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ルゼンテーベ・ストルト  作者: 仁崎 真昼
五章 星を求めて
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078 教室・配布・結果

 メアは翌日の組活動を適当に流し、昼寝をし、夜は【迷宮研究所】の上映会を楽しんだ。それは遠隔地の映像が光魔術で再現されたというもので、詳細な原理は聞いてもメアには理解できなかったが、非常に新鮮な体験だった。

 休日は何も手につかず、一日中寝台で悶々と過ごした。食事はしたがあまり食欲はなく、メアはこの学校にきて初めて食事を残した。

 そして、翌週の朝。

 ヘクセは眠たそうに眼をこすりながら緩慢な動きで寝間着から普段着に着替えるが、そこではたと動きを止めた。

「あー、今週は試験結果の配布と回答だから、今日は一時限目からじゃないのか。普段通りで良いんだっけ」

「多分そう。今週からはまた普段通りのはず。といっても、こうころころ変えられちゃ、体調崩しちまいそうだよ」

 試験は全組が一斉に行うため、特定の一組――今年は花組――を除いた三組は時間割が普段と異なっており、メア以外の三人は慣れない日程に苦闘していた。しかし、それも先週で終わり。今秋からはいつも通りの時間割だ。

「そもそもなんで花組の時間割に合わせられてるのさ。僕の組に合わせてくれてもいいのに」

「本当だよ、おかげで俺は対話学の試験、大遅刻だぜ? 留年したら声を掛けてくれなかったメアのせいだ」

「俺? いやいや、俺は意地悪でそうしたわけじゃなくて、緊張してからいつもより少し早く出たたけで……」

 わかりやすく慌てるメアにヴァーウォーカは肩を竦めた。その表情を見る限り、冗談のようだった。

 メアはキュッフェ様を起こし、身支度を整えるのを手伝う。そして、結局準備をしてしまったのだからと四人そろって部屋を出る。そのまま四人で寮を出て、第一教育棟で別れ、それぞれの教室へと向かった。

 花組の教室の扉の前には四人の人間がいた。エナシ、テツ、ギョウラ、そしてザイカ。エナシは教室の扉の側面を蹴る様に足を上げ、メアが入れないように邪魔をしている。

 メアがエナシを睨むと、エナシはせせら笑いながら言った。

「覚悟はできたか? 今日で自由の身ともお別れだぜ」

「朝から妄想逞しいな。まだ早いだろ」

「いやいや、早めに覚悟を決めておいた方がお互い良い話だと思うぜ? どうせお前、身売りの仕方も知らないだろ」

「知ってるし。奴隷商に売りますって言えば売れるんだろ」

「おお、偉い。けど、今回はそのやり方じゃねーぜ。それだと買い戻さなきゃいけない。買値と売値が同じ商人なんていねーからな。余計な金がかかっちまう」

 テツがザイカの背中を叩いた。ザイカは怯えた顔でテツに目で訴えたが、テツは取り合わない。結局、諦めたように視線を落としたザイカは、小さな声で口に出し始めた。

「宣誓奴隷、のなり方ってのがあって、まあ、内容としては一級非人指定なんだけど。主人を定め、その主人の奴隷に自らなりに行くことができる、んだ。一応、無理強いされていないか、とか、色々調査は入るんだけど、今回みたいな、公平な決闘のような場合なら、普通に受理されると思う。場所は、開拓者組合で。うん、そうすると、無料でなれるし、費用もほとんどかからないし」

「というわけだ。覚えたか? これが終われば半月は春季の休暇がある。そこで仲良く町へお出かけしようか」

 メアは返事をせずに足をどけろと目線で示した。エナシは悪辣な笑みを浮かべると、足を下ろして顎で教室の中を示す。

 足を掛けられないか注意しつつ、メアはその横を通り抜け。

「試験結果が出そろうのは週末だよばーか」

 そう言ってさっさと自席へと向かった。

 メアは腕を組んで座っているレオゥに声を掛ける。

「おはよう」

「朝から絡まれて災難だったな」

「まあ調子に乗ってられるうちに乗らせてあげようよ。俺が勝ったらもうこういうことできなくなるんだから」

「言うねえ」

 他の数人の生徒とも挨拶をかわすメアに、レオゥは片肘を付いて言った。

「ま、泣いても笑ってもできることはなし。裁定の時を待とうか」

 二人は真剣な表情で教室に入ってくるナハを見た。

 授業が始まると、各自に答案用紙の返却が行われ、各問題の答え合わせが行われる。そして、答え合わせが済み、採点に誤りがないことが確認されると、各自に星が配られた。

 星とは小さな丸い金属片で、表面には科目名、教師名、日付が彫り込まれている。それを鋲で制服に留めて見せびらかしている生徒もいるが、メアとレオゥは大事に巾着にしまった。

 まずは、二つ。目標通りの滑り出しだ。

 メアがレオゥと頷き合っていると、唐突に反対側から肩を叩かれた。振り返ると、シャープが顔を寄せてきて、メアの耳元で小声で囁いた。

「エナシ君、星一つだったよ」

 女子特有の高い無声音。メアは慌てて距離を取り、暴れる心臓を抑えて何度も頷く。

「あ、ありがと」

「ごめん、びっくりさせちゃった? 知りたいかなって思って、つい」

「驚いただけ。うん、ありがとう」

「あはは、もうやらないよ。本当にごめんね」

 ナハにみられていることに気づいたメアは咳ばらいをしながら姿勢を正して椅子に座りなおす。組中の視線を浴びるほどではなかったが、今は一応授業中。怒られる前に凝議しておくほうが良いと判断してのことだ。

 ともあれ、メアは思考を引き戻す。シャープの言うことが事実であれば、これでメアは一歩分優位に立った。

(この調子で良ければ、勝てる!)

 闘志を新たに、メアは星を入れた巾着を握りしめた。

 他の授業も似たような流れで進み、粛々と星が配られる。メアはその結果に一喜一憂しながら、少しずつ重くなる巾着の感触を確かめる。

 できることならば最終日の前に確実に勝てるだけの星を集めて勝負を決めたかった。しかし、シャープに見られていることに気づいたのか、初回の授業以外ではエナシは徹底的に自身の星の取得数を隠したため、その願いは叶わなかった。

 二日間で八科目。自身の星の配布に関していえばおよそメアの予想通りの数だ。つまり、最初に立てた目標より少しばかり少ない。

 魔術学基礎の授業が早めに終わり、教室で雑談をするメアの口からは思わずため息が漏れた。

「芳しくないな」

「おおよそ目標の点数は取れてるんだけど上振れもなくて、下振れはしっかりあるから星を取りこぼしてる感じ」

「実力以上のものは実戦では出ないし、実戦で実力を発揮しきるのは難しい。剣は研がねば鈍り磨かねば錆びる、って奴だな」

「現実は厳しいよー」

 メアがずり落ちるような体勢で椅子に背中を預けると、フッサが揉み手をしながら近づいてきた。

「えへへ」

「随分と上機嫌だな。結局賭博の収入はどれくらいになりそうなんだ?」

「あらまあ会うなりお金の話など品がないでござるよ、レオゥ殿」

 レオゥが無言で魔力を起こすと、フッサは慌ててその表情から笑みを消した。威嚇で魔術を使用するなんて珍しい、とメアはレオゥの顔を見上げたが、相変わらずの無表情。しかし、どこか呆れているように見える。

 フッサは一枚の紙を取り出した。

「この中に現時点でのエナシの星の数が記されているでござる」

「見せて」

「おっと、情報というものは無料ではないのでござるよ」

 メアとレオゥは途端に興味をなくしたようにフッサから目を逸らした。どうせすぐにわかる情報にわざわざ金を払う気はなかった。

「そういえばレオゥ、俺魔術学で実技の星もらえたよ。あの特訓のおかげかも」

「思ったより多くの生徒に基本分の星は配ってたとはいえ、メアも訓練を頑張ってたからな。あそこまでじゃなくても日々魂魄を働かせることは重要だ。絶対に損はないから毎日続けろよ」

「了解です、レオゥ先生。というか、筆記で星もらえなかったから本当に危なかったよ。留年の危機だった」

「そっちは思ったより厳格だったな。今年の一年生、魔術学基礎のせいで留年するのも一人くらいいそうだ」

「無視しないで!」

 二人の視線が自分の方を向いた瞬間、フッサは早口で話し始める。

「そ、そうだ。良い考えを思いついたので二人に話そうと思っていたのでござるよ。あ、もちろんこの情報は無料でよいでござるよ? お二人は某の大事な友人であるがゆえ」

「……で?」

「今から星を増やす方法があるでござる」

「本当に?」

「もちろん。お二人は星を見たとき思わなかったでござるか? 思ったよりちゃちな造りをしているな、と。形状は簡易、刻印も簡素。そう、つまりは偽造が簡単だということを!」

 メアとレオゥは途端に興味をなくしたようにフッサから目を逸らした。

「そういえばレオゥの方は星どれくらい取れてるの? 教えるのも勉強になるっていうし、もしかして結構良い感じの席次をとれるんじゃない?」

「おっ、聞きたいか。いや、俺も思ったよりだいぶ良い点取れててな。というか、星の取得が実技より知識面に偏っているせいで、思ったより」

「最後まで聞くでござる!」

 机を叩いてきたフッサに胡乱な目をする二人。フッサはその視線に怯みつつも、言葉を続けた。

「生徒は一学年一〇〇人以上! 実技では思い付きで星を配っている先生も多いでござる! こんなのを全部覚えていられるとおもうでござるか?」

「いや、だから帳簿に記録してるに決まってるだろ。最終的に集計されるし、留年とかの話になったら学校側で手続きもあるだろうし」

「え、何、フッサってもしかしてこの現物に意味があると思ってたの? もしそうだったら生徒間で星の奪い合いが発生して地獄になるよ? 戦闘の得意な生徒が星を集める戦争が始まるよ?」

 フッサは言い返そうとし、何も言い返せずに肩を落とす。少し意地悪だったか、と声を掛けようとするメアをレオゥが止め、三人は鐘の音を聞きながら寮に戻るのだった。

 そして、残りの二日も淡々と星が配られ、各自の星の取得数が確定した。

 メアの星の取得数は、丁度二〇個。目標より低い。

 席次の発表は、翌日の組活動で、だ。

(勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい)

 メアは眠れない夜を過ごし、翌朝、朦朧とした頭で教室に向かった。

 教室の入り口でやはりにやついているエナシが立っている。その表情を見る限り、自身があるのだろう。そう思いつつ、メアに相手をしている余裕はなかった。

「覚悟はできたか?」

「えっそのくだりやり直すの? 流石に野暮いよ、エナシ」

 メアはエナシが繰り出してくるけたぐりを跳んで躱し、レオゥの横の椅子に座った。

 レオゥやシャープとくだらない会話をしながらも、メアの脳内は不安でいっぱいだ。負けたら奴隷、世界を見て回ることなんてできず、一生エナシの下っ端として使いつぶされる。仕事は家事雑事、食事は粗末で、結婚も一生できないだろう。そんな未来を想像してしまい、メアは身震いした。

 そんなメアの不安をよそに、教室に入ってきたエフェズズはいつも通り前に出ようとするシヌタを手で制し、今日は珍しく自分が教卓に立った。

「じゃあ、最初に席次だけ発表して、あとは自由です。貼りますね」

 そう言って、情緒も何名もなく、淡々とその結果が書かれた紙を教板に貼った。

 メアは素早く視線を走らせる。

(一位は無理でも、何とか一桁。ない。一桁は無理でも、半分より上、にもない! 名前がない! えっ、まさかそんな、そんな……)

「メア、一七席だ!」

 言われて視線を下げ、そこにメアは自身の名前を見つけた。言葉の通り、一七位。予想より低い。組内の半分以下だ。下には七人しかいない。メアは絶望で目の前が暗くなり、一度顔を伏せてしまった。

(いや、でもまだエナシがもっと低い可能性も……!)

 しかし、メアは即座に顔を上げ、一縷の望みにすがってエナシの名前を探す。

 直後、メアの耳に誰かの声が響いた。

「エナシは……一九席だ!!」

 それらを確認した瞬間、花組の大勢の生徒が思った。

 こいつらの争い、程度が低くないか? と。

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