな笑顔が凍り付き、それが溶けるとともに困り顔へと変化していく。そして、メアに対して力のない笑顔を向けるハナ。

「手を抜いてくれたりしないかな? あれって、格好の宣伝の機会なんだけど、目立てないと意味ないんだよね」

「それはしないと思います。おそらくですけど、そういうのは嫌いな気がします。それに、本気を出して他の組の人から色々言われるより、本気を出さないで自分の組から色々言われる方を気にすると思います」

「そっかぁ」

 直後、ウォベマは片腕を振り上げて宣言する。

「舐めんなよ! その前に三年次組対抗戦で優勝してやらあ!」

「へへん、うちの組に勝てるかな!? その自慢の鼻へし折ってやるから!」

 レオゥはハナに問いかける。

「ウォベマ先輩とディベ先輩、何組でしたっけ」

「ウォベマは月組、ディベは泉組」

「クァトラ先輩は?」

「……夜組」

 どちらの組が優勝するかで様々なものを賭け始めた二人に対し、レオゥとメアは穏やかな目で眺めるのであった。

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