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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
六章 吹き抜ける風
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084 教室・組活動・新入り

 新年度が始まり、その初回の授業は組活動。ただし、二年生には第二教育棟に教室がないため、第一教育棟の担任の受講室――エフェズズの受講室に集合している。

 久々の集合に花組の面々が思い思いの挨拶を交わす中、エフェズズは教卓に立って手を叩いた。

「皆さん、本日から二年生となります。おめでとうございます。全員が無事進級できて何よりです。今日の組活動は内容が決まっています。二年次の授業の星の取り方、授業の選択方式、各授業の簡単な説明を行います。あと、各委員の変更希望の確認もですね。では、シヌタさん、あとはよろしく……と言いたいところなのですが」

 立ち上がったシヌタを押しとどめ、エフェズズは最前列に座っていたウルスを手招きする。それに対しウルスは背筋を伸ばしてすっと立ち上がると、軽やかな足取りでエフェズズの横に立った。

「皆さんに、新たに花組の生徒となる子を紹介します。編入生のウルスさんです。留年生ではありませんよ。ウルスさん、簡単な自己紹介をお願いできますか?」

「はい! 皆さん、初めまして。ビーマから来たウルス゠サドパッネと申します。気軽にウルスと呼んでください。趣味は色々、特技も色々。右も左もわからず皆さんにご迷惑かけるかもしれませんが、ぜひとも仲良くしていただけると嬉しいです」

 そう言って一礼するウルス。所作は帝国式で非常に流麗。見た目の良さも相まって芝居の一場面のようで、多くの生徒はそれに見とれていた。

 メアの横に座るレオゥがぼそりと呟く。

「あれが言ってた奴?」

「そう。編入生なんて制度、本当にあったんだねー」

「編入試験はかなり難しいらしいけどな。よほど教養があるのか、それとも秀でている特技があるのか」

「どっちでもいいんじゃない? 良い奴そうだし」

「さて、それはどうかな」

 反応があまり芳しくないことにメアはレオゥの方を窺うが、いつも通りの無表情。その言葉の真意は読み取れなかった。

「ということで、皆さん仲良くしてください。花組の自己紹介は各自でお願いします。ウルスさんに何か質問ある方はいますか?」

 エフェズズがそう言った途端、点を貫かんばかりに手を挙げた生徒が一人いた。陰属性魔術好きのゼオだ。

 エフェズズが嫌そうな顔で発言を許可すると、ゼオは勢いよく立ち上がる。

(キミ)、女かい? それとも、男か()?」

 花組の生徒は呆れた目でゼオを見つめた。顔立ちは中性的で整ってはいるが、胸の膨らみを見る限り女性であることは明らかだからだ。

 しかし、ウルスは気分を悪くした様子もなく、にやりと不敵に笑うと、自分の胸を持ち上げながら言った。

「御覧の通りだよ。どうしようか、胸元をはだけた方がわかりやすいかな?」

 途端に絶叫するフッサ。

「お願いするでござる!」

「黙れ変態猿! 死ね! ウルスさんも変なこと言わないで! 本気で受け取る馬鹿がいるから!」

「はああああ? ウルス殿が提案してきたから乗っただけでござるがあああ? 某が変態だというならそれを提案してきたウルス殿の方が――」

「フッサ」

「はい」

「黙れ」

「はい」

 アウェアに一喝されて座り込んだフッサを見て、心の底からおかしそうにウルスは笑う。

「ははっ、冗談だよ。さすがに恥ずかしいからね。ただ、妙な質問をされたもので、つい。この返答で十分かな? ええと」

「僕はゼオだよ。満足かと云われると、ふうむ。まあいい仮定(かな)。よろしくー」

「よろしくゼオ。男と女だけど、あまり性別にこだわらずに仲良くしてくれると嬉しいな」

 そう言ってウルスは周囲を見回した。ゼオの失礼な質問にも気を悪くし様子もなく、その笑顔は自然体だ。

「他に質問は? ないですか。では、ありがとうございます。ウルスさん。席に座ってくださって結構です。あとは、シヌタさんお願いします」

 エフェズズに促されたウルスは教壇を降りると、元々座っていた席ではなく、メアの方へと歩いてきた。そして、止める間もなくメアの隣に座る。

 ウルスは花組の視線が集まっているのも気にせず、メアへと笑顔を向ける。

「やあ、やっぱり同じ組だったんだ。名前は?」

「ルールス゠メア。隠してたわけじゃないんだよ、ただちょっと驚いて言う間がなかっただけ。よろしく、ウルス」

「よろしく、メア、でいいかな。そっちの君は? なんだか随分と警戒してるようだけど」

「俺はレオゥ゠タ。警戒はしてない。顔の筋肉が死んでるんだ。気を悪くしないでほしい」

 ウルスに目で問いかけられ、メアは何度も頷いた。冗談かどうかはともかく、レオゥがこうなのはいつものことだ、と肯定したのだ。

 それが伝わったのかはともかく、敵意がないことは理解したのか、レオゥにも華やかな笑顔を向けるウルス。

「よろしく、レオゥ。それにしても、随分と注目を集めてるみたいなんだけど、何か変かな。身だしなみは整えてきたし、服装も配布されたものを着てるつもりなんだけど」

 ウルスはそう言って自分の袖や裾を見直す。その所作はどこか異質で、キュッフェの様に隠しきれない上品さを醸し出している。

「単に新入りが珍しいんじゃないか? あと、ほら、メアの方にまっすぐ来たから」

「それそれ。雰囲気からわかってるかもしれないけど、花組の仕切り役はあのシヌタって女の子なんだ。俺はただの一兵卒。だからどんな接点があるのか興味持ってんじゃないかな」

「おっと。では対応が悪かったのか。これは失敬、お頭に挨拶をしてこなければ」

「いいよ、俺がやっとく」

 メアは顔をシヌタの方へ向けると、少し大きめに声を張り上げた。

「シヌタ! 俺、今年から厚生委員になったから、とりあえずウルスの面倒は俺が見るよ」

 教壇に立つシヌタは驚いたようだった。メアがこうした提案を自分からしてくるとは想定していなかったのか、どうせ自分がやることになると思っていたのか。おそらく両方だろう、とメアは推測する。

 しかし、シヌタはメアの言葉にウルスが首肯しているのを見ると、念のため、と言った様子で確認を取る。

「あ、ああ。そう。……ウルスさんはそれでいいですか?」

「構わないよ。メアは良い人そうだからね」

「じゃあ、メア君、花組を代表してウルスさんに補助はしっかりとしてください。決して、決して迷惑はかけないように。変な悪さも教えないでください」

「はーい」

「ウルスさんも、困ったことがあったら私や他の生徒に気軽に声を掛けてください。メア君に変なことをされたりとかね。自分で抱え込まず頼ってください。それであなたを排斥するような人間は花組にはいません。この花組には強固な団結などない代わりに、平等さと公平性があります。人ではなく、行為で善悪を判断します。そこは信用してください」

「ありがとう。できるだけ早く馴染みたいとは思っているが、そう言ってもらえると嬉しいよ」

 そう言ってウルスは穏やかに笑った。それを見て少しだけシヌタが顔を赤らめたように見えたのは、おそらくメアの気のせいではないだろう。

 その完璧な髪を崩さないまま、ウルスは呟いた。

「人を見る目は結構あるつもりだったんだけど、メアは警戒されてるね。何か悪さでもしてるのかい?」

「してないよ。少ししか」

「他人の迷惑になるようなことはしてないはず。少ししか」

「少しはしてるんだね……」

 ウルスは少し困ったように笑った。

 シヌタは壇上に立つと、教卓を叩いてウルスに集中している視線を自身へと向けさせる。

「じゃあ、とりあえず二年次の授業に関して軽く説明します。いや、その前に組代表と委員会の変更確認からですね。相変わらず、エフェズズ先生が仕事をぶん投げてくるので!」

 シヌタは鋭い視線をエフェズズに向けるが、エフェズズは涼しい顔をして本を読んでいる。一向に気にする様子はない。水を斬るかのような手ごたえに、シヌタは怒らせた肩から力を抜いた。

「組代表、やりたい人いますか?」

 当然、挙手はない。

 だが、にやにやと笑みを浮かべたテツが火種を投げ込む。

「俺はあ、組代表はフレンが良いと思いまーす!」

「……他薦は求めてませんが、一応根拠を聞いておきます。私に何か不満でも?」

「だってえ、シヌタ、三席でしょ? 主席以外が組代表ってのも、変じゃない?」

 シヌタの額に青筋が浮かんだ。それはシヌタの矜持を見事に撃ち抜いたようだった。

 しかし、反論しようとするシヌタが口を開く前に、一年次の主席を取ったフレンが発言する。

「俺は景観委員をやる。組代表はシヌタでいいだろ」

「あっそう。じゃあ次席のアウェアは?」

「私は調停委員だ。二足の草鞋を履くつもりはない。というか本人がやりたがっているのだからシヌタでいいだろう。私も適任であると思う」

「ふーん、あっそ」

 そう言ってつまらなそうにテツは両手を頭の後ろで組み、だらりと椅子に体を投げ出した。小火すら起こらず鎮火してしまったことが面白くないようだった。

 それを見て面白そうにウルスはメアへと目配せした。

「あの三人がこの組の訳ありかな。今発言した男の子と、その隣の太めの子と、興味なさそうな金髪の子」

「正解。よく見てるね。左から、テツ、ギョウラ、エナシ。面倒くさい奴らだから気を付けてね」

「まあ色々あってエナシはしばらく大人しいと思うぞ。何かあったらアウェア、あの赤髪の女の子に言うといい。揉め事解決の専門家だから」

「頼りになりそうだ」

 楽しみでたまらなそうなウルスに、メアは好感を抱いた。その前向きな態度はメアも見習いたいと思ったからだ。

 シヌタはまだテツに対して不満を言いたそうだったが、活動の進行を自ら妨げることはしたくないようで、ぐっと我慢をして議題を進める。

「じゃあ、他の委員会に関して確認します。図書委員、医療委員、景観委員、飼育委員、災害委員。去年から変更したい人はいますか? 希望が重なった場合、席次が高い方の希望を優先したいと思います」

「ええ!」

 同時に叫んだのはボワとエオミ。二人とも席次がかなり低く、かつ、その委員会に所属していたいという願望があったか生徒。

 しかし、幸いなことに他に委員会に入りたいという生徒はおらず、委員は去年から変更なく、続投となった。

「じゃあ、続いて授業の選択と星に関して説明します」

 エオミは白墨を手に取り教板に字を書いていく。

「二年次からは授業が選択式であることは皆さん既に知っていると思います。ですが、自分の好きな科目だけを取ればいいわけではありません。二年生が進級するために必要な星の数は二〇個。そのうちの六個は各学問から一つずつ取ってください。闘技が得意だからと闘技学から六つ、というのは駄目ということです。分かりましたか、ボワ君」

「はーい。でも五つ他の学問から取れば後は自由なんでしょ?」

「いいえ。あともう一つ、二年次選択必修として、芸能分野があります。ここからも最低一つ星をとってください。なので、ボワ君が闘技学で稼げるのは一四個までとなります」

「了解。めんど」

「芸能は、料理、絵画、音楽の三種から選んでください。星を落とすとその時点で留年なので、真面目に受けるように」

 教室のあちこちで囁きが響く。この仕様に思うところがある生徒は多いようだった。

 メアたちも例外ではない。

「レオゥ、何取る?」

「絵画以外。料理、かな。メアは?」

「料理か音楽。料理が一番楽しそうだけど、音楽も少し興味あるんだよね。楽器とか弾けたら格好よくない?」

「音楽は、色々と面倒が多い。触って終わりなら良いんだが、理論方面まで行くと本当に大変だ。弾けたら話の種になるし、一芸として使えないことはないんだが」

 まるで魔術を語るときのような口調に、メアはぴんときた。だが、メアがそれに突っ込む前に、ウルスが楽しそうに口を開いた。

「へえ。口ぶりから察するに、レオゥは何か弾けるようだね。南の出だろう? 六琴か、竹顛笛か」

「惜しい。七線琴だ。親の方針で色々と触らされるんだ。手慰み程度だが」

「おお。七線琴は聞いたことがないんだ。機会があれば聞かせてもらえないかな」

「悪いが、人に披露するほどじゃない。その様子だと、ウルスは音楽を選択するのか?」

 ウルスは静かに首を横に振り、メアの方に視線を向ける。

「メアはどうする?」

「悩むけど、料理かな。自炊の心得は持っておきたい。野営したときとかに備えて」

「じゃあ料理にしよう。レオゥも料理だろう? 三人仲良くご飯を食べることにしようじゃないか」

「そんな雑な決め方で良いのか? まあ俺もこだわりがあるわけじゃないから別に良いんだが」

「決まりだ」

 そう言ってウルスは満足そうに腕を組んだ。

 その距離の詰め方に少しばかり戸惑うメアだったが、既にできあがっている集団の中に一人飛び込む不安さは理解できるし、早く馴染もうと努力しているというのならば好印象だ。その相手が自分で良いのかとメアの不安も、レオゥが気にするなと肩を竦めているため気にしないことにした。

 ざわめきの中、音魔術で拡張されたシヌタの声が響く。

「とりあえず、来週の一週間はお試し期間になります。少しでも興味があるのには顔を出してみてください。途中で脱落するのも自由なので、最初は多めに授業を問っておくのが吉でしょう。じゃあ、ここからは各授業の簡単な説明に移ります。資料配るので、自分の分を取って残りを後ろに回してください」

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